〇549『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税論議の趨勢(2019年3月時点での紹介)

2019-03-10 09:40:55 | Weblog

〇549『自然と人間の歴史・日本篇』消費税増税論議の趨勢(2019年3月時点での紹介)

1.  消費税導入の大まかな経緯

(0)1950年に、「付加価値税法」が国会で成立する。これは、GHQシャウプ代表団が法人事業税(地方税)にかえて「付加価値税」(4%)を導入することを勧告したのに応えたもの。これは、施行されずに、1954年に廃案になる。

 この年、世界で初めての「付加価値税」と銘打った税がフランスで導入される。その仕組みは、シャウプの「付加価値税」とかわらないものであったのだが、フランスは直接税とは言わず、「モノにかかる間接税」であるとした。

(1)1989年4月、3%の税率にて「消費税」の名をかぶせ、竹下内閣で実施。

 (2)1994年2月、細川内閣が「国民福祉税」を提案するも、挫折。大蔵省は政権発足時から細川首相に消費税引上げの必要性を説明した。首相は、それなら福祉目的税にしろ、と言ったが、大蔵省は抵抗した。そこで妥協として、消費税は廃止して福祉のための税金にするということで国民福祉税になった模様。

(3)1997年4月、税率を5%に引き上げ、橋本内閣で実施。その前の村山内閣の下で税制改革関連法が成立していた。

(4)2013年、消費税の引き上げなどに際し、特定事業者による便乗値上げを防止する目的で、消費税転嫁対策措置法(~2021年3月)が制定される。

(5)2014年4月、税率を8%に引き上げ、安倍内閣で実施。その前の野田内閣の下での、2012年3月に行われた三党合意(民主党・自民党・公明党)により、2014年に8%、2015年に10%に引き上げる法律が成立していた。

(6)その後、この法律の「景気弾力条項」により、2014年の消費減退を理由に1回目の増税延期を、2016年に2回目の増税延期を決めていた。それを、2019年10月を期して、今回10%に引き上げようとしている。

2. なぜ消費税なのか

(1) 時の施政者並びに経済を握る者の視点に立ち、彼らの取りたいところから、概略でいうと、取りたい分だけ取れるのが消費税。したがって、「負担対象が広く中立的」というのは、当たらない。また、歴代の政府税調や財務省、官庁サイドの学者らが重んじてきた「安定財源」だからというのは、当たっている部分の意味合いは「好不況にかかわらず国民一般から搾り取れる」という意味あいを含んでおり、鵜呑みにはできまい。

(2) 現在の消費税収は、下記のとおり。2016年度の納入実績は、約12兆3897億円(現年分と既往年分の合計、加算分を除く。財務省「財政金融統計月報」2018年4月号)

(3) 消費税の滞納、一部事業者の優遇などの措置をどう見るか。それに、輸出大企業への支援措置あり。

 これらのうち輸出事業者への特例については、その事例として、現在の法制下において、輸出売上3億円の企業があるとしよう。この会社は、製品の全てを外国へ輸出しているとし、また、この輸出にかかる原価の合計を1億円、その全部を日本国内で仕入れているとしよう。それから、この会社はその他消費税のかかるものとして家賃など5000万円(ここまで、すべて税別)があるとしよう。

 さて、基本の消費税の算式とは、製品の売上で顧客から受け取った消費税ー(引く、マイナス)経費で払った消費税=(は、イコール)納税する消費税なので、次のようになるだろう。まずは、輸出品に「内国税」であるところの消費税はかからないので、消費税はゼロとなろう。一方、この会社が経費として支払った消費税分は、原価の1億円+その他経費の5000万円との合計1億5000万円に、消費税率の税率8%を乗じて1200万円が導かれる。

 したがって、収めるべき消費税額は、ゼロから1200万円をひくことになるので、マイナスの1200万円ということになって、この額はこの会社が税務当局に支払うのではなく国庫から受け取ることになるだろう(ただし、実際の会社運営は国をまたがっての取引が入り混じっているだろうから、算出の過程は異なる。とはいえ、国内の売上げがあっても、輸出分が還付されるのは変わらない)。ただし、現行法で「簡易課税」となっている事業者や「免税事業者」については、かかる税還付の恩恵を受けられる対象から外されていることに留意されたい。

(続きは、追記の予定)

3.  2019年10月からの増税の概略

(1) 特定の品などについて、全体に大きな影響を与えない範囲内で、軽減税率をとる。対象とするのは、飲食料品が中心で、他に新聞も含まれる。どのような軽減かは、基本は8%に据え置くというのである(もう少し詳しくは、2018年7月の国税庁のちらし、などを参照されたい)。だからして、欧米でのような必需品につき非課税、もしくは税率を数%に低める話ではない。

(2) ポイント還元といって、消費税2%引き上げに伴い、電子マネーやクレジットカードなどを使って中小店舗で買い物をした客に、5%または2%をポイントで還元する政策を抱き合わせる。期間は、10月から来年6月までの9か月間だという。

 これだと、電子マネーやクレジットカードなどを使わない人は不利だし、それらに関わってカード会社などと契約できない事業者は話に乗れない。

 (3)追って「インボイス」と呼ばれる税額を明示した書類の交付を義務化、これを「インボイス方式」(「適格請求書保存方式」ともいう、2023年10月からの実施)

 これの導入により、免税事業者は「インボイス」の発行ができなくなる。取引先に対する付加価値税請求はできなくなり、売上(販売)に係る消費税から仕入(購買)に係る消費税を控除した金額である「益金」が免税事業者に留保されることは不可となると考えた。

 (4)増税の見返り支出(主に保育や教育関連)を行い、ショックを緩和する試み

 消費税が8%から10%に上がると国の税収は約5.6兆円増えると試算。当初の予定では増税分の4分の3の約4.2兆円を借金(国債)の返済、残りの4分の1の約1.4兆円を社会保障の充実に使うと表明していた。総選挙後は、その配分を、借金の返済に回す分を増税分の2分の1の約2.8兆円に減らし、残りの税収については1.7兆円を教育・子育ての充実に使うことに変更した。

 その使い道は、低所得世帯の0~2歳児の保育無償化、3~5歳の幼児教育や保育の無償化、2020年までに32万人分の保育の受け皿整備、待機児童をゼロに。また、連立与党の公明党は年収590万円未満の世帯の私立高校の授業料無料を公約に掲げる。ほかに、大学など高等教育に対する給付型奨学金の創設も考えるとした。

 その後策定された2019年度予算案では、おもに保育について無償化などが盛り込んである。(追記の予定)

4.  2019年10月に向けた、政府の消費税増税方針の問題点

(1) 消費減退から景気を失速させる恐れがある。

① 2014年の8%への引き上げ後の景気減退の経験を踏まえていない。

②最近の世界経済の怪しい雲行きを踏まえていない。また、消費税を巡る海外の動向を踏まえていない。

③これによる財政欠陥が埋まるわけではなく、再建の見通しは明らかでない。大衆増税のみが先走りし、軍事費や公共事業費の拡大に目が行く恐れがある。また増税分が、持続して社会保障関係に投入される保証はない。

④もって、一般大衆を苦しめる増税が、次なる消費税増税という形になっていく恐れが大きい。そんな思いを持ちながら今度の増税をみると、大衆増税という道をますます広げる役割を果たすことになりそうだ。

 (2)国民の間に、広く貧困、貧富の差を増大させる恐れがある。

① 所得に対する消費の割合の大きい勤労者層の生活を直撃する。貧困、貧富の差を縮小させるのが経済政策の主な役割であるはずなのに、逆に増大させる。

 (3)派遣など、「非正規労働」(本来、この用語は当該労働者に対し失礼な言葉だが、一般的に使われていることから用いている)を企業が増やす傾向を促進する。

 その人材を受け入れた会社が人材派遣会社に派遣料を支払った場合は、当該の派遣社員が、たとえ他の従業員と同じような業務についたとしても、派遣社員とは直接の雇用関係は存在しない。したがって、派遣会社への支払いは、給料ではなく、人材派遣料となり、消費税の課税仕入として控除の対象となる。派遣会社の側としては、売上げには消費税がかかるため、派遣先の会社から消費税をプラスした金額を受け取った中から消費税を支払う。

 例えば、派遣先との契約では、派遣社員1人当たり1時間2,000円で派遣するという契約をしていた。それに対して、派遣社員とは時給1,500円で賃金を支払う契約をしていたとしよう。

 消費税が8%の場合、派遣会社は派遣先の会社から、1人1時間当たり2,160円受け取ったうえで、うち500円を自社の収入とし、160円を消費税として支払い、さらに派遣社員に対し1,500円の賃金を支払う。

 こうして、派遣先の会社は労働提供の対価として派遣元の派遣会社に派遣社員が働いた分の料金を支払う訳だが、その際派遣会社に支払った160円については、課税仕入れとしての扱いができるであろう。

(4)新設予定の軽減税率に対しては、複雑で、曖昧。しかも低所得者の本当の利益が図られない。インボイスを含め、中小零細事業者の事務負担が増す恐れ。

①軽減税率は、境目を決めるのが難しい。線引きを巡って訴訟も起こりうる。むしろ、一定の所得以下の人や一定の資産保有以下の人に対し、定額の給付金を給付する方がよい。

➁軽減税率では、食料品や外食が中心となろうが、その中にも高級品志向とそうでないものとの区別がありうる。一人当たりにしてみると、前者の方が、より多く減税分の恩恵を受けるのではないか。外食と持ち帰りの区別するのは、外食に依存している人たちの税負担を増やすことになる。

③軽減でも食料品に税率を8%で据え置きなどというのなら、現下の食料品、生活必需品にかかる消費税率をせめて5%へ引き下げてはどうかの声が出る。

(5)それでなくても難題となっている消費税滞納額が、さらに増す恐れがある。中小企業を中心に、商売上、価格転嫁が難しいところは苦しい立場に陥る。

 その対処の一つが値引きであり、現在も行われているかもしれない。例えば、消費税8%のときの税込み価格は(本体価格×1.08)円で表せるので、税込み価格を1050円にしたとしよう。その場合には、本体価格をX円として、X円×1.08=1050円だからX=約972円(小数点以下端数切り捨て)。

 この場合は、本体価格1000円のものを税込み1050円で売った場合、帳簿上は本体価格を972円に値引きし、そこに消費税8%分の1050-972=78円を上乗せして販売した、という計算になろう。

5.  消費税増税への賛否、その他いろいろな意見の紹介。

(1)初めに消費税増税ありきではなく、他の方法で増収を図るべきなどの提言。

①法人税と所得税の累進化、金融所得への税拡張、外国税額控除の廃止などで対応すべき。外貨準備や大企業の自由貯蓄など、遊休資産への課税も検討すべき。

 これに対し、金融所得への課税強化については、2019年度の税制改革大綱を取りまとめる際、議論があったものの、政府与党は株価への影響などを考慮して見送った。

②資産の格差に鑑み、富裕者の資産に対し課税を強化すべき。

③消費税を直接税としての法人事業税に組みかえる。軍事費や公共事業費の削減を優先させるべき。

(2)条件付き受け入れ論(追記の予定)

 例えば、ケインズ派経済学者の伊東光晴氏は、こう述べておられる。

 「したがって、今日の財政欠陥を是正するためには、付加価値税ーつまり今日の消費税を西欧型の脱税を防ぐものにかえ、それを引き上げねばならない。」

(3)一説には、積極財政を行って経済成長を実現することで、消費税の増税なしで社会保障費が賄える。

6.現下の増税賛成、反対、保留(模様眺めなど)の状況(追記の予定)

 

(続く)

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