ロボットの研究の第一人者です。人とそっくりのロボットをつくって分かったことがあります。「ひとのこころはどこにある」が研究のテーマのひとつです。自分そっくりのロボットが教えてくれたことがいっぱいです。
石黒先生の記事の転載です。
アンドロイドを作って、たくさんのことがわかった。例えば、意識と無意識。「試行錯誤を重ねた今のアンドロイドを見て、「これは人間じゃない」と気づくまでに普通は2秒かかります。結構長い時間です。それだけクオリティが上がったということですが、これを4秒、5秒にするのは途方もなく難しい。ところが、意識レベルで「これは人間じゃない」とわかっていても、無意識レベルではどうか。人間じゃないからモノとして扱っているのかといえば、違う。簡単にたたくこともできないし、触るのも躊躇する。実は無意識には人間だと思っているんです」。人間は意識の部分では高感度のセンサーをもって厳密に見分けているが、人間らしい姿には自然に反応してしまうということだ。
ATR知能ロボティクス研究所にある、石黒氏本人と生き写しのロボット「ジェミノイド」は、人間のもつ「存在感」の本質を理解して工学的に応用することを目的として作られた。遠隔操作機能を有する実在人間型ロボットのプロトタイプである。石黒氏の頭骨の形からコピーされており、頭部や顔面は細かい部分まで再現。体も石黒氏の全身を型どりしてコピー。生え際部分には石黒氏自身の頭髪も使われた。エアーコンプレッサーで駆動するが、生きた人間は静止していることがないため、特に操作していなくても、手先などはプログラムによって微妙に動き続けるようになっている。
「作ってみて、これは自分自身、衝撃でしたね。ATRでは、僕が遠隔操作することでコピーのアンドロイドが普通に研究員と対話できるわけです。僕はそこにはいない。結局、僕の存在とはその程度のものなのか、と思いました。これが存在感の本質かもしれない」。
ほかにも衝撃があったと石黒氏。「人は普段、鏡を見たりしますが、そのときに見る顔というのは、ごくごく一部なんです。普段、見たことのない自分の顔を見るというのは、これは複雑な気持ちでした」。もっと驚いたのは、石黒氏のクセなどをプログラムに織り込んだジェミノイドの動きだったのだという。
「学生が僕のビデオを撮ったりして、動きのデータをアンドロイドに送っていますが、自分では、それが自分の動きだと思えないんです。自分のクセなんて、自分ではわからない。つまり、自分が認識している自分と、他人が認識している自分は、ものすごく差があるということです」。実は、心と体はそれほど密にはつながっていないという。アンドロイド開発は、思わぬ分野にまでテーマを広げてきたが、今後は心と体の問題という哲学的な問題も扱える可能性が出てきたと考えている。
摂津水都信用金庫さんに誘われてきたのですが、「工学研究」がこんなに興味深いものか良くわかりました。そして、「人間とは何か」のテーマの奥深さがよく理解できました。