アジアの手仕事~生活と祈り~

アジア手工藝品店を営む店主が諸国で出逢った、愛すべき”ヒト・モノ・コト”を写真を中心に綴らせていただきます

江戸後期 筒描き”雨龍”&麻組み・鞍掛け布

2016-11-05 00:49:00 | 染織







製作地 日本 ※地域不詳(新潟県長岡?)
製作年代(推定) 19世紀 江戸時代後期
素材/技法 木綿、大麻、天然藍 / 筒描き、組み編み、型染め(内布の一部)
サイズ 全形:50cm×約120cm(筒描き部分50cm×33cm)

一巾の手紡ぎ手織りの木綿地の上、大きくかつ躍動感たっぷりに染め描かれた”雨龍(あまりゅう・あまりょう)”の筒描き意匠が印象的な江戸時代の馬の鞍掛け布。

左右の網状部分とフリンジは大麻の手績み糸を組み編みしたもので、木綿筒描きの中央布と縫い合わされ(袋状となり、使用時には厚手の布や筵(むしろ)等が入れられる)、鞍の下に敷いて馬の肌を保護する目的の背当て布として用いられたものとなります。

”雨龍”は角・鱗をもたない龍の幼い姿とされるもので、”雨乞い”の象徴模様として、また”成長”へ向かう願掛け模様等として古来より描かれてきたものとなります。

馬の鞍掛け布に”雨龍”を描いた理由は不詳ですが、祭事・神事の馬に何らかの願掛けがなされたもの、或いは”雨龍”を家紋等の象徴(吉祥)文とする家柄で作られたことが推察されます。

ところで、朧な輪郭で弱々しく精霊のような姿で描かれることが一般的な”雨龍”にしては、本龍は手脚の爪がだいぶ力強く、身体や顔もしっかりしており、力強い生命感も伝わってくるところ、雨龍(璃龍)から成龍へと育つ過程が描かれているようにも思われてまいります

越後長岡藩(新潟県長岡)の藩主であり江戸幕府の老中職に就いた「牧野忠精(ただきよ)」公は”雨龍”をことのほか愛し、文画の才を生かし”雨竜百態”と呼ばれる絵を描いたとされますが(”雨龍の殿様”と呼ばれる)、その中にこのような容姿の”雨龍”があったかもしれません。

具体的な出自(製作地域)は不詳ながら、江戸期の匂い・武家の匂いが濃密に薫る一品です。






























●参考画像 ”雨龍”の染め描かれた筒描き風呂敷(明治期) 






●本記事内容に関する参考(推奨)文献