【掲載日:平成21年12月14日】
吾妹子が 植ゑし梅の樹 見るごとに
こころ咽せつつ 涙し流る
佐保の旧邸
ここは
大宰府赴任前 大伴郎女と共に暮らした家
〔築山を造り 梅を植え・・・
今から 思えば
なんと満ち足りた 睦のときであったのか〕
〔帰京が決まった折にも
ここ佐保の家が 思い出された
あの時 なんとは無しに 思いし
帰京後の心情〕
還るべく 時は成りけり 京師にて 誰が手本をか わが枕かむ
《帰る時 とうと来たけど 帰っても 誰の手 枕に したらええんや》
―大伴旅人―〔巻三・四三九〕
京なる 荒れたる家に ひとり寝ば 旅に益りて 苦しかるべし
《戻っても 寂し家での 独り寝は 苦しいこっちゃ 野宿するより》
―大伴旅人―〔巻三・四四〇〕
〔いいや 戻ってみると
筑紫の空で 思うたより
遥かに辛く 寂しい限りじゃ〕
人もなき 空しき家は 草枕 旅にまさりて 苦しかりけり
《愛妻居らん 空ろな家に 暮らすんは 旅よりもっと 虚しいこっちゃ》
―大伴旅人―〔巻三・四五一〕
妹として 二人作りし わが山斎は 木高く繁く なりにけるかも
《その昔 お前と作った 家の庭 木ィ鬱蒼と 繁ってしもた》
―大伴旅人―〔巻三・四五二〕
吾妹子が 植ゑし梅の樹 見るごとに こころ咽せつつ 涙し流る
《手ずからに お前の植えた 梅の木を 見るたび泣ける 胸込み上げて》
―大伴旅人―〔巻三・四五三〕
目に映る あれもこれも
郎女への思いなしに
見ることの適わぬものばかり