【掲載日:平成21年12月4日】
月夜よし 河音清けし いざここに
行くも去かぬも 遊びて帰かむ
【あしき川 中央奥宝満山 中央手前あしき山の裾】

ここ 蘆城の駅
大宰府の官人らの多くが 集っていた
官主催の宴
大納言に叙せられ
京への帰還かなった 旅人
祝の 餞宴である
時に 天平二年〔730〕秋
藤原房前への 梧桐日本琴の願いが通じたか
はたまた 天が 旅人を必要としての 呼寄せか
死病を克服した旅人
中央政界での 尽力の場を思い
両の腕に 力の漲りを 覚えていた
官人たちは 惜別の情を 切々と詠う
旅人との別れの 哀惜
帥としての 勤め上げし 政務への礼賛
豪放磊落な 人となりへの 思慕
そして 明日は 我もの 羨望を忍ばせて
ないまぜの 思いを込めた 歌詠みが 続く
み崎廻の 荒磯に寄する 五百重波 立ちても居ても わが思へる君
《あんたへの 思い次々 波みたい 岬回って 荒磯に寄せる》
―門部石足―〔巻四・五六八〕
韓人の 衣染むとふ 紫の 情に染みて 思ほゆるかも
《紫に 染めたあんたの 衣見て わしの心も 寂しさ染まる》
大和へに 君が立つ日の 近づけば 野に立つ鹿も 響みてそ鳴く
《大和へと あんた帰る日 近こなると 悲しんやろか 鹿鳴き騒ぐ》
―麻田陽春―〔巻四・五六九、五七〇〕
月夜よし 河音清けし いざここに 行くも去かぬも 遊びて帰かむ
《月きれえ 流れも清い さあみんな 行くも残るも 楽しいやろや》
―大伴四綱―〔巻四・五七一〕
北に宝満山を望み
清流流れる 葦木川〔宝満川〕の景観
京育ちの 官人たち
大和の山野を見る思いが
ここでの 宴催を させたのであろう
見た月の影 聞いた川瀬
交わす 歌声 重ねる 酒坏
それぞれが 忘れ得ぬ 思いを抱いて
夜は更けていく

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