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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

旅人編(20)行くも去かぬも

2009年10月22日 | 旅人編
【掲載日:平成21年12月4日】

月夜つくよよし 河音かはとさやけし いざここに
             くもかぬも 遊びてかむ

【あしき川 中央奥宝満山 中央手前あしき山の裾】


ここ 蘆城あしきうまや 
大宰府の官人らの多くが  集っていた
官主催のうたげ
大納言に叙せられ 
みやこへの帰還かなった 旅人たびと
祝の はなむけ宴である
時に  天平二年〔730〕秋
藤原房前ふささきへの 梧桐あおぎり日本やまと琴の願いが通じたか
はたまた  天が 旅人を必要としての 呼寄せか
死病しにやまいを克服した旅人
中央政界での  尽力の場を思い 
両のかいなに 力のみなぎりを 覚えていた

官人たちは 惜別わかれこころを 切々とうた
旅人との別れの 哀惜あいせき
そちとしての 勤め上げし 政務への礼賛らいさん
豪放ごうほう磊落らいらくな 人となりへの 思慕しぼ
そして 明日は 我もの 羨望せんぼうを忍ばせて
ないまぜの 思いを込めた 歌みが 続く

さきの 荒磯ありそに寄する 五百重波いほへなみ 立ちてもても わがへる君
《あんたへの 思い次々 波みたい 岬回って 荒磯ありそに寄せる》
                         ―門部石足かどべのいはたり―〔巻四・五六八〕
韓人からひとの ころもむとふ むらさきの こころみて 思ほゆるかも
《紫に めたあんたの ころも見て わしの心も 寂しさまる》
大和やまとへに 君が立つ日の 近づけば 野に立つ鹿しかも とよみてそ鳴く
《大和へと  あんた帰る日 近こなると 悲しんやろか 鹿鳴き騒ぐ》
                         ―麻田陽春あさだのじゃす―〔巻四・五六九、五七〇〕
月夜つくよよし 河音かはとさやけし いざここに くもかぬも 遊びてかむ
《月きれえ 流れもきよい さあみんな 行くも残るも 楽しいやろや》
                         ―大伴四綱―〔巻四・五七一〕 

北に宝満山ほうまんやまを望み 
清流流れる あし川〔宝満川〕の景観
みやこ育ちの 官人たち 
大和の山野を見る思いが  
ここでの うたげもよおしを させたのであろう

見た月の影  聞いた川瀬
交わす 歌声 重ねる 酒坏さかづき
それぞれが 忘れ得ぬ 思いをいだいて
夜は更けていく 




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