goo blog サービス終了のお知らせ 

令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

蟲麻呂編(1)手綱の浜の

2009年10月14日 | 蟲麻呂編
【掲載日:平成21年10月8日】

遠妻とほづまし たかにありせば 知らずとも
           手綱たづなの浜の 尋ね来なまし


【高萩海岸 関根川河口付近】


藤原宇合ふじわらのうまかいは 常陸ひたち国守こくしゅに任じられ 合わせて「常陸風土記」編纂へんさんの役目も担っていた
養老三年〔719〕のことである 
高橋虫麻呂たかはしのむしまろ 
宇合うまかいの配下にあって 記載に見合う 説話伝承の収集を命ぜられ 各地歴訪に奔走していた 
〔宇合殿のため 精一杯の働きをせねば〕 

思えば 親兄弟を 流行はやり病で亡くした 虫麻呂
年端としはも行かぬに 文才がありそうだ」と
引き取り 育ててくれたは 父君不比等様 
時に 虫麻呂五歳  
召使い同様の身ではあった 

説話伝承集めは 思うに任せない 
武蔵むさしの国は 埼玉さきたま小埼おさき沼のほとり 
虫麻呂は ひとり 霜立つ岸にたたずんでいる
埼玉さきたまの 小埼をさきの沼に 鴨そはねきる
おのが尾に 降り置ける霜を はらふとにあらし

小埼おさき沼 鴨がつばさを 震わしとおる
 尻尾しっぽから 積もった霜を 落としとるんや
〔鴨も寒いんや〕》 
               ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四四〕
〔こうしては れぬ この月のうちに 那賀郡なかのこおり曝井さらしい 多賀郡たがのこおり手綱たづな回らねばならぬのだ〕 

【「曝井」水戸市愛宕町滝坂】


虫麻呂は 覚え帳に したためる
曝井さらしい 坂の中程 清い水の噴き出す泉 村落むら婦女おみな集い 布を洗いさらす故 その名あり』
ふと 歌心が 芽生える 
三栗みつくりの 那賀にむかへる 曝井さらしゐの 絶えずかよはむ そこに妻もが 
曝井さらしいの 水絶えへんと 湧いとおる ええ人ったら 絶えずかよたる》
  ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四五〕 
〔よく うたうよ 妻も 居ないに〕

〔おお 絶景だ 今日の 伝承収穫は かんばしくなかったが この景色を見せてもらったので よしとするか〕 
遠妻とほづまし たかにありせば 知らずとも 手綱たづなの浜の 尋ね来なまし
留守居るすい妻 もしもったら ここ多賀に 道知らんでも 尋ねて来たる
 〔ここはタヅなの浜や〕》 
                    ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四六〕 
手綱たづなの浜 景勝美がませる歌か
 留守居妻 か 
 そんなもの・・・〕 

独り身の虫麻呂 
妻を求めぬ生きざま 
そこには 譲れぬ 心決めが あった 

 




<手綱の浜>へ



<曝井>へ