【掲載日:平成21年10月13日】
しなが鳥 安房に継ぎたる 梓弓 周淮の珠名は・・・
しなが鳥 安房に継ぎたる 梓弓 周淮の珠名は
胸別の ひろき吾妹 腰細の すがる娘子の
《安房の隣の 周淮の郡 そこに居なさる 珠名ちゃん 胸大きいて 腰細い》
その姿の 端正しきに 花の如 咲みて立てれば
玉桙の 道行く人は 己が行く 道は行かずて 召ばなくに 門に至りぬ
《端正な顔で 笑みこぼしゃ 通る人らは 用忘れ 呼びもせんのに 門くぐる》
さし並ぶ 隣の君は あらかじめ 己妻離れて 乞はなくに 鍵さへ奉る
《隣のおっさん 嫁帰し 言われもせんのに 鍵渡す》
人皆の かく迷へれば 容艶きに よりてそ妹は たはれてありける
《男がみんな 惑うから 美貌自慢の 珠名ちゃん 増長せ上がって 調子乗る》
―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七三八〕
金門にし 人の来立てば 夜中にも 身はたな知らず 出でてそ逢ひける
《門口へ 男立ったら 引き入れる 気にも懸けんと 夜昼なしに》
―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七三九〕
今日の 収穫は上々だわい
もっとも ここは上総
常陸の風土記には 載せられはしないが
うわさに聞いて 来た甲斐があった
この話 宇合殿にすれば 大喜びに違いない
あの方も なかなかの 物分かりじゃで
それにしても
なんと 自堕落な女
それでいて みんなに好かれる女
近くの婦女たちにも好意される女
〔浮名を流さずに 済むのであれば わしも訪うてみたいものだわい〕
周淮の巷に 夕闇明かり
その気もなしに 独り思いをする 虫麻呂がいた