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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

蟲麻呂編(10)風祭せな

2009年10月04日 | 蟲麻呂編
【掲載日:平成21年10月22日】

・・・山下やまおろしの 風な吹きそと うち越えて
              名にへるもりに 風祭かざまつりせな


あれは  忘れもせぬ 十八の年
お屋敷の桜は  これでもかとの 満開
桜児さくらこ様は 十五で あられた
じかに 逢うことの かなう身ではない
それとなく 垣間見る お容姿すがた
嫁にしたいなどと  大それた思いなぞない
この人の られる お屋敷での ご奉公
それだけで  もう 十分〕
宇合殿は  不比等様 ご三男 
気楽な身分ながら  感は鋭い
「虫麻呂 桜児さくらこを どう思う
 お前次第じゃ 
 わしが 顔をかせてもよいぞ
 異母妹いもうとの桜児も まんざらでもないようじゃ」 
私は 身を伏せ うずくまり 手を振り 『滅相もない』との 気持ちを こんを限りと表した
声は 出なかった 
〔なんと 言うことだ 気持ちを 見透みすかされるとは もう ここには れぬ〕

いとまいを 願うべく 出向いた屋敷
「おい 虫麻呂! 桜児が身罷みまかった 昨夜ゆうべのことだ!」
待っていたのは  宇合の悲痛の声
「物のじゃ 物の化が 姫様を・・・」
老女が  うろたえ 叫ぶ
茫然ぼうぜんたる 虫麻呂
庭は 夜来やらいの大風に 花びらが埋めていた 

難波での  一泊の戻り
虫麻呂は  ひとり 竜田越えを たどる
桜が 盛り 
桜は  いつも いつも 面影を 誘う
〔桜児様も  見ておられるだろうか この桜〕
島山を い行きめぐれる 川副かはぞひの 丘辺をかへの道ゆ 
昨日きのふこそ わがしか 一夜ひとよのみ たりしからに
 
《島山の 川沿い丘を 昨日きのう越え 一晩泊まった だけやのに》  
うへの 桜の花は たぎの瀬ゆ たぎちて流る 
君が見む その日までには 山下やまおろしの 風な吹きそと 
うち越えて 名にへるもりに 風祭かざまつりせな

《咲いてた桜 峯上みねうえの 花びら散って 激流ながれてく
 あんた見るまで  風吹くな
 風をしずめる まつりしょう 竜田の神さん 頼みます》
                       ―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五一〕 
ゆきひの 坂のふもとに 咲きををる 桜の花を 見せむ児もがも
国境くにざかい 坂に咲いてる 桜花さくらばな 見せたりたい児 ったらええな》
                       高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七五二〕 

〔わしは 咲くはなより 散るはなが いとおしい〕