【掲載日:平成21年10月9日】
勝鹿の 真間の手児奈が
麻衣に 青衿着け
直さ麻を 裳には織り着て
【市川市真間町 亀井院横「真間の井」】

これほどの 伝え話があろうか
宇合殿も さぞ満足されることであろう
下総の真間ではあるが 常陸の隣国
番外編に収録することで 世に伝えられる
鶏が鳴く 東の国に 古に ありける事と
今までに 絶えず言ひ来る
《東の国に 伝わる話 昔を今に 伝える話》
勝鹿の 真間の手児奈が
麻衣に 青衿着け 直さ麻を 裳には織り着て
髪だにも 掻きは梳らず 履をだに 穿かず行けども
錦綾の 中につつめる 斎児も 妹に如かめや
《真間の手児奈と 言う名の娘
粗末な服着て 髪梳らんと 履も穿かんと 暮らして居るに
錦の服着て 育った児にも 負けん位に 器量の良え児》
望月の 満れる面わに 花の如 笑みて立てれば
夏虫の 火に入るが如 水門入りに 船漕ぐ如く 行きかぐれ 人のいふ時
《綺麗な面差し 笑顔で立つと
火に入る虫か 集まる船か 男が押しかけ 嫁にと騒ぐ》
いくばくも 生けらじものを 何すとか 身をたな知りて
波の音の 騒ぐ湊の 奥津城に 妹が臥せる
《気楽に生きても 人生なのに 私如きに このよな騒ぎ
そんな値打ちは うちには無いと 水底深く 沈みて臥すよ》
遠き代に ありける事を 昨日しも 見けむが如も 思ほゆるかも
《昔のことと 伝えは言うが 昨日のことに 思われる》
―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一八〇七〕
葛飾の 真間の井を見れば 立ち平し 水汲ましけむ 手児奈し思ほゆ
《真間の井を 見てると見える あの手児奈 ここで水汲む 可愛らし姿》
―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一八〇八〕
それにしても 可哀相なことをしたものだ
昔の女は こうも純情可憐であったのか
今の女ときたら・・・
言うまい 言うまい
虫麻呂の固い心に ひと時 笑みがこぼれる

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