【掲載日:平成21年10月20日】
・・・燃ゆる火を 雪もち消ち 降る雪を 火もち消ちつつ・・・
【足柄峠から見た富士―凱風快晴―】

東海の道
西にたどる一行がいる
任解かれて 上京の旅 藤原宇合主従だ
養老五年〔721〕春
菜の花の向こう 富士が見える
裾を 大きく引き
見渡す限りの 野が 西に東に 広がっている
中ほどに 雲が巻き
頂 雪の中 噴煙が昇り 火が赤い
一行に 遅れて 虫麻呂 筆を運ぶ
なまよみの 甲斐の国 うち寄する 駿河の国と こちごちの 国のみ中ゆ
出で立てる 不尽の高嶺は
《甲斐のお国と 駿河国 二つの国の まん中に デンと控える 富士の山》
天雲も い行きはばかり 飛ぶ鳥も 飛びも上らず
燃ゆる火を 雪もち消ち 降る雪を 火もち消ちつつ
言ひもえず 名づけも知らず 霊しくも います神かも
《天行く雲も 行きよどみ 空飛ぶ鳥も 上られん
噴火の炎 雪が消す 降り来る雪も 火が溶かす
言うことなしの 神の山》
石花の海と 名づけてあるも その山の つつめる海そ
不尽河と 人の渡るも その山の 水の激ちそ
《石花の海言うんも せき止め湖 富士川流れも 湧き水や》
日の本の 大和の国の 鎮とも 座す神かも 宝とも
生れる山かも 駿河なる 不尽の高嶺は 見れど飽かぬかも
《鎮めの山や この国の 宝物やで この国の ほんま好え山 富士の山》
―高橋虫麻呂歌集―〔巻三・三一九〕
不尽の嶺に 降り置く雪は 六月の 十五日に消ゆれば その夜降りけり
《富士山の 積もった雪は 真夏日に 消えたらその晩 もう降るんやで》
―高橋虫麻呂歌集―〔巻三・三二〇〕
不尽の嶺を 高み恐み 天雲も い行きはばかり たなびくものを
《雲行かず 棚引いてるは 富士山を 高こうて偉い 思てるよって》
―高橋虫麻呂歌集―〔巻三・三二一〕
〔わしも 富士のように 成れぬものか
雪を被っていれば いい 顔色見せずに
雲が 巷の煩い 覆ってくれる
誰もが 崇め たてまつる
何よりも 孤高でいられる〕
思いとは別に 虫麻呂の心は つぶやく
〔独りは・・・〕
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