【掲載日:平成21年11月26日】
残りたる 雪にまじれる 梅の花 早くな散りそ 雪は消ぬとも
梅花の宴
果てた後の 心地よい虚脱
旅人は 京を 思いやっていた
〔京でも 梅の宴を 催したことがあった
あの時の友 都での名の知れた医者 吉田宜
文のやりとりも 久しくなったが
いい機会じゃ
先日の宴での歌 纏めて送ってやろう
わしの歌が 一首だけでは 寂しかろう
取り急ぎ 追い歌を 生さねばなるまい〕
残りたる 雪にまじれる 梅の花 早くな散りそ 雪は消ぬとも
《残り雪 混じって咲いてる 梅の花 雪消えたかて 散らんといてや》
―大伴旅人―〔巻五・八四九〕
雪の色を 奪ひて咲ける 梅の花 今盛りなり 見む人もがも
《白雪に 負けんと咲いてる 梅の花 誰か見る人 居てへんやろか》
―大伴旅人―〔巻五・八五〇〕
わが宿に 盛りに咲ける 梅の花 散るべくなりぬ 見む人もがも
《うちの庭 咲いてる梅は 散りそうや 誰か見る人 居らへんやろか》
―大伴旅人―〔巻五・八五一〕
梅の花 夢に語らく 風流びたる 花と我思ふ 酒に浮べこそ
《梅の花 夢で言うたで 酒坏に 浮かべて欲しい わし風流人や》
―大伴旅人―〔巻五・八五二〕
吉田宜の返書は ただちの物であった
後れ居て 長恋ひせずは 御園生の 梅の花にも ならましものを
《羨んで 梅の宴を 思うより いっそ成りたい 主の梅花》
―吉田宜―〔巻五・五六四〕
〔おうおう 羨ましがらせて しもうたわい
それにしても 家の庭の梅になりたいとは これはまた 風流な〕
宜の文が 旅人に 京思いを 深くさせる