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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

旅人編(27)淵は浅さびて

2009年10月15日 | 旅人編
【掲載日:平成21年12月15日】

須臾しましくも 行きて見てしか 神名火かむなび
                淵はさびて 瀬にかなるらむ


思う以上に  中央政界の変貌は 激しかった
長屋王の変事を経て  
皇親勢力の打撃は  覆うべくもなく 
藤原氏四郷は  ますます権勢を誇り 
他の貴族の力は  衰えそのものであった
旅人たびとにとり 大納言職は 有名無実

張り切っての帰郷故の  虚脱感
境の身に  加わった 心の空虚
身体の不調は  旅人に取りつき 
床を延べることが  日増しに多くなっていった
身は 平城ならの佐保に あるものの 
思われるのは 故郷ふるさと 飛鳥のことばかり
須臾しましくも 行きて見てしか 神名火かむなびの 淵はさびて 瀬にかなるらむ
一寸ちょっとでも 行ってみたいな 飛鳥あすかふち あそなって瀬に なったんちゃうか》
指進さしずみの 栗栖くるすの小野の はぎが花 らむ時にし 行きてけむ
《飛鳥野の 栗栖くるすの里へ 行きたいな 萩散る頃に 先祖参りに》
                         ―大伴旅人―〔巻六・九六九、九七〇〕 
その萩  まさに 花開こうとする 七月
看護虚しく  武人の家の 誇り継ぎし旅人は 
帰らぬ人となった 
朝廷よりの 看護のつかさ 犬養人上いぬかいのひとがみは うた
見れどかず いましし君が 黄葉もみちばの うつりいれば 悲しくもあるか
《いつまでも あがめよおもてた あんたはん 死んでしもうて 悲しいこっちゃ》
                         ―犬養人上いぬかひのひとがみ―〔巻三・四五九〕
そこに控えた 舎人の余明軍よのみょうぐんも 
血涙と共に  詠う
しきやし さかえし君の いましせば 昨日きのふ今日けふも さましを
《慕うてた あなた存命ったら お召声めしごえ 昨日も今日も 掛ったやろに》
かくのみに ありけるものを はぎの花 咲きてありやと 問ひし君はも
《萩の花  咲いてるやろかと 聞いてたに これが定めと 言うもんやろか》
君に恋ひ いたもすべ無み あしたづの のみし泣くゆ 朝夕あさよひにして
《あなたはん  恋し思ても 甲斐ないな 泣き泣きおるで 朝晩なしに》
とほながく つかへむものと 思へりし 君いまさねば こころもなし
《いつまでも  お仕えしょうと 思てたに あなた居らんで しょぼくれとおる》
若子みどりごの ひたもとほり 朝夕あさよひに のみそわが泣く 君無しにして
《赤ん  這いずり回り 泣くみたい 朝晩泣いてる あなた居らんで》
                         ―余明軍よのみやうぐん―〔巻三・四五四~四五八〕

永年 仕えた 舎人の 旅人に寄せる 思いのたけ
そこには  見事な 主従の姿があった
旅人  享年六十七歳




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