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「因果」を考える (20)
初等物理の気まぐれ考究,物理教育放談
/
2009-06-20 06:01:55
本稿は以下の続きである。
・
07-12-05「因果」を考える
・
07-12-31「因果」を考える (2)
・
08-01-19「因果」を考える (3)
・
08-03-11「因果」を考える (4)
・
08-04-10「因果」を考える (5)
・
08-04-30「因果」を考える (6)
・
08-05-09「因果」を考える (7)
・
08-05-27「因果」を考える (8)
・
08-06-29「因果」を考える (9)
・
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・
08-09-07「因果」を考える (11)
・
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・
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・
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・
08-11-10「因果」を考える (14)
・
08-11-30「因果」を考える (15)
・
08-12-24「因果」を考える (16)
・
09-01-24「因果」を考える (17)
・
09-02-12「因果」を考える (18)
・
09-04-05「因果」を考える (18-b)
・
09-04-20「因果」を考える (19)
・
09-05-12「因果」を考える (19-b)
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「因果関係」という概念の本質を求めて、未踏で、所々険しくはあるが、変化に満ちた景色を見ることのできる高原を気ままに散策するかのようにして考察を進めてきた。この散策も、ほぼ一巡の段階にさしかかっているのだが、あと一つの重要な視点を残していた。そこで、今一度、ドミノ倒しの例を使って、次のような状況設定を考えてみることにする。
ドミノは、一列的にではなく、そこかしこに多数の枝分かれをもつような、大規模な末広がりの形に設置されるとする。その各枝の末端で、結果の事象が起こると見るならば、ドミノ倒しの開始にかかる原因は、極めて多数の結果に結びつくことになる。つまり、この場合の因果のつながりは、極端な「一対多」型である。
これを、エネルギーの観点から捉えるならば、連鎖する個々の要素事象のエネルギー規模は同程度であるが、その数が多くなるために、全体のエネルギー規模は拡大するものと理解される。例えば、会場全体に響くドミノの倒れる音が次第に大きくなる状況は、このような見方にマッチする。このように、エネルギーを使った整理は、ドミノ倒しなどの力学現象を例にする限りは、それなりに自然である。しかし、起きる事象は拡大していくが、エネルギーを考えることは馴染まないという例も種々考えることができる。
---
例えば、瞬間接着剤が固化する過程を考えてみよう。化学的には、高分子の重合反応の一種で、分子どうしがつながる素反応が連鎖的に系全体に及んで巨大分子を生じるプロセスである。このinitiation(開始)からpropagation(連鎖生長)に続く過程においては、ねずみ算的かつ加速度的にミクロ分子から巨視分子へと連鎖反応が進む。このとき、反応系全体が固体に変わることを結果とするならば、その視点は、エネルギーの拡大とは意味がいささか違う。時間当たりに全系が発する熱量を考えるならばエネルギー的な見方にもなるだろうが、小領域の反応開始が全体に広がっていくことは、同レベルの現象が流布していくことであって、エネルギー的な視点にはそぐわない。このようなときに意識されるポイントは、エネルギーの準備や増大というよりは、連鎖が拡大する条件が成立することの設定であり、また、そのトリガー的動作を起こす方法である。
連鎖反応型ということならば、実は、(前回までに扱った)原子核分裂を例にしてもよかった。以前には、爆弾の始動スイッチを入れるところからはじまるプロセスにおいてのエネルギー規模の拡大を問題にしたが、ここでは、純粋に、原子核集合系における核反応の流布ということを問題にする。原子核の連鎖反応過程は、典型的な扇形分岐構造をもつ一対多型の因果の連鎖であり、臨界条件が満足された場合の、一つの核分裂反応が、加速度的に全系の反応につながる機構である。最初の一つの核分裂反応にトリガーとしての意味と重みがあるが、我々の理解に基づく原因としては、核種を臨界条件を越える程度の量だけ一箇所に集めたことが本質的となる(このことはエネルギーの視点で扱うときと同様である.)
さらにまた、最近騒がれた話として、新型インフルエンザの伝染・パンデミック現象が、この問題に当てはまるだろう。1人のウイルスキャリヤーが複数の感染者を生み、これが瞬く間の広範伝染を引き起こす、、と言う意味で、ウイルス感染症のパンデミック現象は、連鎖反応問題と同様に理解できる。
ここで、注意すべきことがある。連鎖型反応を説明するための素過程は、一点からはじまるきれいな分岐構造をもつのだが、実際に起こることは、このような一箇所から枝分かれした因果の系列をなぞることではないということだ。initiation(開始)を与えるプロセスはあくまで広がりもつ外因に由来してもたらされるものであり、initiationは多数の個所で同時的に起こると考えるのが自然だ。つまり、(微小要素に注目して考えれば)原因も多数、結果も多数の「多対多」型の因果的プロセスが、現実に起こることである。
枝分かれ型の因果系列(ドミノ倒し)は、連鎖型反応を理解するときの要素的な機構モデルなのだ。「多対多」型の因果があるとき、これを分析的に理解するために、枝分かれ型の「一対多」型に分けて考えることが有効になる、、このことを十分認識した上で話を進めよう。
<ing>
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