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「因果」を考える (18)
初等物理の気まぐれ考究,物理教育放談
/
2009-02-12 01:47:07
本稿は以下の続きである。
・
07-12-05「因果」を考える
・
07-12-31「因果」を考える (2)
・
08-01-19「因果」を考える (3)
・
08-03-11「因果」を考える (4)
・
08-04-10「因果」を考える (5)
・
08-04-30「因果」を考える (6)
・
08-05-09「因果」を考える (7)
・
08-05-27「因果」を考える (8)
・
08-06-29「因果」を考える (9)
・
08-08-28「因果」を考える (10)
・
08-09-07「因果」を考える (11)
・
08-09-30「因果」を考える (12)
・
08-10-06「因果」を考える (12-b)
・
08-10-19「因果」を考える (13)
・
08-11-10「因果」を考える (14)
・
08-11-30「因果」を考える (15)
・
08-12-24「因果」を考える (16)
・
09-01-24「因果」を考える (17)
-----
もともとは基本物理的な題材を扱うために書き始めた本シリーズであるが、話が進むにつれ、言語表現的な側面から把握することが求められるような、複雑な因果認識を扱う状況に至っている。これは、必ずしも私の関心が移ろっているためではなく、「因果」の概念の意味を丁寧に探求するうちに必然的に辿ることとなった方向と言える。因果は、要素的でシンプルな科学事象の関係の上に沸き起こってくる概念ではなかったのだ。本シリーズ稿で行った考察に沿って言えば、観測される事象が、最低限、次のように分かれて認識されることが、因果関係が成り立つことの必要条件であった。
[原因系]―[因果をつなぐ系]―[結果系]
上は、最も簡単な見方であるが、実際には、原因系も結果系も複数存在する可能性があって、さらにそれらをつなぐ系も、複数の原因および結果のそれぞれの間に、クロス形の成分まで含めて、多重に張り渡されている可能性がある。ただし、因果として認識されるユニットとしては、一対一ないし一対多の枝構造が基本となる。そして、相似的に直列に連なる因果の系列があって、条件付で、全体が一対一の因果とも見なされるという例が、ドミノ倒し系であった。
このように整理した見方を使って、誤解や混乱に陥りがちな科学的疑問に答える例を示すことが出来るのだが、ここは、せっかくのドミノ倒しのイメージを忘れぬうちに、もう一つ二つの考察要素を出しておこうと思う。
-----
再び、将棋倒しの例で、駒を次第に大きくしていく連鎖の列をつくったとしてみよう(これは、本シリーズ初期段階からの予定していたシチュエーションなのだが、奇しくも、先に紹介したドミノデイのVTRの中にちょうどそれに相当する仕掛けが見られた.)。
少しずつ大きくしていけば、それほど無理なく、普通の1個の駒から出発して、家ぐらいの高さの構造物を倒すこともできるだろう。さてそこで、そのときの因果関係はどのように捉えたらいいか。
『ある人が所定の将棋の歩の駒1個を倒したことが原因となって、(例えば)家を倒壊させる結果を招く』
誤りであるとは言えない。ドミノの列の設置が正確にできているなら、最初の駒1個と家の倒壊がほぼ1対1の関係でつながっている状況を考えることに無理はない。では、結末をさらに大掛かりにしてみよう。最後に超大型クレーン車を倒してビルを倒壊させる?いや、どうせならば、もっと極限的な例を考えてみよう。ドミノ倒しの最後に仕掛けてあった核爆弾が爆発し、都市が一つ消滅して大量の人命が失われたことの原因は、ある人が、最初のドミノの駒を倒したことにある、、。一考を要する事態に立ち至った。
上の例のような因果の認識が正当と見なされるならば、次のような詭弁も正当化されてしまいそうだ。戦争好きな為政者がいたとして、核兵器の発射スイッチを、それと気づかれないような形でそこらの往来に設置させる。何も知らない通行人が誤って触れたときに、核ミサイルの発射が引き起こされる。原因は全てその通行人の行動にあるから、為政者は免責となる。
- - - - - - -<後半>- - - - - - -
疑問を解く鍵は、今回の記載のはじめの方で示した因果が認識されるための要素のうち[因果をつなぐ系]の部分にある。考察の観点は二つある。一つが、因果をつなぐ系の構築の任意性(1)であり、もう一つが、波及事象の増幅の問題(2)である。回を分けて、順に述べることにする。
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(1) [因果をつなぐ系]の構築の任意性について
[因果をつなぐ系]と言うときの「系」とは、必ずしも物理機構的な領域やモデルを指すような狭い意味のものではなく、言語・論理表現上の役割まで含むような、柔軟で広義の語となっている。ある場合には、物理法則そのものが、因果をつなぐ系の役割を果たすことになり、
以前の稿
でとり上げたオームの法則などが、その典型的な基本例である。このような場合の因果をつなぐ系は、人間の意志や活動とは無縁にもともと自然界に備わっているのであって、それを前提に因果関係のつながりの枠組みを考えるのは、全く妥当・自然なことである。ところが一方、(自然界には元来存在せず)人間の意志によって手間をかけて産み出される「因果をつなぐ系」というのもある。ここしばらく扱ってきたドミノ倒し系は、正にその分かり易い例であった。そして、このタイプのもっと大掛かりで恐ろしげな例として、核爆発へつながる因果を引き合いに出したのだった。
前半の最後で出した、往来の押しボタンで核ミサイルを発射させ都市を消滅させる因果関係においては、次のような因果のつながりの構造が想定されていると見ることができる。
[押しボタンの操作]-[電気信号の伝達-核ミサイルの発射-核爆弾の始動-核爆発]-[都市の破壊・消滅]
この因果をつなぐ系の部分は、連鎖構造を含む極めて複雑・多数の要素から成り立っているが、その中でも、特に核爆弾の製造・設置のところに格段の高度な知恵と広範な準備と多大な労力が費やされていることは間違いない。
さて、『押しボタンの操作』と『都市の消滅』という2つの事象は、通常ならば、因果的につながっているはずもない間柄である。そこへ、上記のように、人為的な操作として強引に[因果をつなぐ系]が導入される。その時点で、押しボタンの動作と都市の消滅の間の因果関係は、確かに成立するようになる。しかし、その因果の認識の仕方、すなわち [原因系]-[因果をつなぐ系]-[結果系] の設定の仕方は極めて不自然なのだ。何故なら、押しボタンを押す操作よりも、因果をつなぐ系を構築する操作の方が、よほど周到に手間をかけたもので、強制的な外的設定に相応しいという事態になっているからだ。
このように考えてくると、因果認識の構造は、むしろ次のように構成し直して考えるべきだということに気づく。(表現が長くなるので、行を分けて記載する.)
[原因系]:
核爆弾を準備して、それをいつでも始動し得るような状態に置くこと。(+誰かが始動スイッチを入れること.)
[因果をつなぐ系]:
始動スイッチオンから核反応で種々の現象が生じるまでの機構とプロセス
[結果系]:
生じた電磁波や粒子線や爆風で、実際に都市が破壊・消滅すること
このような見方に到達すれば、先の為政者免責の詭弁のおかしさも明白となる。都市破壊の結末を導いた
最も重要な原因は、核兵器を実働可能な形で準備したことにあった
のだ(その背景やら、責任が誰にあるか等はまた別の問題となる)。その大事な事象を、選択の余地なく天から与えられた前提のように見て、[原因系]の側から外してしまい、代わりに、何も知らない通行人がボタンを押すという些細な操作に意識を向かわせて、それを原因系の主役のように思わせてしまう、、まさに、騙し・詐欺の手法による免責の主張だったわけである。
このとき、スイッチを押すという動作は、原因の本質を成すものではないが、事象の流れの進行開始を決めるという意味で、原因系に対して論理積的に関わる操作にはなっている。このような、単に、事象が何時起こるかを決めるだけの役目の要素は、結果の事象が生じることの
「トリガー」
あるいは
「発端」
と呼ぶのが相応しいと言える。本シリーズ
初回の稿
で述べた、「~を原因とする」と「~を発端とする」ことの意味の違いが、今この時点で明らかなったわけである。
これまでの考察を通して分かったように、ある出来事について、どのような因果関係が認識されるかは、問題の設定の仕方に応じていくらでも変わってくる。そのとき、どのような認識が正しく、どれが誤っているとはならないことに注意しよう。押しボタンを押すことが原因で核爆発を招くという認識は、(重要性が歪められてはいるが)そのように設定された枠組みの上ではどこも間違っていない。ただし、もしそのような説明を耳にしたときには、そこで前提とされる認識の枠組み、すなわち[原因系]-[因果をつなぐ系]-[結果系]の分け方が、意図的に不自然に設定されていることを瞬時に見抜かなければならない。そして、必要があれば、直ちに、より本質的な因果認識の枠組みを示して、合理的反論を為さねばならない。これが、本稿の考察から得られる重要な視点と警鐘である。
----------
〔付記〕
本当の原因が見抜かれ追求されることから逃れるために、わざと、本質から離れた下らないことを原因として扱い、裏で策略的に為されることを不可避の前提のように扱って、おかしな因果関係の枠組みを設定することで、議論や考察をその枠の中だけに誘導するという手法は、昨今の政治の中でも実際に多々堂々と行われている。ミサイル防衛システムにいくら予算を投じるべきかとか、消費税の上げは何%が適切か、というような議論はみなこのような手法との抱き合わせで成り立っている。論理的・科学的な思考は、民主主義を成立させるための基本要件であることを、今一度噛みしめたい。
<ing>
******以下の記述は次回に送る.*****
(暫定メモ)
さて、ここまでの理解に基づいて、先のドミノデイ2008を再考することもできる。世界記録のドミノ倒しにおける因果関係を、駒の物理的な運動で考えることは、実は本質か逸れ見方であったと言えなくもない。次のような表現をご覧いただきたい。
ing
(2) 波及事象の増幅効果について
ing
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