はぎわら_m の部屋
社会・時事批評、オピニオン、初等物理の気まぐれ考究、物理教育放談

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本稿は以下の続きである。
07-12-05「因果」を考える
07-12-31「因果」を考える (2)

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投稿がまばらになっていることを反省します.
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次に、「Aを理由とする(由る)」ことの意味を考えよう。

これは、「依る」よりも一層奥深くデリケートな問題となる。「因果」との意味の重なりや区別もかなり微妙なところにある。さらに、「理由」を厳密に論じようとし過ぎると、「あらゆる法則とあらゆる状況が、起こることの理由だ.」などという不毛な問答になってしまう可能性もある。したがって、ここに深入りするつもりはないのだが、比較の対象として、因果の意味を探る指針の一つにになる。

「理由になる」という表現がよく当てはまる分かりやすい物理的状況の一例は以下なのようなものだろう。

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⇒ 水流  ⇒  ⇒  ⇒  ⇒  ⇒  ⇒  ⇒

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水路に定常的な水の流ができている。この水路のある区間について、その左端に入る流量と、右端から出てくる流量を計測して、入る流量と出てくる流量とが異なっていたとする。調べた結果、途中に穴があり水流の一部が漏れ出していたことが判明する。
このとき、次のような認識がなされる。

「左端に入る流量より右端から出る流量が少ない理由は、途中の穴で水流が分岐しているからだ(ことに由る).」

先ず、このような「由る」ことが、前回扱った「依る」こととどのように違うかを確認しよう。

前回述べたように、2つの物理量ないし事象が物理的に依存関係をもつ場合、通常、方向性が限定されない相互的な関係になっている。この状況は、事象に影響する要因が比較的シンプルで、それが複数あるとしても、全て予め明らかになっている場合に成立し、その際、複数の量の変化が互いに依存して変化する(関数関係をもつ)ことが認識される。

さて、ところが一方、上で例にした状況で、流量に差があることと、その理由との関係は、相互対称的ではない。穴から水が漏れていれば、出口の流量が減ってしまうのは必然であるが、出口の流量が入口より少ないということを理由にして、ある特定の穴が発生するわけでも、その存在が必然となるわけでもない。

流量差を生じる理由は種々様々考えることができる。例えば、水が水路の材質に浸み込むとか、電気分解反応が起こって気体に変わる、、なども立派な理由になる。そして、穴から水が逃げるというところまで分かったとしても、その穴の位置などには様々な可能性がある。その広い候補の中から絞り込まれたある特定の穴が、「理由」として認識されるものなのだ。場合によっては、完全に特定されずに、「少なくともどこかに穴がある、、」のような理由づけになる場合もあるだろうが、少なくとも、ありとあらゆる可能性をひっくるめて、それをあえて「理由」と謳うことはない。「理由とする」、「由る」というのは、生じた事象に対して、一対多の関係にある複数の要因のうち、分かりやすい形で認識される、一まとまりで特定の条件や状況などを意識するときに使われる概念なのだ。

このとき、起きる事象とその理由は、相互対称的ではなく、推論による取捨とでも言うべき、論理上の流れの方向を伴うことになる。

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さてそれでは、「理由」は「因果関係」の本質そのものだろうか。ある事象を生じる理由を見つけたならば、因果関係を見つけたことになると言えるのだろうか。

上の水流を例とした文章表現で、「理由」のところを「原因」に置き換えても、国語的には、ほぼ同義の文章として成り立つ。しかし、”分岐している”ことと”流量に差がある”ことの両者の関係は、「因果関係」とは微妙に違う。

この微妙な問題を考え進めるときに、登場してくるのが物理的時間の流れの問題なのである。上の例で、はじめから穴があり定常状態が実現していたとしても、穴は流量減少の堂々とした理由である。しかし、このようなとき、「穴(への水流分岐)が原因となり、流量が減る結果を招く.」という形で両者が因果的に結ばれているように思うのは正しくない。流量低下の理由を推理する論理的な流れは、結果から理由へと遡って行く方向に進行する。しかし、これは物理的な時間進行を遡ることとは意味が全く異なる。穴からの水の漏れと出口流量の低下は、物理時間的には同時に起こる。穴が特定されてしまえば、すなわち、論理的な流れの方向を問題にしなければ、穴からの水の漏れと出口流量の低下は、前後関係を伴わない相互的な関係である。「依る」の関係に戻ってしまうとも言える。
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