はぎわら_m の部屋
社会・時事批評、オピニオン、初等物理の気まぐれ考究、物理教育放談

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中・高の理科の先生と意見を交わしたりしていると、しばしば、物理現象としての「浮力」を題材にすることが話題になる。日常的・実際的な現象であり、効果がはっきり認識でき、実験が容易で、かつ定量的な扱いにも馴染む、、という特徴から、力学の題材として、他の例に勝って好適だと見なされることも多いようである。ところが一方、質点から多体系、連続体に向かって進む大学の力学教程では、「浮力」は、最後の最後でやっと話ができるかどうか、、というところに置かれている。浮力の問題を、教育的にどう扱うべきか、、しばらく、この問題に触れてみたい。

例によって、私の(多分)中学生ぐらいのころの記憶をたどれば、浮力の問題は、「(風呂の中などで)体験をするときにはそれなりに直感的な納得が得られるが、その理由を説明している本を見れば見るほど絶望的に分からなくなる、、」という典型例であった。浮力を説明する図や文章は(以前に述べたサイホン現象などよりも)かなり頻繁に目にするので、悩みはかなり長らくつきまとい、大学生のある段階ぐらいまで釈然としない思いに苦しめられたように思う。

学習者を悩ます標準的説明図をまず右に示してみよう。(今回は、めずらしく図を描き起こしてみた(wordによる).)

この図の悪しき点の第一は、力を表していると思われる矢印の正しい意味が説明されていないことだ。力のベクトルを表す矢印であるならば、「何に作用する力なのか」が明確でなければ意味を成さない。たくさんある矢印のそれぞれは、いったい何に作用する力であって、その大きさは何の値なのか? 一方、学習者の立場に立つと、この矢印を、ぐいと押す人の手のように置き換えてイメージするのが普通だろう。そうすると、浮力を受ける物体は、周囲から、ぐいぐいと押し込まれていることになる。しかしこの考え方は、(後に述べるように)経験や直感に照らしてどうにも不自然なのだ。どこかが変だと感じることのできる生徒は、苦悩の中、多くの矢印ベクトルを足し算した結果が上向きの浮力を与えるという結果論だけを押しつけられ、疑問を追う気力を奪われてしまう。こんなことでいいはずがない。この説明は、どこかが間違っているのだ。
<続く>

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コメント
 
 
 
圧力と浮力について ( tri********)
2020-03-13 22:35:32
とても丁寧な解説で感心しました。

このサイトを訪れるまで、
 圧力には向きが無く、
 圧力勾配には向きがあり、
 力は低圧側から高圧側に向かって働き、
 (均一な圧力に力は働かず、計測すらできない)
 水圧は水に働く重力を支える浮力を生じさせるように
 下に向かってリニアに増大してゆく、
という説明が、どこにも見当たらないことが不満でした。

誤解の原因は、理科で最初に物と物の接する面に働く圧力を「単位面積あたりに働く力」と習い、その圧力が中学理科の水圧にそのまま展開されて行くところにあるのではないかと思います。

物と物の間の2次元の面に働く単位面積当たりの力と、三次元の流体中の点の属性である単位体積あたりの圧縮エネルギーとしての圧力は、単位は同じでも別物と考えるべきではないでしょうか。
 
 
 
ありがとうございます (はぎわら_m)
2020-12-14 21:16:40
長らく更新無しになっていたにも関わらず、コメントいただいたこと、嬉しく思います。
「力」の概念は、「存在」とか「在り処」という考え方と馴染まないのに対して、「圧縮状態」は、其処にある量と言えますね。このあたりの考え方が、ベターな説明法を探るヒントになると思っています。
 
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