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「因果」を考える (19-b)
初等物理の気まぐれ考究,物理教育放談
/
2009-05-12 03:53:47
本稿は以下の続きである。
・
07-12-05「因果」を考える
・
07-12-31「因果」を考える (2)
・
08-01-19「因果」を考える (3)
・
08-03-11「因果」を考える (4)
・
08-04-10「因果」を考える (5)
・
08-04-30「因果」を考える (6)
・
08-05-09「因果」を考える (7)
・
08-05-27「因果」を考える (8)
・
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09-01-24「因果」を考える (17)
・
09-02-12「因果」を考える (18)
・
09-04-05「因果」を考える (18-b)
・
09-04-20「因果」を考える (19)
-----
事象の因果関係を考えるときに、エネルギーの移動、転換、使われ方や、負担する源などを考慮の中心に据えることは、確かに、科学的に筋の通った一つの視点を与えてくれる。しかし、だからといって、因果関係が常にエネルギーの授受の関係から説明されるわけではないし、まして、因果概念がエネルギー移動の考え方に包含されるなどということもない。これまでにも見てきたように、因果は、その把握の仕方に客観・定量科学には馴染まない任意性のような部分を伴う概念であり、エネルギー概念とは離れたところでその意義・本領を発揮するものである。
ならば、因果とエネルギー授受の両者の考え方の、関連性や接点をどう捉えたらよいか。この点を少し整理しておく。
因果認識の構成要素の中で、「原因系」と「結果系」は、心理的、人間行動的と言える要素までを含む広範な事象が対象となり、それが「因果をつなぐ系」とどのような機構でつながるかは、把握することが難しい場合もあるだろう。一方、その「因果をつなぐ系」自体は、柔軟な意味づけによるとは言え、自然法則に根ざす現象の波及が多かれ少なかれ関与し、そのプロセスが科学的に認識できるという前提がある(だからこそ、ある種の「系」として表すことに意味がある.)。
してみれば、この「因果をつなぐ系」の中での現象の波及過程は、エネルギーの視点から整理し得るものであって、また、そのことによって、種々のタイプの因果のメカニズムを科学的に把握することの見通しもよくなると期待される。
---
そこで、このようなことをにらんで、「因果をつなぐ系」を区分してみよう。
まず、最上位の区分基準は、因果のつながりを仲介する要素が、実体・機構的と見なされるか否か、であろう。実体的・機構的というのは、原因の事象から結果の事象につながる過程が、物理的な時空間の中で起こる実際の現象として成り立っているということである。これまで考えた、"水漏れ水路モデル"や、"レーザー光のミラー反射による事象伝達"や、"テコによる運動伝達"は、まさにこの「実体機構的」の代表である(時間経過を伴うことは必ずしも重要でないということは既に述べたとおりである)。
一方、そうでないケースは、Ohmの法則や、Newton方程式や、Maxwell方程式やらの、科学的な法則や関係式が因果を仲立ちしていると見なす場合が相当する(ただし、このような場合も、全体として起きる現象が実体的でないということとは違う.因果認識において、実体・機構的な部分は、原因系や結果系の側に含めて考える形を採るということである.)。そこで、これを「法則・関数的」と呼ぶことにする。
I. 法則・関数的
II. 実体・機構的
(III. それ以外)
このII.の場合だけが、エネルギー伝達の視点で論じることのできるケースとなる。
II.はさらに、「直結型」と「連動・連鎖型」に分けられる。「直結型」は、テコの腕の左と右の動きの連動や、光のビームが目的位置に届くなど、特に、現象の種類の変更・変換を伴わない機構の場合が相当する。この場合のエネルギーは、保存する(例えばテコの場合)かあるいは、着目部分からは漏れ逃げる(光束の広がりなど)かのいずれかであり、主要な着眼点にはならない。
一方、「連動・連鎖型」は、複数の物理機構が組み合わさって、生じる現象の変換が起きる場合が相当する。トランジスタ回路で生じる〔入力電流変化→半導体中のキャリア運動の制御→出力電流変化〕の現象はまさにこのタイプの典型例であるし、長らく考えてきたドミノ倒しも(繰り返し同じ種類の現象に呼び戻されはするが)長大連鎖型の代表である。
そして、この「連動・連鎖型」こそが、エネルギー伝達の観点から、「増幅効果が主となる場合」とそうでない場合に区分されるべき対象となる。(主となるか否かというやや曖昧な分け方にしたのは、どんなに僅かでもエネルギーが増えれば増幅だと言ってみてもあまり意味は無いと思われることによる.)
以上をまとめれば、以下のような区分のツリーを考えたことになる。
I. 法則・関数的
II. 実体・機構的
(II-A) 直結型
(II-B) 連動・連鎖型
<II-B-1> 増幅効果が主となる場合
<II-B-2> 増幅効果が主でない場合
---
ただし、因果をつなぐ系を分類しその区分に名称をつけることが、ここでの眼目ではない。このような分類の観点をもって、因果を伝える部分の機能の違いに意識を向ければ、そこで成り立つ因果関係の意味合いや、重みを必然的に見抜くことになる、、このことが重要であり、ここで述べたいことである。
駒が次第に大きくなるドミノ倒し系は、連鎖-増幅型に属する代表例であるが、この場合に、エネルギーの保存・転換という意味での連鎖のつながりは、きわめて弱いことに気づく。結果をもたらすために使われるエネルギーの源に目を向けるならば、必然的に駒の重力による位置エネルギーという要素に気づくし、また、それを仕込む力学的'仕事'が認識されてくる。そしてさらに、最後の結果である規模の大きな倒壊現象を導いたことの責任を追求するという立場からも、また、その出来事を防止するという立場らも、巨大な駒を(不安定に逆らって)立てるという操作の意味の重大性が分かってくる。
既に述べてきたように、因果関係を考えるときには、先ず、その認識の舞台:[原因系]-[因果をつなぐ系]-[結果系] が設定される。この設定の仕方には大きな自由度があるのだが、多くの場合、そのことはあまり意識されず、唯一の捉え方であるかのように呪縛された状態で、無意識的に舞台設定されてしまう。そのような際に、上に述べた、因果をつなぐ系の区分を思い出すことが効用を発揮する。
もし、設定された因果をつなぐ系が、I.の「法則・関数的」であれば、コントロール可能な原因要素は[原因系]の側に入っており、[つなぐ系]の方のことを思い悩むのは無益である。ところが、II.型になっているときは、[つなぐ系]のところが内部構造をもっており、それを分解して考える方が、生じる結果の低減や防止(あるいは促進)の策を講じるために有益となる場合が出てくる。特に<II-B-2>の増幅型になっている場合には、結果を生じさせるためのエネルギーが、何らかの形で[つなぐ系]の中に備えられていることが認識されてくる。こうなれば、そのエネルギー準備の状況を変え(止め)たり、あるいは、最も大きなエネルギー部分につながるトリガーの要素に最も神経を払う、というような視点がもてるようになる。このように、先入観に捉えられた認識の路線から逃れ、より的確な因果の認識と判断をするために、上記の因果をつなぐ系の機能の分類を知っておくことが役に立つわけである。
分かりやすく明快な例を出してみよう。導火線のつながった打ち上げ花火の玉(爆弾でもいい)が目前にあり、その爆発を絶対的に防がなければならないとする。さて、まず普通に思いつく因果の認識構造は、[火の気]-[導火線の火の伝わり]-[花火玉の炸裂] の様であろう。そこで、原因を絶つという観点で、導火線の付近から火の気を遠ざけることを着想する。もちろんこれは即座の対処として大いに意味があるのだが、爆発の危険を抱えていることに変わりは無い。それならば、因果をつなぐ系を絶つという観点を取り入れ、導火線を濡らす、導火線をホイルで包む、導火線を引っこ抜く、などを考える。しかし、そんな操作の最中にも暴発する可能性が残っており、効果的かつ最終的な対策とはとても言えない。このようなときに、因果の認識構造を再構築することを試みるのだ。反応して大きなエネルギーを発するように化学物質が不安定な形で設置されている。その反応の開始部分が導火線の付け根付近にあるだろう。ここまでが[原因系]だ。[つなぐ系]は、本体の反応機構だけにしてしまおう。[結果系]は、本体の爆発・燃焼反応生成物(途中過程のものも含む)の飛散による被害だ。そうとなれば、導火線の付け根部分を極力刺激しない形で、花火本体の化学反応を起こさないように状況を変更してしまうのが最も有効と分かる。花火本体に水を含ませるか、あるいは、液体窒素で本体を凍らせる、、その上で、火薬を(硝酸などの)溶液に溶解させてしまい、さらには化学的な分解反応まで起こさせるように工夫する、、こんな根本的対処を思いつくことができる。
<ing>
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