はぎわら_m の部屋
社会・時事批評、オピニオン、初等物理の気まぐれ考究、物理教育放談

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本稿は以下の続きである。
07-12-05「因果」を考える
07-12-31「因果」を考える (2)
08-01-19「因果」を考える (3)
08-03-11「因果」を考える (4)
08-04-10「因果」を考える (5)
08-04-30「因果」を考える (6)
08-05-09「因果」を考える (7)
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ここまでの内容を見て、「因果」という言葉の意味と使い方を巡る形式論理を、神経質にいじり回しているだけのように感じる人もいるかも知れない。そこで、これまでに我々が得た知見が、実際の現象の理解のためにどのように活かされるのかを、(モデル的な)具体的例を使って調べてみることにしよう。
はじめの例として、右図のような、ベルト-プーリーで運動を伝える機構・状況を考える。
ベルト-プーリーの形態は対称的であるが、図のような回転方向とベルトのたわみの関係が成り立っているときには、右側が駆動側で、左側が負荷側であることが明確に推察される。それならば、「右側のプーリーの回転が原因となって、左側のプーリーが回転する」という因果認識は成立するだろうか。(続きを記載するまで、このQUIZを是非考えてみてほしい.)

-*-*-*-*-*-*-*-*-

<Ans.>
上の問いに単に答えるならば、、’そのような因果関係は成立しない’と、確信をもって言うことができる。

ベルトで結ばれた左右のプーリーは、単なる連動機構系である。右側のプーリーの動きは、左側のプーリーの動きの跳ね返りをもろに受ける、、というか、左側の動きが右側の動きに反映し、かつ、右側の動きが左側の動きに反映する、、という対等な結びつきである。

それならば、何故我々は、図の回転方向とベルトの張り具合を見て、右が駆動側で左が負荷側と判断したのか。それは、我々が、無意識のうちに、このベルト-プーリー系の外側の機構系を想像しているからなのだ。例えば、左側のプーリーにはブレーキが付いていて、右側の方には駆動用モーターが付いている、、このような状況を考えるならば、上側のベルトがピンと張った状態でプーリーが右回りし、駆動力が左のプーリーへ伝わって、ブレーキ部分で擦動が起こる、、という、まさに因果的な現象が実現していることになる(回転方向が同じで、モーターとブレーキの位置関係が逆ならば、下側のベルトが張ることに注意しよう)。ただし、そのとき成立している因果関係とは、

「右側のプーリーの動きが原因となり、左側のプーリーが動く.」

のではなくて、

「モーターによる駆動が原因となって、ベルト-プーリー-ブレーキ系の非保存的な運動(摩擦熱の発生を伴う動き)を招く.」

のように表現されるべきものなのだ。

これに対して、図に表された状況だけでは因果関係にならないことを、よりはっきりさせるため、左右のプーリー上を渡す形で紐をかけ、その左右それぞれの先端に重りを吊り下げるという状況を想定してみよう。このとき、2つの重りに作用する重力のために、紐は張力を受けピンと張る。左右の重りの質量が等しいときには、このピンと張った状態を保ちつつ、慣性運動的に左の重りが上昇し右の重りが下降する運動(それぞれ等速)が起きてもよいだろう。このときのベルト-プーリーの様子は、図と全く同様になるが、明らかに、左右の動きの間に因果関係は存在しない。また、右の重りの質量の方が大きいとするならば、その質量差のために、左の重りは持ち上げられ、右の重りは落ちていくという加速度的な運動が起こるだろう。しかし、この状況でも、二つの重りと紐は一体の系であるから、右の動きが原因となって左が動くということにはならない。(あえて因果的に認識したければ、地球との引力相互作用を意識し、過渡的な変化を問題にすることになる、、この種のことは後に触れたいと思う.)

図で、我々が右から左への因果を感じたのは、図に表わされていない系外の要素とそれがもたらす強制的な効果を、比較的よく目にする経験をベースにして想像したからなのだ。そして、そのような経験とは異なる実際的な状況はいくらでも考えられる。図の状況から因果関係を推察し、それに基づく計画や、対策や、設計をしてしまうと、とんでもない間違いを犯す可能性もある。我々が得た因果要件に関する正しい知見をもっていれば、このような過ちに陥ることはない。因果認識の前提となる「系外からの強制要素」を意識することは、このように本質的に重要なのだ。
<ing>

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本稿は以下の続きである。
07-12-05「因果」を考える
07-12-31「因果」を考える (2)
08-01-19「因果」を考える (3)
08-03-11「因果」を考える (4)
08-04-10「因果」を考える (5)
08-04-30「因果」を考える (6)

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ここで、簡単に、前回までに得られた知見をまとめてみよう。

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(1) 因果関係が成立するときには、原因側の事象と結果側の事象が、科学的法則に基づく依存関係をもってつながっていなければならない。

(2) 因果関係においては、結果の事象が原因の事象に先立って起こることはない。

(3) 因果の原因となる事象とは、(1)の科学的合理性を成り立たせる舞台となる系の外部から、その系からの跳ね返りの効果を阻止して、強制的に設定(変更)されることが前提となっている。
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(1)は、初回の稿に記した「科学的合理性」に相当するものと言ってよいだろう。因果関係の必要条件であるが、原因→結果をつなぐメカニズムが推察されてはじめて、因果が成り立つかどうかの判定材料に使えることに注意しよう。ある因果関係を仮定・推定したとしても、その因果を結ぶメカニズムが科学的に到底説明できないならば、その推定は疑わしくなる、、という具合に、疑いの判定材料として活用される。

(2)は時間的因果律であり、実験的な反証の根拠として本領を発揮する。(ただし、明確な反証実験は難しいことも多い.)

(3)は因果認識の前提となることで、本シリーズ稿の主要な主張を成す。
<ing>

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