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「因果」を考える (12)
初等物理の気まぐれ考究,物理教育放談
/
2008-09-30 00:39:43
本稿は以下の続きである。
・
07-12-05「因果」を考える
・
07-12-31「因果」を考える (2)
・
08-01-19「因果」を考える (3)
・
08-03-11「因果」を考える (4)
・
08-04-10「因果」を考える (5)
・
08-04-30「因果」を考える (6)
・
08-05-09「因果」を考える (7)
・
08-05-27「因果」を考える (8)
・
08-06-29「因果」を考える (9)
・
08-08-28「因果」を考える (10)
・
08-09-07「因果」を考える (11)
-----
前稿の終わりに示した疑問については、ヒントを参考に解決した(あるいは最初から疑問が存在しなかった)人も少なくないと思うが、あえて悩ましい問いかけをしてしまった経緯上、解答的な説明を続けることにする。
<例その1>で、ロケットの運動を問題にする場合に考慮すべき力は、「ロケットに作用する力」なのであって、「ロケットエンジンの推力」ではない。この混同が誤解の根源になっていることが、ヒントなどから推察できるだろう。
‘ロケットエンジンの推力’は、まさに起源の側から考えた力にちがいない。だが、一般に、「起源の側がもたらす力とは何か?」という問いを、静力学的な立場でいくら考えても答えは出ない。結局のところは、
Newton
方程式における「運動する要素に作用する力」の考え方を経由して初めて意味が明らかになるという事情にある。この事情を、単純なモデルで明確かつ定量的に考察できる貴重な例が‘ロケットエンジンの推力’なのであるが、、この内容に立ち入ると話の流れが逸れてしまうので、ここでは、「起源の側がもたらす力」の意味をあまり詮索せずに進めることにしよう。
‘ロケットエンジンの推力’の値をどう決めるかは別にして、時間に対して一定の割合で燃料が燃焼し、同じ向きに同じ調子で噴射を続けるロケットエンジンが、ロケットの運動に対してある一定の効果を与えると考えて問題はないだろう。簡単のため、ロケットの全質量に比べて燃料消費質量分を無視できるという仮定も許されるだろう(現実的には少々無理があるが)。しかし、その条件で、どんなに丁寧に実験や分析を繰り返したとしても、エンジンの推力の効果とロケットの運動の様子の間の関係を、きれいな形に整理することはできないのだ。その理由は、(理解した立場から遡った表現を許すなら)空気抵抗の効果にある。ロケットに作用する空気抵抗は、ロケットの速度(および高度)に対して複雑に変化する関数量であって、ロケットの運動が決まった段階で定まるという性格の力だ。ロケットの運動は、エンジンの推力と空気抵抗の合力によって決まるから、ロケットの推力だけを考えても、一向に考察は進まないということだ。
このように起源から考えた力の効果を積み上げる方式ではお手上げになるところを、発想の転換で一気にブレークスルーするのがNewton方程式なのだ。起源は一切考えない。運動要素に作用するただ一つの量として「力」を定義する。そうしたときにはじめて、あの美しい運動方程式の関係式が現れる。そして、一旦その理解に辿り着けば、後は、実験事実を積み重ねることで、各起源に振り分けた力という量も認識できるようになる。こうして全ての視界がひらけてくる。
さて、話を戻して、<例その1>の悩ましさを解決しておこう。
(再掲II) ロケットが示す上向きの加速度に依って、ロケットに上向きの推進力が作用する。
「依って、~する。」という表現は、人間行動のイメージを想起させ(言語的概念の起源は大抵そういうものだろう)、力の発生が、動作や行為のように思えてしまう。そこで、動作は「観測」以外にないことを意識して、次のように言い換えてみよう。
(II') ロケットの上昇の加速度が測定されれば、そのときロケットに作用している上向きの力も判明する。
対応する逆の(I)型もつくっておこう。
(I') ロケットに作用している上向きの力が判明したとすれば、ロケットの上昇の加速度も判明する。
こうして見ると、これらはまったく妥当であり、どこにも不自然なところは無い。ただし、(II')の方は実際的に適用できるが、(I')は実用的でない。ロケットに作用している正味の力を知ることは非常に難しい。空気抵抗に関する種々の経験則や近似を使わなければならない。はじめは不自然に思えた(II)型の方が、実は実際的な表現だったのだ。
さて、上の表現の「測定する」や「判明する」ことの意味上の主体は、起こる事象中に登場する要素(力,ロケット等)ではなくて、事象の外側にいる、現象の認識主体である(この言葉は私の造語に近いもので、気持ちが悪ければとりあえず「外部観測者」とでも言い換えてほしい.)。この「認識主体」は、客観的な自然科学において常に暗黙に想定されるものなのだが、表現に入れるのは煩わしい、、というか、余計な情報をもっているように誤解される可能性がある。そこで、この認識主体の影をなるべく薄くした表現をつくる。
(II”-a) ロケットの上昇の加速度が決まれば、そのときロケットに作用している上向きの力も決まる。
もう一歩進めて、
(II”-b) ロケットには、上昇の加速度に応じた上向きの力が作用している。
どうだろうか。これらも自然な表現である、、が、よく見れば、これは、式をそのまま言葉で表したという類のもので、もはや、加速度と力の登場順序には意味がなくなっている。このような段階まで、余計なものをそぎ落としたものが、物理法則なのである。また逆に、物理の関係式を見たときには、上で記述してきたような色々な意味・見方を(必要に応じた形で)瞬時に意識することが求められる。これが、特定の因果の方向をもたない物理法則の式の見方なのだ。ここまで考えると、以下のような無味乾燥な物理法則の表現の見え方も変わってくることと思う。
『ロケットの上昇の加速度とそのときロケットに作用している力の間には式○○の関係が成立する。』
<ing>
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