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「因果」を考える (19)
初等物理の気まぐれ考究,物理教育放談
/
2009-04-20 02:13:01
本稿は以下の続きである。
・
07-12-05「因果」を考える
・
07-12-31「因果」を考える (2)
・
08-01-19「因果」を考える (3)
・
08-03-11「因果」を考える (4)
・
08-04-10「因果」を考える (5)
・
08-04-30「因果」を考える (6)
・
08-05-09「因果」を考える (7)
・
08-05-27「因果」を考える (8)
・
08-06-29「因果」を考える (9)
・
08-08-28「因果」を考える (10)
・
08-09-07「因果」を考える (11)
・
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・
08-10-06「因果」を考える (12-b)
・
08-10-19「因果」を考える (13)
・
08-11-10「因果」を考える (14)
・
08-11-30「因果」を考える (15)
・
08-12-24「因果」を考える (16)
・
09-01-24「因果」を考える (17)
・
09-02-12「因果」を考える (18)
・
09-04-05「因果」を考える (18-b)
-----
2月12の稿
の後半で予告的にあげたもう一つの考察要素に話を進めよう。
(2) 波及する事象の増幅効果について
押しボタンを押す操作から出発し、最終的に引き起こされる核爆発とそれに伴う凄まじい破壊現象までのプロセスを考えるとき、(普通のドミノ倒しのような)同規模の出来事の連鎖になっていないことは明らかである。このことは、前回まで(1)として考察してきた「結果の原因として何が最も重大な操作であったか」という(人間判断的・社会的とも言える)観点から離れて、因果の連鎖過程においては、純粋に科学的・物理機構的な「事象の規模の拡大」が起こり得ることを教えてくれる。このようなタイプの「規模の拡大」がどのような意味をもち、因果の認識の仕方にどのように関係するかを考えることが、(2)の視点のテーマである。
さて、このような因果の連鎖における規模の拡大は、核爆発に至るような大げさな例よりは、むしろ、(今の話の最初の問題提起に使った)ドミノを次第に大きくしていく例に戻って考え始めるのが分かりやすいかも知れない。ドミノ倒しにおいて倒れる駒が大きくなることを、一般化して見れば、ある変化が次の同様の変化のトリガーとなる形で現象が因果的につながっているが、そのとき、結果側の変化の規模が拡大していくことだろう。そう考えれば、理・工学用語で言うところの「増幅」効果になっていることに気づく。そして、科学的な「増幅」は、単に「規模が拡大すること」というような曖昧なものではなく、もっと本質的に明快な意味の与えられた概念である。これに立ち入ることは本論ではないが、後の重要な視点になるので、以下簡潔に触れておく。
同種の科学現象あるいは物理量の間の因果関係を問題にするとき、原因の変動幅よりも結果の変動幅が大きくなることがしばしば起こる。例えば、"てこ"の腕の短い側を動かすと、長い方の腕はより大幅に動く(代償として、長い方の腕から受ける力は小さくなる)。あるいは、レーザー光源(最近ではレーザーポインタとして簡単に入手できる)を手に持って、その向きを少し変えれば、遠方の物体に投影された光のスポットは、巨大な距離を(超)高速で移動する。しかし、これらの例では、拡大は起こるが、増幅が起こるとは考えない。増幅とは、
能動的な機構を介して生じる変動が拡大する
場合の現象を指す用語なのである。
誰もが思い当たる典型例は、電子回路における増幅回路だろう。そこで、トランジスタ回路のエミッタ接地型増幅回路の原理図を以下に示してみる。
入力端子に小さな電流を流入させると、出力負荷側で、より大きな電流変化が生じる。このとき、決して、入力電流自身が巨大に化けて出てくるわけではなく、入力電流は、出力電流出力の変動を調節する役目を担うだけだと認識することが重要だ。すなわち、出力電流を産み出しているのは、あくまで電源e2なのであって、入力電流は出力に使われない。このように考える背景には、形態は変わるが総量は保存する"エネルギー"という量の考え方と、それに付随して沸き起こる、結果側の増幅された現象を引き起こすエネルギーの供給源は何かという問いかけがある。
一般の因果的な事象のつながりの場合においても、増幅効果が起こるための必要条件は、結果の出来事を生み出すエネルギーの供給源が、原因系の側とは別に用意されていることである。ドミノ倒しの例を見れば、確かに、各ドミノが倒れる運動をするための源のエネルギーは、そのほとんど全てが、各ドミノ自身の重力による位置エネルギーなのであって、一つ前のドミノの運動エネルギーは、トリガー動作のために僅かに使われるに過ぎない。このようなときには、連鎖的に並ぶドミノの列の後ろの方ほど大きな位置エネルギーを持つように予めセッティングしておくことで、各ドミノの倒れる運動の規模をどんどん大きくすることができる。
つまり、次第に大きなドミノが倒れていくときの現象の規模の拡大は、決して自発的なものではなく、ドミノをセットするときにそのようにエネルギーを仕込んだことから生じていると解するべきなのである。そうと分かれば、ここからは(1)の視点とも密接になってくる。最後の巨大なドミノの倒壊を引き起こした原因を、最初の小さなドミノを倒すトリガー的な外因に結びつけることは、生じる現象のエネルギーの源を探るという視点では、全く当たっていない。そうではなく、巨大なドミノを立てる(仕事を伴う)操作こそが、巨大な倒壊を招いた原因として相応しいということが見えてくる。
ここまで考えれば、核爆発を引き起こす因果の例についても、より科学的に明確に論じるための視点を得たことになる。核爆発が、スイッチを押す動作に比べて桁違いに巨大規模の現象であることの本質は、核爆弾の形で用意されたエネルギー規模が、スイッチや電気回路に関わるエネルギー規模よりも、比較にならないほど莫大であったということなのだ。そして、このことを(1)の視点と合わせるならば、結果を生じさせるために費やされるエネルギー量を考えて、その主要部分を占めるエネルギーの準備に関わる操作こそが、原因系として最も相応しいという理解の仕方にたどり着く。
ここに至れば、エネルギーの観点から負担やつながりを考えることが、科学的に因果を認識することの一つの柱になることが分かる。さらに言えば、「因果」が、極めて柔軟で、意味の広く取れる認識の仕方であるのに対して、「エネルギー的つながり」は、因果とは意味の異なる、言語的曖昧性の排除された、事象の関係の客観的な認識の仕方であると言える。
〔付記〕
経緯上、核反応のエネルギーの話を登場させることとなった。関連して誤解しやすい点があるので、少し補足しておく。原子核エネルギーはあらゆる原子が持っているものであり、すなわち、そこらじゅうのありとあらゆる物質中に満ち溢れている。だから、核爆弾の中に、特別多大な核エネルギーを詰め込んだという認識は、そのままでは正しくない。臨界を越えて連鎖反応が起きることの(確率的な意味での)実現のし易さを、人為的に極めて高めた危うい状態・領域をつくりす、、これが核爆弾製造という操作の本質的意味である。
<ing>
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