はぎわら_m の部屋
社会・時事批評、オピニオン、初等物理の気まぐれ考究、物理教育放談

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本稿は以下の続きである。
07-12-05「因果」を考える
07-12-31「因果」を考える (2)
08-01-19「因果」を考える (3)
08-03-11「因果」を考える (4)
08-04-10「因果」を考える (5)
08-04-30「因果」を考える (6)
08-05-09「因果」を考える (7)
08-05-27「因果」を考える (8)
08-06-29「因果」を考える (9)
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間があいてしまったが、本テーマ前回よりの予告の課題である因果の立場から見た運動方程式の捉え方を考察しようと思う。

先ず、おなじみのNewton力学における一質点の運動方程式を書き下す。



m は着目質点の質量、t はある基準からの時間として表された時刻、r は(慣性系で表現した)各時刻における着目質点の位置ベクトル、F はその時刻において着目質点に作用している力のベクトルである。(各量の記号のノーテーションを、省略せずにきちんと書くのがはぎわら_m 流.)

これこそ、物理体系の根幹に位置する物理法則の代表だ。そして、前回までの私の見解として、物理法則そのものは因果の方向性をもっていない事を述べた。さて、この事は、上記の運動方程式に対しても当てはまるのだろうか。これはなかなか深い問題である。
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以前の稿で引き合いに出したオームの法則などと比べると、運動方程式は時間発展を決め得るという明確な特徴をもっている。確かに、ある時点に続く運動状態を確実に決定し得る機能を有していて、こう考えると、Newton方程式は、過去から未来への因果の系列を生む因果関係の大元の法則のようにも感じられてくる。しかし、この認識は誤っている。Newton方程式が決めるのは、あくまで時刻の関数としての運動状態、すなわち、位置や速度などのt に対する関数形なのであって、時刻が過去から未来へ向かって流れるなどという見方はどこにも含まれていないのだ。具体的に言うと、ある一点の時刻における初期条件(位置と速度)が与えられれば、その過去方向・未来方向の両方に連続する全ての時刻の運動状態が決定される、、Newtonの運動方程式とはこういう式である(たとえ時間反転対称性を破る力の式を仮定してもこの事情は変わらない)。

運動方程式が、もっぱら時系列的に次々起こる事を決めているように感じられるのは、自然現象における時刻は常に未来方向に進んでいるという、Newtonの運動方程式とその解の枠の外にある条件に、我々があまりにも慣れてしまったために起こる一種の錯覚と言ってよい。Newton方程式は、力F の関数形と、運動状況を表す関数形r(t) を結びつける式であって、決定論的な方程式ではあるが、それ自身が因果関係を意味する式ではないことを、あらためて強く認識してほしい。

ただし、今までの我々の認識に沿った、運動状態の結果を招く原因の側は明確に存在する。それが、運動方程式を決める体系の外部から与えられる初期条件なのだ。運動方程式の形が定まっている場合、初期条件が与えられた時点で、その初期条件が原因となって、あらゆる時刻における運動状態が結果として確定する。これが古典力学における質点の運動に関する因果関係である。したがって、運動方程式の解は因果を表わさないが、Newton力学は因果的な体系になっていると見ることはできる。

このような見解に対して、「運動が少し進行した時点の位置および速度が、次の段階の初期条件となり、同様のことが次々と繰り返されて連続運動となるわけだから、運動方程式の解は因果の連なりそのものだ!」というような異論を唱える人がいるかも知れない。しかし私に言わせれば、これは、無理な強弁とでも言うべき誤解釈である。あらゆる時点の位置と速度は、最初のただ一つの初期条件が与えられた時に確定している。既に確定していて変化・選択の余地のない運動状態をなぞることは、因果でも何でもない。(あえて言うならば、時刻が自然進行することが、変化(=動き)の原因になっていると解することはできるだろう。)時が刻々と進行して、アニメーションのように質点が動く姿は、実は、運動方程式とその解が示す内容を超えたものなのである。
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〔追記〕
あるいは、「コンピュータを使って運動方程式の数値解を出すときには、まさに各時刻ステップに対する因果的計算をしているぞ.」と思う人もいるかも知れない。しかしこれは、コンピュータシミュレーション等に慣れた弊害として、数学論理を近似するための離散計算ステップと、自然現象としての時間進行とを混同したために起こる誤解である。数値計算のステップは、自然時間の進行と矛盾するように、すなわち因果律を破るように設定できることを思い出していただきたい。


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