★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇スメタナ四重奏団&ヨセフ・スークのドヴォルザーク:弦楽五重奏曲 変ホ長調 作品97

2020-05-11 09:38:49 | 室内楽曲

ドヴォルザーク:弦楽五重奏曲 変ホ長調 作品97

弦楽五重奏:スメタナ四重奏団&ヨセフ・スーク(第1ヴィオラ)
           
           イルジー・ノヴァーク(第1ヴァイオリン)
           リュボミール・コステツキー(第2ヴァイオリン)
           ミラン・シュカンパ(第2ヴィオラ)
           アントニーン・コホート(第1ヴィオラ)
         
発売:1977年8月

LP:日本コロムビア OX‐1017‐S
 
 ドヴォルザークは、生涯に3曲の弦楽五重奏曲を残している。それらは、イ短調 作品1(ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ)、ト長調 作品77(ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)、それにこのLPレコードに収録されている変ホ長調 作品97(ヴァイオリン2、ヴィオラ2、チェロ)の3曲だ。この曲を作曲していた頃、ドヴォルザークは、ニューヨークのナショナル音楽院の院長に就任しており、アメリカに滞在していた。丁度、この曲を作曲する前の作品が有名な弦楽四重奏曲「アメリカ」である。「アメリカ」を作曲した後の1893年6月26日にスケッチを開始し、8月1日には完成したとある。1カ月と少しの間に作曲されたこの曲は、その前に作曲した弦楽四重奏「アメリカ」によく似た曲想を持っている。伸び伸びと明るく、一部アメリカンインディアンの音楽的要素も取り入れると同時に、祖国ボヘミアの郷愁も組み込まれているという塩梅である。故郷から遠く離れたアメリカにいながら、どうして明るい曲想になったかという理由の一つは、休暇で過ごしたスピルヴィルというところには、故郷ボヘミアの移民が多く住んでおり、ドヴォルザークは異郷にいながらあたかも故郷にいるように気分に浸れたのであろう。そしてこの地は豊かな自然に恵まれたことも、この曲が明るく、希望に満ちたものに仕上がった理由に挙げられるよう。第1楽章は、格別に弦楽四重奏曲「アメリカ」の曲想に似ており、インディアンの踊りのリズムの要素も組み込まれ、異国情緒たっぷりなところが、何か懐かしさを感じさせてくれる。第2楽章は、スケルツォの楽章で、ここでもインディアンの踊りのリズムを聴き取れるが、ドヴォルザークの巧みな作曲技法で違和感なく楽しめる。そして、抒情的な要素も中間部に取り込んでいる。第3楽章は、主題と変奏のスタイルを取っており、如何にもドヴォルザークらしい優雅なメロディーに癒されることしきり。第4楽章は、再びインディアンの踊りのリズムの要素も取り入れており、全体に軽快でうきうきした気分が好ましく感じられる。このLPレコードで演奏しているスメタナ四重奏団とヨセフ・スーク(1929年―2011年)は、ボヘミア・ヴァイオリン楽派の継承者として美しい音色と気品ある歌いぶりで評価され、ドヴォルザークの弦楽五重奏曲を演奏するメンバーとしては、これ以上は考えられないほどの組み合わせと言える。互いの息がぴたりと合い、緻密で、しかもドヴォルザーク特有の哀愁を秘めた歌心を存分に聴かせてくれている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ギーゼキングのモーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/第24番

2020-05-07 09:36:54 | 協奏曲(ピアノ)

モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/第24番

ピアノ:ワルター・ギーゼキング

指揮:ハンス・ロスバウト(第20番)/ヘルベルト・フォン・カラヤン(第24番)

管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団

LP:東芝音楽工業 AB‐8064
 
 ワルター・ギーゼキング(1895年―1956年)は、ドイツの名ピアニスト。全盛時代は、楽譜に忠実に演奏する“新即物主義”のピアニストとして名声を博した。今、ギーゼキングのLPレコードを聴くと、特別な弾き方だとは感じられないが、当時は、ロマン派の名残であろうか、ピアニストの興の赴くまま、恣意的な演奏が普通であったようで、楽譜に忠実に演奏する“新即物主義”のピアニストは、珍しい存在であったのだ。しかし、ギーゼキングが“新即物主義”のピアニストだからといって、技巧一辺倒の機械的な演奏家かというと、実はその真逆で、微妙に揺れ動くピアノタッチによって、ロマンの香りが濃く立ち込める演奏を我々に披露する。その証拠がこのLPレコードには隠されている。モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番/第24番の共に第2楽章を聴いてみると一目瞭然。こんなにモーツァルトの作品から、馥郁とした優雅さ、そして、さり気ない憂愁の美を引き出せるピアニストは、今に至るまで果たしてギーゼキング以外にいるのかとすら思ってしまうほどの名演だ。2曲とも、その他の楽章は、ギーゼキングの卓越した技巧で、軽快なテンポの中に、実にすっきりとした造形美を持った曲として聴くことができる。その結果、聴き終えた印象は、第2楽章とその前後の楽章の対比が実に鮮やかな対比を見せ、モーツァルトのピアノ協奏曲の演奏にありがちな、平板さは、ギーゼキングの演奏には少しもない。このLPレコードのライナーノートに大井 健氏がギーゼキングの演奏を、次のように書いているので紹介しよう。「テクニックを磨くものは、“頭脳”であると言い切ったギーゼキングは、どんな至難なテクニックでも、純粋な音楽に、知性的に変化させ、完全なものに高めてしまう。モーツァルトに聴かれる美しいレガート、弱音の見事な美しさ、これらは、ギーゼキングの非凡な技巧のたまものであるが、『キーをたたけばピアノは歌わない』と言って、彼は指がキーにふれた瞬間、キーを押えて指を離す、という至難なテクニックを自ら切り開いて行った。ギーゼキングのモーツァルトに対する確かなリズム、優雅さは、モーツァルトの美を支えて、永遠に残る名演である」。指揮のハンス・ロスバウト(1895年―1962年)はオーストリア出身。1929年に新設のフランクフルト放送交響楽団の音楽監督に就任し、シェーンベルクやバルトーク、ストラヴィンスキー、ヒンデミットなど現代音楽作品の指揮で有名であった。第二次関大戦後は、 ミュンヘン・フィルやチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団の指揮者として活躍した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ワルター&ベアトリス・クリーン夫妻によるフランス4手ピアノ作品集

2020-05-04 09:40:47 | 器楽曲(ピアノ)

ミヨー:“スカラムーシュ”(ピアノ2台用)
フォーレ:“ドリー”(ピアノ連弾)
ビゼー:“子供の遊び”(ピアノ連弾)

ピアノ:ワルター・クリーン
    ベアトリス・クリーン

LP:ワーナー・パイオニア H‐4529V
 
 このLPレコードは、ワルター・クリーン&ベアトリス・クリーン夫妻による“フランス4手ピアノ作品集”である。ワルター・クリーン(1928年―1991年)は、オーストリアのグラーツに生まれ、ウィーン音楽アカデミーで学び、またイタリアではミケランジェリに師事した。1951年「ブゾーニ国際コンクール」で入賞を果たす。1953年ウィーンでデビューし、同年「ロン=ティボー国際コンクール」で入賞。また、1953年には「ベーゼンドルファー賞」を受賞している。1969年アメリカでデビュー。初来日は1980年2月。モーツァルトやブラームスのピアノ独奏曲全集のほか、シューベルトのピアノソナタの全曲録音などの録音を残している。夫人のベアトリス・クリーンは、アルゼンチン出身のピアニスト。ウィーンで学び、ヨーロッパ各国で活躍した。このLPレコードの最初の曲は、ミヨー:“スカラムーシュ”。この2台のピアノのための“スカラムーシュ”は、3曲からなる小規模なピアノ曲。簡明でありながら機知に富んだ色彩感覚溢れる曲想が、今に至るまで広く愛好されている。スカラムーシュとは、もともと7世紀のナポリに生まれた喜劇役者の名前だが、彼の死後、普通名詞のように使われるようになったという。1曲目は、民族的な色彩をもつ道化の踊りをイメージさせる。2曲目は、牧歌的な叙情性が印象的。3曲目は、ミヨーが体験した中南米的なリズム感が特徴。次のフォーレの4手用(連弾でも2台でもよい)ピアノ曲“ドリー”は、フォーレが40歳代の後半に書いた曲。後にドビュッシー婦人となったエンマ・バルダックの子供で、エレーヌという少女に贈られている。エレーヌの愛称である“ドリー”が曲の名前に付けられた。①子守歌②ミアウ(猫の言葉のこと)③ドリーの庭④キティのワルツ⑤優しさ⑥スペインの踊り―の6曲からなっている。如何にもフォーレらしい、優しい愛情のこもった曲集となっており、現在でも愛好者を多く持つ曲として有名。最後のビゼー:“子供の遊び”は、5曲からなる管弦曲として知られるが、もともとは12曲からなるピアノ連弾用の曲。管弦曲版は色彩豊かな曲だが、もとのピアノ連弾版では、素朴な味わいと機知に富んだ雰囲気を漂わせる。これらの曲を弾くワルター&ベアトリス・クリーンは、二人の息がぴたりと合い、明るく、明快な表現がリスナーを魅了して止まない。どの曲の演奏も、二人のそれらの曲に対する愛情が、キメ細かく表現されているところが素晴らしい。(LPC)

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