ベートーヴェン:セレナード 作品8(ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロのための)
セレナード 作品25(フルート、ヴァイオリン、ヴィオラのための)
弦楽三重奏:グリュミオー・トリオ
アルテュール・グリュミオー(ヴァイオリン)
ゲオルク・ヤンツェル(ヴィオラ)
エヴァ・ツァコ(チェロ)
フルート:マクサンス・ラリュー
録音:1968年9月13日、15日
発売:1979年
LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐46
ベートーヴェンは、バガテルや民謡のような小品も数多く作曲している。それらの作品は、滅多に演奏会では採り上げられないし、録音も少ないので、一般のクラシック音楽ファンは聴くチャンスに恵まれない。今回のLPレコードのセレナードも、それらの小品と同じとは言わないが、あまり聴くチャンスがない曲であろう。このLPレコードのライナーノートで藁科雅美氏がベートーヴェンのセレナードを解説しているので、これを参考に紹介しよう。ベートーヴェンは、20歳半ばの彼のウィーン時代の初期に、三重奏のための「セレナード」2曲を作曲した。作品8がヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの弦楽三重奏曲であるのに対し、作品25では、チェロの代わりにフルートが用いられている。2曲ともセレナードの様式に則った、モーツァルト風な優美さが特徴。しかし、そこには幾分なりともベートーヴェンの個性が含まれ、モーツァルトのセレナードとはいささか趣が異なっているのである。そこがこの2曲のセレナードにユニークな美感を与えている。作品25は、「フルートとピアノのためのソナタ(セレナード)」作品41としても出版されているが、ベートーヴェン自身による二重奏への編曲でないことが定説となっている。セレナード ニ長調 作品8は、セレナードの定型どおり、楽師たちの登場するマーチで始まり、同じくマーチ調で結ばれる5つの楽章からなっている。一方、セレナード ニ長調 作品25は、作品8と似た曲想ではあるが、全7楽章は、フルートの繊細で透明な音が独特の彩を添えている作品。この2曲のセレナードは、あまり知られていない曲とはいえ、それぞれの第1楽章を聴くと、以前聴いたことのある曲だなと思うリスナーも少なくないであろう。この2曲をこのLPレコードに録音したグリュミオー・トリオのヴァイオリン奏者のアルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)は、フランコ=ベルギー楽派の流れを汲み、そのヴァイオリンの音は限りなく美しく、構成がきちっと整った正統派の演奏スタイルに特徴があり、わが国でも多くのファンを有していた。このLPレコードでのグリュミオー・トリオの演奏は、互いの息がぴたりと合い、特に緩徐楽章の美しさは、この世のものとも思えないほど。フルートのマクサンス・ラリュー(1934年生まれ)は、南フランス、マルセイユの出身。1954年ジュネーヴ コンクール第2位入賞したフルートの名手。マクサンス・ラリューとグリュミオーとヤンツェルの3人の演奏は、フルートの音色が輝かしく鳴りわたり、暫し室内楽の愉悦に浸れる。(LPC)