★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇サンソン・フランソワのベートーヴェン:ピアノソナタ「悲愴」「月光」「熱情」

2019-09-09 09:37:57 | 器楽曲(ピアノ)

ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番「悲愴」           
          ピアノソナタ第14番「月光」           
          ピアノソナタ第23番「熱情」

ピアノ:サンソン・フランソワ

発売:1970年

LP:東芝音楽工業 ASD‐3

 サンソン・フランソワ(1924年―1970年)は、天才肌の名ピアニストであった。ショパンやドビュッシー、それにラヴェルの演奏をさせたら当時、フランソワに匹敵するピアニストはいなかった。フランス人の両親の間にドイツで生まれ、1938年パリ音楽院に入学し、マルグリット・ロン、イヴォンヌ・ルフェビュールに師事。1940年に同音楽院を首席で卒業後、1943年に第1回の「ロン=ティボー国際コンクール」で優勝。その後世界各地で演奏活動を行い、名声を高めた。しかし、フランソワは、酒とたばこを愛した人であり、「酒はやめるがタバコはやめられない」と言い、これが原因したのか、心臓発作のため46歳の若さで急逝した。その演奏内容は、心の赴くまま、情熱のあらん限りを尽くし、鍵盤に心情を叩き付けるような独特な雰囲気を醸し出し、これに対してファンからは、“ファンタスティックなフランソワ”という渾名が付けられたほど。自身フランス人の両親を持つからか、ラテン系の音楽には絶対の自信を持っていたが、一方、モーツァルトはともかく、「ベートーヴェンは肌合いに合わない」と公言して憚らなかった。“神様ベートーヴェン”をこのように言えるというのも、如何に当時フランソワが実力、人気とも絶大であったを物語るエピソードである。並のピアニストがこんなことを言ったら、たちどころにその演奏家生命をスポイルされてしまうことであったろう。そんなフランソワがベートーヴェンのピアノソナタを録音したこと自体奇跡的なことであり、私も当時、このLPレコードに針を落とすまで、その出来栄えには全くと言っていいほど期待してなかった。ところが、聴き始めると、これまでのドイツ・オーストリア系のどのピアニストの発想ともことごとく違う、全く新しいベートーヴェン像がそこに録音されていたのには、腰を抜かすほど驚いた。従来からある重々しく、厳めしいベートーヴェン像ではなく、これまで聴いたことのないような、活き活きと躍動するベートーヴェン像が、フランソワの演奏するピアノから溢れ出していたのだ。フランソワの死後、今日に至るまで、このような活き活きと躍動するベートーヴェンを演奏できるピアニストに私はお目にかかったことはない。その意味で、このLPレコードは、私にとっては正に至宝とも言うべきLPレコードなのである。(LPC)


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