ショパン:24の前奏曲
4つの即興曲集
ピアノ:サンソン・フランソワ
発売:1971年
LP:東芝音楽工業 AA‐8047
ショパンが作曲した前奏曲は、「24曲の前奏曲」からなる作品に加え、独立曲2曲を合わせた合計26曲ある。このLPレコードに収録されているのは、「24の前奏曲」作品28である。これら24の作品は、いずれも小さな曲で、24の長短調すべてに対応する曲が含まれている。これは、バッハの平均律クラヴィーア曲集にある前奏曲に基ずいたものと言われている。この24曲の前奏曲は、1839年1月にマジョルカ島で完成している。24曲全曲を通して聴いても少しの飽きが来ないのは、ショパンの天才の成せる業であろう。抒情的な曲や愛らしい曲に挟まれ、ショパンの激情が一挙にほとばしる曲もある。“ショパンのピアノ曲は花束の陰に大砲が潜んでいる”と言われることがあるが、この「24の前奏曲」を聴くと、「なるほど」と納得させられる。一方、B面に収められた4つの即興曲は、即興的に浮かんだ楽想をもとに作られたピアノ独奏曲用の曲である。ショパンは全部で4曲の即興曲を残している。ショパンには、バラード、スケルツォ、ノクターン、ワルツなどの作品があるがこれらに比べ、4つの即興曲の芸術的評価は必ずしも高くはない。しかし、よく聴くと、ショパンの才能が随所にほとばしり、4曲ともなかなか味わいのある小品であることが分る。1曲ごとにアンコールピースとして弾かれることが多く、4曲を続けて演奏される機会は意外に少ない。このLPレコードでこれらの曲を弾いているのは、第二次世界大戦後のフランスを代表的なピアニストの一人、サンソン・フランソワ(1924年―1970年)である。1938年にはパリ音楽院に入学後はマルグリット・ロン、イヴォンヌ・ルフェビュールに師事。1940年に音楽院を首席で卒業し、1943年に第1回「ロン=ティボー国際コンクール」で優勝。以後、世界各国で演奏活動を展開し、世界的名声を得る。特に、当時“ショパンを弾かせたらフランソワの右に出る者はいない”とまで言われていた。このLPレコードでのフランソワの演奏は、正に“詩人”の成せる演奏とでも言えようか。24の前奏曲の1曲1曲に魂が宿り、リスナーは、あたかも詩の朗読を聴いているごとき気分を味わえる。もう、こうなると、リスナーはピアノの演奏が巧いとか、どうとかいう範疇を遥かにはるかに超え、フランソワの高い芸術性に、ただただ胸を打たれるばかりだ。現在、改めてこのLPレコードを聞き直して見ると、現在のピアニストには欠けている、個性的な演奏内容に感銘を受ける。4つの即興曲集の演奏にも同じことが言えるし、フランソワの語り口の巧さが一段と光り輝く。(LPC)