モーツァルト:交響曲第29番/第39番
指揮:フェレンツ・フリッチャイ
管弦楽:ウィーン交響楽団
録音:1961年3月13、23、25日、ウィーン、ムジークフェラインザール
LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) MGW 5177
モーツァルトの交響曲第29番は、1773年の暮れからから翌年の春にかけて作曲された9曲の交響曲の中の一曲。5曲目までがイタリア風序曲の形式であるのに対し、残りの4曲はウィーン風の4楽章で構成され、第29番はこの3番目の曲として、ザルツブルクで作曲された。当時、この地にいたハイドンの5歳年下の弟のヨハン・ミヒャエル・ハイドン(1737年―1806年)の影響を強く受けた作品と言われている。ヨハン・ミヒャエル・ハイドンは、宮廷及び大聖堂オルガニストを務め、交響曲もモーツァルトと同じく40曲あまり遺している。交響曲第29番は、若きモーツァルトの傑作交響曲と目され、将来のモーツァルト像を予見することができる作品として、現在でもしばしば演奏されている。一方、1788年に作曲された交響曲第39番は、明るくおおらかな交響曲として、この曲も現在でもしばしば演奏される名曲。当時モーツァルトは、極端な貧困に陥っていたことを忘れるほど、ウィーン情緒満点の優美さを備えた交響曲ではあるが、時折、明るさのかげに暗いかげが忍び寄っていることも聴き取れる。このモーツァルトの2曲の傑作交響曲を演奏するのが、フェレンツ・フリッチャイ指揮ウィーン交響楽団。フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)は、第二次世界大戦後を代表する指揮者の一人。ハンガリーのブタペストに生まれ、ブタペスト音楽院でコダーイとバルトークに師事する。1949年からベルリンの市立歌劇場とRIAS交響楽団の首席指揮者を務める。1961年からはベルリン・ドイツ・オペラの総監督に就任するが、これから円熟期に入ろうとする1963年2月20日に48歳という若さで亡くなってしまう。フリッチャイの指揮ぶりは、求心力があり、力強くてスケールの大きい構成力が身上であるが、このLPレコードの交響曲第29番の指揮では、従来のフリッチャイのイメージを一新させるように、優雅で軽々と軽快なテンポで演奏している。特にオーケストラの自主性に期待しているかのような指揮のため、第29番特有の楽しさがリスナーにストレートに伝わってくる。一方、交響曲第39番の演奏は、従来のフリッチャイの特徴に戻り、スケールを大きく構え、集中力を高めた演奏となっており、聴き終わった後、リスナーは大きな満足感に浸ることができる。それでも、ここでのフリッチャイの指揮は、いつもよりは抑え気味に進行させているように私には聴こえる。このことが結果的に、第39番の持つウィーン情緒を色濃く前面に出すことに成功しているようだ。この2曲の代表的名盤であり、録音状態も素晴らしい。(LPC)