セレンディピティ日記

読んでいる本、見たドラマなどからちょっと脱線して思いついたことを記録します。

映画鑑賞ノート:森田芳光監督「椿三十郎」

2007-12-06 21:40:16 | 文化
黒澤監督の「椿三十郎」の森田芳光監督によるリメイク版を見た。以下その思いついたことをノートする。

まず映画の最初の場面に杉の植樹林の林が出てきた。その中を数人の若侍が集合場所のお堂を目指して走っていくのだが、なんか変な気がした。広葉樹の多い雑木林の方が良いのではないか?時代的に齟齬があるような気がするが、必ずしも誤りとは言いきれない。先日のサンデープロジェクトでも放送していたのだが、杉の植林は戦後農林省の指導で大々的に実施されたが、植林自体は古代より何度も奨励されてきたからその当時になかったとはいえない。それ以上に垂直に伸びて平行に何本も並んでいるようすが幾何学的すぎて、この場面には不釣合いだし、城下町の外れならやはり雑木林のほうがいいのではと思った。

つぎに、9人の若侍の様子が、感情オーバーで騒がしすぎて不自然だ。シナリオが黒澤版と同じなのになぜか気に触るのは、黒澤版の三船敏郎演じる椿三十郎が、大人らしさが板についていたからそれとの対比で若侍が子どもっぽくなるのも自然に見えていたかもしれないが、森田版では織田裕二の椿三十郎も大人に見えないので、若侍の方も不自然さが目立つのかもしれない。本来ならば不安で落ち込んでもいいのではないかと思う。

このドラマの設定はおかしい。次席家老達の不正を弾劾したのがこの9人の若侍というのも不自然だ。なかには前髪の元服前と思われるものがいる。総じてこの者達は出仕していないか出仕していても重要な仕事についていないものと思われる。そんな者達が家老達の不正の証拠を掴んだとは思えない。証拠もなしに糾弾したところで、笑い飛ばせばすむことで、家中総出で捉えにくるのはかえっておかしい。リアルな設定にするのなら20代後半か30代のある程度の役職についているいわゆる「青年将校」的な設定にするのがただしい。

城代家老の睦田夫人を中村玉緒が演じていたが、これはミスキャスト。演技がどうのこうのではなく、年をとり過ぎている。武家の嫁入り前の娘の母なら、30代後半か40代の設定がただしい。ちょっと抜けたような人の良さとまだ残っている色気とか上品な美しさが結びついて生きてくるのに、60代以上と思われるようでは、夫人のキャラクターが生きてこない。

このドラマは、よく考えると凄く悲惨な話だ。運良く夫人に救われた、大目付の手下の侍の話では、彼らは悪いのは城代家老のほうだと聞かされている。それらの悪気のない侍たちを椿三十郎は、死人にくちなしと何十人も殺している。この大名家の家中に膨大の数の遺族を作り出しているわけだ。現実の話だとしたら、何十年も消えない大きな傷跡を家中に残すことになるぞ。

終わりのほうで、助けられた城代家老が椿三十郎のような男が家中にいては困ると言っていた。あれ!椿三十郎と同じタイプと言う設定となっている悪役側の室戸半兵衛が、大目付の片腕で活躍していたぞ。悪役のほうが人材登用に熱心なのだ。視点を変えればどちらが悪役かわからなくなる。これはこの映画の誤りではなく、ひょっとしたら数少ない真実をついたところかな?