チャチャヤン気分

《ヘリコニア談話室》後継ブログ

タッツェル蛇の卵

2006年11月12日 22時46分00秒 | 読書
『タッツェル蛇の卵』(らっぱ亭奇譚集号外、06)

 今年の京フェス用に作成されたらっぱ亭さんの個人誌です。京フェス会場でいただきました。
 浅倉久志さんが今年上梓された『グラックの卵』へのオマージュらしく、「グラックの卵」勝手に協賛企画・ユーモアSF特集号と銘打たれています。

「ヒーロー登場」(イドリス・シーブライト)

 鳥人間のアピイは、彼らの種族が地球人に宇宙船の修理ステーション用地を貸与するかわりに、繁殖期を迎えた雄鳥の羽へのカラフルな彩色を求めた古い条約に則って、その権利の行使を基地責任者(といっても基地には人間の職員は彼女きりいない)のシャーリーンに対して要求する(ちなみにもうひとつの取り決めはタッツェル蛇の卵の孵化の阻止に地球が協力すること)。

 ところでこのシャーリーン、ちょっとおかしくなっていて、日がな「ジークフリード第三幕」を聴きふけっているのだが、同僚がいないので異常に気づくものもいない。
 この「ジークフリード第三幕」、検索するとまずバレエ「白鳥の湖」の第三幕がヒットするんだけど、これでは内容的に合わない。これは当然ワグナーの歌劇「ニーベルンゲンの指輪」でなければならない。すなわちジークフリードが炎の壁を超えて岩山で眠っていたブリュンヒルデを目覚めさせる一幕である。

 それが証拠におかしくなっているシャーリーンは、自分をブリュンヒルデと思い込んでいるようで、ヒーローが乗り越えてくるにふさわしいよう基地の壁を船体補修用のプラスティック形成マシンでどんどん高く険しくすることにかまけて、本来の業務はほったらかしたまま「ベッドに寝そべって」待機している(^^;。

 さてアピイはやる気のないシャーリーンを何とか説得し、羽の彩色に取り掛かるも、右の羽だけ彩色した段階で、シャーリーンの怠慢で保守されてなかった彩色機がぶっ壊れる。またプラスティック形成マシンも(もともと本来の使用目的でない大量の使用なのだから当然だが)原料を使い切って止まってしまう。

 怒って抗議するアピイに対して、シャーリーンはレンチとねじ回し(!)を抛ってよこすばかり。で、結局アピイは機械を修理するどころか、あちこち突つきまわしているうちにどこかショートさせ発火させてしまうのだった。燃え上がった機械は何とか動いていた消火装置で消し止めるも、火事はシャーリーンのいかれた頭にある霊感をひらめかす。そう、ジークフリード第三幕どおり、ヒーローが越えて来るのは高い壁じゃなくて炎の壁なのだと。

 やがて基地の外壁は炎につつまれ、そのとき、大地が鳴動し登場したのは……

 いやこれはまさに浅倉さんが喜びそうな話。「洒落た」というよりも「すれた」ユーモア短篇でした(^^)
 シーブライトも短篇集にまとまったのを読みたい作家ですね。

「腸卜」(R・A・ラファティ)

 昔から地球は、征服者によって何度も打ち負かされてきた。けれども永続的に制圧されたことはいまだかつてない。今また、地球はハズ・バズとその5人の従兄弟たち(輪っか乗り)に狙われる……。

 ハズ・バズらのコンピュータ技術は地球以下だったけれども、それを補って余りあるのがその卜占術、とりわけ臓物占いなんだ。うねうねと伸びる腸管には、それを読み取る能力がありさえすれば、現在の状況や未来の出来事などのデータを読み取ることができる。腸卜帽をかぶって臓物を探ればおおよそすべてのことがらが分かっちゃう。鳥の臓物も初心者向けでおすすめだけど、でももっと読みやすいものがあった。……

 ということで、ハズ・バズは極上ものの臓物すなわち陽気で哀れみ深い知的障害者のそれ(上下ひと揃い)を手に入れる。そうして知りえた地球側の脆弱点、すなわちマスコミとマスコミを妄信する大衆をけしかけるのだったが、次に手に入れた「世界で二番目に適格な」人物の臓物をまさぐって、びっくら仰天、慌てて逃げ出す。その理由は……。

 といういかにもラファティらしい不思議なお話。
 「腸卜インベーダー」を思いついた時点で、既にしてラファティの勝ち。それがいかにもラファティっぽい風景の中に取り込まれて何ともいえない可笑しみを醸し出している。

 元来ラファティの作劇術はジャズに似ているのではないだろうか。ジャズのインプロビゼーションが、つまるところテーマをその演奏者独自のフレーズで開いていくものだとするならば、本篇も、腸卜インベーダーの襲来という思いっきりへんてこりんな主題を得たラファティが、それを独特の個性的なフレーズに展開して思いっきり吹きまくっている、そんな図が浮かんでくる。
 ときに難解な印象のあるラファティだが、そのようなジャズ演奏として読めば、案外読みのツボが見つかるのではないだろうか。

 ところで、ハズ・バズ一味を追い払った(?)元司令官が腸卜帽をかぶってカナリアのはらわたをまさぐっているラストも効いている。鳥の臓物は初心者向けなんだから。

 さて今度の「らっぱ亭奇譚集」は号外ということで以上の2篇のみ。いかにもらっぱ亭さんらしいセレクションが嬉しい一冊でした。とはいえ……うーむちょっと読み足りないなあ(^^;
コメント
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