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D-Dayから70周年。ノルマンディー上陸作戦について

2014-06-06 18:41:30 | 軍事ネタ

今日よりちょうど70年前の1944年6月6日。
第二次世界大戦の欧州戦線の中でも、極めて重要な作戦が開始された。

この戦争を始めたドイツ軍は、当時2つの戦線で戦っていた。
1941年以来ソ連と泥沼に戦い続けている東部戦線と、
1943年にイタリアが寝返り連合軍も上陸していたイタリア戦線である。

では西部のフランスはどうなっていたかというと、
1940年にドイツ軍がフランス全土を占領して以来、
小規模な連合軍の上陸はあったが、決定的なものではなかった。

空を見ればイギリスから連合軍爆撃機が日々飛来していたので、
無差別爆撃に対してのドイツ本土防空戦が展開されていたし、
またフランスのレジスタンスによる破壊工作も活発ではあったが、
少なくとも大規模な連合軍部隊の上陸は未だ無かった。
フランス方面は後方地域であったのだ。

しかし、いずれはフランスが再び戦場となる日はくるであろう。
誰もがそれを予感していたし、連合軍もドイツ軍もその日に向けての準備を進めていた。




1943年11月28日のテヘラン会談に於いて、アメリカとイギリスはソ連に対し、
フランスに軍を送り西部戦線を形成することを約束した。
東部戦線でドイツ軍の主力を一身に引き受けていたソ連としてはずっと前から求めていたことである。

フランスに上陸するにあたり、連合軍の理想としては、まず一撃目でできる限りの打撃を与え、
圧倒的兵力を揚陸し、一気にパリを解放することであった。
1940年のダンケルクのように海に追い落とされることがないように。
その作戦のために艦船や航空機を大量動員するのに時間が必要だった。
少なくとも作戦開始は1944年の5月か6月頃になるだろうと思われ、
また上陸地点は北フランスのノルマンディーであると決定された。




フランスに上陸する部隊と資材は全てイギリスに集められたが、
イギリス本土で物資の移動が忙しくなったことをドイツ側は察知していた。
大規模作戦となるとどうしても準備段階から目立ってしまうことで、
上陸作戦の開始自体を秘匿することは不可能であったので、連合軍は、
上陸地点がどこであるかを欺瞞することに多大な努力を払った。

欺瞞作戦"ボディーガード"には2つの目的があった。
1つ目に他の戦線に上陸の可能性を疑わせ当該区域のドイツ軍部隊を拘束すること。
2つ目にフランス内であっても実際の上陸地点をパ・ド・カレー地方であると信じさせること。

まず1つ目の方はフォーティテュード・ノース作戦と名付けられ、
架空の部隊を作り上げてノルウェーに上陸する任務を与え、その情報を二重スパイを通じてドイツ側に流した。
それと同時にスウェーデン政府と交渉を開始し、偵察飛行の為の領空通過許可や補給協力を申し込み、
外交面から連合軍がノルウェーに上陸する準備を整えているかのような印象をドイツ側に与えた。
この結果、ドイツ軍はノルウェー方面軍をその地域に釘付けにし遊兵化させざるを得なかった。

2つ目の方はフォーティテュード・サウス作戦と名付けられ、
パ・ド・カレーはイギリスから最も近いフランス沿岸であるので、ここが本命であるかのように見せかけた。
実際に準備爆撃をする際に、ノルマンディーに1トンの爆弾を落としたらカレーには2トンの爆弾を落とした。
また歴戦で有名なパットン将軍を架空のカレー上陸部隊"第1軍集団"の司令官に任命し、カレー対岸のイギリス南東部に配置した。
そしてその南東部ではハリボテの建物が多く造られ、ダミー船団を配置し、
暗号化された無線通信を膨大に交わし、本物の作戦準備をしているかのように見せかけた。

こうすることで実際にノルマンディーに上陸したその時でも、
ノルマンディーはあくまでも陽動作戦で本命は第1軍集団によるカレー上陸であると疑わせ、
初期段階におけるドイツ軍増援部隊の集中を阻止しようとしたのだ。
5月18日には不運にも海岸偵察チームがドイツ軍に捕まってしまう事件が起きたが、
幸いにも場所がカレーだった為にフォーティテュード・サウス作戦を強化する結果となった。
このノルマンディー上陸作戦は"オーバーロード"と名付けられ、
D-Day(作戦決行日)を6月5日と定めたのは5月23日のことである。




5月31日に入ると艦船への積み込みを開始したが、
作戦日が近づくにつれ、天候が思わしくなくなってきた。
大量の艦船と航空機、そしてグライダー部隊をも同時に
運用することとなったので、天候は最重要であったのだ。

祈るような気持ちで6月4日を迎えた時、
気象班からの報告では嵐がきそうとのことだった。
さらに次に理想的な天候となるのは6月19日とされており、
二週間もの延期を余儀なくされるかのように思えたが・・・。

どうやら1日だけ待てば36時間の間だけ、雲は残るが雨と風が止む機会があるとのことだった。
連合軍司令官のアイゼンハワーはここに、24時間のみの延期をもって作戦を開始する決定を下した。
D-Dayは6月6日に変更されたのである。


この史上最大の作戦における兵力は上陸第一陣15個師団を含めて300万人。
彼らを援護するのは戦闘機5400機、爆撃機5000機、輸送機2300機、
戦艦7隻、巡洋艦26隻、駆逐艦294隻、揚陸艦と上陸用舟艇が4100隻などで、
上陸時には戦艦部隊の艦砲射撃と、爆撃機が初日だけで13000トンもの爆弾を投下する予定であった。

D-Dayというのは作戦決行日のことを表す用語だが、
このオーバーロード作戦が有名になりすぎたので、
今日では単にD-Dayというと1944年6月6日の本作戦を指す言葉として扱われる。

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そうりゅう型潜水艦をオーストラリアに輸出の可能性

2014-05-31 22:18:13 | 軍事ネタ

潜水艦めぐる日豪協議、年内の締結視野も課題山積
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0E82LD20140529


日本の武器輸出三原則が緩和されたことにより、
オーストラリアに日本の潜水艦が輸出される可能性が出てきた。
ターゲットは海上自衛隊の通常動力型潜水艦「そうりゅう」型だ。

先日に救難飛行艇のUS-2をインドに輸出することで合意したことは話題となったが、
これは自衛隊の装備とはいえ武装が無いものなのでまだ穏やかであり、
次にいきなり潜水艦となるとまた話が違ってきそうではある。



海自HPより、そうりゅう型潜水艦

潜水艦というのは現代兵器の中でも特に機密性が高い兵器である。
潜航中の潜水艦を探知することは現代技術を以てしても難しく、
不意に接近を許せば空母であっても損害を受けかねない、
依然最強のステルス兵器と言われているのである。

日本の海上自衛隊戦力はイージス艦が目立ってはいるが、潜水艦にも力を注いでおり、
潜水艦戦力を従来の18隻体制から24隻体制へと増強することも発表されている。
日本はいくつもの島嶼地区や海峡を管理しなければならず、
海は広しといえどそういった地形では船が通るルートが限定されるので、
まさに潜水艦の待ち伏せ作戦が活きる条件が揃っているのだ。


オーストラリアと日本の地勢的条件は似ており、
領海内の島嶼地区を防衛する上で潜水艦による封鎖作戦は合理的である。
また他候補のドイツやスウェーデンの潜水艦は日本製と比べると著しく小型である。
両国の潜水艦はともに水中排水量が2000t以下であるのに比べ、そうりゅう型は4000tを超える。
サイズの違いは武装や航続性能、作戦可能日数に影響してくる。
地勢的条件が違うので、陸地が近いバルト海や北海で活動することを前提にした小型潜水艦ではなく、
太平洋のような広大な海域で活動することを前提にした大型潜水艦を欲しがっているということだろう。
それならば日本のそうりゅう型が条件に合致しているというわけだ。

アメリカやイギリスなどは全潜水艦を原子力艦に置き換えているので、
大型の通常動力型潜水艦を建造している国は日本しかないのだ。


日本の最新型潜水艦の技術を輸出することに対しては慎重な見方もあるだろう。
アメリカ議会がF-22戦闘機の日本への輸出にストップを掛けたことと同じである。
しかしオーストラリアと日本は共に環太平洋国家として、
また周辺国への圧力を強めている中国に対して、
安全保障面や防衛産業での連携を加速させるメリットがある。

安部首相は今、オーストラリアだけではなくASEANなどとも
安保や防衛面での協力関係をさらに具体的に進行させていく方向をとっている。
インドネシアやフィリピンやベトナムに巡視船を供与することも検討しており、
そういった確実性のある手段を視野に入れ、かつ集団的自衛権も国会で審議中である。


諸々を見れば、対外的に見て今の日本はこの戦後70年間で最も変化している時期に思える。
今後どのように動いていくか非常に楽しみである。

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北海の女王、戦艦ティルピッツとPQ17船団

2014-05-11 08:32:28 | 軍事ネタ

各国が保有する海軍
海上での実力機能を有する組織であり、
地勢によってその優先度は微妙に変われど、
海洋国家にとって最も重要な存在である。

海軍の存在意義とは第一に、自国商船を脅威から遠ざけ、海上交通路を守ること。
それは古代から現代まで通じる普遍的な原則である。
その脅威とはもちろん、敵性船舶などによる襲撃であるが・・・。
実際に襲撃しなくても、天下のイギリス海軍を翻弄した艦があった。
今日は戦艦ティルピッツについて。




第二次世界大戦中、ドイツ海軍は戦艦を2隻建造した。
それが「ビスマルク」と同級2番艦「ティルピッツ」である。
ビスマルクはドイツ軍による北欧電撃戦に参加し、イギリス戦艦フッドを撃沈、
空母や戦艦を動員したイギリス海軍の追撃部隊と幾度も交戦した末に、
ドラマティックな最期を遂げた戦艦である。

そしてビスマルクを喪失したことにより、ドイツ海軍は慎重にならざるを得なく、
ティルピッツを北欧奥深くで温存してしまった。
なのでビスマルクのようなハデな活躍譚がなく、
ティルピッツはややマイナーな戦艦である。
しかしそれがイギリス海軍に脅威を与えないという結果にはならなかった。


1941年当時、ドイツがソ連に条約破りの奇襲侵攻作戦を始め、
日本も真珠湾奇襲攻撃を敢行しアメリカ相手に太平洋で連勝連勝、
第二次世界大戦は主要国全ての参戦を迎えて最高潮に達していた。

このとき、強力無比なドイツ軍のほとんどを引きつけていたのはソ連軍だった。
イギリス軍もアフリカ戦線でロンメル将軍率いる多少のドイツ軍と交戦していたものの、
独ソ戦の規模とは何十倍もの開きがあり比較にならない。

アメリカ・イギリス・ソ連でドイツに対しての連合を結んでいる以上、
アメリカとイギリスはソ連に対して何かを報いなければならなかった。
それはレンドリース法案という形になり、アメリカはソ連に対して大量の軍需物資と兵器を貸与する。


しかしアメリカで生産された軍需物資は、実際に遠く離れたソ連の地に運ばれなければならない。
そのルートをどうとるかが問題となった。
太平洋ルートは安全であった。
アメリカとソ連が隣り合ってるし、日本はアメリカとは戦争状態であったが、ソ連とは中立であったので、
実際のところ日本海軍はアメリカからソ連に運ばれる輸送船団を無視し続けた。
同盟国ドイツからの再三の阻止要請にも関わらず。
下手に手を出すとソ連が日本に宣戦布告するのではないかと恐れたからである。

しかしそこは広大なソ連の地。
極東に陸揚げされた物資を、実際的に必要としている西方に送り込むのは、確実ではあったが簡単ではない。
陸路で何千何万トンもの物資をシベリアを挟んで長距離運ぶのは、とてもコストと手間と時間がかかるのだ。
結局は船で一気に輸送できる海路が一番効率的だったのである。




手っ取り早いのは上記ルートであった。
アメリカから大西洋を渡った物資、またイギリスからソ連へ運ぶ物資は、一旦アイスランドのレイキャヴィクに集積され、
そこから北海を通りソ連のムルマンスクアルハンゲリスクに入港する。

これは最も効率的なルートであったが、輸送船団には最も危険だった。
まずアメリカからアイスランドに渡る過程の大西洋上でドイツ海軍の潜水艦(Uボート)に襲撃されるし、
次の段階のアイスランドから北海を渡る場合も、ドイツ軍占領下のノルウェーの目と鼻の先を通らなければならない。
これだけ近ければドイツ空軍の哨戒網にひっかかるので隠匿は困難で、爆撃機も飛んでくる。
しかしレンドリースで供与された物資の3分の1はこのアイスランド・ルートが使用された。

このルートを渡る輸送船団は、1ヶ月か2ヶ月に1度ぐらいの頻度でソ連へ向けて出航し、
PQ船団と呼ばれ、1回目の船団はPQ1、10回目はPQ10といったように呼称された。

このPQ船団は1回につき、戦車や戦闘機を数百も積んでいたりした。
つまり大消耗戦争中のソ連にとってとても大きな軍需物資だったので、当然ドイツ軍もPQ船団を放置はしない。
アイスランドから船団の出港をキャッチすると、その航路を追跡し、
至るところで爆撃機や潜水艦などによる波状攻撃を仕掛けてきたのだ。


そしてイギリス海軍をことさら悩ませたのが、ドイツ戦艦のティルピッツがノルウェーに停泊していたことである。
ビスマルク撃沈以来、ドイツ水上艦部隊は派手な活動を控えざるを得なく、
この世界の果てとも言える場所に腰を下ろしていたのだが・・・。

通商破壊はドイツ海軍の潜水艦作戦が有名だが、
真に恐ろしいのは巡洋艦や戦艦などの大型艦による通商破壊である。
潜水艦や爆撃機では1~2発、多くとも3~4発の魚雷や爆弾を射てば弾切れである。
そして潜水艦は鈍足であり、待ち構えている場所さえ読めれば逃げ切ることは容易いし、
味方に駆逐艦でもいれば逃げまわるのはあちらの方だ。

その点、戦艦は、その主砲威力は当然、駆逐艦や輸送船を沈めるのを苦としない。
搭載された砲弾の数は1000発以上にのぼる。
速力も全速なら30ノット前後に至り、当時の輸送船の2倍、極端な場合なら3倍となることもある。
装甲は駆逐艦や巡洋艦の攻撃を多少食らってもビクともしない。

つまるところ、潜水艦や爆撃機に見つかっても無駄弾を撃たせれば弾切れで勝手に撤退していくし、
護衛艦の火器が当たれば撃退も現実的で、速力差に物を言わせて逃げ切ることもできるが、
戦艦相手にはその全ての方法が一切通用しないのである。


戦艦を相手に戦うには、空母からの艦載機で一方的にいたぶるか、
もしくは同サイズの戦艦をぶつけるかしかないのだが・・・。

当時のイギリス海軍は忙しかった。
なにせ地中海や太平洋でイタリア海軍や日本海軍との死闘を演じていたので、
序盤は空母や戦艦などの主力艦をこの極北の輸送船団の為に抽出する余裕がなかった。
それでも後には貴重な空母や戦艦をやっとこさ、やりくりして極北に張り付けにした。
しかしそれら主力艦もノルウェーにいるドイツ空軍を恐れ、護衛が許されたのは航路の前半だけで・・・。
PQ船団の直接的な護衛についていたのは掃海艇や駆逐艦、大きくとも巡洋艦サイズであった。

つまり、もし船団が直接ティルピッツに出くわすようなことがあれば、
輸送船団も護衛兵力もまとめて容易に殲滅されてしまうことが誰の目にも明らかであった。
悪夢以外の何物でもない。
なので「ティルピッツが出撃した」という情報が届く度に大わらわし、
船団に混乱が走り、かえって損失が増えるということが続いた。




最大の悲劇は1942年6月のPQ17船団で起きた。
イギリス本国艦隊の戦艦や空母などの強力な護衛がついていたのだが、
前述したように彼らはドイツ軍勢力下のノルウェーには接近することを許されていなかった。
陸上から一方的に攻撃され損失することを恐れたのだ。
なのでドイツ空軍偵察機に発見された途端、
船団のはるか後方にあたるそこで停止してしまった。

PQ17船団に向かって「ティルピッツ出撃す」の情報が届くも、
空母や戦艦を擁する本国艦隊はドイツ空軍を恐れて前進してこない。
ともなれば・・・PQ17の直接護衛についていた巡洋艦4隻を擁する護衛戦隊も無駄死にを恐れ、
PQ17船団を見捨てて撤退してしまったのだ。

こうなればPQ17の輸送船団は、大慌てである。
護衛戦隊に見捨てられ、もはや為すべきことは、被害を最小限に食い留めることだけ。
輸送船団は一網打尽を恐れて、バラバラに散開してしまったのだ。

船団の自衛火力というのは密集してこそ効力を発揮する。
散り散りになればただの打ち上げ花火同然で・・・
ドイツ軍の爆撃機や潜水艦からは、大した反撃もされずに撃ちまくれる、格好の的となってしまった。


問題は・・・護衛戦隊の帰投、船団散開の悲劇を招いた元凶のティルピッツは、獲物に遭遇していない。
それも当然で、ドイツ空軍の偵察機がイギリス本国艦隊の空母と戦艦部隊を発見した後に、その居場所をロストしてしまい、
今にも空母部隊がティルピッツに向かってきているような気がしたドイツ海軍司令部は、
損失を恐れてたった9時間の航海でティルピッツを帰港させたのだ。
あちら側も同様に損失を恐れて進出してこないことを知らぬまま。

要するに互いに臆病な勘違い合戦をしてしまい、
向かってこない敵を恐れてしまった故のPQ17の悲劇である。
結果的にPQ17船団は33隻中、24隻の損失を招いた。
これはPQ船団中でも最大の損害である。


このようにティルピッツは、実際に有効な海戦を行ってもいないのに、
ノルウェーに引きこもって"存在する"というだけで敵に大きな脅威を与え続けた。
結局ティルピッツは停泊中に幾度もの空襲に晒され、1944年10月にとうとう撃沈されるのだが、
温存するだけで敵海軍の戦力と作戦を拘束する「フリート・イン・ビーイング」の実例とされる。
ユニークな戦歴を誇る戦艦となったのである。

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ウクライナ騒乱について

2014-04-16 17:45:23 | 軍事ネタ

皆様ご存知の通り、2ヶ月前より、ウクライナで騒乱が起きてる。
推移を眺めてきたが、沈静化するどころか、
今月に入ってから新しい局面を迎えてますます激化する様相を見せた。

昨年にウクライナのヤヌコヴィッチ大統領が、かねてより交渉が進んでいたEUとの連合協定の締結を見送り、
それに対して親欧米派の野党や市民が反発、今年2月に抗議デモを起こしたというのが件の始まり。
これは政府による弾圧も虚しく暴動に発展し、とうとうヤヌコヴィッチ氏は国外に逃亡せざるを得なくなった。
ヤヌコヴィッチ氏は親露派とされていた。

そのデモ集会はソチ・オリンピック開催中の出来事であり、
ロシアがオリンピックをしている隙に親露政権が暴動に倒され、
親欧米派の暫定政権が成立したというのは、
欧米の支援があったものと見ることができる。


余談だがロシアは2008年の北京・オリンピックの最中にも、
プーチン大統領が開会式に出席している隙を狙ってグルジアに奇襲攻撃を仕掛けられ、
グルジア戦争(南オセチア紛争)が勃発したのであるが、
オリンピックの度によく事件が起こる国なのだと感じる。




さてウクライナといえば、1991年のソ連崩壊によって独立した諸国のひとつで、
NATO加盟国とロシアに挟まれた位置にあることから、戦略的に極めて重要な地域であり、
冷戦終結後もNATOとロシアの間で度々論争されてきた国である。

数年前よりウクライナのEU接近、そして加盟の可能性が取りざたされており、
これがとりわけロシアにとって問題とされていた。


数年前に振り返れば、2007年にアメリカがポーランドとチェコにMD(ミサイル防衛)を配備する旨を発表。
するとロシアはそれに対して猛抗議した。
MDは戦略弾道ミサイルを撃ち落とす為のものであるので、
ロシアの目と鼻の先にそんなものを配備されては、
ロシアの戦略弾道ミサイルが封じられてしまう。

ロシアの戦略的な攻撃力を大きく減じることに成功するので、
極端な話、アメリカがロシアと戦争した場合にとても有利な要因となるのだ。
当時、当ブログでも書いたね、懐かしい。 → 緊張の欧州


もしこのMDがウクライナに配備されたら?
そしてモスクワやコーカサスにほど近いウクライナにNATO軍が配備されたら?
もはやポーランドとかチェコどころではなく、喉元にナイフである。

つまりロシアとしてはウクライナのEU接近を止めたい、
逆にNATO側はウクライナをEUに寄せることができれば大きなアドバンテージとなる。
このように今回の騒乱というのはつまるところ、西側と東側による地勢的優位の奪い合いだ。
これをもって新冷戦という人がいるのも納得するところである。


今回の騒乱と暫定政権の発足に対して、ウクライナ内のクリミア自治共和国は反発していた。
クリミア半島にあるセヴァストポリ軍港はソ連時代から、現在ではロシア海軍の黒海艦隊の母港であり、
ロシアにとって極めて重要な軍港であるので、ソ連崩壊後もウクライナより租借されていた。
なのでクリミアとロシアの関わりは深く、また住民も半数以上がロシア人であり、
ウクライナ内で最も親露的な地域であったので、クリミアは親欧米派の暫定政権を認めなかったのだ。

そして2月末よりクリミア内では謎の武装集団とやらが目撃されるようになる。
この統率された武装集団は空港や警察署、議会などを占拠し暫定政権による弾圧を阻止した。
当初ロシアは関与を否定したが、つまるところこの謎の武装集団とやらはロシア軍そのものであった。
クリミア全土がロシア軍に掌握され、住民投票が決行、その結果を以て、3月18日にクリミアはロシアに編入された。
最も重要な地域は確実に押さえたといったところだろう。


そして冒頭で今月に入りますます激化している と書いた通り、この情勢はまだ終わっていない。
ウクライナには国土を東西に分けるドニエプル川がある。
この川よりも西側か東側かで親露感情がだいぶ違うらしいのだが、東側は住民のロシア人比率も高く親露的であるのだ。
その東側に於いて数日前より、暫定政権に反発する抗議団体が警察署や空港を占拠しており、
そして親露感情が高い地域であるので、警察署員も彼らを取り締まらず署を明け渡したりしている。
彼らはAK-74などで武装し、その武器はロシアからの支援と見る向きもある。

またこの抗議団体が厄介なのは、ウクライナの前政権の警察特殊部隊ベルクートなどが混じっているようで、
もしかしたらロシア兵も紛れ込んでいる可能性もあり、いずれにせよ素人が銃を持っただけの団体ではなさそうな点である。
これに対しウクライナ暫定政権は、とうとう昨日から対テロ作戦と称して東部に対する弾圧作戦を開始、
この武装化抗議団体と各地で戦闘を展開している模様である。

もはやウクライナ軍もほとんどがロシアに寝返るかストライキを起こしており、
暫定政権の命令をほとんど聞かない状態であるのに。
感情的に考えれば当然だろう、誰がロシア軍相手に勝算の低い戦いをしたがるのか。
それでも暫定政権は極右団体を取り込み、国家親衛隊として組織し暫定的な戦闘部隊としている。
やっていることは末期的であるが、実行力が伴わなければ安定化もできないので仕方ない。


ただこれは危険な動きである。
当初ロシアはクリミアのみを編入するだけに留まり、ウクライナ本土にまでは軍を派遣しないと見られていた。
しかし先月のクリミアでの動きと同じく、弾圧からのロシア系住民保護を名目に部隊を派遣してきたら?
その大義名分を与えてしまうことになるかもしれない。

ロシア軍は現在、ウクライナとの国境に部隊を集結中であり、戦争準備ができている。
もしもこのロシア軍がウクライナに侵入した場合、NATOはどう出るのか?
静観すれば威信は地に落ち、ウクライナはロシアに編入されるか分割されるし、
もし軍事的介入を行えばロシア軍との直接対決となってしまう。
第三次世界大戦を引き起こす可能性も出てくるし、そこまで行かなくても経済的打撃は必至であり、
EU諸国がどこまで腹をくくれるかということになってくるだろう。

ロシアはウクライナの東部弾圧に軍事介入するのか?
それはまだわからないが、もし決行した場合はEU諸国とのチキンレースとなる。
そしてロシアはそのチキンレースに勝つぐらいには腹をくくっているように見える。
軍部隊の集結具合から見ても。
第一EU諸国に比べたら経済的に失うものも小さいので、ハードルが低いと見ざるをえない。


暫定政権は親欧米派とはいえ、クーデターまがいの方法で政権を奪取した。
なので感情的にロシアに肩を持つ人がいるのもわかるけど・・・
冷静に日本の国益からこの情勢を見つめれば、ロシアの勝利は喜ばしくない。

何故なら、ウクライナという地域の争奪戦に於いて強引に軍を進めるロシアに対して、
アメリカはどう出るか、中国は必ずその動向を観察しているだろう。
これでもしウクライナが混乱のままにロシアの独り勝ち状態となってしまったら、
尖閣諸島や台湾にも強引に中国軍を進める選択肢が出てくるかもしれない。
どうせアメリカは口だけで何もしないだろうという先例を作ってしまう。
アメリカ軍という抑止力が地に落ちてしまう可能性があるのだ。
それは日本にとって、防衛上大変よろしくない。

もちろんウクライナと日本は立場が違うので、一概に同じ対応を取るとも限らず、
またクリミア編入を受けて安部首相がアメリカ側に尖閣防衛義務の再確認を迫るなど、
アメリカも防衛義務を表明して中国に対して牽制はしているものの・・・。


日本としては、ウクライナはEU諸国と暫定政権が頑張ってロシアのものにならず、
けれど日露関係が接近しつつあるままに仲良くやっていけたらなというのが理想かな。
安倍ちゃんとプーチン、仲良いし。
ちなみにロシアと仲良くやってても北方領土はまずかえってこないと思います。
別記事で書くかもしれないけど、ロシア海軍の太平洋艦隊にとって北方領土の存在は重要すぎるので。
だからそれは期待しないままに交渉材料として使っていくとして、
それよりも中国を牽制する上で、アメリカからも色々引き出す上で、
ロシアと仲良くなることは日本にとって意味がある。


ウクライナ情勢は今後も注視していきたい。
このままだと内戦の一途に思える。

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2013年新防衛大綱、南西防衛強化とイージス艦8隻体制へ

2013-12-12 22:29:22 | 軍事ネタ

新防衛大綱、中国念頭“離島を守る”に重点
http://www.ytv.co.jp/press/politics/TI20128008.html


防衛省の定める新防衛大綱について報道された件について。
防衛大綱とは「こういう風に防衛していきますよ」みたいな大まかな方針のことで、
今回の防衛大綱の趣旨としては、

・戦車を400輌から300輌まで削減し、本州以外の九州と北海道に集中配備する。
・戦車を削減した分は機動戦闘車を配備してカバー、またオスプレイも配備する。
・自衛隊版海兵隊を佐世保に配備する。
・沖縄に新たな戦闘飛行隊を移転させる。
・海自にイージス艦を2隻増やす。
・敵基地攻撃能力については保留で。





さて、今回の防衛大綱はどう見ても対中防衛体制を強化するもので、
全体としては南西方面の防衛に注力する内容となっている。

ただでさえ少ない戦車を300輌まで削減することは痛いが、
まあ本州に配備する必要性が薄いと踏み切った理由も上の地図を見ればわかる。
日中戦争が起これば中国の北海艦隊が主敵となり、その北海艦隊は4つの基地に配備されている。
ちなみに中国海軍唯一の空母「遼寧」もこの北海艦隊所属であり、現在は青島基地を母港としている。

地理をみれば一目瞭然の通り、中国艦隊が日本に攻撃しようとすればまず南西諸島か九州となり、
本州に向かうためには対馬海峡か南西諸島を突破しなければならないということ。
それはあまり現実的なことではないので、本州の戦車を節約して南西方面の防衛に予算を振り向けたということだ。


そして機動戦闘車は空輸もできるので、戦車よりもこちらを増勢させることにより、
離島防衛に陸上戦力を役立てるということだろう。
そうなると歩兵や物資の輸送能力も重要となってくるのでオスプレイの配備は理にかなっている。
陸上戦力については海兵隊化を進めることにより機動性を向上させ、
少ない戦力を機能的に動かすことにより数的不利を無くすという方針。

イージス艦については元々自衛隊は4個護衛隊群に2隻ずつのミサイル護衛艦を配備する方針だったが、
現状イージス艦は6隻しかないので残る2隻は旧式のミサイル艦「はたかぜ」型となっていた。
イージス艦を8隻体制にしてはたかぜ型を代替するのは自然な流れだろう。


沖縄の那覇基地に戦闘飛行隊を移転させるようだが、
戦闘機定数については置きっぱなしなのかな。
現状の約350機というのは少なすぎるというもので、
もはや現代は「数的劣勢を質的優勢で補う」という時代でもなくなってきてるので、
将来的には戦闘機の増勢についても検討して欲しいもの。
過去記事にて解説したが、なにせ質ですら中国空軍に対して優っているとも言えない為。
 → 尖閣諸島を巡る航空戦力について


そして敵基地攻撃能力についても明言は避けられているが、
これが可能であると決まればそれが一番の大目玉に違いない。
巡航ミサイルにて敵基地を破壊することが認められれば、
今よりも効率的で確実性のある防衛戦略がとれる。

相手ボクサーのパンチを避け続け防御するだけではなく、
パンチを繰り出してくる前にジャブでもして牽制した方が安全なのは確実である。
このことについても過去に詳細を書いてるので詳しくは
 → 自衛隊の敵地攻撃能力の保有について



Google MAPで見る中国空母「遼寧」

最近は日本も秘密保護法成立や共謀罪の創設検討など、確実に防衛意識が高まってきている。
あまりに色々な物事のスピードが速いので方向舵を間違わないようにしないといけないと思うが、
個人的には好ましい方向へと進んでいると思う。

最近の動きを「軍国主義の復活」とか「戦争がしたいのか」とか言う人もいるけど、
今までがノーガード過ぎただけで、この程度は普通のことであるし、
国益が害されようというときに実際的な防衛を視野にいれるのは当然である。

また中国の軍拡速度は普通ではない。
これに対して何もしないままの方が地域の軍事力のギャップを生み、それは危険な情勢となる。
極東地域で中国に対抗できる力を持つのは日本だけなので、
自衛隊の強化も含めて中国に歯止めをかけることが国際貢献ともなると思う。

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