Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

REVOX A77HS について

2023-02-19 18:07:26 | オープンデッキ

 STUDERとREVOXについては以前REVOX E36REVOX A700の整備の時にすこし触れたが民生機ブランドのREVOXで一番名声が高かったオープンデッキは1967年から1977年までの11年という長期にわたって製造されたREVOX A77ではないかと思う。その間モデルチェンジが3回されてmark 1〜mark 4となるがデザインが異なっているために外観から識別することは容易。それ以前の36シリーズは真空管を用いていたがA77からはソリッドステートを採用し、モーターもサーボ付きのACタイプになり電源周波数に依存しなくなった。 1977年以降は新機種にバトンを渡すがこの時代がオープンデッキが一番輝いていた頃という事もありA77がREVOXの名声を不動なものにした。スイスメイドという魔法の言葉(ドイツで製造したのもあるが)と国産機にはないヨーロッパ的(?)なスマートなデザインは世界中の羨望を集めていた。特に日本での人気は高く高級オーディオの象徴的な製品だったが田舎の電気屋のオーディオコーナーにはもちろん置いてなくて雑誌でしか見る事ができない天上の存在だった。アナログレコードやカセットテープの復権が言われて久しいがオープンテープはどうなのだろう?私のように少年時代の憧憬が心の深いところにインプリントされている世代にとっては強い磁力を感じるのだが。

 

REVOX A77 mark3 2TR 38cm/sで外観は非常に良好 

   

 シリアルナンバーからドイツで製造されたらしい。早速通電するとキャプスタンが回らない。 早送り、巻き戻しはOK、カウンターは動かない。テープ検出ランプは消えている。メーターは動かず再生しているかは不明、といったところでいろいろと問題を抱えているらしい。破裂する危険があるRifaコンデンサーが使われているかもしれないので早々にスイッチを切る。全く未整備らしいので掃除を兼ねて中身を見てみましょう。

   

やっぱりカウンターのベルトは切れている。切れっ端を集めて長さを測定して近い長さのベルトと交換して動くようになった。ただカウンターはあとでもう少しメンテナンスしたい。

アンプ基板はカード状でコネクターに差し込まれている。これは底板で基板の抜け防止ロック機能も兼ねている。汚れはモーターのオイルミストが落ちて溜まったのか油性マジックリンで綺麗になった。

 

テープガイドの左側はベアリングで右側は回転しないガイドとなっている。分解途中にベアリングのシムが行方不明になって見つかるまで30分は捜した。

裏側だが

 

ここの空間はボードは無くソケットだけ。スピーカー駆動用のアンプ基板が2枚収まるのだがスピーカーを2個組み込んだ木製キャビネットと共にオプションらしい。

 

このひび割れているのがRifaのメタライズドコンデンサーで経年変化でほぼ100%この状態で電源ONでよくショートして弾け飛んでいた。同時に直列につながっている抵抗も焼けて発火することもあり非常に危険。モーター回路に入っているのでキャプスタンモーターが回らないのもこれが原因であってほしい。

 

 

割れているRefaの漏洩を調べると100V負荷で420kΩ、ショートほどではない。

 

手持ちの450V耐圧(Refaは150V)に交換したがやはりキャプスタンは回転しない。

 これはmark3までのキャプスタンの回転制御基板の回路図だがこの後のmark4は一部IC化された。トランスから直にブリッジダイオードに入ってからモーターに繋がっている。そして回転するモーターから検出したパルス数に応じてブリッジダイオードに繋がる制御Trで回転数をコントロールしているらしい。制御TrのECに割れたRifaコンデンサーが入っているのでひょっとするとTrが逝ったか?と思ったらトランスからの130Vは正常だが+22V(21V)が来ていないようだ。

 電源基板の回路図

 電源回路では24V巻線を安定化して21Vにしている。整流前のヒューズは630mAでこの電源でキャプスタン制御、入出力アンプ類など賄っているらしい。オプションのパワーアンプ巻線、2Aヒューズがある22V巻線はプランジャー、キャプスタンモーターは前述の通り130V、巻き戻し、早送りモーターは3段階で大小のリールに応じて手動で切り替えるようになっている。Rifaのコンデンサーはこの回路に直列の抵抗と共に入っていてスパークキラーのようだが経年劣化でショートする事でコンデンサーは弾け飛び抵抗は燃える。この安定化出力の21Vが0.数Vとなっているのは電源の出力Trが逝ったか?だがちょっとチェックすると問題なさそう、、さて??

 この電源ボードを外すのは結構厄介で4本のネジを緩めるのに苦労する。邪魔になっているプランジャーを外してこんなドライバーもつかって

 

接続を外して電圧チェックすると不思議なことにちゃんと電圧は出ている。ところが電源供給路をつなぐとほぼ0Vになる。これは一体、、?しばらく悩んだが原因はキャプスタンモーター制御回路のc212 220μF(回路図では250μF)のケミコンだった。

 

3Ω程度のショート状態で他が道連れにならなくて良かったがなぜ630mAのヒューズが切れないのだろう。(EMT950の破損した電源トランスを思い出す)外部から電圧を加えるとモーターは回転して制御Trが無事でよかった。コンデンサーは格好の良いphilipsに交換した。

 

それにしてもこのタイプの古いケミコンは要注意でペーパーコンデンサーだけでなく電解コンデンサーも危険なことになっていた。コンデンサーはすべてチェックしないとダメらしい。

 回転するようになったが今度は安定化電源の電圧調整ができない。半固定抵抗を回しても反応なくいきなり高電圧になりとんでもない高速になったりする。裏を見ると

 

なんと摺動子が折れていた(右は以前の写真でちゃんとついている)。劣化で調節中に折れてしまったらしい。仕方ないので適当なものを注文して待つことにします。

その間に不良コンデンサーの交換を進めます。底部にあるカードのコネクターボード

ここにも2個同じケミコンが使われていてDCRから多分ショート状態になっている。このボードは同軸のボリュームとロータリースイッチが組み込まれていてボードそのものがロータリースイッチの一部になっているというぶっ飛んだ設計。

  

 プリント基板の箔をロータリースイッチの接点にするという発想は民生機ならではで業務機ではあり得ない。それだけ大量生産された機器だと思うがちょっと残念な気もする。ボードに繋がる配線を取り外してもひっくり返すのは難しい。仕方ないので(多くの配線を外すのがめんどうなので)最低限の接続線を外してコンデンサーを交換した。コンデンサーは性能最優先で今回はアキシャルタイプのニチコンで。ついでにロータリースイッチの接点を掃除してコンタクトグリスを塗っておく。

 安定化電源の出力はキャプスタンモーターコントロール基板と下に並んでいるアンプや発振基板の2系統に供給されるのだが修復前のDCRを測定するとモーター基板がほぼ0.0Ω、アンプ基板をすべて抜いた状態でが数Ωという非常に低い値だった。共通して使われている220μF25Vの問題で交換後は各々1kΩと140Ωとなっていた。もう1ヶ所発振基板にも使われているのでこちらも交換する予定。

 

 チェッカーにかけるとこんな状態。コンデンサーには西ドイツ製 RDEとある。このメーカー製品はRifaと同様に問答無用で交換が必要。UHER CR210にも使われていて通電すると同じ原因で抵抗から発煙したことを思い出した。EMT928もコンデンサーが原因で発煙したことがあるが容量は異なるが同じメーカーだったしEMT950の故障もそうだったかもしれない。機器の信頼性を損なうだけでなく小さな部品が原因で発煙(発火もありうる)などの危険を招いたのであれば将来の危険性を予知できなかった製造者の責任は問われるかもしれない。経年劣化はあたりまえで品質管理責任からは外れているという意見もあると思うが廃棄されない限り製品は存在するし使われている場合もある。

 たまたまwebで同時期に同じA77をメンテナンスされている方がいて基板の取り外しの写真があった。私は基板だけ外そうと四苦八苦していたが電源トランスごと引き出せばずっと作業がしやすくなりそう。

 

それでも未練たらしく必要なところだけ外して中途半端な状態で半固定ボリュームを交換した。いまさらベークライト製を探して取り替えなくても良いと思う。これで安定した。

 

問題のケミコンを交換したが別のケミコンでもアンプ基板で吹き出しているのがあってこれはショートなどはなさそうだが手配することにした。

 

これで走行系は一応作動するようになった。アンプ基板を差し込んで再生するとどうも片chが出力していないしVUメーターは両ch振れない。他にもまだ問題がありそうだ。

playback基板とコネクター結線図を頼りにヘッドからの信号を追っていくと

 

原因はplaybackボリュームで片chの導通がない。

   

一応分解してみると摺動子が破損していて残念ながら修復は難しい。特殊なボリュームだが海外から入手できそうなので早速注文した。到着までしばらく待つことにします。

 到着を待つ間にできる事をしておきましょうということでplayback amp の吹いていたケミコンを届いた代替え品と交換。チューブラータイプが入手できなかったのでアキシャルタイプに収縮チューブを被せて横倒しにして。

 EQはフロントパネルで切り替えれるものがあるようだがこれはNAB専用になっていた。IECカーブが必要な時はボードの交換を行う。

 中古ボリュームが届きました。イタリアからの荷物は2週間と早かったし到着予定日の範囲内にちゃんと収まっていた。

 

4本のうちの2連は音量調整とバランス調整用でA型とB型。バランス調整はMN型ではなくてよかった。早速取り付けてみよう。

 

ところが出力しない。以前出力していた右chも聞こえなくなってしまった。またヘッドから信号を追っていくと

 

なんとplayback基板の半固定抵抗の摺動子が両chとも折れていた、、。このベークライト半固定抵抗もわかりやすく寿命が尽きていて多分他のA77も似た状況なのだろう。回路図ではメインボリュームへのトリムらしいので代替品を注文してとりあえず最大出力に仮配線すると(またすったもんだしたが)両ch出力された。

 しばらく2TR19cm/sで聴いているとベアリングのガイドローラーからしゃりしゃり異音が出ている。

 ベアリングには「GERMANY  SKF.  394928A」と刻印してあり検索するとREVOXの純正品がヒットして入手できる。ノギスで寸法を測定して調べると汎用品でも同寸のものがあった。純正品は非磁性体かと思ったがそうでもない様子なので交換する時は価格が数十分の一の汎用品でいいのではないかと思う。でも無水エタノールに漬け込んで洗ってとりあえず再使用する事にした。これくらいのテンションではそうそう摩滅することはないと思うが散った磁性体が内部に入り込んで劣化したことも考えられる。再発するようなら交換する事にします。

 走行し両chとも音が出るようになったが全体のシルキーさというかエレガントさが不足していてなにか乗り潰した元高級車みたいなフィーリング。なにがそう思わせるのかを考えながら部品待ちの間に全体のブラッシュアップを進めるようにします。

 playback基板の半固定抵抗を交換しました。

 

 これで再生、録音も問題なく稼働するようになりました。

 信号の接点は録音、再生とも2ヶ所ずつでいずれもプリント基板の箔を利用したロータリースイッチ、アンプもヘッドアンプとドライブアンプの2ヶ所だけのシンプルな経路。ICは使われておらずでメンテナンスしやすい構成と思われる。ボディはコンパクトだが内部は無理に詰め込んだ窮屈な感じは無く外観に劣らず美しい。小型で美しく高性能(だと信じてるが)で大人気だったのも頷ける。

 

 ベークライトの半固定抵抗はまだ沢山使われているので今後不具合が発生するかもしれない。また信号路にはタンタルコンデンサーが複数あるのでここも交換した方が良いかもしれないが現在はタンタルコンデンサーは使われることは少ないようで交換するのであれば他のコンデンサーになりそう。いずれも今回はスルーしようと思います。基板の取り外しは容易なので部品交換は楽しくできそう。

 木製キャビネットは少し傷や劣化があったのでツキ板を軽くサンディングしてオイルステインで保護しアクリルカバーはよく掃除してコンパウンドで磨いた。

 

    

 木製のキャビネットに電源回路のキーがあってキャビネットをはずすと安全対策のためか電源が入らないようになっている。今回はこのキーを取り外して(簡単にははずれない)本体に差し込んで作業したが素人のアクセスを拒んでいるようにも感じる。また本体上部にあるリモコン端子に空プラグを差し込まないとキャプスタンが回らないなどは修理の最初でつまづいた。幸いに詳しいサービスマニュアルの入手は容易で愛好家も世界中にいるらしくwebの記事や動画も多くメンテナンスや修理の参考になる。今回の個体は外観は非常に良好で製品のタグまでついていたので大切にされていた(もしくはあまり稼働していなかった)と感じます。しかし製造されて半世紀も経過すれば内部の劣化は避けられずゴムベルト、半固定抵抗、メタライズドペーパーコンデンサー、電解コンデンサー、ボリュームの一部を交換した。もうしばらくは楽しませてくれると思います。

 

 

 

 

 お読みいただきありがとうございました。

 

 追記1

 録音時の入力切り替えロータリースイッチのクリックが芳しくない。1個だけだが他と比べるとカチッとならない。アンプカードのマザーボードを再度めくって軸を取り外して仕組みを見てみると

 

 回転するたびに1個のスプリングでボールを山谷に押しつけてクリックさせる構造。スプリングの調整を何回も行ってみるがなかなか良くならずこれは山谷が摩滅しているのかもしれない。若干改善を認めたところでグリスを塗布してここまでとした。このスプリングとボールは最低もう1ヶ所できれば2ヶ所は欲しいところだと思うのだが。

 

 後日談1

 A77のメンテで上記のクリックメカニズムを含んだトラブルの解決にかなりの時間を費やしてしまった。おかげで随分と扱いに習熟したということもあって再度クリックが不調のところをやり直した。

 

 これでようやく完調になりました。やはり経験は大切で諦めなければ何とかなる(と信じたい)。ついでにスプリングの調節を行ってクリックのフィーリングを良くしたりエディティングレバーがカチッと収まるように調整をしたり布絆創膏を入手して(まだ売っていた)コード類をまとめたり、オリジナルに寄せて結紮したりなど状態の向上を目指した。可動部分のスムースさ、操作時のフィーリングは外観の美しさと共に製品の品位を引っ張り上げる。余裕があれば内部の美しさにも拘りたいと思う。


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
A77 (ヨシザワ)
2023-02-04 22:00:47
お久しぶりです。

僕も最近A77(Mk4)を修理したので興味深く読ませていただきました。
症状はキャプスタンモーターが回らないといった内容ですが、原因は+21Vが出ていなく安定化回路の不調でした。基板を取り外すのが難しかったのでトランスと一緒に電源ブロックを引き出して。
修理した個体はオートシャットオフのセンサー交換、テイクアップモーターの発熱(周りはじめは高い電圧で直ぐに低い電圧に切り替わるが、切り替わらない)、と今回で3度の修理。でも愛着が湧きます。
今回修理したのはスピードの遅い4トラック機ですが、2トラック機もあり快調です。

そうそう、巻き取り側のテープガイドは固定タイプからベアリングに交換しています。
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Revox A77 (koban)
2023-02-04 22:24:17
こんにちは。お久しぶりです。お察しの通りヨシザワさんの記事を参考にさせてもらっています。A77は3モーターのため構造が整理されているので職人的な調整が必要なさそうで助かります。専用ボリュームの破損は深刻な事態ですが生産量が多いためか何とか入手できそうで到着を待っています。テープガイドが左右で異なるのは何故だろうと考えますが巻き上げリールのテンションがアイドラーに直接伝わらないようにフリクションを加えているかもしれないと思っています。ベアリングガイドにする事でリールのテープ量によってテープスピードに影響が出ないでしょうか?興味深いです。私もA77の4TRを持っていますがこれから整備する予定です。
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A77 (ヨシザワ)
2023-02-05 11:27:57
おはようございます。
迂闊でした。kobanさんと、このブログ主が頭のなかで繋がっていなかったです。

それはそれとして、R2Rは手がかかって面白いですね。
テイクアップ側のガイドの件ですが、メーカーは摩擦を利用しているのかもですね。STUDER A80もヘッドハウジング内に一部摩擦を利用しているところがあります。テープパスの殆どのガイドは回転するのですが。走行方向での振動を防ぐ、一種のダンパーなのかなです。

A77もそうかもですが、今のところ特に問題は出ていません。

ではでは。
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