HICKOK社は1910年創業だからすでに108年は経過している老舗メーカー
真空管試験機のベストセラー「TV-7」シリーズは1952年に発表された。TV-7,TV-7A/U,TV-7B/U(1957年),TV-7C/U,TV-7D/U いつ頃まで製造されていたかは不明だが1960年発行のマニュアルにはD/Uが載っていてまた1970年代のメンテナンス記録が添付されている機種があることから正式なサポートはしばらくは続いていたものと思う。マニュアルにC/Uは省かれているしほとんど見かけることは無いがwebでカナダ軍の銘板が付けているのを見たことがある。
現在「HICKOK」をwikipediaで検索しても有名なガンマンが出てくるばかりでかつての名門老舗情報は不明。
TV-7の各機種は同一の原理で構造も大きな変更はないそうで民生用のTubeTesterの機能を絞って小型、堅牢化し実践的に(朝鮮戦争、ベトナム戦争か)改良したとされる。webの情報ではTV-7A/UのシリアルNo,1200を境にして調整機能が異なっているとのこと。それ以前は半固定抵抗での調整ができない部分があり固定抵抗のカットアンドトライが必要でとても大変。したがってなるべくそれ以降のものを入手すべしと。軍用ということもあり手荒に扱われたものがほとんどで外観は悪いものが多い。しかし堅牢なケースに守られて、またメーターは1個で全体の構造も単純ということもあって決定的に壊れているものは少ないよう。トラブルの多くはソケットの接触不良、電源トランスの不良、メーターの不良など。ソケットは交換したものも見られるし怪しくなってしまったオリジナルのソケットにソケットアダプターを介して測定するように改造したものもある。電源トランスは日本でレプリカを特注で製造された方がおられる様子。メーターもデータがあるのでTV-2と異なりレプリカの作成も容易でebayなどでも入手することができます。
TV-7D/U
このTV-7D/Uは校正済み」ということでチェック項目と測定データの用紙が添付されていた。
この個体を標準機として他と比較してみたい。
TV-7からTV-7A/UのシリアルNo,1200までの回路図
TV-7A/UシリアルNo,1201からTV-7B/Uの回路図
TV-7D/Uの回路図
回路図を見てメンテナンスするのは難しい気がするし3種類並べても違いは解りづらい。
3機種の違いはメンテナンス時の調整方法らしい。機種毎の調整ボードの一覧が1960年のmanualに載っている。
手元にTV-7A/UとTV-7B/Uがあるので校正済みのTV-7D/Uを参考に使えるように調整してみたいと思います。
キャリブレーションの仕方は多くの方々が述べられているのでそれらを参考にするとして欠品や不具合を解決させておくところから始めます。
TV-7B/U
プラグが異なっているので劣化した電源コードごと交換して、切れているランプヒューズも取り替えてONするも動作せず。追っていくとAC電圧をコントロールする巻線ボリュームが焼き切れている。。切れていたところは端子の接続部だったので修理して念のために電源トランスの1次側のDCRを測定すると数Ωしかない。TV-7D/Uは数十Ωあるのでこれは電源トランスがレアショートして過大電流が流れた様子で残念ながらこの電源トランスは使えない。以前国内で特注された記事があったが発見することはできなかったがebayを見ると出品されているので早速落札した。でも届くのは年明けになりそう。
、、、と思ったら電源トランスは壊れてなかった!スライダックで徐々に電圧を上げていったら何の問題もない。。早とちりしてまた余計なものを買い込んでしまった。。
その他欠品がありパイロットランプのジュエル、ショートテストのネオン球、そしてヒューズランプ。ヒューズランプは6Vのバイク球で良いのだそう。特に困るのはねじ込み式のネオン球だがこれもebayで見つけた。国内調達で頼りにしていた業者さんのHPが更新されておらず現在注文できなくなっている。
欠品だったジュエルとLINE調整ツマミは同型のものが入手できて一安心。ネオン球は到着待ち。
TV-7A/U
パネルはA/U、B/U、D/Uとも変わりはない。ジュラルミンと思われるケースも取手違いはあるが共通のよう。ケースの傷み具合でどういった過酷な環境で扱われたかうかがい知ることができる。このA/Uは前オーナーが荒く塗ったペンキを剥がしていてかなりワイルドな佇まいだが欠品はなさそう。
ざっとチェックしてみると2.5Vのヒーターが出力されていない。
内部もあまり手が入っていない様子。電源トランスからの線が外れている。軍からの放出品はわざと分かり易いところを壊しているのもあるのでこれもそうかもしれない。
そのほかは問題なさそうなので校正してみる。
LINE電圧調整
まず基準とするD/Uだが米国で校正されたものなのでAC115Vで行われたと思われる。拙宅でもアダプターがあるので出力電圧を測定すると
この2機種はちょっと高く表示される。試験機を通電させた状態でも高いのでスライダックで115Vにして測定することにする。
「LINE ADJ.」ボタン(一番下のボタン)を押してメーターが中央に来るように「LINE ADJUST」ツマミを調整すると電源トランスには93Vかかった状態となる。トランス1次側には「FUSE」球、「PILOT」球、そして「LINE ADJUST」巻線抵抗がありAC電圧が変動しても93Vに合わせることができるのだが日本でのAC100V(50、60Hz)は定格範囲を超えている。「LINE ADJUST」をかなり回すことでメーターを中央に合わせることはできるが突入電流の関係で「FUSE」球が切れやすくなるため電源を入れる時はツマミを左に回しておくか6.3V8W程度に交換した方が良いらしい。
適正表示(メーターが中央)された時に正しい電圧がかかっているかは117Vのヒーター電圧で確認できる。ヒーター通電時の電圧降下を考慮して適正範囲は115V〜127V(中央値は121V)。
「FILAMENT VOLTAGE」を117にして切り替えツマミを HS53460 に合わせて「OCTAL」ソケットの2番、7番の電圧を測定する。
115V60Hz(と思われる)で校正済みのD/Uはぴったり121VだったのだがAC100V60Hzで同様にADJ.して測定すると
116V台となり一応適合範囲だがかなり異なった値となった。
理由はよくわからないが(どなたかご存知の方はご教授ください)せっかくキャリブレートされているD/Uは115Vに調整して測定すべきだと思う。
しかし外部トランスが必要なのも不便なのでA/UとB/UはAC100Vで校正することとします。
現在のA/UとB/Uの117レンジでの電圧を測定すると
結構異なります。早速はぐってみるとB/Uは半固定抵抗があるがA/Uは無い。A/UのシリアルNo,は書かれていないのでこの個体は1200番以前のものらしい。
B/U
1%225kと書かれている精密抵抗がR124でR134半固定抵抗でメーターを合わせる。回路図ではR124は245kΩだが。
A/U
こちらにもR134はあるのだがどうも別回路でR124の245KΩ抵抗を調整するしかないらしい(LINE ADJ.スイッチに直結されている)。現在は10kΩが直列に繋がっているが外して245kΩ抵抗を測定すると255kΩで10kΩ程度増加している。これで装着すると中央表示で3V程度高く出力される。1.5MΩ程度の抵抗器を並列につなげばもう少し追い込めそう。この辺りが敬遠される原因か。
ところがメンテナンスマニュアルを見ていたら
機種ごとのヒーター電圧の一覧があり微妙に異なる。ということは電源トランスは少なくとも4種類は存在するらしく何らかの事情で規格の統一はできなかった(しなかった)らしい。TV-2でもメーターの規格が途中で変更になり互換性はない。この表を見るとA/Uの117Vレンジでは112-121で中央値は116.5Vになる。
A/UとB/UとD/Uのトランス
83のプレート電圧が異なる。
117Vレンジのヒーター電圧はA/Uは116.5V、B/Uは121Vにでメーターがセンターを指すようにします。B/UはD/Uと同様にR134ボリュームで簡単に合わせられるがシリアルNo,1200までのA/UはR124の固定抵抗で調節する。
バラックでカットアンドトライして装着。抵抗値は元々の抵抗器と偶然同じ245kΩだったのだが経年変化で上昇していたので交換となった。
プレート電圧、ロースクリーン、ハイスクリーン電圧、バイアス電圧、信号電圧などの調整はweb記事とマニュアルを参考に問題なく行うことができた。ただR130半固定巻線抵抗の接続はA/UシリアルNo,1200を境に異なっているという記述があるし回路図もそうなっているが前期型と思われるウチのA/Uは後期型の接続だった。移行期は混在していたもしくは修理時に変更されたのかと思う。
ようやくgmの校正のために並べて作業開始。
ところが固定抵抗を繋いでようやくLINEの調整をしたA/Uだったが出力されるヒーター電圧が高い方にずれている!やっぱり調整は面倒。マニュアルを見ると元々の抵抗に高い値の抵抗をパラにして調整するようなことが書いてあるので元の抵抗を戻して高抵抗をいくつか買ってきて繋いでみる。
結局3.3MΩのパラ付けで落ち着いた。かなりイライラした作業となってしまった。
6L6 7本、6J5 2本、6C52本、5U4G1本の測定値をD/Uに一致させるようにR113とR115を調整して終了となった。キャリブレーションは当たり前に重要だが精密なデータを録るにはやはりちょっと役不足のような気がする。戦場で必要なのは大まかに使用可能か否かの判定なのでこれで十分なのだと思う。
ではHICKOK TV-2シリーズの位置付けはどうだったのだろうか?真空管試験機全般を見渡してもここまで徹底しているものは少ないように思う(その割にgm直読ではないのだが)。同じ軍用でどう使い分けたかはちょっと興味がある。前線部隊はTV-7で体積も重量も倍はあるTV-2は本部にも置いたのだろうか。。
お読みいただきありがとうございました。