Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

Thorens TD 134とTD184 について

2017-11-29 17:41:07 | Thorens

 Thorens社は1883年にヘルマン・トーレンスによってスイスのサン・クロワで創業された精密機器メーカー。かつてはオルゴール(1985年にルージュ社に売却)、オイルライター、ハーモニカ(1914年〜1952年)などを生産していたが1957年発表のターンテーブル「TD 124」が世界を席巻する大ヒット商品となった。1966年にEMTと共に共通の持ち株会社の傘下となりドイツに製造拠点を移転した。日本でもかつて「ノア」が代理店契約をしていたが現在は解消されているらしく過去の製品のメインテナンスも扱っていないようです。有名な製品は「TD 124」以外でもRefarence(リファレンス)やPrestage(プレステージ)などの超高級品が思い浮かぶ。しかしここでは真逆の大衆機であるTD 134とTD 184を取り上げてみます。
 
 Thorens TD 134とTD 184はターンテーブルの直径が10inch(25cm) 重量が1kg(TD 124は5kg)という軽量系で、コンパクトなデッキにターンテーブル、アームなどを配したシステム。


 

 いつ頃のカタログかははっきりしませんがTD 134とTD 184は1958年頃に発表されたのでその当時と予想されます。アメリカでの価格はTD 124が$99.75に対しTD 134は$60.0 TD 184は$75.0となっています。この2機種の樹脂製アームにはEL104という名称があり単体発売されていたらしくTD 124にも取り付け可能。別のカタログに木製のキャビネット(現在の基準で見ると木製の箱という雰囲気の簡易型)の価格があるがTD 124用で$9 TD 134とTD 184用が$6となっていて現在の価格としてはせいぜい9000円と6000円程度ではないかと思う。それ以上高価なら自分で作ってしまったのではないか?それくらい簡素な箱。

 TD 134はオートストップのみの機能、TD 184はレコードの大きさによって選択するダイヤル電話のような機能でスタートの位置までアームを移動させるというセミオート機能を持つ。

 TD 134

 

 

 

 

 

 拙宅のThorens TD 134はShure M3Dが取り付けられています。ずいぶん前から居るのですがまだ稼動させたことはありません。久しぶりに電源を入れるとなんとかモーターが回る、、といった具合。金属部品は全体に「こなを吹いた」ように見える。これは一体なんだろう?
 とりあえず軽く分解、注油、掃除しながら構造を学習した。ほとんどTD 124と変わりないと思うし両者は以前メンテしたはずだがすでにほとんど忘れている。徹底的なメンテを行う前の予備メンテという位置付けで欠品があれば補充し、ネジの具合を確認、金属の表面を整え、一応モーターも分解してみた。やはりグリースは硬化しているので良質のものを調達する必要がある。
 作業には特殊な工具は必要なく構造も難しい所はない。世間ではこの分野の匠がおられるそうなので多分色々なノウハウがあるのかとは思う。しかし基本は抵抗を小さくしてスムースに動くことかと思うので一般的な約束事で十分にことが足りるようにも思う。とにかくホントに美しい個体でミュージアムクォリティ。拙宅の機材の中では最上位なのは間違いない。たとえ新品未開封でもキカイはメンテナンスが要ります。


 この状態で聴いてみましょう。カートリッジはshure M3D


  アラーム・ア・ラ・モード /  松任谷由実  1986年

 年間のLP売上第一位だそうだが覚えている曲は少ない。飛ぶ鳥を落とす勢いだったユーミン18枚目のアルバムで時代はバブル絶頂期に向かっていく真最中。とても豊かでゴージャスでお金がかかっている音でそれまでの4帖半フォークの世界とはエラく違う。「ビンビン」言ってるスラップベースに「世の中浮かれていたんだろうなぁ」と思う。
 1986年当時の自分を思い起こしてみると。。就職して4年目、バブルの恩恵はなかったが結婚して子供も生まれて何となく「軌道に乗った感」は感じていた。。それから32年経ちました。この間世間はバブル崩壊でえらい目にあってしばらくは反省しきりだったが最近の好景気ニュースを聞くと、やっぱりヒトは過去のことはすぐに忘れる。。と思う。欲望は社会を前に進めるためのエネルギーの源かもしれないが繰り返しているような歴史の中で自分自身の立ち位置は1986年当時とは(当たり前に)えらく違っている。楽しい事以上に悲しいこともいっぱいの人生だがせめて音楽は楽しく聞きたいものだ。当時の音楽を聴くことで楽しい思い出を蘇らせたいと思う。

 操作はまず回転切り替えを”0”から”33”にしてアームを外側に振るとターンテーブルが回転しレコードの終末では自動停止する。途中で回転を止めたいときはアームを内側に振るか手前にあるスイッチを「stop」にする。また「MANUAL」モードではオートストップは解除される。10inchターンテーブルなので30cmLPレコードは当然はみ出す。ペラペラのレコードの端に針を下ろすのは昔実家にあった卓上電蓄を思い出させる。当時世の中のほとんどの人はターンテーブルで音が変わるなどということは全く考えもしなかったと思う。使いやすくてちゃんと音が出ればOKで変に音にこだわったりせずに音楽が楽しく聴ければそれでよし。。のプレーヤーだ。細かいことを追求したい人はいくらでも違うのがあるからわざわざ10inchターンテーブルなんて変わり種を使わなくっても良い。「コンパクトで愛らしいプレーヤーで楽しくレコードを聴きたい」「面倒臭いのはいらない」という人にはぴったりだ。(私もときどきこういうヒトになります)
 機構はTD 124と変わりないので廉価版といっても利益は薄かった製品だと思う。ベルト、アイドラードライブという傑出したメカニズムは魅力的だし洗練されている。LPレコードを10枚ほど聴いてみたが快調。信号ノイズ、メカニカルノイズは極小でワウも感じられない。デテイルを聴き分けるような試聴ではないし、、と言いながらもS/Nが良好で見通しがよろしいしオートストップも実用的です。(回転切り替えを”0”に戻し忘れないようにしなくては。。)小型だが質感の高い製品で性能にも不満はありません。スイスの精密機器メーカーが本気で作った大衆機はやっぱり流石でした。


 TD 184

 兄弟機のTD184は大きさはTD134と同じだがカタログでは「セミオート機能」を追加したもの。特徴的な外観で昔の洋画で見た公衆電話のダイヤルみたいなのがついてる。

 マニュアルには調整方法が詳しく書いてあってありがたい。入手してからメンテしていなかったので調整の前にまず分解して掃除、注油を先に行う。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートの再放送を見ながら少しずつ行った。
 TD143はTD124とほぼ一緒のメカニズムだがTD184はアームのコントロールが加わるので結構複雑。正直よくわからないところもあるのでとにかく慎重に分解掃除を進める。モーターの分解は行わずで3時間程度行った。TD124と同じく電源は50Hzと60Hz両方に、電圧も3段階に対応している。全体の程度はとても良好で手荒に扱われた様子はない。



 

 

 



 純正と思われる付属の木製キャビネット
 
 カッコ良ろしい角のRはこんな風に作っている。。かなり手抜きのキャビネットは$6でやっぱり6000円くらいか。

 操作方法はレコードを載せて回転数を選んでレコードの大きさによって7" 10" 12"どれかの穴に指を入れてダイヤル電話のように止まるところまで動かすとすでにリフトアップ状態だったアームがレコードの最外周のリード部分に水平移動する。同時にターンテーブルは回転を始める。そして指をダイヤルから離すとエアダンプ機能でゆっくりとアームが降りて演奏が始まる。レコードの最内周まで来るとアームはリフトアップし回転は止まる。ただしアクションはここまででアームをホームポジションに戻すのは手動となるので「セミオート」だそう。途中で終了するときは「stop」、また「manual」にするとオートストップがキャンセルされるのはTD143と同じ。

 マニュアルによる調整ポイントはリフトアップ時のアームの高さ、オート時のアームの降りる位置、針圧、アームが降りるスピード(エアブレーキの調整)など。モータープーリーの2ヶ所の固定ネジの締める順番の指示があるのは知らなかった。
 実際に操作すると結構面白い動きでさすがにスイスのオルゴールメーカー、、と言った風情。決まった時はちょっと嬉しいし、なかなかチャーミングなギミックだと思う。かつての日本製品でも高級プレーヤー以外は大抵はオート機能がついていたが1(ワン)モーターでメカニズムの伝達を工夫してすべて賄ったのは少なかったのではないだろうか?モーターを複数使えばなんて事ない動きだと思うが(コンピューターはなかったからそれなりに大変か)
 この傾向はTD224で頂点に達する。
 カートリッジはクリスタルと思われるのが付属していたが残念ながら十分には働かなかったのでM3Dを取り付けてあるシェルと交換して試聴した。速度調節ダイヤルを最速位置にしないと定速にならないのでやっぱりモーターのメンテナンスは必要な様子。トレース能が低く内周で針飛びを起こす。これは要対策。


 年末年始の休暇で帰省した。初めての長期滞在(?)帰省。帰りの東京駅で毎度のお気に入り駅弁、深川めし

 九州在住2輪ライダーのRさんもお気に入りらしい。お互い年取るとこういう渋々好みになるみたい。。今回食べて「おっ」と思ったのは夏食べた時と比べて薄味に感じたこと。ちょっと塩っぱいかな、、といつも思っていたのでこれは良かった。やはり「日もち」ならぬ「時間もち」を考えて気温差で味付けを変えていると考えると合理的な説明になる。ホントにそうなのかは自信がないがその前にホントに薄味か??。単に気のせいだったかもしれない気がしてきた。

 モーターのメンテで分解

 上部はラジアルのメタルのみ、下部は軸にボールがあり可動式のラジアルメタルが非分解のケースに収まる。残っているオイルを拭き取ってからWAKO Ti-103MKⅡを注油した。上下ケースは金属板打ち抜きなので精度は出にくい。また位置極めのピンとホールなどもないので4ヶ所のネジの締め方で軸とメタルの位置関係は容易に変わる。この辺りが匠の出番だと思うが、工業製品と考えた場合この精度の無さはボトムのメタルが可動式というあたりで吸収されるということだと思う。
 実際に稼働させると(TD124で)定速が出ない、気温の低い季節では立ち上がりに時間がかかる、などはよく聞く話。通常は100V〜120Vのポジションで使うことが多いと思うが100Vではなく120Vかけてみたり200V〜250Vポジションで250Vかけてみたらどうだろうか?メーカー指定の電圧なのだから著しく寿命を減らすとも思われない。電圧の違いによる音の差は当然ながらかなりあると感じる。今回は100Vで大丈夫そう。

 モータープーリーをモーター軸に固定する時はマニュアルによれば
 最初に黒いネジを締める。ついでニッケルメッキネジを締める。
 
 ドライバーは右側から。。

 エアーブレーキのピストンはゴム製でちょっと心もとない。とりあえずシリンダー内にはグリスを多めに塗った。クレデンザやデコラの扉を思い出します。内周部の音飛びはセンサーがアームの動きを邪魔しているようにも見えない。アームの位置を少し上げてみると解決した。



  Thorens TD184は私の尊敬する方が常用されていて10年以上前にプレゼントされた晩年のローラボベスコ日本公演のCDRは愛聴盤になっています。素晴らしい演奏と音で簡素なレコードプレーヤーでも使いこなし何如と感じた。デリケートな使いこなしがアナログ再生のアマチュアとしての面白さなのかもしれない。一方で物量を投入したアナログ製品には逆立ちしても出てこない音があるのも事実。その日の気候に影響を受けるようでは業務機としては成り立たないわけで変な例えだがEMTのレコードプレーヤーはCDプレーヤーのようだ、、と感じることさえあるくらいいつでも同じ音がする(ことが多い気がする)。EMT927とThorens TD184を比べるのはメジャーリーグとリトルリーグを比べるようなものでナンセンス(陳腐な例えで書いていて恥ずかしい)。元々の性能をきちんと引き出すことがキカイと設計製造した方への礼儀かと思っています。


  お読みいただきありがとうございました。


 後日談 1
 アームがレコードの最内周に来た時、または途中で演奏をカットした時のノイズが「バリッ」とすごい音。これは困る。。

 内部のモーターON OFFスイッチは見事なフリップフロップで名前を具現化した最たるもの。ここのコンデンサーをとりえずテキトーなものと交換してみた。

 しかし全く効果がない。ノイズキラーを検索するとコンデンサー+抵抗器ということになっているので○ノタロウから届いたのと交換した

 ところが相変わらず盛大な「バリッ」が続く。これはどうしたものか。。