「Marantz Model 9」は通常のタイプ($384)の他に「Model 9R」ラックマウント($414)が知られているがそれとは別に派生機種が存在します。まず「Model 970」と「Model 970R」は70.7Vの電送タイプでこれは完全に業務用で出力トランスも異なったもの。もう一つは「Model 9120」でインターネット情報ではある国家企業からの特注品で21台制作されたとのことで基本性能の優秀さを物語ります。ラックタイプは通常タイプのパネルがラックハンドル分左右に延長されただけ、かと思っていましたがどうやら細かな意匠が異なるようです。一時は少し不人気のこのタイプを入手して業者にハンドル部分をカットしてもらおう(!)などと考えていた事もあったので早まらなくって良かった。パネル以外でもシャーシ上に回路保護用のヒューズボックスが2個、それに伴い3結切り替えスイッチの廃止、内部には半固定抵抗器の設置、スピーカー端子が異なるなどシリアルNo以外でも9Rとの識別は容易です。
1960年の$384とはどの程度の価値か?$384 X 360 = 138.240円 1960年当時の大卒初任給の平均は13.100円との事なので2台で21ヶ月分になり現在の貨幣価値で400万円程度だったか。
この機種は結構流通していますが出力トランスの違いによる音質の違いはわかりません。機会があれば聴き比べてみたいですが個人的な好みとしてはラックマウントはその範疇にありません。「Marantz Model 9」はあのカタチ以外考えられない。
通常のModel 9のシリアルNoは1000から始まっていて3000台程度つくられたらしいが(未確認)私が関わったMarantz Model 9は3000台の内の3セット6台です。すでに4台はお嫁に行きました。
「Marantz Model 9」のメインテナンス その1
シリアルNo1500番台です。
外観は良好、動作も安定している。裏をはぐってみるとカップリングコンデンサー類は綺麗に交換されている。基板の4本が0.1μF 600Vでオリジナルは多分GoodAllかと思いますがこの緑色のコンデンサの銘柄は何というのだろう?固定バイアスの電解コンデンサーも黄色いspragueに交換されています。
V8用のカソード抵抗(24Ω)が22ΩのA&Bに変更されている。A&Bは誤差が高抵抗となっていることが多いのでこれでちょうどよかったのかもしれない。2本のA&B24Ωを実測すると26.6Ωだったので10%程度は普通に異なる値。ロータリースイッチで切り替えてV5〜V8の抵抗器の両端の電圧を測定してメーター表示しています。V8の抵抗が交換されているということは過去に損焼したのでしょう。せめて1%の誤差の抵抗器を使いたいところ。真空管試験機で一応チェックしたEL34を4本差し込んでみると問題なくバイアス調整ができますので正常動作しているようです。入力とスピーカーを接続して音出しするとガリオームが結構ありです。ハイパワーアンプなのでこれは危険。何とかしなくてはいけない。
「Marantz Model 9」のメインテナンス その2
シリアルNo2900番台です。
外観は良好だが117Vを接続したらカソード電流のメーター表示が乱れていてそのうち煙発生(!)大慌てでスイッチ切って見ると
なぜかこちらもV8のカソード抵抗が焼けている。(導通はまだありました)電圧を下げてバイアスを測定すると一応かかっている。固定バイアスも問題なさそう。さて??
ところがメーター表示しながらカップリングコンデンサーを弾くとメーターが振れる。どうやら要交換のようです。現在はV5〜V7がsprague160P、V8がGoodAll。その他でも160Pが多用されている。(でも4本は統一して欲しかった)1本ずつ外してメグオームメーターで測定してみましょう。
手持ちのメグオームメーターは最大500Vまで電圧をかけて抵抗値を測定できる。しかしV5〜V8まで4本とも特に問題ない値。再度(形を整えて)接続して通電してみると(振動を加えると)やはり安定しない。メーターが動く。
そのうち些細な振動でもメーターが触れることに気づいた。ためしに入力信号入れてみるとバリバリ状態。。怖くなってジャンクのスピーカーに取り替える。コンデンサーをドライバーの柄で叩いてみると
明らかにバリバリいうコンデンサーがあります。メーターもびんびん振れる。静的な測定では問題なくてもやはり不良になっているのがありそうです。交換してみよう。。バリバリ、びんびん、、相変わらず素人メンテ丸出しだ。
部品が届くまで一応回路のお勉強をしておきます。
入力は1/2 6DJ8ですがとても変わっている。200kΩのボリュームで受けた入力信号は切替SWでアクティブローカットフィルターを通る。そして出力には位相切替。はじめて見た回路です。なるほど。。この段のB電源にはツェナーダイオード(150V)が入る。ノイズは発生しないのだろうか?
1/2 6DJ8の初段を通り6DJ8を用いたカソード結合型位相変換へ。ここで注目はカソードとグリッドを結ぶネオン球でスイッチを入れた直後に光りますがしばらくすると(真空管が動作状態になると)消える。どうやら直結回路を保護するための安定動作するまでの時間稼ぎらしい。
Marantzのアンプは位相変換はすべてカソード結合型になっている。その後カソードフォロアーでEL34をドライブするが途中には位相補正が入り、極めつけはクロスオーバーNFとなかなかの手強さ。すべて意味がある(当たり前だ!)。もっと勉強が必要。。上下EL34の1本のプレートにはコイルが入っている。出力トランスの2次側にはダンピングファクターをコントロールする回路が相変わらず入っているがやはり回路を切って抵抗器を挿入する方法。オーバーオールのNFBは位相切替後の6DJ8に。特にクロスオーバーNFについてはとても効果的だったらしくシドニー・スミスは「Model 8」の改良バージョンである「Model 8B」を世に送り出す事となる。なぜ「Model 10」にしなかったかはいろんな大人の事情があったのかもしれない。「Model 8」発売からそんなに期間が経ってなかったわけなのでオーナーは悔しかったと思うが出力トランスが異なっているので安価に、簡単には改造できない。(でもバージョンアップサービスはあったのだろうか?)とにかく黄金期のMarantzのアンプはこれで終焉を迎えます。
コンデンサーが届きました。オリジナルがGoodAllだと思われるので直系と言われるTRWを注文した。
0.1μF600Vを両者改めて比べてみると、形はほぼ同じ。突起の位置、製造時の型による窪みも一緒。中身も同じかもしれない。
振動を与えるとバリバリ言ってた初段の0.1μF200Vsprague160P
外してメグオームメーターで測ってみると問題ない値。測定しながら振動させても変化なし、、。これはいったいどういうことか?あらためて仮接続してみると
こんどは問題なく稼働する。。その他のコンデンサーを叩いても以前のトラブルを再現できない。。
でこのまま何も変えずにまた組んで鳴らしてみます。やっぱり問題は出ていない。ハンダ付けは丁寧で接触不良は考えにくい。なぜトラブったかはわからず。取り外し時に加熱したことでコンデンサーが一時的に回復したのかもしれない、など考えるしかないがであればいずれまた再発すると考えます。こんな時やはりメーターで監視できるのはありがたい。
ところであらためてseirvice manualの写真をみると不鮮明ながらどうも使われているコンデンサーはsprague160PとGoodAll両者のよう。これは今回初段のコンデンサーを取り外す時も感じたことで今までメンテの手が入った形跡が無い。一番不自然なのはV8のカップリングコンだけGoodAllでV5〜V7が160Pという不揃いさだったわけだが、どうもこの写真でもそうなっている!これはいったいどうなっているのか、、。不思議です。
「その2」はほとんどオリジナルで今まで部品交換されていなかった可能性が高い。
しばらくぶりに聴き込んでみましたがやはり只者でない片鱗が伺える。「WE86A」は美音だと思ったが今の接続では(コンピューターの出力直結)エネルギー感は優っている。周波数帯域全般の均一性やスピード感が感じられ隅までコントロールされているという印象。細かい音が拾われていてさらけ出される。これでモニターしたらさぞかしよくわかる、、という感じ。一方でスピーカーの個性の違いは薄れ「Model 9」色に塗りつぶされてしまったように感じられるかもしれない。Marantzのアンプはよく「F1」などに例えられるがこのアンプが発表された1960年当時に想いを馳せるとさぞかし驚愕のアンプだったのでしょう。組み合わせるプリアンプは「Model 7C」以外には考えられない。
「Marantz 9」のメンテナンスは基本的な動作をさせる事は私のような素人でもできますが、位相補正など最適な動作点を見つけて長期間安定的に稼働させたり、組み合わせるスピーカーに合わせてDFを変更させるなどはやはり専門の方に調整をお願いした方が良いように思います。数回しかお目にかかったことはありませんが隣町にお住いのご高名な「K先生」の書かれた文章(論文)を読んでその感を強くしました。しかし素人なりの学習する姿勢は持ち続けたいと思っています。
Marantzのアンプの美しさについては「Model 7」を中心にしてよく語られますが「Model 9」の形状はその後のパネル付きアンプとして亜流が多かったせいか私としては意識をしたことは少なかった。あらためて接してみてやはりそのデザインには感心しました。どの方向から見ても絵になる。シャンパンゴールドのパネルとパンチングメタル、シャーシのブラウン色とのマッチングも申し分ない。大きさも適度で外観の隅々まで目が行き届いた渾身の力作だと思います。「K先生」は「Model 9」を「ソリッド・フィギアー」と仰っておられたがピッタリの表現かと。「Model 7C」と「Model 9」2台を並べておくことは半世紀以上経った現在でも「いつかはクラウン」の名コピーのようなオーディオ趣味の王道なのは変わらない。楽しく音楽に浸れると思います。
お読みいただきありがとうございました。