Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

JBL SE400の修理

2016-04-24 20:04:54 | JBL

 高級スピーカーメーカーJBLはかつてはアンプも作っていた。JBLスピーカーはデザインが秀逸で美しいがアンプも同様できっちりデザインされています。
 最初のアンプが発表されたのは1963年頃で当時は真空管アンプがほとんどの時代、JBLはソリッドステート(トランジスター)を採用した世界最初のメーカーの一社でまた数年後にはTサーキットと呼ばれる現在のアンプにつながる画期的な回路を発表した先進の会社です。
 アンプは数年間作られてその後は撤退したが数種類あるアンプの最初に発表されたのがJBL SE401というメインアンプでした。
 JBLのメインアンプはスピーカーに組み込まれた状態で使用する形態を取っていて名称もエナジャイザーと呼ばれ、スピーカーに適したイコライザー基板を搭載することで音色を作っていた。スピーカーに組み込むため露出する所のみのデザインだったが単体で動作させることを目的にした製品はケースに組み込まれています。
 今回のJBL SE400は SE400S(ケースに組み込まれてTサーキット、シリコントランジスター採用)と同様のケースに組み込まれたアンプでゲルマニウムトランジスターを搭載しています。内容はJBL SE401,402(この2種類の差は不明)と同様でとても珍しい。大体型番が「400」で一番若い番号でこれは既に「歴史的な」という文言が付いてるJBLアンプの「最初のアンプ」だった可能性が大。
 デザイナーは(多分)パラゴンやJBL SG520で有名なアーノルド・ウォルフでこの古いアンプの最大の魅力となっています。




 出力回路はSEPPですがTrがパラにそれも同種類のものが上下にあります。SEPPはPNPとNPNの組み合わせで構成されるはずですが、、
 同種Trでも位相反転で工夫すれば可能というわけでこの位相反転にはなんとトランスが使用されています。さすがにソリッドステート黎明期のアンプで初めて見た回路です。同様な回路を探してみると、、1972年発行の初歩のラジオ別冊 初歩のステレオ製作技術 にキットの解説として載っていました。「トスカ」「日本サウンド」のプリメインアンプでも採用されています。なおこの2社のアンプは出力にも電解コンデンサーアリでやっぱり時代を感じます。他の記事を見ると準コン、純コンまでありアンプの序列がはっきりしていて「いつかはクラウン」などという名コピーを思い出すような熱気あふれる夢多き世界。今は「日本サウンド」だけど一生懸命貯金していつかは「ラックスキット」を買うぞ~。なんて、、。
 ちなみに「JBLのアンプ」なんてのは雲の上の存在で(価格も桁違いだし)現物も見たことがないわけで。雑誌の写真を見て故瀬川冬樹さんの試聴記事を読んでオーディオ少年たちは妄想に耽ってました。(と思います。何せリアルタイムではないので)

 さて入手した個体ですが、、バリバリのジャンクで動作しない。




 両サイドの黒色カバーの中には


 一方は電源トランスと整流ダイオード、トランスの下には回路ヒューズが4本、電源AC関係。ヒューズホルダーの蓋が無い!のでとりあえず手持ちの似たのと付け替えた。



 もう一方は整流用電解コンデンサー(2000μF)2本とその下にインターステージトランス(さすがは世界初のトランジスターアンプ、真空管アンプでもインターステージトランスは超古典)

 今日はパネル磨き頑張りました。中身はどーでもいいです。嘘です。

 メイン基板の裏、結構傷んでいる。

 出力トランジスター群

 回路ヒューズは電源トランスの下にあります。実は裏パネルのシリアルNo部分の樹脂板が溶けてるのが不思議でしたがどうもこのヒューズの過熱が原因のようです。構造ははっきりしませんが切れるとランプが点灯するのではないかと思われます。一番端のヒューズが切れたのか直結(!)状態だった。

 このランプ付きヒューズは検索したのですが発見できず。普通のスローブローと入れ替え。

 出力トランジスターは2個破損していました。しかし4個はオリジナルのようだが2個は適当なものが付いている様子。パラ接続を1個にしてみる。

 これでインターステージトランスに信号を入れてみると両ch出力されます。しかしドライブ基盤は1枚は損傷している様子。片方だけでも動作してくれれば比較して不具合部分が見当がつくのでありがたい。

 こんな状況で土曜の夜を楽しみました。Beatlesをモニターしながら。
 基板上の電解コンデンサーは全滅の模様です。(電圧を上げるとダウンする)Trとともに手配しなくては。。
 とりあえず手持ちの近似値のphilipsの電解コンデンサーと交換した出力段の基板。やっぱり舶来の(死語)コンデンサーは美しい。。

 ドライブ基板と出力段基板を左右混ぜて接続して出力にDCが出てないことを確認してしばらく聴いていました。
 。。いいかもしれない。。ゲルマニウムマジックか?

 出力段の基板は修復できたのですが(出力Trを差してみて両ch動作した)ドライブ基盤は両chとも不動になってしまいました。途中までは一方は動いてたのですが、、。
 Trをまた壊した可能性が高いと思いますので基板からはずしてチェックが必要。でも周辺のパーツ(主に電解コンデンサー)は不良と思われますのでまずここから交換していきます。
 チューブラー型の電解コンデンサーが欲しかったのですがとりあえず回路図からリストアップして隣町のパーツ屋さんまで買いに行きました。このお店は電設関係と同居して広い売り場です。こちらは地方都市ですがバイクパーツの大型店やアマチュアレストアラー御用達の店などがありとても恵まれています。
 JBL SE400に使われているTrはたった3種類(!)なのです。
 2N508
 2N1304
 2N2147
 ドライブ基板にこの3種が1個ずつ使われています。すべてゲルマニウムトランジスターですがなんと2N1304はNPN型なのです。ちょっとびっくり。
 日本製のTrは2SA、2SBがPNP型、2SC、2SDがNPN型だと思います。ゲルマニウムトランジスターは初期のTrで大抵はPNP型でした。2SAは高周波用、2SBは低周波用。当時のTrは高価で貴重でしたし熱に弱かったので半田付けには気を使いました。
 さてTrは見た目では正常、異常の区別はつかず、電気的なチェックをしなくてはいけません。Trの記号は

 NPNとPNPはこのようにエミッタの矢印の向きが異なります。トランジスターはダイオードという半導体を2個組み合わせた構造をしています。ダイオードは真空管の2極管という意味で電流が一方向しか流れない性質があります(半導体の由来)。方向は矢印で示されます。

 トランジスターをダイオードで表すとこうなります。矢印方向しか電流が流れない、Tr記号の矢印と比較すると分かりやすい(忘れにくい)。この模式図を見るとテスターを当てた時の電流が流れる方向が理解できます。正常なTrであれば、、例えばコレクタとエミッタはどうやっても電流は流れない。コレクタとベース、エミッタとベースは一方向のみ電流が流れます。
 もう一つ、3本足のどれがどの電極か、、はデータシートを見るしかありません。2N2147のようなパワーTrは本体がコレクタなのでヒートシンクに取り付けるときに絶縁しなくてはならないことがあります。
 簡易チェックはアナログテスターを当てることが多いのですが直流抵抗の低いレンジにして行います。注意するのはテスター棒の黒にプラスの電圧が来ています。このレンジで手持ちのアナログテスターをデジタルテスターで測ってみると3V台でした。
 さてこの個体ですが、ドライブ段基板のTrを外さずにチェックしてみるとあれれ、、どれも正常、、。なぜ動かない??

 2016年のGWに北海道に行ってきました。結構な強行軍だったのですがメインイベントの一つは旭山動物園の動物達に会いに行くこと。
 大混雑を覚悟していたのですが早朝から出かけたおかげでスムーズに廻れました。評判のアザラシチューブ(勝手に命名)や大迫力のシロクマの泳ぎ(というか遊び)もしっかり観れて良かったです。動物達に対する愛に溢れてました。また行きたいと思います。

 人間以外の動物の写ってない写真(右上のペンギン2羽は多分オブジェ)


 旅行中もいろいろとJBL SE400のことを考えてたことを帰って早速実行してみる。その結果、、
  ドライブ基板のNFB回路の電解コンデンサーは破損していた。
  片chの初段は2N508から2N404に変わっています。hfe値が大きく異なりますので要交換です。虎の子のGE製ブラックヘッド2N508と交換(両chとも揃いました)
 ドライブ基板の電解コンデンサーは入力部を除いてすべて交換しました。
 同世代のJBLスピーカー L75メヌエット をつないで試聴。

 よく言えば素直でおとなしい。悪く言えば平面的で抑揚に欠ける。でも修復が完了しないと最終的な評価はできない。
 入力の電解コンデンサーを交換すると、、かなり変化あり。信号の通過する部分なので当たり前。音質向上のためにはさらなる吟味が必要だがここは歴史的なアンプということを尊重して電解コンデンサーのままで。
 しかしハムが大きい。ドライブ基板を外すと消えますのでこの段が原因。電源のコンデンサーはそのままなのでパラに高容量のコンデンサーを繋いでも変わらず。

 そのうちインターステージのDCカットコンデンサーの両端の電位が異常に高い(交換した電解コンデンサーが耐圧オーバーでパンクした)ことに気がつき、基板からの配線が1本はずれていることが判明してノイズの原因がようやく解りました。
 今回交換したパーツです。

 注文したパワートランジスターがまだ届いていませんが、左右交換して稼働することを確認して店じまいします。


 トランジスターが届くのは10日後の予定。ドライブ段の2N2147もダメだろうと思って余分に注文してます。高いTrだったのでちょっともったいなかった。
 入手した回路図はJBL SE401の1964年バージョンです。SE400は全く同じ回路かと思っていましたが抵抗値や回路がわずかに異なります。またNPNTrも実機は2N1308(回路図では2N1304)。機種によって異なるのか変更があったのかは不明。
 ノーハムはソリッドステートアンプでは当たり前ですがやはりありがたい。
 測定もしていないですが各部正常動作の様子なので割愛。
 音質はなかなかの安定度です。あまり細かいことは知らんぷりな世界。これはこれでいいのでは、、。初期の半導体アンプのとげとげしさは全く感じません。(もともとそうではなかったかもしれない。初期のデジタル録音盤、初期のCDの音とごちゃ混ぜかも)


 やっぱり美しいアンプです。ケースの色は鶯色でJBL SE400Sの後期は茶色になるのですが、個人的には鶯色の方が好きです。不思議なことにMarantzのシャーシも初期から後期への同じ色の変遷があります。Marantzに対するリスペクトと考えると楽しい(多分違うと思うけど)。
 欠品だった足は小さなゴム足探して取り付けました。ウッドケースに入れては台無し。
 パネルの透明アクリルの窓から見えるのはイコライザー基板で差し込む向きでフラットアンプとの切り替えができるようになっています。
 QUADのソリッドステートアンプもそうですが当時はこの大きさで(小ささで)出力40W+40Wという大出力(!)でちょっとびっくりさせてやろう、、という意図を感じます。
 「トランジスタ」という文言は当時は「小さくて優れている」ということの代名詞になっていて日本でも「トランジスタグラマー」や「トランジスタスイカ」なんてのもありました。
 凝縮された構造、デザインはメンテナンスや生産性、製品の長期安定性には問題はあったと思いますが、この小さなアンプが1950年代は重厚長大の大好きだったアメリカで開発されたわけで、同時代のL75メヌエットも超小型スピーカーですしBeatlesのアメリカ上陸などがあった時代の流れに敏感な企業の作品だな、、と勝手に妄想。
 最先端技術は時間とともに廃れていく運命だけれどこのデザインの美しさはMarantzの#10までの機器と同様に後世まで残っていくと信じてます。

 お読みいただきありがとうございました。

 後日談 その1
 予定より早く今日2N2147が届きました。片ch4個早速取り付けて、4階建の基板を固定するスペーサーも切ったりして寸法合わせして取り付ける。

 左右chの音量、音質差は感じられない。JBL SE400の入力ボリュームを少し絞ったほうがJBL SG520のボリューム調整がしやすい。エックミラーのスライドボリュームの左右偏差も目立たなくなります。
 JBL SG520との相性も良いと思う。(ただし他は繋いでないけど、、)
 初めてSTEREOで聴いての印象は片chでの印象とやはり同じで、「穏やかな」「聞きやすい」音で刺激的な要素が少なく一般にイメージされる「真空管の音」に近い。これは意識的に音造りした可能性が高く今までの真空管アンプのユーザーに受け入れてもらうため(真空管アンプはスピーカーボックスに組み込むのは困難)採った策かと思います。
 かといって情報量が少ないボケた音とも異なりちょっと不思議な感じがします。この音を好まれる方も多いのではないでしょうか?JBL SG520もキーデバイスはゲルマニウム製でやはりここがポイントのような気がします。JBL SE400Sはオールシリコントランジスターでまた違う世界か。
 スピーカーにアンプを組み込む(いわゆるパワードスピーカー)はプロユースではよくありますがコンシューマーユースにも持ち込もうとした理由は、、スマートでスタイリッシュなシステムを目指していたJBLにとっては「メインアンプ」は裏方で邪魔な存在だったのでしょう。
 古い雑誌を見てもJBL SE401などの試聴記事はほとんど見当たりません。JBL SE400Sが偉大すぎて今となっては取り上げる必要もない存在なのかもしれない。JBL SE400に至っては存在した記述を見つけること自体困難な状況です。オールゲルマニウムトランジスターアンプという古典ですが現在でも素子が入手できることに感謝しています。