「研究」とは随分と大仰なタイトル。。もとよりそんな能力は無いのですがお許しください。
縁あってWestern Electric社のWE124BとWE124Fを手に入れました。エンブレムがBとFなのですが内容は両方ともWE124Bでいわゆる電話リピーター。
WE124はWE124AからWE124Jまで(欠番あり)細かく仕様が分かれています。1940年に専用管として開発されたWE350Bを搭載して登場し、WEとして1949年までまで大量に製作された後にも構造変更されて製作され続けた。
1950年以降は電源トランスとチョークコイルがトライアッド製となりKSナンバーとなっているしチョークコイルがシャーシ上に出ているのですぐに区別できる。
またそれらは124Bが特に多いとのこと。主力機としての役目は1947年に発表された142に代わったようで電話リピーターの124Bも1950年代終わりにKS-16608_L1に引き続がれる。
今回入手したWE124Bは1950年代の新しいタイプで、シャーシの耳(ラックマウントするところ)も立体的になったりで形状も異なります。
ウチに来て間もないので未整備です。
基本回路はいずれの機種も同一です。
前段で位相反転してそのままプッシュプル増幅。
位相反転は古典的な回路で「オートバランス」回路。
V1とV2は出力インピーダンス、周波数特性は一致しない。上が無帰還の増幅回路に対し、下は単段NFB増幅回路となっているため。
NFBは終段のプレート各々から初段に帰っている。NFB抵抗も初段カソードへは500KΩ、スクリーングリッドへは100KΩ。
原理は全くわからない。「研究」にならない。こまったなぁ。。
電源回路は整流後にC4(4μFオイルコン)からチョークコイル。総電流は99mA。
その後はC2(60μF)とC3(50μF)が直列につながっていてR15.2(6500Ω)とR15.1(13000Ω)+ R10.2(3500Ω)で130Vと254Vに分圧されている。
B電圧は2段階で出力12Wと20Wを選択できる。6L6を搭載した場合は低圧になる。
この直列コンデンサーの接点から前段プレート抵抗へ250V、直列抵抗器の接点から前段スクリーングリッドに52V電圧供給される。スクリーン電流は0.25mAだが3500Ωのブリーダー抵抗で16mAもの電流を流して安定させている。
終段のカソード抵抗250Ωは共通で19Vの電圧降下で80mA。スクリーングリッド電圧は254V、電流は1.4mA共通。
出力トランスの結線で1~1200Ωインピーダンス(6段階)に対応する。
WE124Bは電話リピーターですので入力:出力が600Ω:600Ω。
しかしマニュアルによるとWE124Bでも必要に応じて仕様変更ができる。
リピーティングコイル170Bは600:600 周波数帯域30~10000Hz そのあとに285L 600:75000Ω 周波数帯域30~10000Hz そのあとに250KΩのポテンショメーターが入ります。
各接続に共通しているのはゲインコントロールが2db毎に38dbできること。
ゲインが66.6db、60.6db、45.4db、39.6db。そして最大入力電圧が図の上3つが2.4V、38.5V(この場合は170Bは使わない)、10Vとなっている。
リーピーティングコイルの本来の役目が分からないが170Bと抵抗器の接続で入力信号をコントロールしている様子。したがってオーディオ信号の場合はやはりこれらは必要無いのではないかと思います。
しかしWEのトランス類に信号を通すだけで魅力的な音に変身するという方も多いので試してみる価値はあるかもしれない。
基本仕様と思われるWE124Aは入力は2次側を100KΩで結んだWE618Cがあって1次側の抵抗で入力インピーダンスを2段階に設定している。
随分とすっきりしています。
今まで見たWE124は入力トランスを省いたものも多かった。トランスがなくてもオーディオ用途ではゲインは足りています。
今回入手したWE124Bは285L2次側にあるポテンショメーターに直接入力がありました。またトランス1次側にもキャノンコネクターが接続されており600Ω入力にも対応した仕様にしていたようです。
1950年以降に製造されたWE124BとWE124Fです。
トライアッド製のチョークと電源トランスがシャーシの上に並びます。
オリジナルのレーシングは残っていますがご覧のようにWE特有の(?)神々しさ、オーラはすでに感じられない。
入力は250KΩのポテンショメーターの両端がRCAコネクターへこれは正規の入力ではありません。285L input tranceの600Ωが端子盤11と12からキャノンコネクターオスへ の2箇所となっています。
業務機の入出力は後加工が必要な事が多いのですがやはり安定して使用する場合にはしっかりしたコネクターがほしい。しかし本体の改造は最小限にしたいし形状にも気を使いたい。
通常のRCA端子はシャーシから飛び出すのでどうも好きになれません。前置ユニット部に穴あけをすることが多いのです。
というわけで本体の改造(!)かかります。
ここにRCAのコネクターを設置します。メクラ板をドライバーなどを使って叩き出します。
ネジ穴2個開けて
ノイトリックのコネクターが付きました。実はこの先キャノンコネクターと共にもう一工夫いります。
L型のRCAピンプラグとキャノンコネクターです。なぜなら、、
ラックケースにアンプを収めるとサイドからのプラグ類は通常の形態では使えません。Marantz#9でもパネルカバーを付けたままでRCAプラグを使えるので便利だと思います(持ってませんが)。
どうも片CHからハムがでるな~と思って入力をいろいろとチェックしていましたが分かりません。
ふと思い立って350Bをチェックしてみるとなんと1本死んでました。Ipが全く流れない。WE171Cが壊れなくてよかった。。こんなんでも音出るんですね。
手持ちすべて(といっても6本)測定して改めてペア取り。もちろんハムも消えました。
お亡くなりの350Bもなんとか復活できないか。
WE350Bのピン配置図です。ヒーターは点灯するが電流が全く流れないことからカソードとプレートのピンを加熱してハンダを流してみた。。
やっぱりダメです。これ以降は袴を外さないと判らない。
WE350Bについて認識していることは、、
1940年にWE124用に開発、供給されはじめたWE350Bは6L6族のビーム電極管ですが高耐圧でヒーター電力も大きい。
WEのアンプでも6L6を使用したWE118Aはヒーター電力の関係でWE350Bは使えないことになっています。WE124以降のアンプでは電源トランスの接続で両者が使え、シャーシの印記でもそう書かれています。
WE350Bは高音質なtubeとしてシングル、プッシュプル両方で人気が高くレプリカ球も多く出ています。6L6GCなどの使い回しが多いようです。
ヒーター線はセラミックスリーブに入っておりトップのオムスビマイカの中心で極控えめに光ります。傍熱管でこの構造からヒートアップする時間は大変長く(数分間)真空管アンプの世界を満喫できる(?)真空管です。
使い古してくるとゲッターが小さくなるのと同時にこのセラミックスリーブが成長して伸びてくる(らしい)。
他のWE管と同様に高値ですがここで問題になるのは本物かどうかということです。WE274Aと5Z3,WE274Bと5U4もそうですがガラスの印記が無いので袴のプリントを「Western Electric」に変えて、または袴を履き替えて市場に出ているのが多い、、という話をよく耳にします。
複雑な構造のビーム電極管ですのでなかなかデッドコピーは難しい(できない)と思いますが、NU(ナショナルユニオン)のNU350Bはほとんど構造が一緒。WE350BそのものがNUから供給されていたのではないかとか、もともと同じなのではないかとか、、。という記述を目にしました。
お詳しい方、ぜひ教えて下さい。
ゲッターの形状が違うという記述も見つけましたが自分の持ち物では未確認。手もちの3本を比較してみます。
真ん中はガラスが割れています。製造時期は異なります。一見して気付くのはロゴが異なるのと丈が違うこと。真ん中が数ミリ長い。
ヘッド部分のオムスビマイカは違いは判りません。そのオムスビを固定するマイカですが、、
形状が異なります。真ん中は樽型、横2つは長方形。他の350Bを見てみたらすべて樽型でした。WE274Bは(刻印で多分本物)は長方形型。
ゲッターは真ん中がリングで横2つが長方形です。
この3本では2グループに分かれたわけですが長く製造されたものなのでWE製なのか非WE製なのかはやっぱりわかりません。
WE製という確信がないものばかりなので比較していてもすこし虚しいですね。
webで探してみると、、米国でまとまった数発見されたUSN-CW-350B。codeは249で1952年の49週目の製造。ゲッターは長方形で「Dゲッター」マイカは長方形。
ところでUSNはアメリカ海軍としても「CW」は何なんでしょうか?鮮やかな黄色です。後のミニチュアMT管でもwestern electricの黄色の文字は鮮やかで美しかった。
この文字を見ると何故か心浮き立つような、、病気でしょうか??
くすんで擦れたような文字はニセモノ??
Western Electricと書いてある袴の350Bは信用できなくても(!)NU350Bの袴のtubeはNU(ナショナルユニオン)製なのは確実です。
またwebからの情報で「オムスビマイカを固定しているマイカの形状」「(ガラスの)ステムの上部が平らに成形しているのがWE製」というのがありました。
この写真からは、、オムスビマイカの固定マイカは長方形。 ステムは、、よくわかりませんが平らに成形しているように見えます。WE製はもっと平らなのでしょうか?
WE124に実装されている350Bです。
1962年、1968年、1969年製です。この60年代4本の電極構造はほぼ同一です。ロゴは年代毎に少々異なりますが記述内容は一緒です。
割れたり、不動作品も総出演です。1950年、1952年,1978年が加わります。
構造上の違いは
ゲッターが1978年製がリング、他はDゲッター。
マイカの形状は1950年、1952年が長方形、他は樽型
ステム上部の構造は1952年製が細く成形、他は幅広に成形
WE350Bはいつまで製造されていたのでしょう?見つけることはできませんでしたがWE300Bは1981年で生産終了。特別注文で1988年、そして再製造で1995年~(97年?)でした。
1980年の「無線と実験」の広告を見るとWE350Bは8000円で売ってますので少なくとも新品で入荷していた。また同時期のWE300Bの価格は34000円でやはりずば抜けて高い。
総じてWE球は高価ですが300Bと350Bの価格差は4倍以上なのが注目されます。
文献の写真では長方形マイカ、幅の狭いステム上部、Dゲッター、ロゴはかなり異なります。
時代とともに構造が変化したのか、WE以外のものが混じっているのかもう少し検証が必要ですがここまででわかったような気がすることは、
1オムスビマイカを押さえるマイカは50年代に長方形から樽型に変わった。
2ゲッターはもともとDゲッターだったが最後期にはリングゲッターになった。
3後期のステム上部は幅広に成形されている。前期のそれは幅の狭いものであった。ガラス製のステムが折れたりするトラブルを避けるために後期は頑丈に制作されたのではないか。
4western electric製とNU製の違いは無いかも知れない。NU製は古い製品。
NUですが
National Union (National Union Radio Corp.) は、Magnatron (Connewey Electric Laboratories), Marathon (Northern Manufacturing Co.), Sonatron (Sonatron Tube Co.), Televocal (Televocal Corp.) の異なる4社が連合して1929年に設立。
いつまで存在していたかは不明ですが1950年代と思われます。350Bの製造を行っていたとしても長いWE350Bの製造の歴史の初期となります。この時期に製造されたWE製との更なる比較が必要。
YAHOO!オークションでNU350Bを入手しました。
箱に1945年1月に承認と書いてあります。western electricからUNがという意味でしょうか。
ステム上部は細く長方形のマイカ。手持ちのWE350Bとプリントしてあるのにそっくりなものを見つけました。
codeは277。1952年の77週目(!)に製造。77週は存在しないので(13,26,39,52のみ)これはリプリント。わざとか?シャレがわかってる人?
1951年39週のWE350B。長方形マイカの他は同じ形状。
1952年の350B。これも同様。
1950年代初頭のWE350Bのステム上部はやはり平らに成形されています。
1940年代のWE350Bの写真が欲しいところです。1940年製のWE350Bの写真のステムは細かった。。
UN350Bが入手できたので早速WE124B+WE755AでWE350Bと聴き比べてみる。。
UN350Bは新品のようです。対するWE350Bは1968年と1969年製。なぜか新しく感じてしまうが半世紀近く前のもの。ところでUNはもっと古いと思われます。
下段がUN350B
さて違いですが、、。私のpoorな耳では違いはわかりませんでした。UN350Bの方がキリッとした音ですがこれは単にランニングインが不足しているだけのような気がするし。。
WE124Bの整備は完了しました。
お読みいただきありがとうございました。