金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(江戸の攻防)235

2010-05-26 20:55:22 | Weblog
 離れた丘の上に本陣を構えていた。
対峙するは武家町の向こうに見える武州松山城。
そこに籠もる魔物部隊が相手であった。
 徳川の武将、井伊直政は丘の上で正面から朝日を浴びた。
向こうに見える武州松山城は無勢にも関わらず守りが堅い。
籠もっているのは千人足らずだろうが、巧みな防御で一兵の侵入も許さない。
対する攻撃側の井伊家の赤備え隊は、近辺の土豪等をも組み込み、
今や六千有余。
野戦なら充分だが、城を攻め落とすには少ない。
 直政は魔物部隊の恐ろしさが身に染みているので夜襲を警戒し、
周辺に篝火を焚き、駆り集めた犬を巡回に同行させた。
その効果か、夜襲は一度も受けていない。
 打つ手のない状況が直政を苛立たせた。
一揆勢の主力が江戸城の間近に陣を敷き、いつでも攻撃出来る態勢にあるのに、
自分は、この武州松山城に拘ったままでいいのだろうか。
かと言って江戸へ向かえば、途中で川越城の魔物部隊に足止めされるのみならず、
後方から武州松山城の魔物部隊に襲われるは必定。
 近習の者が駆けて来た。
「江戸からの遣いが参りました」
「見知った者か」
「幾度か遣わされた事のある者です」
 案内されて来た者の顔には見覚えがあった。
江戸城の先手組という事になっているが、正体は甲賀忍者。
戦時は常に五人一組で、「使い番」として駆け回っていた。
 珍しく今日は一人。疲れた顔をしていた。
衣服が切り裂かれ、血で濡れているではないか。
「大丈夫なのか」
「仲間の血を浴びただけで、私は浅傷です」
「すると、残り四人は」
「途中で魔物の兵に遭遇し、討たれました」
「そうか、気の毒したな」
 甲賀者は顔色一つ変えない。
「それが我等の仕事です」
「仕事か、・・・そうだな。それで用向きは」
 甲賀者は周りを見回した。
「口頭で申し上げます。お人払いを」
 途中で文書を敵に奪われては困るので、甲賀者に言伝たのだろう。
それにしても人払いまでするとは。余程、余人には聞かせたくないらしい。
 人払いが済むと甲賀者が口を開いた。
「まずは現状を説明します。
一揆勢は八万を超えた模様ですが、今もって江戸城の包囲はしておりません。
上野の山に本陣を構え、周辺に防御用らしき砦を幾つも構築しております」
「なんだ、それは。上野の山に籠城でもするのか」
「籠城でも不思議はないくらいの陣構えです」
「八万人分の糧食は足りるのか」
「潜入している仲間の話では、冬までは賄えるそうです」
「そうか、・・・。それで、味方の兵力は。大勢集まったのか」
「集まるどころか、逆に逃げる者が出る始末です。
昨日あたり、八王子から大久保長安様が加勢に入城された筈ですが、
それでも総勢は、およそ二万あたりではないでしょうか」
 直政は大きく溜息をついた。
二万くらいと見当はつけていたが、実際にそうだと知ると気分が落ち込む。
「それでは籠城するしかないな」
 異な事に甲賀者が目を輝かせた。
「奥羽の乱をご存じですよね」
「知らぬわけがなかろう」
「乱を平定した軍が上方への帰路にあります。
その軍を結城秀康様が、我等に味方するように説かれるそうです。
まず、お味方、間違いないでしょう」
 予期せぬ話しに直政は相手を凝視した。
「その話し、本当か」
「本当です。江戸城でも主立った者しか知らされていません。
暫く、この話しは内密に願います」
 結城秀康の顔を思い浮かべた。
口は巧くないが、一徹な性格をしており、豊臣の武将達の受けは良い。
「分かった」
「奥羽からの軍は北東から来ます。これを敵に気取られてはなりません。
ついては井伊様には目眩まし、陽動をお願いしたいそうです」
「どのように」
「松山城も川越城も相手にせず、軍を幡ヶ谷村方向へ動かして欲しいそうです」
 幡ヶ谷村は江戸城の西にあり、奥羽から戻る豊臣軍とは正反対方向となる。
「なるだけ派手に、人目を引くようにと言うことだな」
「その通りです」
「幡ヶ谷村に敵は」
「私達が城を出立したおりには一兵も見かけませんでした」
「分かった、ただちに向かおう」
 甲賀者は、「承りました」と言いながらも、腰を上げようとはしない。
何やら言い残した事があるような表情をしていた。
「どうした」
「私達を途中で襲った者達ですが、夜中の巡回にしては人数が多すぎました」
「と言うと」
「方向からすると、この松山城に籠もる魔物部隊に違いありません。
かなりの人数が分散して駆けて行きました」
「それは、・・・もしかすると」
「はい。連中は夜中に城を抜け出したのではないでしょうか」
「・・・」
 思いもかけぬ指摘に言葉を失った。
実は城攻めは、包囲すると粗く薄い布陣となり、反撃を受けやすくなるので、
正門からのみの攻撃に限定していた。
その為に、他の門には一兵も回していなかった。
彼等が城を抜け出す事は想定外であった。
 となれば、抜け出した魔物部隊の行き先は江戸しか考えられない。
総攻撃が迫っていると見て間違いないだろう。
 一人で考えるより、城に一当てして確かめる事にした。
大声で近習の者達を呼び、城攻めを命じた。




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