前田慶次郎を先頭に鉄砲隊の隊列に突入した。
鈴風が前足で敵を次々と蹴散らし、慶次郎に出番を与えない。
真田昌幸、幸村の親子が騎馬で後に続いた。
武田の騎馬隊譲りの手綱捌き。巧みに敵を追い散らす。
無傷で残っていた馬は、この三頭だけ。
他の者達は徒で後を追う。
魔物達と戦った彼等に普通の兵が太刀打ち出来るわけがない。
平行して、哲也とポン太を除いた狐狸達が独自に動いた。
目的は敵から明かりを奪う事。
陰から陰へ移動しながら、篝火、松明を狙い、強引に弾き飛ばしてゆく。
慶次郎達が鉄砲隊の隊列を断ち割り、後方に控えていた槍隊に突っ込む。
こうなると同士討ちになるので鉄砲隊は無用の存在。
もっとも隊列、命令系統を崩され、鉄砲隊としての機能はすでに失っていた。
孔雀は尼僧という立場にも関わらず、躊躇いもなく太刀を振るう。
立ち塞がる敵を斬り捨て、足早に前進する。
善鬼はまるで保護者のように、そんな孔雀の背後を守っていた。
新免無二斎と吉岡藤次は互いに入れ替わりながら突き進む。
二人とも多人数を相手にして学んだのか、無駄な動きを省いていた。
その後ろを神子上典膳がついて行く。
二人の剣技を盗み見しながら、余裕で敵を斃す。
ヤマトは森の出口に残っていた若菜に声をかけた。
「どうした、行かないのか」
「私はヤマトと一緒に行くわ」
「・・・尼僧とは上手くいってないのか」
若菜の目がきつくなった。
「私を見る目が変なのよ。・・・。まるで敵でも見るような目ね」
ヤマトには、そのあたりの微妙な事が分からない。
代わってポン太が答えた。
「あの女には天狗も魔物の仲間なのさ」
若菜の顔が歪む。
ポン太の言葉は天狗族の一人として聞き逃せないようだ。
「たしかに天狗は魔物だけど、それで差別されるのは承知できない。
人間には何の悪さもしてないもの」
「そう言うなよ。あいつは小さい頃から魔物憎しで鍛えられてきたんだ。
今さら考えは変えられないよ」
「でも、あんた達だって魔物の筈。
あの女、あんた達と私とでは見る目が違うの」
哲也が口を差し挟む。
「あの女にとって魔物とは人の姿をしたものだけさ。
人の姿をして、人を騙し、危害を加える。それが許せないのだろう。
俺達は無害で、可愛い狐に狸だから、退治する気にならない。違うかい」
最後の言葉はポン太に同意を求めたもの。
ポン太はニコリと笑って頷いた。
納得できない若菜だが、それ以上は口にしない。
ポン太や哲也に怒ってもしょうがないと気付いたのだろう。
ヤマトは魔物の部隊の様子を見ていた。
本来ならヤマト等が彼等を攻撃する筈だった。
それが何者かに先を越されてしまった。
魔物の部隊は背後から襲撃され、混乱していた。
襲った者達の正体も人数も分からないが、
魔物の部隊を手こずらせるとは大したものだ。
襲撃者側に火術を使う者がいるらしい。
時折、それらしい火の玉が放たれ、爆発していた。
なにやら「狐火」に似ていなくもない。
若菜が、「行かないの」と尋ねてきた。
「襲ってる連中と同士討ちになっては拙いから、ここで見守るんだよ」
「見守るだけなの」
「今のところは」
そうするうちに、混乱の輪が小さくなってゆく。
魔物達が襲撃側を囲み始めたらしい。
戦場が狭まると火術は使いにくくなる。
爆発に味方を巻き込む恐れがあるからだ。
ヤマトは決断した。
「行こう」
ヤマトを先頭に哲也、ポン太、若菜が一団となって駆けて行く。
魔物達は目の前の襲撃側で手一杯らしい。気付かれないで接近した。
哲也が「狐火」を連続して放った。
魔物達に当たると爆発。幾人もを巻き添えにし、宙に吹き飛ばした。
ヤマトとポン太が敵に向かって跳ぶ。
若菜も遅れじと太刀を振りかざして続く。
ヤマトは敵の顔面に猫拳を入れる。
右目を突き破り、頭蓋の奥深くへ。脳漿で濡れるが構ってはいられない。
素早く掻き混ぜて抜いた。
敵の激しい悲鳴。
槍を手放し、右目を両手で押さえた。
指の隙間から血が噴き出す。
ヤマトは敵が崩れるより先に、次の敵に跳んでいた。
二人目、三人目と倒して行く。
ヤマトの右に若菜、左にポン太。
一人と一匹も魔物慣れしたらしい。敵を手早く始末してみせた。
哲也の「狐火」連発が敵を混乱に陥れた。
右往左往している敵をヤマトにポン太、若菜が難無く倒して行くので、
混乱にさらに拍車がかかる。
ヤマトは前方で戦う佐助を見つけた。
その傍に、ぴょん吉もいた。
大久保長安は砦の櫓から戦況を見ていた。
高所の利と、星明かりで遠くまで見渡せた。
敵は三部隊に分かれていた。
最後方の魔物の部隊は襲撃を受けて混乱していた。
随所で火術が放たれている。
あの黒猫達の仕業ではなかろうか。
中間にいる部隊は、加勢の部隊に真っ二つに断ち割られていた。
先頭は前田慶次郎で、戦術を授けるのは真田昌幸。
希代の猛将と知将の組み合わせだ。
僅か十五人で五千人余の部隊を翻弄していた。
残りの部隊は、この砦を攻め落とすべく足下を騒がせていた。
こちらの敵も数にしておよそ五千人余。力攻めで押して来た。
このまま座していては落とされるのも時間の問題。
実戦に疎い長安だが、今が決断の時と感じた。
魔物の部隊も、中間にいる部隊も押され気味だ。
ここで足下を騒がせている部隊を崩せば、こちらに勝ちが転がり込んでくる。
長安は、「駆けられる者は全員出撃せよ」と命令を下した。
砦が落とされる前に打って出、敵を蹴散らすしかない。
一か八かの博打だ。
門の内に騎馬五十騎を含む千人余が集まって来た。
手傷を隠して加わっている者も多い。
長安は馬上から、「一団となって敵を切崩す。遅れるな」と叱咤激励。
みんなにというよりは自分に言い聞かせた。
膝が、がくがくと小刻みに震えているが、これよりは引返せない。
そこに頭上から声。
「間に合ったようね」と白拍子の於雪が、星空から舞い降りて来た。
思わぬ出現に、みんには息を飲んだ。
そして、一気に喜びが爆発。歓声が沸き上がった。
長安は、「来てくれたのか」と破顔。
白拍子の姿に安堵して、さっきまでの青白い顔が赤味を帯びてきた。
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真田昌幸、幸村の親子が騎馬で後に続いた。
武田の騎馬隊譲りの手綱捌き。巧みに敵を追い散らす。
無傷で残っていた馬は、この三頭だけ。
他の者達は徒で後を追う。
魔物達と戦った彼等に普通の兵が太刀打ち出来るわけがない。
平行して、哲也とポン太を除いた狐狸達が独自に動いた。
目的は敵から明かりを奪う事。
陰から陰へ移動しながら、篝火、松明を狙い、強引に弾き飛ばしてゆく。
慶次郎達が鉄砲隊の隊列を断ち割り、後方に控えていた槍隊に突っ込む。
こうなると同士討ちになるので鉄砲隊は無用の存在。
もっとも隊列、命令系統を崩され、鉄砲隊としての機能はすでに失っていた。
孔雀は尼僧という立場にも関わらず、躊躇いもなく太刀を振るう。
立ち塞がる敵を斬り捨て、足早に前進する。
善鬼はまるで保護者のように、そんな孔雀の背後を守っていた。
新免無二斎と吉岡藤次は互いに入れ替わりながら突き進む。
二人とも多人数を相手にして学んだのか、無駄な動きを省いていた。
その後ろを神子上典膳がついて行く。
二人の剣技を盗み見しながら、余裕で敵を斃す。
ヤマトは森の出口に残っていた若菜に声をかけた。
「どうした、行かないのか」
「私はヤマトと一緒に行くわ」
「・・・尼僧とは上手くいってないのか」
若菜の目がきつくなった。
「私を見る目が変なのよ。・・・。まるで敵でも見るような目ね」
ヤマトには、そのあたりの微妙な事が分からない。
代わってポン太が答えた。
「あの女には天狗も魔物の仲間なのさ」
若菜の顔が歪む。
ポン太の言葉は天狗族の一人として聞き逃せないようだ。
「たしかに天狗は魔物だけど、それで差別されるのは承知できない。
人間には何の悪さもしてないもの」
「そう言うなよ。あいつは小さい頃から魔物憎しで鍛えられてきたんだ。
今さら考えは変えられないよ」
「でも、あんた達だって魔物の筈。
あの女、あんた達と私とでは見る目が違うの」
哲也が口を差し挟む。
「あの女にとって魔物とは人の姿をしたものだけさ。
人の姿をして、人を騙し、危害を加える。それが許せないのだろう。
俺達は無害で、可愛い狐に狸だから、退治する気にならない。違うかい」
最後の言葉はポン太に同意を求めたもの。
ポン太はニコリと笑って頷いた。
納得できない若菜だが、それ以上は口にしない。
ポン太や哲也に怒ってもしょうがないと気付いたのだろう。
ヤマトは魔物の部隊の様子を見ていた。
本来ならヤマト等が彼等を攻撃する筈だった。
それが何者かに先を越されてしまった。
魔物の部隊は背後から襲撃され、混乱していた。
襲った者達の正体も人数も分からないが、
魔物の部隊を手こずらせるとは大したものだ。
襲撃者側に火術を使う者がいるらしい。
時折、それらしい火の玉が放たれ、爆発していた。
なにやら「狐火」に似ていなくもない。
若菜が、「行かないの」と尋ねてきた。
「襲ってる連中と同士討ちになっては拙いから、ここで見守るんだよ」
「見守るだけなの」
「今のところは」
そうするうちに、混乱の輪が小さくなってゆく。
魔物達が襲撃側を囲み始めたらしい。
戦場が狭まると火術は使いにくくなる。
爆発に味方を巻き込む恐れがあるからだ。
ヤマトは決断した。
「行こう」
ヤマトを先頭に哲也、ポン太、若菜が一団となって駆けて行く。
魔物達は目の前の襲撃側で手一杯らしい。気付かれないで接近した。
哲也が「狐火」を連続して放った。
魔物達に当たると爆発。幾人もを巻き添えにし、宙に吹き飛ばした。
ヤマトとポン太が敵に向かって跳ぶ。
若菜も遅れじと太刀を振りかざして続く。
ヤマトは敵の顔面に猫拳を入れる。
右目を突き破り、頭蓋の奥深くへ。脳漿で濡れるが構ってはいられない。
素早く掻き混ぜて抜いた。
敵の激しい悲鳴。
槍を手放し、右目を両手で押さえた。
指の隙間から血が噴き出す。
ヤマトは敵が崩れるより先に、次の敵に跳んでいた。
二人目、三人目と倒して行く。
ヤマトの右に若菜、左にポン太。
一人と一匹も魔物慣れしたらしい。敵を手早く始末してみせた。
哲也の「狐火」連発が敵を混乱に陥れた。
右往左往している敵をヤマトにポン太、若菜が難無く倒して行くので、
混乱にさらに拍車がかかる。
ヤマトは前方で戦う佐助を見つけた。
その傍に、ぴょん吉もいた。
大久保長安は砦の櫓から戦況を見ていた。
高所の利と、星明かりで遠くまで見渡せた。
敵は三部隊に分かれていた。
最後方の魔物の部隊は襲撃を受けて混乱していた。
随所で火術が放たれている。
あの黒猫達の仕業ではなかろうか。
中間にいる部隊は、加勢の部隊に真っ二つに断ち割られていた。
先頭は前田慶次郎で、戦術を授けるのは真田昌幸。
希代の猛将と知将の組み合わせだ。
僅か十五人で五千人余の部隊を翻弄していた。
残りの部隊は、この砦を攻め落とすべく足下を騒がせていた。
こちらの敵も数にしておよそ五千人余。力攻めで押して来た。
このまま座していては落とされるのも時間の問題。
実戦に疎い長安だが、今が決断の時と感じた。
魔物の部隊も、中間にいる部隊も押され気味だ。
ここで足下を騒がせている部隊を崩せば、こちらに勝ちが転がり込んでくる。
長安は、「駆けられる者は全員出撃せよ」と命令を下した。
砦が落とされる前に打って出、敵を蹴散らすしかない。
一か八かの博打だ。
門の内に騎馬五十騎を含む千人余が集まって来た。
手傷を隠して加わっている者も多い。
長安は馬上から、「一団となって敵を切崩す。遅れるな」と叱咤激励。
みんなにというよりは自分に言い聞かせた。
膝が、がくがくと小刻みに震えているが、これよりは引返せない。
そこに頭上から声。
「間に合ったようね」と白拍子の於雪が、星空から舞い降りて来た。
思わぬ出現に、みんには息を飲んだ。
そして、一気に喜びが爆発。歓声が沸き上がった。
長安は、「来てくれたのか」と破顔。
白拍子の姿に安堵して、さっきまでの青白い顔が赤味を帯びてきた。
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