金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)201

2010-01-27 21:11:19 | Weblog
 前田慶次郎を先頭に鉄砲隊の隊列に突入した。
鈴風が前足で敵を次々と蹴散らし、慶次郎に出番を与えない。
真田昌幸、幸村の親子が騎馬で後に続いた。
武田の騎馬隊譲りの手綱捌き。巧みに敵を追い散らす。
無傷で残っていた馬は、この三頭だけ。
他の者達は徒で後を追う。
魔物達と戦った彼等に普通の兵が太刀打ち出来るわけがない。
 平行して、哲也とポン太を除いた狐狸達が独自に動いた。
目的は敵から明かりを奪う事。
陰から陰へ移動しながら、篝火、松明を狙い、強引に弾き飛ばしてゆく。
 慶次郎達が鉄砲隊の隊列を断ち割り、後方に控えていた槍隊に突っ込む。
こうなると同士討ちになるので鉄砲隊は無用の存在。
もっとも隊列、命令系統を崩され、鉄砲隊としての機能はすでに失っていた。
 孔雀は尼僧という立場にも関わらず、躊躇いもなく太刀を振るう。
立ち塞がる敵を斬り捨て、足早に前進する。
善鬼はまるで保護者のように、そんな孔雀の背後を守っていた。
 新免無二斎と吉岡藤次は互いに入れ替わりながら突き進む。
二人とも多人数を相手にして学んだのか、無駄な動きを省いていた。
その後ろを神子上典膳がついて行く。
二人の剣技を盗み見しながら、余裕で敵を斃す。

 ヤマトは森の出口に残っていた若菜に声をかけた。
「どうした、行かないのか」
「私はヤマトと一緒に行くわ」
「・・・尼僧とは上手くいってないのか」
 若菜の目がきつくなった。
「私を見る目が変なのよ。・・・。まるで敵でも見るような目ね」
 ヤマトには、そのあたりの微妙な事が分からない。
 代わってポン太が答えた。
「あの女には天狗も魔物の仲間なのさ」
 若菜の顔が歪む。
ポン太の言葉は天狗族の一人として聞き逃せないようだ。
「たしかに天狗は魔物だけど、それで差別されるのは承知できない。
人間には何の悪さもしてないもの」
「そう言うなよ。あいつは小さい頃から魔物憎しで鍛えられてきたんだ。
今さら考えは変えられないよ」
「でも、あんた達だって魔物の筈。
あの女、あんた達と私とでは見る目が違うの」
 哲也が口を差し挟む。
「あの女にとって魔物とは人の姿をしたものだけさ。
人の姿をして、人を騙し、危害を加える。それが許せないのだろう。
俺達は無害で、可愛い狐に狸だから、退治する気にならない。違うかい」
 最後の言葉はポン太に同意を求めたもの。
ポン太はニコリと笑って頷いた。
 納得できない若菜だが、それ以上は口にしない。
ポン太や哲也に怒ってもしょうがないと気付いたのだろう。
 ヤマトは魔物の部隊の様子を見ていた。
本来ならヤマト等が彼等を攻撃する筈だった。
それが何者かに先を越されてしまった。
魔物の部隊は背後から襲撃され、混乱していた。
襲った者達の正体も人数も分からないが、
魔物の部隊を手こずらせるとは大したものだ。
 襲撃者側に火術を使う者がいるらしい。
時折、それらしい火の玉が放たれ、爆発していた。
なにやら「狐火」に似ていなくもない。
 若菜が、「行かないの」と尋ねてきた。
「襲ってる連中と同士討ちになっては拙いから、ここで見守るんだよ」
「見守るだけなの」
「今のところは」
 そうするうちに、混乱の輪が小さくなってゆく。
魔物達が襲撃側を囲み始めたらしい。
戦場が狭まると火術は使いにくくなる。
爆発に味方を巻き込む恐れがあるからだ。
 ヤマトは決断した。
「行こう」
 ヤマトを先頭に哲也、ポン太、若菜が一団となって駆けて行く。
魔物達は目の前の襲撃側で手一杯らしい。気付かれないで接近した。
 哲也が「狐火」を連続して放った。
魔物達に当たると爆発。幾人もを巻き添えにし、宙に吹き飛ばした。
ヤマトとポン太が敵に向かって跳ぶ。
若菜も遅れじと太刀を振りかざして続く。
 ヤマトは敵の顔面に猫拳を入れる。
右目を突き破り、頭蓋の奥深くへ。脳漿で濡れるが構ってはいられない。
素早く掻き混ぜて抜いた。
 敵の激しい悲鳴。
槍を手放し、右目を両手で押さえた。
指の隙間から血が噴き出す。
 ヤマトは敵が崩れるより先に、次の敵に跳んでいた。
二人目、三人目と倒して行く。
 ヤマトの右に若菜、左にポン太。
一人と一匹も魔物慣れしたらしい。敵を手早く始末してみせた。
 哲也の「狐火」連発が敵を混乱に陥れた。
右往左往している敵をヤマトにポン太、若菜が難無く倒して行くので、
混乱にさらに拍車がかかる。
 ヤマトは前方で戦う佐助を見つけた。
その傍に、ぴょん吉もいた。

 大久保長安は砦の櫓から戦況を見ていた。
高所の利と、星明かりで遠くまで見渡せた。
敵は三部隊に分かれていた。
 最後方の魔物の部隊は襲撃を受けて混乱していた。
随所で火術が放たれている。
あの黒猫達の仕業ではなかろうか。
 中間にいる部隊は、加勢の部隊に真っ二つに断ち割られていた。
先頭は前田慶次郎で、戦術を授けるのは真田昌幸。
希代の猛将と知将の組み合わせだ。
僅か十五人で五千人余の部隊を翻弄していた。
 残りの部隊は、この砦を攻め落とすべく足下を騒がせていた。
こちらの敵も数にしておよそ五千人余。力攻めで押して来た。
このまま座していては落とされるのも時間の問題。
 実戦に疎い長安だが、今が決断の時と感じた。
魔物の部隊も、中間にいる部隊も押され気味だ。
ここで足下を騒がせている部隊を崩せば、こちらに勝ちが転がり込んでくる。
 長安は、「駆けられる者は全員出撃せよ」と命令を下した。
砦が落とされる前に打って出、敵を蹴散らすしかない。
一か八かの博打だ。
 門の内に騎馬五十騎を含む千人余が集まって来た。
手傷を隠して加わっている者も多い。
 長安は馬上から、「一団となって敵を切崩す。遅れるな」と叱咤激励。
みんなにというよりは自分に言い聞かせた。
膝が、がくがくと小刻みに震えているが、これよりは引返せない。
 そこに頭上から声。
「間に合ったようね」と白拍子の於雪が、星空から舞い降りて来た。
思わぬ出現に、みんには息を飲んだ。
そして、一気に喜びが爆発。歓声が沸き上がった。
 長安は、「来てくれたのか」と破顔。
白拍子の姿に安堵して、さっきまでの青白い顔が赤味を帯びてきた。




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