別の妖精がアリスを止めた。
『アリス、いい加減にして、道草し過ぎよ』
これにはアリスも心当たりがあった。
『ごめんごめん、悪かったわ。
でもね、下の気配がね、何か潜んでいるみたいなの』
『それが何か、・・・。
敢えて探す必要があるの。
それを起こして、住民達に迷惑は掛からないの』
『ないか、・・・』
『そうよ、ないのよ』
飛行隊は湾の奥の城塞都市に向かった。
鹿児島。
薩摩地方と大隅地方、そして薩南諸島を治める島津伯爵家の本拠地だ。
高々度から市内の様子を窺った。
桜島の噴火には慣れている様で、混乱は見られない。
港から漕ぎ出す船もあり、至って正常。
駐屯地にしてもそう。
馬場で騎馬隊が調練に勤しんでいるが、乱れはない。
アリスは皆に同意を求めた。
『戦塵の気配がないわ。
たぶん、戦場は東ね』
『夕暮れ前には見つけたいわね』
飛行隊は東へ飛んだ。
すると、島津家は日向地方で王国軍と対峙していた。
正確には、大隅へ侵攻して来た王国軍を日向まで押し返し、
都城盆地にて争っていた。
盆地の城塞都市・都城を島津軍が占領したのに対し、
それを王国軍が奪還せんと、盆地の北東部に陣地を構築していた。
その兵力は十万余。
大淀川の対岸の丘に本陣を構え、都城を睨んでいた。
押し返された割には意気は軒昂、とても敗軍には見えない。
島津軍は一部を都城に残し、王国軍を壊滅せしめんと、
大淀川へと前線を押し上げていた。
兵力は五万余。
王国軍の半分ではあるが、それは致し方ないこと。
王国軍が肥後地方から薩摩地方へ侵攻すべく、機を窺っていたので、
これ以上、兵力を割けなかったのだ。
上空より手分けして偵察していた飛行隊が、
刻限と共に集合地点に集まった。
彼女達は戦に介入する為に来た訳ではない。
目的は魔物・キャメンソルにあった。
砂漠に棲むという駱駝の種から枝分かれした魔物を討伐せんと、
遥々、関東より飛行して来た。
相手はキャメンソルに騎乗した傭兵団なので、
直ぐに見つけられると高を括っていた。
ところが島津軍の野営地には影も形もなかった。
『どこに隠れているのか知らね』
アリスの問にハッピーが応じた。
『千近い数の傭兵団なんだよね。
それなら飼葉や給水の観点から探して見ようか』
夕暮れが迫っていた。
そんな中、飛行隊は分散して懸命に捜索を行った。
見つけられない。
現在の野営地から明日の展開を推測し、傭兵団の在り処を探し回った。
それでも見つけられない。
更に範囲を広げても空振り。
妖精の多くが疑問に思った。
『明日の戦闘に参加させないつもりなのか知らね』
妖精の一人が口にした。
『もしかして、潜伏スキル持ちなの』
キャメンソル自体が潜伏スキル持ちなのか、
傭兵団がそれらの魔道具を所持しているのか、詳しくは知らない。
知っているのはキャメンソル自体が臭い唾を吐くということ。
アリスは隊長として断を下した。
『今日はここまで。
夜襲に備えて国軍の後方に宿営するわよ』
夜襲される国軍に味方する訳ではない。
夜襲するなら傭兵団の仕事と判断しただけ。
国軍を見下ろせる山の峰で一夜を明かした。
その明かした早朝、広がる朝靄を縫って国軍が出撃した。
北へ迂回して浅瀬を渡河、島津軍の北側面への朝駆け。
一気に前線を抜いた。
島津軍はもたつくも、適切に対応した。
遅滞戦術に切り替え、前線の再構築に着手した。
数に勝る国軍が打った手は一つではなかった。
敵の耳目が北に向けられた瞬間を狙い澄ました一撃。
南からも大軍による攻勢に出た。
島津軍はそちらへの対応は早かった。
北からの朝駆けを受け、そう読んでいたのだろう。
素早く前線を放棄し、第二列まで下がった。
そしてそこで隊列を厚くしての徹底抗戦。
丘の上の国軍本陣も動いた。
何しろ敵勢は国軍の半分。
北と南に人員を割いているので、対岸には一万余しかいない。
チャンス到来とばかり、丘から本陣を前進させた。
川を挟んで圧力を加えるつもりでいた。
観戦していたアリスは魔力の起こりを感じ取った。
なかなかに強烈な物。
複数の魔力が寄り集まり、一つの群れを形成していた。
それが四つ。
北で起こって、こちらへ向かって来ていた。
駆けて来る感じ。
『初めての感じる魔波ね』
ハッピーが応じた。
『キャメンソルかも知れないな』
群れは四つ。
魔物であり、同種である事は確か。
アリスはそちらに偵察を飛ばした。
偵察に飛ばした四組が早々に戻って来た。
『キャメンソルと確認したわ。
体長6メートルほど、高さ4メートルほど、背中に瘤2つよ』
『十頭につき一頭が魔道具の【潜伏】を装着してるわ。
それを周囲に配すれば、一つの結界になるかもね』
『分散して野営してた様ね』
『背中の瘤と瘤の間に乗り手がいるわ。
まるで馭者みたいな感じよね』
アリス達は全員総出で出迎えた。
勿論、高々度から。
今回、手出しするつもりはない。
途中介入は宜しくないので国軍に任せた。
打ち漏らしがあるだろうから、それで済まそうと簡単に考えた。
余裕で上からジッと下を観察した。
群れの速度が早い。
ああ、あれか、砂漠より草地の方が走り易い。
その四つに分かれていた群れが徐々に一つに纏まって来た。
驚いた事に統率された動き。
前後左右、互いの距離を保って駆けて来た。
これは普通ではない。
快速か、準急か、急行か。
この群れで、速度に乗った走り、これはスタンピードそのものだ。
キャメンソルのスタンピード。
6メートル4メートルサイズの魔物が千頭余。
河川にするとそれは大氾濫、山にすると大土石流。
その流れの先に居る者達に助かる術はあるのだろうか。
妖精の一人がアリスに尋ねた。
『どうするの、国軍が飲み込まれちゃうよ』
『人と人の争いによ。
どちらが正しいとか、正しくないとか、訳の分からない理屈で争う連中よ。
ニャンの指示があれば別だけど、今は関与したくないわ』
『アリス、いい加減にして、道草し過ぎよ』
これにはアリスも心当たりがあった。
『ごめんごめん、悪かったわ。
でもね、下の気配がね、何か潜んでいるみたいなの』
『それが何か、・・・。
敢えて探す必要があるの。
それを起こして、住民達に迷惑は掛からないの』
『ないか、・・・』
『そうよ、ないのよ』
飛行隊は湾の奥の城塞都市に向かった。
鹿児島。
薩摩地方と大隅地方、そして薩南諸島を治める島津伯爵家の本拠地だ。
高々度から市内の様子を窺った。
桜島の噴火には慣れている様で、混乱は見られない。
港から漕ぎ出す船もあり、至って正常。
駐屯地にしてもそう。
馬場で騎馬隊が調練に勤しんでいるが、乱れはない。
アリスは皆に同意を求めた。
『戦塵の気配がないわ。
たぶん、戦場は東ね』
『夕暮れ前には見つけたいわね』
飛行隊は東へ飛んだ。
すると、島津家は日向地方で王国軍と対峙していた。
正確には、大隅へ侵攻して来た王国軍を日向まで押し返し、
都城盆地にて争っていた。
盆地の城塞都市・都城を島津軍が占領したのに対し、
それを王国軍が奪還せんと、盆地の北東部に陣地を構築していた。
その兵力は十万余。
大淀川の対岸の丘に本陣を構え、都城を睨んでいた。
押し返された割には意気は軒昂、とても敗軍には見えない。
島津軍は一部を都城に残し、王国軍を壊滅せしめんと、
大淀川へと前線を押し上げていた。
兵力は五万余。
王国軍の半分ではあるが、それは致し方ないこと。
王国軍が肥後地方から薩摩地方へ侵攻すべく、機を窺っていたので、
これ以上、兵力を割けなかったのだ。
上空より手分けして偵察していた飛行隊が、
刻限と共に集合地点に集まった。
彼女達は戦に介入する為に来た訳ではない。
目的は魔物・キャメンソルにあった。
砂漠に棲むという駱駝の種から枝分かれした魔物を討伐せんと、
遥々、関東より飛行して来た。
相手はキャメンソルに騎乗した傭兵団なので、
直ぐに見つけられると高を括っていた。
ところが島津軍の野営地には影も形もなかった。
『どこに隠れているのか知らね』
アリスの問にハッピーが応じた。
『千近い数の傭兵団なんだよね。
それなら飼葉や給水の観点から探して見ようか』
夕暮れが迫っていた。
そんな中、飛行隊は分散して懸命に捜索を行った。
見つけられない。
現在の野営地から明日の展開を推測し、傭兵団の在り処を探し回った。
それでも見つけられない。
更に範囲を広げても空振り。
妖精の多くが疑問に思った。
『明日の戦闘に参加させないつもりなのか知らね』
妖精の一人が口にした。
『もしかして、潜伏スキル持ちなの』
キャメンソル自体が潜伏スキル持ちなのか、
傭兵団がそれらの魔道具を所持しているのか、詳しくは知らない。
知っているのはキャメンソル自体が臭い唾を吐くということ。
アリスは隊長として断を下した。
『今日はここまで。
夜襲に備えて国軍の後方に宿営するわよ』
夜襲される国軍に味方する訳ではない。
夜襲するなら傭兵団の仕事と判断しただけ。
国軍を見下ろせる山の峰で一夜を明かした。
その明かした早朝、広がる朝靄を縫って国軍が出撃した。
北へ迂回して浅瀬を渡河、島津軍の北側面への朝駆け。
一気に前線を抜いた。
島津軍はもたつくも、適切に対応した。
遅滞戦術に切り替え、前線の再構築に着手した。
数に勝る国軍が打った手は一つではなかった。
敵の耳目が北に向けられた瞬間を狙い澄ました一撃。
南からも大軍による攻勢に出た。
島津軍はそちらへの対応は早かった。
北からの朝駆けを受け、そう読んでいたのだろう。
素早く前線を放棄し、第二列まで下がった。
そしてそこで隊列を厚くしての徹底抗戦。
丘の上の国軍本陣も動いた。
何しろ敵勢は国軍の半分。
北と南に人員を割いているので、対岸には一万余しかいない。
チャンス到来とばかり、丘から本陣を前進させた。
川を挟んで圧力を加えるつもりでいた。
観戦していたアリスは魔力の起こりを感じ取った。
なかなかに強烈な物。
複数の魔力が寄り集まり、一つの群れを形成していた。
それが四つ。
北で起こって、こちらへ向かって来ていた。
駆けて来る感じ。
『初めての感じる魔波ね』
ハッピーが応じた。
『キャメンソルかも知れないな』
群れは四つ。
魔物であり、同種である事は確か。
アリスはそちらに偵察を飛ばした。
偵察に飛ばした四組が早々に戻って来た。
『キャメンソルと確認したわ。
体長6メートルほど、高さ4メートルほど、背中に瘤2つよ』
『十頭につき一頭が魔道具の【潜伏】を装着してるわ。
それを周囲に配すれば、一つの結界になるかもね』
『分散して野営してた様ね』
『背中の瘤と瘤の間に乗り手がいるわ。
まるで馭者みたいな感じよね』
アリス達は全員総出で出迎えた。
勿論、高々度から。
今回、手出しするつもりはない。
途中介入は宜しくないので国軍に任せた。
打ち漏らしがあるだろうから、それで済まそうと簡単に考えた。
余裕で上からジッと下を観察した。
群れの速度が早い。
ああ、あれか、砂漠より草地の方が走り易い。
その四つに分かれていた群れが徐々に一つに纏まって来た。
驚いた事に統率された動き。
前後左右、互いの距離を保って駆けて来た。
これは普通ではない。
快速か、準急か、急行か。
この群れで、速度に乗った走り、これはスタンピードそのものだ。
キャメンソルのスタンピード。
6メートル4メートルサイズの魔物が千頭余。
河川にするとそれは大氾濫、山にすると大土石流。
その流れの先に居る者達に助かる術はあるのだろうか。
妖精の一人がアリスに尋ねた。
『どうするの、国軍が飲み込まれちゃうよ』
『人と人の争いによ。
どちらが正しいとか、正しくないとか、訳の分からない理屈で争う連中よ。
ニャンの指示があれば別だけど、今は関与したくないわ』
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