金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(白拍子)105

2009-03-05 19:19:24 | Weblog
 源平合戦に終止符を打った義経だが、ノンビリとはしていられなかった。
新たな争いが待ち構えていたのだ。
 平家滅亡で空白となった権力の座を巡り、取り戻そうとする朝廷と、
新たに武家政権をうち立ようとする鎌倉の兄・頼朝が対立していた。
 武力で劣る朝廷は焦っていた。
時が過ぎれば過ぎる程、鎌倉の源氏方が力を増すからであった。
 そこで目をつけたのが義経。
権力欲がなく、政治にも無関心な男。
 朝廷の働きかけは素早く、裏側での争いに疎い義経に官位を授け、
兄との乖離を図った。
京を義経に守らせる一方で、義経の武力が膨れ上がるのを恐れ、
西国での平家再興にも力を入れた。
 西国の平家、京の義経、関東の頼朝、奥州の藤原氏と、
四者の武力を均等化しようと策謀した。
 対する鎌倉側には義経擁護派もいたが、声が大きいのは反義経派であった。
源平合戦での功績を嫉妬し、誹謗中傷していた。
これに加え、奥州藤原氏との繋がりも警戒されていた。
 弟を信任していた頼朝だったが、己の手勢は僅か。
兵力のほとんどを武将達の一族郎党に頼っていたので、権力の基盤が弱く、
発言には細心の注意を払わずを得なかった。
 そこを見透かしたように有力武将達が鎌倉で幅を利かせていた。
頼朝は彼等の狭間を巧みに遊泳するので手一杯。
弟を強力に擁護することまでは不可能であった。
 頼朝の側近達は、主人の力の根源に征夷大将軍職を求めた。
武家の棟梁の証である征夷大将軍の地位を得てこそ一人立ちできるのだ。
その為に朝廷に有形無形の圧力を加えた。
現状では武力討伐が不可能なので、朝廷を守護する義経を標的とした。
主人に忠実であるがゆえ、主人の弟を切り離す事にしたのだ。
 朝廷と鎌倉の対立が義経を追い詰めた。
義経の側近達は頼朝打倒を図ったが、煮え切らない義経は逃げた。

 広重は神子上の長話を聞いていた。
行政手腕には一目置いていたが、義経追討にまで詳しいとは知らなかった。
熱を込めて話し始めたので、思わず引き込まれてしまった。
しかし、肝心な点までは時間がかかりそうに思えた。
そこで話を打ち切る事にした。
「その話、どこで学んだのだ」
 神子上もハッとして言葉を止めた。
「いや、手前としたことが」
「責めているのではない。話は面白いし、聞いていて飽きない」
「そうですか、よかった。幼い頃、祖父が子守唄代わりに話してくれたのです」
「いい祖父を持ったな」
「はい、ありがとうございます」
「今も御健在か」
「北条との戦で討ち死にいたしました」
「そうか、惜しいな。一度、話しを聞きたかったな」
 神子上は彼の言葉に破顔して頷いた。
そして仕切りなおして話を再開した。
「逃げた義経一行が向かったのは奥州平泉。これに静御前も加わっていました」
「しかし捕まったはずだな」
「はい、静御前は足手纏いになるのを恐れ、途中から別行動をとったのです。
それが裏目に出て捕まりました」
「今回の件とはいかなる繋がりだ」
「捕まった静御前は義経殿の子を身籠っていました」
「その辺りからは知らない。聞かせてくれ」
「鎌倉側は女子であれば見逃すが、男子であれば殺害する事にしました」
「それで生まれたのは」
「男子」
「・・・」
「鎌倉側は生まれた男子を静御前から奪い取ると、海岸に運びました。
場所は由比ガ浜で、一艘に赤ん坊を乗せ、もう一艘で沖まで曳いて行き、
火を放って切り離したそうです」
「なんと、念の入ったこと。・・・それも祖父の話か」
「いいえ、これは稲村ガ崎外れの土豪の文庫で埃を被っていた古文書からです。
その家の先祖が鎌倉幕府に仕えていた事は確かなようです」
 彼は天井を見上げた。
「ふーむ、酷な話だ」
「続きがあります。赤ん坊を乗せた船に何者かが飛び乗ったそうです」
「静御前か」
「正体は不明です。赤ん坊を乗せた船の火が、曳いていた船に飛び火し、
二艘とも焼けて沈みました。一人として生き残った者がいないのです」
「そうか、二艘とも焼失か。静御前はその後も生きていた筈だからな」
「はい」
 彼は改めて神子上を見据えた。
「日付はどうなっている」
「網元の家で見つかった古文書と同じ日付です」
「海が燃えたかどうかは知らないが、それに近い前例があったのは確かなようだ」
「それに赤ん坊も」
「老婆はどうする」
「あの老婆であれば、船が燃えていても構わずに飛び込むでしょう」
「それもそうだ。しかし、随分と長生きだな」
 一転して神子上の表情が曇る。
「・・・」
「何か不満があるのか」
「辻褄は合うのですが、頭がついて行けません」
「現に戦ったではないか」
 魔物を目にしたのみならず、実際に戦い血が流れた。
加えて、古文書からもそれらしい記述が見つかった。
それでも魔物が存在するという現実を認めたくないようだ。
「しかし、・・・」
「世には不可思議な事が溢れてる。今の筋で当たりだ」

 代官所の使いの者が、神子上典膳を探し当てるのに三日もかかってしまった。
典膳が単独行動で、孔雀達を見張っていたので居場所を探しあぐねたのだ。
 典膳は武蔵の国・八王子の奥の村にいた。
名主の許しを得て、谷間の小屋で寝泊りしていた。
 夕餉も間近い頃に、使いが姿を現した。
大柄な坊主だ。
寺にいるより代官所にいる事が多い。
伊東一刀斎の剣捌きに触れる機会を得、剣術に魅入られたのだ。
僧侶であるのだが、還俗せぬまま弟子入りした。
雰囲気から代官に「善鬼」と呼ばれていた。




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