砦の一画に、守備兵の寝泊まりするための長屋が建てられていた。
その一部屋に寝かされていた豪姫が目を覚ました。
いきなり上半身を起こし、傍に秀家が居るのを見て、
「ああ、・・・これは」と安堵と不安の入り混じった声で尋ねた。
秀家の他に宇喜多家の忍者二人もいた。
二人は手傷を負っているが、己のことより豪姫を身体を心配していた。
目覚めたので安心したのか、二人の全身から力が抜けるのが傍目にも分かった。
秀家はいつもの優しい声で豪姫を労る。
「よかった、よかった。どこか痛いところはないか」
豪姫は己の全身を見回した。
「どこも。それより、ここは」
「覚えてないのか。お豪が倒れたから、この砦に運び込んだのだ」
豪姫は少し考えた。
「すると、・・・一揆勢はどうなりました」
「この砦を囲んでいる」
薄い敷き布団から起き上がろうとする豪姫を、秀家が両手で制す。
「お豪、今は休む事だ」
「しかし」
「みんなの力を信じろ」
「でも・・・」
秀家はきつい言葉を投げた。
「猿飛の三人の死を無駄にするのか」
砦の門が内側より開けられた。
押し寄せていた一揆勢は予期せぬ事態に足が止まった。
罠があると躊躇したのだろう。
実際、急ぎ呼び集められた鉄砲隊が待ち構えていた。
八十人程だが、三段構えで鉄砲を放つ。
人数は少ないが門が狭いので効果は絶大。
正面に棒立ちの者達を次々と撃ち倒した。
鉄砲が止むや白拍子が飛び出した。
間隔を空けずに騎馬五十騎が従う。
徒の者達が鬨の声を上げて続いた。併せて総勢千人余。
敵は五千人余だが勢いは徳川勢にあった。
そして、地の利も徳川勢に。
砦が丘の上に築かれていたので、高所から一揆勢を攻め下ろす形になった。
一気に敵勢を二つに断ち割った。
敵は五千人余で砦を包囲しているので、実際に当る敵勢は千人にも満たない。
余裕で折り返し、右の敵勢に挑む。
白拍子は先頭を騎馬には譲らない。
槍を振り回して敵隊列に突入した。
上から叩き、横から払い、下からかち上げ。その荒っぽいこと。
彼女は自分が鞍馬で吸収した光体の事を思い出した。
光体の元になった魔物は三つ。
武芸に長じた鬼の王、銀鬼。
銀鬼が斃れるや、入れ替わるように銀鬼の内より現れた雷鬼。
そして翼を持ち、鬼達の血を吸うことによって己の生命を維持するバロン。
今の彼女は銀鬼そのもの。槍捌きに何の容赦も無い。
槍を風車のごとく振り回して立ち塞がる敵兵を次々に弾き飛ばした。
先頭を駆ける慶次郎に真田昌幸が並ぶ。
知将は、「あそこだ」と刀で左斜め後方を指し示した。
敵勢を指揮する者を見つけたらしい。
慶次郎は昌幸の判断を一瞬たりとも疑わない。
承知とばかりに頷いた。
いきなり馬首を転じては、味方が混乱する。
小さく迂回するようにして、敵勢を切り開きながら馬首をその方向に向けた。
みんなも疑問を抱かずについて来た。
そこは分厚い槍隊の隊列に守られていた。
慶次郎達の斬り込みに槍衾で頑強に抵抗した。
付け入る隙を与えない。
このまま続けると敵勢に包囲されてしまう。
すると、これまで敵勢の明かりを消し回っていた狐狸達が加勢に来た。
側面から「狐火」を放って急襲するではないか。
思わぬ事態に敵隊列は混乱した。
乱れに乗じて慶次郎は亀裂に突入した。
続く真田親子が亀裂をさらに押し広げた。
その三騎を味方の徒の者達が狂ったよう追い越す。
そして、勢いでもって敵勢を蹴散らした。
佐助と若菜が一心同体となった。
横から繰り出された槍を若菜が受け止めれば、
すかさず佐助が相手の手首を斬り離し、
次の瞬間には若菜が相手の首を斬り落とす。
こうして攻守を入れ代わりながら魔物達を打ち倒して行く。
ぴょん吉と哲也、ポン太は三位一体。
身長差を活かして低い位置を駆け、ここぞと思う場面で宙に跳び、
敵の目に拳を突き入れ頭蓋の内を一掻きする。
狐狸とはいえ本物の魔物。にわか魔物が太刀打ちできるわけがない。
三匹は競うように敵勢を翻弄した。
ヤマトは、ただ一匹、戦場から離脱した。
高い木に駆け上り、全体の戦況を見回した。
他でも徳川方が押していた。
数に勝る一揆勢だが、指揮系統が機能していないらしい。
あちらこちらで右往左往している部隊の、なんと多いこと。
ヤマトは敵に止めを刺すことにした。
枝の上から、星空に向かって雄叫びを上げた。
狐狸達の「ポンポコリン」を引き裂くように、
甲高く、長く尾を引く雄叫びが戦場に響き渡った。
猫の雄叫びではない。まさに龍の雄叫び。
聞く者達の肝を震え上がらせた。
間を置いて、周辺に散っていた獣達が同調。てんでに吼え始めた。
狐狸達は無論、猿に猪、熊が競うように雄叫びを上げた。
徳川方は獣達が味方と知っているので、呼応するように鬨の声を上げた。
一揆勢に動揺が走った。
何処でも隊列を切崩され、防戦に必死であった。
そこに徳川方の、人と獣の雄叫びが山々に木霊し、
不気味な無形の圧力となって押し寄せて来た。
一人が及び腰となり、一人が後退した。
と、弱気の虫の伝染するのは早い。
一人が逃げるや、釣られたように二人、三人と後に続く。
こうなると流れは押し止められない。隊列の一角が崩れた。
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最近、一般家庭の押し入れから拳銃が発見される事が多いとか。
そのほとんどが旧軍人の家です。
敗戦後、拳銃を記念品として自宅に持ち帰り、
油紙で包み大切に保管して置いたらしいのですが、
使う機会もなく、いつしか忘れ、本人も老衰で死亡・・・。
残された家族が遺品の整理をして、油紙に包まれた拳銃に気づき、
慌てて警察に連絡するのだそうです。
これは、そんな押し入れの小話。
その家は地方の旧家。
当代となり衰退の一途であった。
田畑、山の全てを売り払い、使用人、妻子も離れ、
男に残されたのは広大な敷地に建つ屋敷のみ。
それは雨の降る夜だった。
寝所で男は深い眠りについていた。
丑三つ時。押し入れから物音。ガサガサ・・・。
押し入れの襖が少し開けられ、生温い風が這い出してきた。
その風が床の間の人形の髪を揺らした。
家の「守り神」として代々に伝えられた人形だ。
男はこれだけは売らずに、家宝として残していた。
人形の目がうっすらと開けられた。
首を動かして、押し入れを見る。
口元から牙が覗き、声にならぬ声。
押し入れから覗く目。
男が寝入っているのを確かめると、
押し入れが内側から、ゆっくりと開けられた。
中から何者かが出て来た。
床の間の人形が、ガタガタと身震いを始めた。
そして、動いた。
信じられぬ速さで、押し入れから出て来た者に噛み付いた。
出て来たのは居着いている貧乏神。
その片足に人形が噛み付いたのだ。
貧乏神は人形を引き離し、慌てて押し入れに引っ込んだ。
別の家に引っ越そうとしていた貧乏神だったが、これでは怖くて引っ越せない。
かくして、その家の貧乏は守られた。
(2chに悪戯書きしたものを手直ししました。忘れてください)
その一部屋に寝かされていた豪姫が目を覚ました。
いきなり上半身を起こし、傍に秀家が居るのを見て、
「ああ、・・・これは」と安堵と不安の入り混じった声で尋ねた。
秀家の他に宇喜多家の忍者二人もいた。
二人は手傷を負っているが、己のことより豪姫を身体を心配していた。
目覚めたので安心したのか、二人の全身から力が抜けるのが傍目にも分かった。
秀家はいつもの優しい声で豪姫を労る。
「よかった、よかった。どこか痛いところはないか」
豪姫は己の全身を見回した。
「どこも。それより、ここは」
「覚えてないのか。お豪が倒れたから、この砦に運び込んだのだ」
豪姫は少し考えた。
「すると、・・・一揆勢はどうなりました」
「この砦を囲んでいる」
薄い敷き布団から起き上がろうとする豪姫を、秀家が両手で制す。
「お豪、今は休む事だ」
「しかし」
「みんなの力を信じろ」
「でも・・・」
秀家はきつい言葉を投げた。
「猿飛の三人の死を無駄にするのか」
砦の門が内側より開けられた。
押し寄せていた一揆勢は予期せぬ事態に足が止まった。
罠があると躊躇したのだろう。
実際、急ぎ呼び集められた鉄砲隊が待ち構えていた。
八十人程だが、三段構えで鉄砲を放つ。
人数は少ないが門が狭いので効果は絶大。
正面に棒立ちの者達を次々と撃ち倒した。
鉄砲が止むや白拍子が飛び出した。
間隔を空けずに騎馬五十騎が従う。
徒の者達が鬨の声を上げて続いた。併せて総勢千人余。
敵は五千人余だが勢いは徳川勢にあった。
そして、地の利も徳川勢に。
砦が丘の上に築かれていたので、高所から一揆勢を攻め下ろす形になった。
一気に敵勢を二つに断ち割った。
敵は五千人余で砦を包囲しているので、実際に当る敵勢は千人にも満たない。
余裕で折り返し、右の敵勢に挑む。
白拍子は先頭を騎馬には譲らない。
槍を振り回して敵隊列に突入した。
上から叩き、横から払い、下からかち上げ。その荒っぽいこと。
彼女は自分が鞍馬で吸収した光体の事を思い出した。
光体の元になった魔物は三つ。
武芸に長じた鬼の王、銀鬼。
銀鬼が斃れるや、入れ替わるように銀鬼の内より現れた雷鬼。
そして翼を持ち、鬼達の血を吸うことによって己の生命を維持するバロン。
今の彼女は銀鬼そのもの。槍捌きに何の容赦も無い。
槍を風車のごとく振り回して立ち塞がる敵兵を次々に弾き飛ばした。
先頭を駆ける慶次郎に真田昌幸が並ぶ。
知将は、「あそこだ」と刀で左斜め後方を指し示した。
敵勢を指揮する者を見つけたらしい。
慶次郎は昌幸の判断を一瞬たりとも疑わない。
承知とばかりに頷いた。
いきなり馬首を転じては、味方が混乱する。
小さく迂回するようにして、敵勢を切り開きながら馬首をその方向に向けた。
みんなも疑問を抱かずについて来た。
そこは分厚い槍隊の隊列に守られていた。
慶次郎達の斬り込みに槍衾で頑強に抵抗した。
付け入る隙を与えない。
このまま続けると敵勢に包囲されてしまう。
すると、これまで敵勢の明かりを消し回っていた狐狸達が加勢に来た。
側面から「狐火」を放って急襲するではないか。
思わぬ事態に敵隊列は混乱した。
乱れに乗じて慶次郎は亀裂に突入した。
続く真田親子が亀裂をさらに押し広げた。
その三騎を味方の徒の者達が狂ったよう追い越す。
そして、勢いでもって敵勢を蹴散らした。
佐助と若菜が一心同体となった。
横から繰り出された槍を若菜が受け止めれば、
すかさず佐助が相手の手首を斬り離し、
次の瞬間には若菜が相手の首を斬り落とす。
こうして攻守を入れ代わりながら魔物達を打ち倒して行く。
ぴょん吉と哲也、ポン太は三位一体。
身長差を活かして低い位置を駆け、ここぞと思う場面で宙に跳び、
敵の目に拳を突き入れ頭蓋の内を一掻きする。
狐狸とはいえ本物の魔物。にわか魔物が太刀打ちできるわけがない。
三匹は競うように敵勢を翻弄した。
ヤマトは、ただ一匹、戦場から離脱した。
高い木に駆け上り、全体の戦況を見回した。
他でも徳川方が押していた。
数に勝る一揆勢だが、指揮系統が機能していないらしい。
あちらこちらで右往左往している部隊の、なんと多いこと。
ヤマトは敵に止めを刺すことにした。
枝の上から、星空に向かって雄叫びを上げた。
狐狸達の「ポンポコリン」を引き裂くように、
甲高く、長く尾を引く雄叫びが戦場に響き渡った。
猫の雄叫びではない。まさに龍の雄叫び。
聞く者達の肝を震え上がらせた。
間を置いて、周辺に散っていた獣達が同調。てんでに吼え始めた。
狐狸達は無論、猿に猪、熊が競うように雄叫びを上げた。
徳川方は獣達が味方と知っているので、呼応するように鬨の声を上げた。
一揆勢に動揺が走った。
何処でも隊列を切崩され、防戦に必死であった。
そこに徳川方の、人と獣の雄叫びが山々に木霊し、
不気味な無形の圧力となって押し寄せて来た。
一人が及び腰となり、一人が後退した。
と、弱気の虫の伝染するのは早い。
一人が逃げるや、釣られたように二人、三人と後に続く。
こうなると流れは押し止められない。隊列の一角が崩れた。
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最近、一般家庭の押し入れから拳銃が発見される事が多いとか。
そのほとんどが旧軍人の家です。
敗戦後、拳銃を記念品として自宅に持ち帰り、
油紙で包み大切に保管して置いたらしいのですが、
使う機会もなく、いつしか忘れ、本人も老衰で死亡・・・。
残された家族が遺品の整理をして、油紙に包まれた拳銃に気づき、
慌てて警察に連絡するのだそうです。
これは、そんな押し入れの小話。
その家は地方の旧家。
当代となり衰退の一途であった。
田畑、山の全てを売り払い、使用人、妻子も離れ、
男に残されたのは広大な敷地に建つ屋敷のみ。
それは雨の降る夜だった。
寝所で男は深い眠りについていた。
丑三つ時。押し入れから物音。ガサガサ・・・。
押し入れの襖が少し開けられ、生温い風が這い出してきた。
その風が床の間の人形の髪を揺らした。
家の「守り神」として代々に伝えられた人形だ。
男はこれだけは売らずに、家宝として残していた。
人形の目がうっすらと開けられた。
首を動かして、押し入れを見る。
口元から牙が覗き、声にならぬ声。
押し入れから覗く目。
男が寝入っているのを確かめると、
押し入れが内側から、ゆっくりと開けられた。
中から何者かが出て来た。
床の間の人形が、ガタガタと身震いを始めた。
そして、動いた。
信じられぬ速さで、押し入れから出て来た者に噛み付いた。
出て来たのは居着いている貧乏神。
その片足に人形が噛み付いたのだ。
貧乏神は人形を引き離し、慌てて押し入れに引っ込んだ。
別の家に引っ越そうとしていた貧乏神だったが、これでは怖くて引っ越せない。
かくして、その家の貧乏は守られた。
(2chに悪戯書きしたものを手直ししました。忘れてください)
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