ヤマトは背後の空気の揺らぎを感じた。
振り返りもせずに、軽く避けるように跳んだ。
元いた場所に何かが突き刺さる音。
たぶん老忍者の投じた手裏剣ではなかろうか。
ヤマトは相手にしない。
今は五右衛門が何よりも優先する。
再び床下に潜ると、外を目指した。
忍犬ならまだしも老忍者の足では、ヤマトには追いつけないだう。
代わりに言葉が飛んできた。
「黒猫、今にみておれ」と。
五右衛門達四人は囲まれてしまった。
前方と左右に「雑賀の忍び」が展開し、後方からは捕り手達が迫っていた。
雑賀の忍びは、かつての「紀州・雑賀鉄砲衆」の一部門であった。
「雑賀鉄砲衆」は織田・豊臣政権に頑強に抵抗した傭兵集団で、
石山本願寺の攻防戦で知られていた。
雑賀の地侍達が中核で、鉄砲の技量・物量では天下一。
防御戦において幾度も織田・豊臣いずれの軍をも撃退した。
その鉄砲衆の働きを裏から支えたのが「雑賀の忍び」と呼ばれる者達。
彼等は信長の働きかけで二つに分裂し、最後は秀吉に攻め滅ぼされた。
彼等が所司代の為に働いているとは知らなかった。
秀吉は仇の筈なのに。引き入れたのは誰だろう。
それらしい顔を次々と思い浮かべた。
少し離れた草薮に雑賀の鉄砲使い五人が隠れていた。
雑賀の忍びは個人としての戦いより、集団としての戦いを得意としていた。
これもその一つだ。
埋伏、さらに埋伏の二段構え。
五つの銃口が慎重に五右衛門達を狙っていた。
うちの二つが五右衛門一人に向けられていた。
殺すつもりはない。
多少の血を流しても、生きたまま所司代に引き渡すのが彼等の仕事だ。
これを切っ掛けに雑賀の名を復活させるつもりでいた。
一人が奇異な物音に気付いた。
振り返った時には遅かった。
多数の山猫達が殺到してきた。
戦場慣れしている鉄砲使いでも、こういう修羅場は初めて。
鉄砲を投げ捨て、身体を丸めて縮こまった。
無抵抗の彼等の上を山猫達が駆け抜けて行く。
五右衛門と対峙している者達の右側を突き抜けようとした。
忍びの一人が押し寄せる山猫達に慌てふためき、一匹を一刀両断した。
物悲しい悲鳴と、大量の血飛沫が上がった。
敵討ちであるかのように、別の一匹がその忍びに襲いかかった。
顔を引っ掻き、喉に噛みついた。
忍びは悲鳴を上げ、刀を捨てた。
両手で引き剥がそうとしたが、山猫の噛みつく力の方が強かった。
喉仏が鈍い音を立てた。
それを合図にしたかのように、山猫達が個々に雄叫びを上げた。
同時に他の人間達に襲うかかった。
跳躍力を武器に次々と跳ぶ。そして喉仏を的確に狙う。
五右衛門のみがヤマトの咆哮の意味を知っていた。
この時を待っていたのだ。
最初の犠牲者がでるや、「行くぞ」と配下を従え、包囲の一角を突き破った。
包囲していた雑賀の忍び達は、五右衛門どころではなかった。
乱入してきた山猫達から自分の身を守るので手一杯。
それでも数人が必死に逃れた。
仲間の救出より本来の役目の方が大事らしい。
傷だらけになりながらも、五右衛門を追跡した。
五右衛門は、「暫らく表稼業をしていろ」と、配下達を先に逃がした。
そして自分は追手を待ち構えた。
遅れて現れたのは四人。
荒々しい足音が、彼等の必死さを伝えていた。
木陰に隠れた五右衛門に気付いたようで、彼等も左右に散開した。
居場所を掴むや、交互に、かつ慎重に前進してきた。
連携されると戦い難い相手だ。
五右衛門は近くの藪にヤマトの気配を感じた。
反撃の機会到来。直ちに逃走を再開した。
逃走する五右衛門を四人が追った。
ヤマトの潜む藪の前を通過して行く。
ヤマトが動いた。後方より彼等を追う。
勢いをつけて跳んだ。
最後尾の忍びの肩に着地すると同時に、後頭部に軽く猫拳。
相手は声も立てずに昏倒した。
続けて跳ぶ。二人目も同様に倒した。
そして三人目。
が、相手は手強かった。
跳んだヤマトに振り返りざまの抜き打ち。
甘くみていたヤマトには躱せない。
急場凌ぎで、四足で左右から白刃を挟むようにして止めた。
別名「真剣白刃取り」。
ヤマトは四足で相手の刀を挟みながら、ぶら下がる形になった。
相手は唖然としながら、必死で刀を保持する。
ヤマトの殺気を感じ取るや、五右衛門が踵を返した。
先頭の忍びに斬りかかる。
一撃で決着をつけるかのように、刀を大上段に振り翳した。
相手は刀身を頭上に構え、防御した。
五右衛門は振り下ろす刀を変化させる。胴を薙ぐ。
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振り返りもせずに、軽く避けるように跳んだ。
元いた場所に何かが突き刺さる音。
たぶん老忍者の投じた手裏剣ではなかろうか。
ヤマトは相手にしない。
今は五右衛門が何よりも優先する。
再び床下に潜ると、外を目指した。
忍犬ならまだしも老忍者の足では、ヤマトには追いつけないだう。
代わりに言葉が飛んできた。
「黒猫、今にみておれ」と。
五右衛門達四人は囲まれてしまった。
前方と左右に「雑賀の忍び」が展開し、後方からは捕り手達が迫っていた。
雑賀の忍びは、かつての「紀州・雑賀鉄砲衆」の一部門であった。
「雑賀鉄砲衆」は織田・豊臣政権に頑強に抵抗した傭兵集団で、
石山本願寺の攻防戦で知られていた。
雑賀の地侍達が中核で、鉄砲の技量・物量では天下一。
防御戦において幾度も織田・豊臣いずれの軍をも撃退した。
その鉄砲衆の働きを裏から支えたのが「雑賀の忍び」と呼ばれる者達。
彼等は信長の働きかけで二つに分裂し、最後は秀吉に攻め滅ぼされた。
彼等が所司代の為に働いているとは知らなかった。
秀吉は仇の筈なのに。引き入れたのは誰だろう。
それらしい顔を次々と思い浮かべた。
少し離れた草薮に雑賀の鉄砲使い五人が隠れていた。
雑賀の忍びは個人としての戦いより、集団としての戦いを得意としていた。
これもその一つだ。
埋伏、さらに埋伏の二段構え。
五つの銃口が慎重に五右衛門達を狙っていた。
うちの二つが五右衛門一人に向けられていた。
殺すつもりはない。
多少の血を流しても、生きたまま所司代に引き渡すのが彼等の仕事だ。
これを切っ掛けに雑賀の名を復活させるつもりでいた。
一人が奇異な物音に気付いた。
振り返った時には遅かった。
多数の山猫達が殺到してきた。
戦場慣れしている鉄砲使いでも、こういう修羅場は初めて。
鉄砲を投げ捨て、身体を丸めて縮こまった。
無抵抗の彼等の上を山猫達が駆け抜けて行く。
五右衛門と対峙している者達の右側を突き抜けようとした。
忍びの一人が押し寄せる山猫達に慌てふためき、一匹を一刀両断した。
物悲しい悲鳴と、大量の血飛沫が上がった。
敵討ちであるかのように、別の一匹がその忍びに襲いかかった。
顔を引っ掻き、喉に噛みついた。
忍びは悲鳴を上げ、刀を捨てた。
両手で引き剥がそうとしたが、山猫の噛みつく力の方が強かった。
喉仏が鈍い音を立てた。
それを合図にしたかのように、山猫達が個々に雄叫びを上げた。
同時に他の人間達に襲うかかった。
跳躍力を武器に次々と跳ぶ。そして喉仏を的確に狙う。
五右衛門のみがヤマトの咆哮の意味を知っていた。
この時を待っていたのだ。
最初の犠牲者がでるや、「行くぞ」と配下を従え、包囲の一角を突き破った。
包囲していた雑賀の忍び達は、五右衛門どころではなかった。
乱入してきた山猫達から自分の身を守るので手一杯。
それでも数人が必死に逃れた。
仲間の救出より本来の役目の方が大事らしい。
傷だらけになりながらも、五右衛門を追跡した。
五右衛門は、「暫らく表稼業をしていろ」と、配下達を先に逃がした。
そして自分は追手を待ち構えた。
遅れて現れたのは四人。
荒々しい足音が、彼等の必死さを伝えていた。
木陰に隠れた五右衛門に気付いたようで、彼等も左右に散開した。
居場所を掴むや、交互に、かつ慎重に前進してきた。
連携されると戦い難い相手だ。
五右衛門は近くの藪にヤマトの気配を感じた。
反撃の機会到来。直ちに逃走を再開した。
逃走する五右衛門を四人が追った。
ヤマトの潜む藪の前を通過して行く。
ヤマトが動いた。後方より彼等を追う。
勢いをつけて跳んだ。
最後尾の忍びの肩に着地すると同時に、後頭部に軽く猫拳。
相手は声も立てずに昏倒した。
続けて跳ぶ。二人目も同様に倒した。
そして三人目。
が、相手は手強かった。
跳んだヤマトに振り返りざまの抜き打ち。
甘くみていたヤマトには躱せない。
急場凌ぎで、四足で左右から白刃を挟むようにして止めた。
別名「真剣白刃取り」。
ヤマトは四足で相手の刀を挟みながら、ぶら下がる形になった。
相手は唖然としながら、必死で刀を保持する。
ヤマトの殺気を感じ取るや、五右衛門が踵を返した。
先頭の忍びに斬りかかる。
一撃で決着をつけるかのように、刀を大上段に振り翳した。
相手は刀身を頭上に構え、防御した。
五右衛門は振り下ろす刀を変化させる。胴を薙ぐ。
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