【なぜ「社会保障と税の一体改革」が出てきたのか】<o:p></o:p>
この社会保障と税の一体改革は、実は菅政権がはじめて唱えた主張ではありません。社会保障と税の一体改革が本格的に政治日程にのぼったのは、福田政権の「社会保障国民会議」の下でです。さらに麻生政権の「安心社会実現会議」でも打ち出されていました。こうした路線が台頭する背景には、構造改革の急進的実行のもとで、貧困や格差、餓死、自殺、ネットカフエ難民の増大など社会の矛盾が爆発し、構造改革で打撃を受けた地方が衰退するという問題がありました。
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企業のリストラを強行し社会保障や公共事業投資を削減する構造改革をこのまま継続したのでは、大企業がうるおっても、社会が破綻して構造改革路線そのものが続けられない。こうした矛盾に対処するためには、若者の雇用・就労支援、生活保護給付の拡大など社会保障支出の強化は避けられない。そうかといって構造改革を止めるわけにはいかないので、その財源として消費税の引き上げで対処しよう。いわば構造改革延命のための路線として「社会保障と税の一体改革」が出てきたわけです。つまり、「一体改革」登場の背景には、雇用・貧困対策、社会保障について一定の手当ては必要だという認識があったことは否定できません。<o:p></o:p>
ところが福田内閣や麻生内閣には、構造改革の矛盾の激化を前に、国民に負担を強いる消費税引き上げなどを実行する政治力はありませんでした。それどころか、政権交代で民主党政権ができ、消費税引き上げは消えた。ところが、その民主党政権が再び構造改革に復帰するなかで、「一体改革」論があらためて菅政権のもとで消費税引き上げの口実として出されたのです。
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菅政権はこのコ体改革」をすすめるために、まず2010年10月28日に「政府与党社会保障改革検討本部」をつくります。しかし、ただ消費税を引き上げると言うだけでは国民の納得を得ることができない。社会保障を充実するという格好をつくらねばならない。そこで、「社会保障有識者検討会」を設け、一ヵ月で検討会の報告をもらいまし<o:p></o:p>
た。こうして消費税引き上げの口実をでっちあげたのです。
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しかし、消費税を引き上げるには、民主党内の強い反対論も押さえ込む必要があります。とくに一年生議員のなかには、○九年総選挙に、構造改革の政治に終止符を打つということを掲げて当選した人がたくさんいます。彼らにとつては、構造改革の政治の再建、TPP推進、消費税引き上げでは、次の選挙は勝てないという危機感があります。小沢派は――小沢は本来は構造改革の推進派ですが、菅政権に反対するという思惑で――、こうした一年生議員の構造改革に対する危惧を吸収すべく、消費税の引き上げに消極的な態度をとっています。そこで菅政権は、12月6日、仙谷由人のもとに党内に「税と社会保障の抜本改革調査会」を立ち上げて、党内での消費税引き上げ合意に動きます。これらの準備を整えた上で、今年二月には、「社会保障改革に関する集中検討会議」をつくり、消費税改革に乗り出したという経過です。
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ここで注目されるのは、有識者検討会にしても、集中検討会議にしても、「消費税」という言葉が一回も出ていないことです。菅政権が狙っているのは、社会保障改革ではなく、消費税引き上げです。ところが、それを掲げてしまうと国民は納得してくれない。そこで徹頭徹尾、「社会保障」を前面に出しながら消費税引き上げ論を推し進めているということをしっかり押えておく必要があると思います。<o:p></o:p>
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【菅政権の政治的無力と大連立の大合唱・挫折】<o:p></o:p>
参議院選挙の敗北、内閣改造後、菅政権はTPPと消費税を二つ掲げ、構造改革路線によりいっそう強く依存するようになりました。しかし、財界やマスコミが菅政権に全幅の信頼をおいたかといえば、そうではありませんでした。なぜなら菅政権が構造改革路線に傾けば傾くほど、支持率を低下させそれら課題を実行する政治力を喪失したからです。<o:p></o:p>
もともとTPPは、地域の農家や地場産業、あるいは国民が反対するというだけではなく、支配層のなかの議員たちや、有力な利益誘導団体と言われてきた農協とか医師会も強く反対しています。そのため実現には、政権に対してよほど強い国民の支持があるか、国会の圧倒的多数が支持していることが必要です。ところが菅政権は、強い支持もないし国会でも参院では過半数すら確保できない状況です。
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今年の正月に、「朝日」「読売」という大マスコミが、こぞって「大連立」の方向を打ち出した背景には、こうした菅政権のゆき詰まり、構造改革の路線を掲げながら構造改革路線が実現できないことにたいする、支配階級のいらだちと不満がありました。事態を突破するための唯一の方策として大連立が打ち出されたのです。<o:p></o:p>
しかし、結果的に、3月11目前には、マスコミや財界のバックアップにもかかわらず、この大連立は実現できませんでした。まず、大連立の相手である自民党が、菅政権がこれだけ国民の不人気のもとでは、総選挙をやって自民党政権をつくったうえで自民党主導の大連立の方が手っ取り早いと考えたからです。また、民主党側でも菅直人首相が、自分か辞めるのがいやで、大連立をいやがった。これが3・11前に財界とマスコミが一致しながら、大連立ができなかった理由です。そこに大震災が襲ったのです。<o:p></o:p>