財源や権限吸い上げ
市町村は成り立たない
「大阪都構想」の実像は
大阪府の橋下知事と「大阪維新の会」は、府と大阪市を解体・再編する「大阪都構想」を来春のいっせい地方選での最大政策に掲げています。大阪市を8~9の特別区に再編することが中心の構想で、知事は「大阪全体の景気を上げる」ものと豪語しています。狙いは何か。
「大阪都構想」をどう見るか
都制度は、市町村の財源や重要な権限を都に吸い上げるものです。「大阪都」は、広域インフラ整備を担う開発行政の特化を目的としていますが、福祉などの基礎行政をすべて受け持たされる市町村は、財政上、とても成り立ちません。
財源が豊かな東京23区と違って大阪ではどうなるのか。東京都のように主な税金の半分を吸い上げれば、国が地方交付税の削減を続けるなか、毎年約3000億円の交付税を受ける財政難の大阪府は市町村との間で少ないパイを奪い合うことになります。さらなる「行革」や住民サービスの削減につながります。
税収が増える保証は何もない
大型インフラによって企業が集まり雇用が増え、福祉も充実する、という発想に基づく地域開発は、歴史的に失敗しました。
湾岸線の道路整備や関西空港2期工事など、大規模投資で借金まみれになっても、税収が増える保証は何もない。知事は何ら具体的には示せずに幻想を振りまいているだけです。
どう経済成長するかを考えていく上で、なぜ大阪経済が衰退したのかという検証が何もないのが問題です。企業の本社機能がなぜ東京にどんどん移ったのか。
国の省庁機能が東京に集中しているのが大きな要因で、知事がワンフレーズ型で言う府と大阪市の間での二重行政や都制度の問題とは全く違う話です。まずは冷静に考えることが大事です。
その点で経済成長のあり方も問うべきです。橋下知事が導入を狙うカジノでの大もうけで犯罪が増える、お金持ちの病人を海外から受け入れる体制を強化する一方、府民への医療は悪化する。どちらも経済成長の量しか表わしていません。成長の質も問うべきです。
そもそも橋下知事の言う「二重行政」とは何なのか?
体育館や大学が二つあるといっても「二重」ではなく量的な補完であり質的な補完であったりします。知事は結局、一度は破たんした大阪湾の港湾開発や、市営地下鉄の民間売却など、大都市大阪市の再開発・産業政策に手を出したいだけです。
都道府県は中間団体であって、本来、「補完」と「調整」機能で地域内の一定の行政水準を守るの役割があります。市町村間で格差が広がれば調整が必要です。しかし、それを完全に切り離すというのが知事の発想です。
いきなり分割、あまりに乱暴
今後の議論で求められるのは、もっと落ち着いて日本全体や大阪とう地域のあり方を考えるべきです。
知事は大阪市内の区と東京都の23区をすぐ比較しますが、質的にも違うものを比べるのはおかしい。自立を求め、法律上、独立した基礎自治体になった23区に対し、「大阪都」は大阪市を解体・吸収するもので、間違いなく財源も権限も少なくなる区は衰退していきます。完全に本来の地方分権と逆行しています。
都市は歴史的産物で文化があり、長い積み重ねによる経済構造があります。それを無視して、いきなり分割するという発想はあまりに乱暴です。
確かに大阪市には「住民の顔が見えない」という弱点がありますが、どの大都市でも苦労している問題です。今まで空洞化させてきた現行の区制度をきちんと充実させるのが大事です。
本来の地方分権では、自治体の自己決定権を拡充するのが大事です。「大阪都」では区への事務・財源配分はどうなるのか、「大阪都」になってどれだけ税収が増えるのか、不透明なままです。慎重に議論していくうえで、主権者である住民に十分な情報が示されねばなりません。