木のつぶやき

主に手話やろう重複の仲間たちのこと、それと新聞記事や本から感じたことを書き込んでいきます。皆様よろしくお願いします。

手話通訳者だったら・・・

2010年03月22日 09時32分38秒 | sign language
 裁判員裁判における「通訳」の難しさを痛感する記事をアサヒ・コムで見かけた。
 この事件の概要を読んで私はすぐに「メルボルン事件」を思い出した。でも、むしろ「ニック・ベイカー事件」(日本手話通訳士協会が出している手話通訳士ブックレット9「司法通訳の意義と通訳人の心得」(講師 水野真紀子さん)に掲載)に近いタイプの事件かもしれない。
 ■参考1「ニック・ベイカー事件に関する日本通訳学会の見解
 ■参考2「日本通訳学会ホームページ
 ■参考3「日本通訳翻訳学会ホームページ」(スミマセン、「日本通訳学会」は、現在「日本通訳翻訳学会」となっていました。)
 今話題になっている「裁判員」裁判における通訳の問題と、今回の「被告人」に対する通訳の問題は異なるのかもしれないが、「誤訳」という問題に対する「通訳人」への社会の関心が高まり、その責任が問われる時代になっていることを痛感した。
 さきに紹介したブックレットの27ページには「問題の所在」として4点指摘されている。
(1)被告人の話す英語の特徴があまりにも日本人の通訳には対処できないような難しい発音の英語であったこと。
(2)通訳人の資質、能力にも問題があったこと。
(3)通訳人の選任体制の不備。
そして最後に
(4)意思疎通の成否の確認方法というのが甘かった、ほとんどされていないまま終わっていた。 
 当たり前だけど、どれも手話通訳における課題にも当てはまる。特に4番目の「意思疎通の成否の確認方法が甘かった」という点は、司法通訳の特殊性を踏まえた事前研修で少しでもカバーできる問題と思う。

 それから「誤訳」そのものももちろん重要な課題だけれど、私はむしろ水野さんらによる「鑑定」が「誤訳」の問題を指摘したことに注目した。
 手話通訳者の世界でもこうした「鑑定=相互検証」というシステムと、それに併せて「誤訳」という指摘を受けた時の「手話通訳者の身分保障」の問題を予め整理し、何らかの制度を整備しておかなければ、通訳の引き受け手がいなくなくなってしまうのではないだろうかと感じた。
asahi.com 2010年3月21日21時17分より>
裁判員裁判で通訳ミス多数 専門家鑑定 長文は6割以上

 大阪地裁で昨年11月にあった覚せい剤密輸事件の裁判員裁判で、司法通訳人2人が外国人被告の発言を英語から日本語に訳した際に、「誤訳」や「訳し漏れ」が多数あったと専門家が鑑定したことがわかった。長文に及ぶ発言では全体の60%以上になると指摘している。被告の弁護人は「裁判員らの判断に影響を与えた可能性が高い」とし、審理を地裁に差し戻すよう控訴審で求める。

 この被告はドイツ国籍の女性ガルスパハ・ベニース被告(54)。知人女性らから依頼され、報酬目当てで覚せい剤約3キロをドイツから関西空港に運んだとして、覚せい剤取締法違反(営利目的輸入)の罪に問われ、懲役9年、罰金350万円の判決を受けた。

 南アフリカ生まれの被告は英語が母語であることから、地裁は男女2人の英語の司法通訳人を選任。2人は交代で通訳にあたった。被告は法廷で「違法な薬物を運んでいるという認識はなかった」と無罪を主張したが、判決は「罪を免れるための虚偽」と判断し、容疑を認めた捜査段階の供述のほうが信用できるとして実刑を導いた。

 控訴審から弁護人になった渡辺●修(ぎしゅう、●は「豈」の右に「頁」)弁護士(大阪弁護士会)は今年2月、通訳内容を検証するため、司法通訳人の活動実績もある金城学院大文学部の水野真木子教授(通訳論)に、地裁が2日間の審理の過程をすべて録音したDVDの鑑定を依頼した。

 その結果、主語と述語がそろった文を二つ以上含む被告の発言の65%(61件中40件)で、意味を取り違える「誤訳」や、訳の一部が欠落する「訳し漏れ」があったとした。「はい」「いいえ」といった一言のやりとりを除く短い発言を含めると、通訳ミスは全体の34%(152件中52件)でみられたという。

 水野教授は、鑑定書で「通訳人は発言内容を十分理解していない」と指摘。裁判員らの心証形成に影響を与えた可能性が大きいと結論づけた。

 鑑定によると、たとえば、被告人質問で弁護人から「結果として覚せい剤を持ち込んでしまったことへの思い」を問われた際、被告は「I felt very bad」と答えたが、男性通訳人は「非常に深く反省しています」と訳した。水野教授は「心や気力が砕かれた状態をいう表現で、反省の弁ではない」と指摘する。

 また、覚せい剤が入っていたスーツケースに知人女性が白い結晶入りの袋を詰めるのを見たと話していた被告が、検察官の質問に「nothing done with the suitcase」と述べた部分を、女性通訳人が「スーツケースには何の細工もされていなかった」とせずに、「スーツケースは空だった」と訳したのも文脈からすれば誤り、としている。

 渡辺弁護士は「無罪主張の被告が急に反省の弁を述べたり、虚偽の説明をしたりしたように受け止められた恐れがある。被告が適正な裁判を受ける憲法上の権利を侵害されたのは明らかだ」と話す。

 一方、法廷での通訳を長年務めてきたという担当通訳人の男性は取材に「通訳人2人のチームで臨み、最善を尽くした。裁判員と裁判官は、すべての証拠を総合的に判断したと理解している」と話している。大阪地裁の広報担当者は「個別の裁判に関してはコメントしない」としている。(阪本輝昭)
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