【岡山・岡山市】寺伝では、奈良時代の天平勝宝三年(751)、周防国玖珂庄(今の山口県岩国市)に住んでいた藤原皆足姫が観音菩薩の妙縁を感じて金岡の郷に草庵を開基し、千手観音像を安置したのが始まり。
宝亀八年(777)、大和長谷寺で修行していた安隆上人が「備前金岡庄の観音堂を修築せよ」と夢にお告げを受けて、現在地に堂宇を建立したとされる。 お告げを受けた安隆上人は、藤原皆足姫の擁護のもとに海路を船で金岡の庄に向かうが、児島の槌戸ノ浦にさしかかった時、犀角を持った仙人(龍神)が現れて『この角を持って観音大師影向の聖地に御堂を移せ』との霊告を受けたとされる。
宗旨は高野山真言宗(別格本山)で、本尊は千手観世音菩薩像。 中国三十三観音霊場第一番札所、百八観音霊場(中国観音霊場、四国三十三観音霊場、九州西国霊場の3霊場の連携体)では第一番(本堂)・第二番(境内の南海観音)札所。
◆JR赤穂線の西大寺駅から観音院通りを南下し、途中から「会陽わっしょい通り」を東に進むと、路面に「はだかまつりのまち西大寺」と意匠されたマンホールの蓋を見つけた。 そこから狭い参道の奥に楼門が見える。
門前に擬宝珠欄干付き石造り太鼓橋を構えた三間一戸の仁王門で、両側の金剛柵の奥に金剛力士像が鎮座している。 県下最大級とされる仁王門は和様と禅宗様とを併用した造りで、珍しい四手先の腰組など組物を多用、台輪上の組物間の中備彫刻、回縁の逆蓮頭親柱、上端に粽を設けた柱、そして屋根上の渦巻状の鳥衾付き鬼瓦など装飾性があって大いに興味を引いた。
仁王門をくぐると緑が少ない本堂の境内が広がり、仁王門の傍に三重塔、高祖堂そして六角経蔵が建ち、正面には西面の仁王門に対し南面で豪壮な本堂が建つ。 本堂で参拝した後、仁王門に戻り、手水舎、高祖堂、三重塔そして経蔵を拝観。
三重塔は塔身と相輪のバランスがよく、均衡のとれた古式な塔で、安定したプロポーションを見せている。 組物は三層いずれも三手先だが、三手目の突き出た尾垂木がよく目立つ。 初層の中央間と脇間は、本堂側のみが格子窓と花頭窓で、他の三方は桟唐戸と連子窓だ。
白壁の六角造りの経蔵に入ると、江戸後期作の八注造りの回転式書架「輪蔵」が安置されている。 案内にしたがって輪蔵を時計回りにゆっくり廻し、廻しながら世の安寧を祈願してから吉井川の堤防沿いに建っている石門に向かった。
△仁王門参道の路面にある「はだかまつりのまち西大寺」と意匠されたマンホールの蓋....参道奥に仁王門が見える
△仁王門の門前に石造り擬宝珠欄干付太鼓橋と石造り擬宝珠付き透かし塀がある....太鼓橋は享和元年(1801)の造立....外観から石造り透かし塀も同時期の造立と推
△入母屋造本瓦葺で楼門の仁王門....元文五年(1740)の建立(伝)....和様と禅宗様を併用した県下最大級の楼門
△中央間の梁上に大瓶束、台輪上の組物間の中備に十二支の装飾彫刻が施されている
△軒廻りは二軒繁垂木、組物は二手目と三手目が尾垂木の三手先、親柱に逆蓮頭を乗せた高欄を支える腰組は四手先....全周の台輪上に精緻な彫刻が施されている
△正面中央に詰組があり、組物間の中備は脚間に十二支の彫刻を配した本蟇股、軒支輪がある
△大棟端に鯱、平降棟端と隅降棟端に鳥衾付き鬼瓦...鳥衾は長く伸び渦巻状の形/丸柱の頭部に粽を設けている
△金剛柵奥の小さな網目の金網の中に伽藍を守護する一対の金剛力士像が鎮座
△仁王門の右奥は祖師堂、左隣に手水舎がある
△切妻造本瓦葺の手身舎....右三つ巴が彫られた軒丸瓦が異様に大きい/口から清水を吐く龍の水口
△宝形造本瓦葺の高祖堂(御影堂・大師堂)....延宝年間(1673~1681)の建立で、延宝三年(1675)作の木造弘法大師像を祀る
△三間四方で軒の出が深い高祖堂....正面中央間は腰高の格子窓で脇間から入る扉は舞良戸
△扁額「高祖堂」は高僧・佐々南谷の書/軒廻りは二軒繁垂木、組物は出組で中備は彫刻を施した本蟇股....支輪全てに精緻な彫刻を施している
△仁王門越しに眺めた三重塔と石門
△本瓦藁の三重塔....延宝六年(1678)の再建で、塔内に胎蔵界大日如来を安置
△塔身と相輪のバランスがいい三重塔.....和様を基調としながら一部に禅宗様を取り入れている
△初層に擬宝珠高欄付き切目縁、二層三層に組高欄を巡らす
△初層は三面(南・北・西側)の中央間が桟唐戸で脇間は連子窓だが、本堂側(東側)は中央間に格子窓で脇間は花頭窓
△初層の軒廻りは二軒繁垂木で軒支輪と軒天井がある、組物は三手目が尾垂木の三手先....台輪上の中備は中央間が彫刻を施した本蟇
△二層三層の軒廻りはいずれも三手目が尾垂木の三手先、中央間にのみ蓑束の中備....組高欄付き縁を支える腰組は雲肘木(と思う)
△初層の本堂側(東側)は中央間が格子窓、両脇間は花頭窓
△六注造本瓦葺の経蔵....嘉永七年(1854)の建立で、中に膨大な経典を納める八面形回転式書架がある
△八注造りの輪蔵(回転式書架)....文化二年(1805)の造立、軒廻りは二軒扇垂木、組物は二手目と三手目が尾垂木の三手先、2つの詰組がある
△回縁を支える腰組は四手先....回縁に突き出た突起部を押して左回転(時計回り)させながら祈願する