Truesdell が Mathematical Reviews 12, p.561 に記したとされる有名なコメント
"This paper gives wrong solutions to trivial problems.
The basic error, however, is not new."
を見て,元の記事を探してみようと思い立った。一体どんな論文がこんな風に酷評されてしまったのかと,ゲスな好奇心を抱いたのである。
Mathematical Reviews は今年で75周年を迎えた。今では MatheSciNet® というオンラインの検索サービスにおいて reviews が提供されている。
このサービスは無償で一般公開されているわけではないが,理系の学部がある大学の端末からならば利用可能であろう。
始めはどうやってこの記事をピンポイントで見出すかがわからず,とりあえず著者名 Truesdell で review 記事を検索したが,ヒットした500件もの候補の中から該当記事を見つけ出すのはかなりの時間と労力を要するように思われ,数十分間取り組んだのち,別のアプローチを試みることにした。
MatheSciNet® のフル検索画面で MR 番号という検索キーが使用できることに気づき,"12 #561" というキーワードで検索してみた。
巻数とページ数をこのように入力するのではないかと他の review 記事に割り振られた番号から類推したのである。
その結果,7件のヒットがあり,その中に該当記事が見つかった。めでたしめでたしである。
レビューがこの簡潔な二行足らずの文章なのかと思っていたが,真相はそうではなかった。そもそも,上に引用した文章の最初の文からして正確な引用ではなく,原文を一部省略している。また,この引用文の後には「もし評者が著者の未定義語や誤植を正しく理解しているならば」と続け,論文の著者は,後に Brill と Bessinesqu によって誤りを指摘された St.-Venant の応力と歪の関係式を用いていると述べている。これが "The basic error, however, is not new." という指摘の具体的な内容である。
また,"wrong solutions" というのは,等方的な物質を伝播する波の速さとして著者がスカラー量とは異なるものを得ていることを指している。
というわけで,もしも論評が冒頭に掲げた簡潔な文章であったとすると,まさに一刀両断に切り捨てた冷徹なコメントという感じがするが,原文を見るとその印象はずいぶんと和らぐ。
冒頭に挙げたバージョンの引用は,おそらく Paul Halmos によるものではないかと思われる。少なくとも彼は "I want to be a Mathematician" という自伝の中で,review コメントの中で強く印象に残っているものとしてこの Truesdell のコメントを,冒頭に述べた形で引用している。そしてこの文章は現在もいくつかの web サイトで原典にあたることなく孫引きされている。
果たして天国の Truesdell や Halmos はこの現状を見て何というのであろうか。
なお,Truesdell が論評した論文はスペイン語で書かれたもののようだ。Truesdell はこの他にもイタリア語,ドイツ語,ロシア語の文献のレビュー記事を書いているので,少なくとも数か国語に精通していたと思われる。St.-Venant らの論文はフランス語なので,当然フランス語も解したのであろう。こうした昔の大学者と比較すると,わが身のなんとお粗末なことかと嘆息を禁じえない。
"This paper gives wrong solutions to trivial problems.
The basic error, however, is not new."
を見て,元の記事を探してみようと思い立った。一体どんな論文がこんな風に酷評されてしまったのかと,ゲスな好奇心を抱いたのである。
Mathematical Reviews は今年で75周年を迎えた。今では MatheSciNet® というオンラインの検索サービスにおいて reviews が提供されている。
このサービスは無償で一般公開されているわけではないが,理系の学部がある大学の端末からならば利用可能であろう。
始めはどうやってこの記事をピンポイントで見出すかがわからず,とりあえず著者名 Truesdell で review 記事を検索したが,ヒットした500件もの候補の中から該当記事を見つけ出すのはかなりの時間と労力を要するように思われ,数十分間取り組んだのち,別のアプローチを試みることにした。
MatheSciNet® のフル検索画面で MR 番号という検索キーが使用できることに気づき,"12 #561" というキーワードで検索してみた。
巻数とページ数をこのように入力するのではないかと他の review 記事に割り振られた番号から類推したのである。
その結果,7件のヒットがあり,その中に該当記事が見つかった。めでたしめでたしである。
レビューがこの簡潔な二行足らずの文章なのかと思っていたが,真相はそうではなかった。そもそも,上に引用した文章の最初の文からして正確な引用ではなく,原文を一部省略している。また,この引用文の後には「もし評者が著者の未定義語や誤植を正しく理解しているならば」と続け,論文の著者は,後に Brill と Bessinesqu によって誤りを指摘された St.-Venant の応力と歪の関係式を用いていると述べている。これが "The basic error, however, is not new." という指摘の具体的な内容である。
また,"wrong solutions" というのは,等方的な物質を伝播する波の速さとして著者がスカラー量とは異なるものを得ていることを指している。
というわけで,もしも論評が冒頭に掲げた簡潔な文章であったとすると,まさに一刀両断に切り捨てた冷徹なコメントという感じがするが,原文を見るとその印象はずいぶんと和らぐ。
冒頭に挙げたバージョンの引用は,おそらく Paul Halmos によるものではないかと思われる。少なくとも彼は "I want to be a Mathematician" という自伝の中で,review コメントの中で強く印象に残っているものとしてこの Truesdell のコメントを,冒頭に述べた形で引用している。そしてこの文章は現在もいくつかの web サイトで原典にあたることなく孫引きされている。
果たして天国の Truesdell や Halmos はこの現状を見て何というのであろうか。
なお,Truesdell が論評した論文はスペイン語で書かれたもののようだ。Truesdell はこの他にもイタリア語,ドイツ語,ロシア語の文献のレビュー記事を書いているので,少なくとも数か国語に精通していたと思われる。St.-Venant らの論文はフランス語なので,当然フランス語も解したのであろう。こうした昔の大学者と比較すると,わが身のなんとお粗末なことかと嘆息を禁じえない。
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