僕が目にすることができた本で,ブレッドボードを用いた電子回路・工作入門書について,こんな順序で読み進めるといいのかなぁ,と思うところがあるので,ここにメモしておく。
まず,電子工作の経験が全くないビギナー向けとしては,
スタパ齋藤・船田戦闘機共著『武蔵野電波のブレッドボーダーズ』(オーム社)
が最適だろう。全体的にオシャレな雰囲気が漂う本であるが,工具の選び方や用語の解説など,初心者向けの配慮が行き届いているという印象である。逆作用ピンセットはこの本で初めて知り,さっそく買った。はんだごてやテスターもこの本で進めている物を買ってしまった。もちろんパーツの買い方についても詳しい解説がある。
入門書という性格からは当然のことであるが,回路の動作原理の詳細な解説はない。その代り,いろいろな種類の電子部品を登場させて,この分野の奥行きの深さを余すところなく感じさせてくれる。特に一番最後に Arduino というマイコンボードが紹介されているが,Arduino の世界に足を踏み入れると世界は格段に広がることだろう。その可能性を感じて,Arduino スターターキット一式も買ってしまった。
この本で紹介されている作品は,ラジオやアンプといった定番のものをはじめ,自作コイルを用いた昇圧回路など,ちょっと珍しいものまで色とりどりである。ただ,デジタル回路の例と言えるのは Arduino を用いたものだけである。
電子工作の世界の全貌を概観し,可能性を展望するにはうってつけの一冊である。まさに入門書としてふさわしいと思う。
ブレッドボードでは部品の取り換えが容易なので,部品の数値を変えて回路の動作を調べる実験に向いている。そういった実験の結果を交えてかなり多くの回路が紹介されているのが,
橋本剛著『ブレッドボードで始める電子工作』(CQ 出版社)
である。ただし,全くの初心者を対象としたチュートリアルはほとんど書かれていない。ある程度電子工作の経験があり,もっとさまざまな回路を試してみたいという,入門者から初級者~中級者へと進もうと考えている人には格好の材料をたくさん与えてくれる。回路自体の種類は多いが,カテゴリーとしてはラジオと発振回路にほぼ限定されている。ロジック IC を用いた例もあるが,それはデジタル回路というよりも発振回路の一種である。
著者のサイトにはこの本に載っているのとほぼ同じ記事が多く載っているが,そのほかにも興味深い回路の例がたくさんあるようだ。
第1部の準備編では,実験に使用するための部品のリード線の加工の仕方など,実験をスムーズに進めるための素晴らしい工夫が多数紹介されている。そのうちの一つである AM ラジオ用のバーアンテナのリード線の付け方は,下手に我流に走らず著者のやり方をそっくり拝借させていただけばよかったと後悔しているところである。穴あけなどの加工をしたアルミシャーシにブレッドボードを取り付けた,まさに実験装置と呼ぶにふさわしい装置の作り方も紹介されているが.僕はまだ到底そこまでの域に達していない。けれども,とてもカッコいい装置に仕上がっているので,憧憬の的である。
僕は発振回路に関心を寄せているが,このサイトにある「ネオン管発振回路」の記事にも強く惹かれる。ちょうど小さなネオン管をいくつか買ってあるので,それらを活用するいい機会でもあるので参考にさせていただこうと思っているが,とりわけネオン管2個の点滅回路の実験レポートは興味深い。その実験結果によると,どうやらネオン管でフリップフロップが作れるようなのである。発振回路の一つに無安定マルチバイブレータというのがある。その仲間に双安定マルチバイブレータというものもあるが,それはデジタル回路の分野でフリップフロップと呼ばれるものに他ならない。ネオン管発振回路の振動数を遅くするとフリップフロップのような動作をするというのは,これら二種類のマルチバイブレータの間の何らかの関係を示唆しているように思える。両者の関係がまさに僕が一番関心を抱いていることなので,ぜひこの回路について研究したいところである。
西田和明著『たのしくできるブレッドボード電子工作』(東京電機大学出版局)は,「基礎編」に初心者向けの電子部品の解説がある。それにはデジタル回路の基礎も含まれている。「製作編」には多くの回路例が紹介されているが,デジタル回路が中心であり,そういう意味では『ブレッドボードで始める電子工作』と相補うような内容になっている。ただ,著者の西田和明氏にはラジオ工作の本を始め,電子工作関連の著書がたくさんある。そういう観点からすると,この本はその中の「デジタル回路入門編」といった位置づけと言えるのかもしれない。西田和明氏の著作を揃えれば,電子工作のほとんどの分野をカバーできるに違いない。
サンハヤトというメーカーから,この本で紹介されている作品の大半を製作することができる
セットが販売されており,それを用いればパーツ集めに悩むことなくすぐに製作にとりかかれるだろう。そういうサービスが充実している点では,最も初心者に向きといえるかもしれない。
入門,初級の段階から,自分で回路を設計できるようになることを見据えてより深く電子回路について学ぼうというのであれば,例えば
高木誠利著『実験回路で学ぶトランジスタと OP アンプ』(CQ出版社)
が要望に応えてくれそうである。オシロスコープで見た波形なども交えて詳しく回路の動作を解説してある。宿題と銘打たれた演習問題(巻末に解答がある)まで用意されているので,実質的に教科書といってよいだろう。僕にはまだ高根の花だが,ごく一部だけでも理解できることを願っている。記述は平易だが,内容はかなり本格的である。
他にも良書はたくさんあるに違いないが,いかんせん,最近電子工作に再入門を果たした僕ごときがそれらを網羅できるはずもない。けれども,今後もしばらくこの手の本は漁るつもりなので,紹介したい本が溜まったら今回のようなメモを残そうと思っている。
なお,最近書いたブログ記事にコメントをして下さった方の
サイトにはブレッドボードを用いた実験に関して,初心者向けのチュートリアルから膨大な数の回路例までが網羅されている。このサイトも大いに活用させていただくつもりである。