担当授業のこととか,なんかそういった話題。

主に自分の身の回りのことと担当講義に関する話題。時々,寒いギャグ。

LM3909 という名の IC.

2013-03-21 23:58:45 | 工作・実習
思い出の書,丹羽一夫著『作って遊ぼう!おもしろ電気工作』(小学館入門百科シリーズ167)には自作用の作品例が9つ掲載されている。

この本は子供向けの入門書であるから,回路の解説はほとんどない。したがって,改めて見直すと,回路図たちがこう囁きかけてくるかのようである:

最初の出会いから数十年が経過してキミはいい大人になったようだけど,ボクたちの動作原理を解読できるかい?,と。

激しく狼狽しながら,僕は心の中でこう言い訳する:

いや,確かにね,数十年が経ったけどもね,その間ろくに回路理論を勉強してこなかったから,僕の知識レベルは小学生当時のものとほとんど変わっていないんだよ。

というわけで,回路図の個々の記号の意味はわかるものの,全体としての機能がまるで理解できない。さながら,外国語で書かれた文章を前にして,単語一つ一つの意味はわかるけれども,文全体として何を言っているのかさっぱりわからずに悩んでいるのと同じである。

9つの回路図たちは,僕にとって,ブラックボックス以外の何者でもない。

なお,この本には回路の動作に関する詳しい解説がないといっても,ときおり回路図中の抵抗器の値を変えたらどうなるか,試してみるよう促す記述がある。基本的にラグ版(部品を取り付けるための金属端子のついた板)やプリント基板に部品をはんだ付けするというオーソドックスなスタイルの工作であるから,一度はんだ付けしてしまったら,手軽に部品を取り換えるわけにはいかない。そういう意味で,工作教室などでなく,一人でパーツを集めて作っていた僕のような子供たちは,こういった実験をすることはほとんどできなかった。いったん完成させたらそれでおしまい,というのが関の山であったのである。けれども,著者の教育的配慮は,ブレッドボード全盛の現在にこそ輝きを放つように思える。丹羽一夫氏の最近の著書には『実践 作って覚える半導体回路入門』という,僕のような人間のために用意して下さったかのようなタイトルの本があるので,こちらにもいずれ挑戦したいと思っている。

『おもしろ電気工作』には LED を点滅させる作品が2つ紹介されている。しかし,当時生意気盛りの小中学生だった僕は,LED を光らせるだけなんてつまらないと思っていた。大人になった今では,逆に点滅させるだけの回路にとてつもなく大きな魅力を感じている。まるで子供の頃に(多分に食わず嫌いで)嫌いだった食べ物が大人になって好物になったかのようなものである。

それら2つの LED 点滅回路の内訳は次のようである。一つは「弛張(しちょう)発振回路」として有名なトランジスタ2石を使用するものである。ただし,「弛張発振回路」なんていう小難しい用語はこの本では一切伏せてある。とはいっても,回路の仕組みに全く触れていないわけではなく,トランジスタが「電子スイッチとして働」いていると,ポイントそのものずばりを簡潔に述べている。つまり,トランジスタのデジタル的な動作を利用した発振回路だということである。これはこれでトランジスタ2石と抵抗,コンデンサそれぞれひとつずつの簡単な回路なので,早いところ自分で実験してみようと思っている。僕の好きな無安定(astable)マルチバイブレータも弛張発振回路の一種だと,とある本に書いてあった。

もう一つの LED 点滅回路は LM3909 という IC と抵抗 8 個,コンデンサ 1 個のものである。抵抗の個数がかなり多いように思えるが,それは,LED を 6 個並列に光らせるというハデなことをしているからである。

子どもの頃と同じように回路図をぼんやり眺めていたら,とんでもないことに気が付いた。電源は単三の乾電池 1 本なのである。つまり,1.5 V の電源で,光らせるのに 2 V は必要なはずの LED を駆動しているわけである!

これは僕が追いかけているテーマの一つ,チャージポンプ(昇圧)回路ではないか!

子どもの頃の僕はその事実にちゃんと気づいていただろうか。たぶん気づいていなかっただろう。もし気づいていたなら,今から何年も前の昇圧回路に興味を持ち始めた頃にこの回路のことを思い出してしかるべきであったはずだが,そんな覚えはない。

というわけで,ぜひともこの回路を実験してみたくなり,LM3909 が売られているかどうかを探した。もしもう廃盤になってしまったとしても,データシートがあれば同等品を探す手がかりになるかもしれないし,等価回路が載っていればどうにか再現できるかもしれない。

そう考えて "LM3909" をキーワードに検索したところ,この IC は知る人ぞ知る,超有名どころだったことが判明した。動画までアップされているにぎわいっぷりである。『ブレッドボードで始める電子工作』(CQ出版)の著書,橋本剛氏のサイト「ブレッドボードラジオ」には LM3909 を用いたいろいろな実験回路が紹介されている。ただ,すでに生産が終わっているらしい LM3909 は手に入りにくい部品なので,さすがに『ブレッドボードで始める電子工作』にはそれらは採録されていない。ただし,その代わりに 1.5 V の乾電池 1 本で LED を点滅させる昇圧回路が数種類紹介されていて,僕にとって勉強しなければならない本の一冊である。(ただ,これも入手が困難な PUT と呼ばれる半導体 N13T1 を使った発振回路は載っている。)

入手が難しいとはいっても,売っている店が極端に少ないというだけであって,売っている店はあることはある。ついに通信販売で部品を買う時が到来したように感じているが,LM3909 のデータシート(この IC の機能はそのものずばり,LED フラッシャーであることがわかる)に記載された等価回路を自分で実装するという道も魅力的である。そして実際,それを実践している先人たち何人かどうやら海外にも )いらっしゃる。頼もしい限りである。なお,外国の方は "An De-Integrated Circuit" と表現し,邦人の方の一人は「ローテクに走った」というような表現を使っておられる。まさに僕の目指すべき先達である。

昇圧回路を理解するということは,トランジスタの電子スイッチとしての機能を極めることに他ならないのではないかとにらんでいる。これが片付いてようやくデジタル回路に進めるのではないか,とさえ思えてきた。
ディスクリート(集積回路というワンチップの IC ではなく,個々の部品を組み合わせて組んだもの,というような意味だろうか)で LED フラッシャーを組むのは少し先のことになるだろうが,今回見つけた先人たちの回路を参考にさせていただくつもりである。


この話はこれでおしまいだが,一つだけおまけの話を書いておく。

PUT が手に入る店を検索して調べていた過程で,「電子機器組み立て」という国家技能検定があることを知った。はんだ付け技術検定なんてものがあったら面白いかも,なんてことを冗談半分に書いたことがあるが,実際に,しかも国が認定する大真面目な検定として存在したとは。僕が想定していたのは『TVチャンピ○ン』みたいなノリの大会だったのでちょっと路線が違うが,似たようなものであることは確かである。将来的に取得を目指すのもありかな,なんてね。
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LED vs シリコンダイオード。

2013-03-21 01:43:18 | 工作・実習
今では廃盤になってしまったと言われる小信号用スイッチングダイオードのかつての代表選手,1S1588 と LED を用いて簡単な実験をしてみた。

次の2通りの回路で LED が点くか点かないかを観察する。

まず,LED に 3V の電源をつなぐ(図1)。

468Ω(要するに470Ω)の抵抗は電流制限用である。

そうすると,当然のことながら LED は点灯する(図3 ※よく計画を練らずに図番号を付けたので,順番が変になった)。

LED の両端の電圧を測定したところ,1.869V であった。2.4mA 程度しか流れていないだろうに,そこそこ光るものである。


では,LED と並列にシリコンダイオード 1S1588 をつないだらどうなるだろうか(図2)。


実験をする前に予想を立ててみよう。

使用した LED の順方向電圧はデータシートによると 1.9V~2.6V だそうだが,電流が少ないためか,実測値は 1.87 V 程度であった。
いずれにせよ,1.8 V は電圧がかかっていないとまともに光らないということである。

一方,シリコンダイオードはおおむね順方向電圧が 0.6 V~0.7 V だと言われている。これくらいの電圧をかけないとまともに電流が流れないということだが,逆に,ダイオードに電流が流れているとき,かかっている電圧がこの程度だということでもあるはずである。

ところで,中学校の理科で習うことだが,並列つなぎの抵抗の両端には同じ電圧がかかるという。しかし,今回取り扱っているのは半導体と呼ばれる素子であり,抵抗とは異質なものである。電流が流れているときの両端の電圧がかたや 2.1 V の LED と,かたや 0.7 V のダイオードとでは,一体どちらの性質がこの回路では支配的なのだろうか。


LED やダイオードの性質を上の説明で初めて知った人は,ぜひここで一度立ち止まって自分なりの予想を立ててみていただきたい。


なんとなくであるが,0.7 V がかかるだけで電流が流れ始める 1S1588 の性質がきくような気がしないだろうか。少なくとも僕にはそう思えた。けれども専門家ではないので理論についてはよくわからない。

そんなときこそ実験である。この程度の回路なら実験はあっという間である。

結果は次のようになった(図4)。


LED は点灯せず,その両端の電圧は 0.675 V であって,まさにシリコン・ダイオードの順方向電圧そのものであった。
この結果を解釈するに,0.7 V 弱で電流が流れてしまうので,2.1 V まで電圧が上がらない,ということだろう。

このような素朴な実験により,はっきりとわかったことが一つある。
それは,ダイオードには Ohm の法則が通用しない,ということである。
つまり,ダイオードに電流が流れているということは,その両端の電圧は 0.7 V 程度であって,それ以外の数値ではないということを意味するのである。

そういえば,昔ちょっとかじったことのある電磁流体の方程式では,電圧と電流の間の関係式が必要なため,Ohm の法則が成り立つという仮定を置いて話を単純化するという取り扱いがあったが,その話を学んだときには至極まっとうな仮定のように思っていたが,Ohm の法則が成立する電気・電子材料は実は極めて特殊なのではないかという気がしてきた。もっとも,Ohm の法則よりももっと複雑な関係が成り立つとみなしたとしても,扱いが複雑すぎてろくに解析ができないだろうから,とりあえず Ohm の法則を仮定するというのは,やはり至極健全な立場であったろう。

少し話がそれてしまったが,LED とダイオードを並列つなぎにした回路においては,ダイオードの特性が勝つことが判明した。

実はこの実験は,ダイオードを利用して論理ゲートである AND ゲートが作れるかどうかを確かめる予備実験という意味合いがあった。AND ゲートの実験についてはいずれまた紹介しようと思う。


今回この記事を書くにあたり,2つの新しいことに挑戦した。

一つは回路の図解である。
ローテクにこだわり(?),ホワイトボードを使おうと前々から構想していた。数週間前にダイソーで購入したホワイトボードとマーカー,そしてイレーザーがこれでようやく日の目を見たわけである。

もう一つは最新の規格である JIS C 0617 に準拠した回路記号を使うことである。
僕が電気回路を学び始めた当時は抵抗の記号は M や W に似た,山と谷がそれぞれ 3 つずつあるジグザグ線だったのだが,知らないうちに中学校や高校の教科書で使われている記号が細長い長方形に変わっていた。
個人的には昔から慣れ親しんでいる記号の方が好みであるが,こうしてブログで(全世界に向けて?)発信するにあたり,JIS 規格にチャレンジしてみた。
JIS の検索ページで "C 0617" を検索すると電気用図記号の資料一覧が表示されるが,ブラウザの設定のせいか,PDF ファイルが閲覧できなかったのでなかなか苦労した。ダウンロードしてローカルで閲覧することは禁じられているため,使い勝手はよくない。Firefox と Goole Chrome で試したがだめだった。IE を使ってようやく文書の内容を拝むことができた。

その作業の方が,実験をしたり図を描いたりするよりもよっぽど手間がかかった。
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電気を通すスポンジ。

2013-03-21 01:06:32 | 工作・実習
世の中には本当にいろんな電気素材がある。

今回は導電スポンジを紹介しよう。

僕が静電気に弱いといわれている CMOS IC を使って遊んでいた二十数年前に,すでに導電スポンジはこの世に存在した。
使うのがもったいなくてついつい溜めこんでしまった IC 保管するために,B5 サイズほどの導電スポンジのシートを買った。

当時,たぶん一度はテスターで調べただろうとは思うのだが,はっきり覚えていない。そこで今回,実測して記録を残しておくことにした。

秋月電子通商秋葉原店で買い物をすると,レジのところに導電スポンジの切れ端が置いてある。ご自由にお持ちくださいと札に書いてあるので,記念にひとかけらもらってきた。

写真では比較対象が何も写っていないので大きさがわからないと思うが,単三の乾電池ほどの長さと幅の小さい切れ端である。

この導電スポンジに,デジタルテスタ CD771 のテストリードをぶっ刺すと,不思議と赤黒二本のリードの間隔にほとんど関係なく,3~4MΩの数値を示した。

かなり大きな抵抗値であるとはいえ,導電性があることは間違いない。

それにしても,仕組みは一体どうなっているのだろうか。

色が黒いことからすぐに思い浮かぶことは,黒鉛を混ぜているのではないかということである。

とあるサイトの解説にはカーボンナノチューブを練り込んであるとのことである。したがって,黒鉛を混ぜているのではないかという僕の予想は間違っていないようだ。けれども,カーボンナノチューブが発見されたのは 1991 年だそうだから,確かに 22 年前のこととはいえ,僕がそのころに導電性スポンジを手に入れたのかどうか,かなり微妙なところである。それより数年前に見かけたような気もする。いや,やはりちょうどその頃に新素材として市場に出回ったのだったかもしれない。

ちなみに,ノーベル化学賞を受賞された白川秀樹氏の業績は,導電性のプラスチック,ポリアセチレンの発見だそうだが,それは透明らしいので,黒い導電性ウレタンスポンジとは導電性の由来が異なるのだろう。
導電性高分子の方は,透明タッチパネルなどで広く使われているらしいので,駅の券売機や ATM などで常日頃指で触っているのかもしれない。たぶんスマートホンなどのタッチパネルにも使われているのだろう。
ノートパソコンのタッチパッドにも使われているかどうかはよくわからない。

なお,カーボンナノチューブの発見にも日本人が深く関わっているので,導電性の有機媒体の分野における日本人の貢献が極めて大きいものだということを,今回改めて知った次第である。
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