思い出の書,丹羽一夫著『作って遊ぼう!おもしろ電気工作』(小学館入門百科シリーズ167)には自作用の作品例が9つ掲載されている。
この本は子供向けの入門書であるから,回路の解説はほとんどない。したがって,改めて見直すと,回路図たちがこう囁きかけてくるかのようである:
最初の出会いから数十年が経過してキミはいい大人になったようだけど,ボクたちの動作原理を解読できるかい?,と。
激しく狼狽しながら,僕は心の中でこう言い訳する:
いや,確かにね,数十年が経ったけどもね,その間ろくに回路理論を勉強してこなかったから,僕の知識レベルは小学生当時のものとほとんど変わっていないんだよ。
というわけで,回路図の個々の記号の意味はわかるものの,全体としての機能がまるで理解できない。さながら,外国語で書かれた文章を前にして,単語一つ一つの意味はわかるけれども,文全体として何を言っているのかさっぱりわからずに悩んでいるのと同じである。
9つの回路図たちは,僕にとって,ブラックボックス以外の何者でもない。
なお,この本には回路の動作に関する詳しい解説がないといっても,ときおり回路図中の抵抗器の値を変えたらどうなるか,試してみるよう促す記述がある。基本的にラグ版(部品を取り付けるための金属端子のついた板)やプリント基板に部品をはんだ付けするというオーソドックスなスタイルの工作であるから,一度はんだ付けしてしまったら,手軽に部品を取り換えるわけにはいかない。そういう意味で,工作教室などでなく,一人でパーツを集めて作っていた僕のような子供たちは,こういった実験をすることはほとんどできなかった。いったん完成させたらそれでおしまい,というのが関の山であったのである。けれども,著者の教育的配慮は,ブレッドボード全盛の現在にこそ輝きを放つように思える。丹羽一夫氏の最近の著書には『実践 作って覚える半導体回路入門』という,僕のような人間のために用意して下さったかのようなタイトルの本があるので,こちらにもいずれ挑戦したいと思っている。
『おもしろ電気工作』には LED を点滅させる作品が2つ紹介されている。しかし,当時生意気盛りの小中学生だった僕は,LED を光らせるだけなんてつまらないと思っていた。大人になった今では,逆に点滅させるだけの回路にとてつもなく大きな魅力を感じている。まるで子供の頃に(多分に食わず嫌いで)嫌いだった食べ物が大人になって好物になったかのようなものである。
それら2つの LED 点滅回路の内訳は次のようである。一つは「弛張(しちょう)発振回路」として有名なトランジスタ2石を使用するものである。ただし,「弛張発振回路」なんていう小難しい用語はこの本では一切伏せてある。とはいっても,回路の仕組みに全く触れていないわけではなく,トランジスタが「電子スイッチとして働」いていると,ポイントそのものずばりを簡潔に述べている。つまり,トランジスタのデジタル的な動作を利用した発振回路だということである。これはこれでトランジスタ2石と抵抗,コンデンサそれぞれひとつずつの簡単な回路なので,早いところ自分で実験してみようと思っている。僕の好きな無安定(astable)マルチバイブレータも弛張発振回路の一種だと,とある本に書いてあった。
もう一つの LED 点滅回路は LM3909 という IC と抵抗 8 個,コンデンサ 1 個のものである。抵抗の個数がかなり多いように思えるが,それは,LED を 6 個並列に光らせるというハデなことをしているからである。
子どもの頃と同じように回路図をぼんやり眺めていたら,とんでもないことに気が付いた。電源は単三の乾電池 1 本なのである。つまり,1.5 V の電源で,光らせるのに 2 V は必要なはずの LED を駆動しているわけである!
これは僕が追いかけているテーマの一つ,チャージポンプ(昇圧)回路ではないか!
子どもの頃の僕はその事実にちゃんと気づいていただろうか。たぶん気づいていなかっただろう。もし気づいていたなら,今から何年も前の昇圧回路に興味を持ち始めた頃にこの回路のことを思い出してしかるべきであったはずだが,そんな覚えはない。
というわけで,ぜひともこの回路を実験してみたくなり,LM3909 が売られているかどうかを探した。もしもう廃盤になってしまったとしても,データシートがあれば同等品を探す手がかりになるかもしれないし,等価回路が載っていればどうにか再現できるかもしれない。
そう考えて "LM3909" をキーワードに検索したところ,この IC は知る人ぞ知る,超有名どころだったことが判明した。動画までアップされているにぎわいっぷりである。『ブレッドボードで始める電子工作』(CQ出版)の著書,橋本剛氏のサイト「ブレッドボードラジオ」には LM3909 を用いたいろいろな実験回路が紹介されている。ただ,すでに生産が終わっているらしい LM3909 は手に入りにくい部品なので,さすがに『ブレッドボードで始める電子工作』にはそれらは採録されていない。ただし,その代わりに 1.5 V の乾電池 1 本で LED を点滅させる昇圧回路が数種類紹介されていて,僕にとって勉強しなければならない本の一冊である。(ただ,これも入手が困難な PUT と呼ばれる半導体 N13T1 を使った発振回路は載っている。)
入手が難しいとはいっても,売っている店が極端に少ないというだけであって,売っている店はあることはある。ついに通信販売で部品を買う時が到来したように感じているが,LM3909 のデータシート(この IC の機能はそのものずばり,LED フラッシャーであることがわかる)に記載された等価回路を自分で実装するという道も魅力的である。そして実際,それを実践している先人たちが何人か(どうやら海外にも )いらっしゃる。頼もしい限りである。なお,外国の方は "An De-Integrated Circuit" と表現し,邦人の方の一人は「ローテクに走った」というような表現を使っておられる。まさに僕の目指すべき先達である。
昇圧回路を理解するということは,トランジスタの電子スイッチとしての機能を極めることに他ならないのではないかとにらんでいる。これが片付いてようやくデジタル回路に進めるのではないか,とさえ思えてきた。
ディスクリート(集積回路というワンチップの IC ではなく,個々の部品を組み合わせて組んだもの,というような意味だろうか)で LED フラッシャーを組むのは少し先のことになるだろうが,今回見つけた先人たちの回路を参考にさせていただくつもりである。
この話はこれでおしまいだが,一つだけおまけの話を書いておく。
PUT が手に入る店を検索して調べていた過程で,「電子機器組み立て」という国家技能検定があることを知った。はんだ付け技術検定なんてものがあったら面白いかも,なんてことを冗談半分に書いたことがあるが,実際に,しかも国が認定する大真面目な検定として存在したとは。僕が想定していたのは『TVチャンピ○ン』みたいなノリの大会だったのでちょっと路線が違うが,似たようなものであることは確かである。将来的に取得を目指すのもありかな,なんてね。
この本は子供向けの入門書であるから,回路の解説はほとんどない。したがって,改めて見直すと,回路図たちがこう囁きかけてくるかのようである:
最初の出会いから数十年が経過してキミはいい大人になったようだけど,ボクたちの動作原理を解読できるかい?,と。
激しく狼狽しながら,僕は心の中でこう言い訳する:
いや,確かにね,数十年が経ったけどもね,その間ろくに回路理論を勉強してこなかったから,僕の知識レベルは小学生当時のものとほとんど変わっていないんだよ。
というわけで,回路図の個々の記号の意味はわかるものの,全体としての機能がまるで理解できない。さながら,外国語で書かれた文章を前にして,単語一つ一つの意味はわかるけれども,文全体として何を言っているのかさっぱりわからずに悩んでいるのと同じである。
9つの回路図たちは,僕にとって,ブラックボックス以外の何者でもない。
なお,この本には回路の動作に関する詳しい解説がないといっても,ときおり回路図中の抵抗器の値を変えたらどうなるか,試してみるよう促す記述がある。基本的にラグ版(部品を取り付けるための金属端子のついた板)やプリント基板に部品をはんだ付けするというオーソドックスなスタイルの工作であるから,一度はんだ付けしてしまったら,手軽に部品を取り換えるわけにはいかない。そういう意味で,工作教室などでなく,一人でパーツを集めて作っていた僕のような子供たちは,こういった実験をすることはほとんどできなかった。いったん完成させたらそれでおしまい,というのが関の山であったのである。けれども,著者の教育的配慮は,ブレッドボード全盛の現在にこそ輝きを放つように思える。丹羽一夫氏の最近の著書には『実践 作って覚える半導体回路入門』という,僕のような人間のために用意して下さったかのようなタイトルの本があるので,こちらにもいずれ挑戦したいと思っている。
『おもしろ電気工作』には LED を点滅させる作品が2つ紹介されている。しかし,当時生意気盛りの小中学生だった僕は,LED を光らせるだけなんてつまらないと思っていた。大人になった今では,逆に点滅させるだけの回路にとてつもなく大きな魅力を感じている。まるで子供の頃に(多分に食わず嫌いで)嫌いだった食べ物が大人になって好物になったかのようなものである。
それら2つの LED 点滅回路の内訳は次のようである。一つは「弛張(しちょう)発振回路」として有名なトランジスタ2石を使用するものである。ただし,「弛張発振回路」なんていう小難しい用語はこの本では一切伏せてある。とはいっても,回路の仕組みに全く触れていないわけではなく,トランジスタが「電子スイッチとして働」いていると,ポイントそのものずばりを簡潔に述べている。つまり,トランジスタのデジタル的な動作を利用した発振回路だということである。これはこれでトランジスタ2石と抵抗,コンデンサそれぞれひとつずつの簡単な回路なので,早いところ自分で実験してみようと思っている。僕の好きな無安定(astable)マルチバイブレータも弛張発振回路の一種だと,とある本に書いてあった。
もう一つの LED 点滅回路は LM3909 という IC と抵抗 8 個,コンデンサ 1 個のものである。抵抗の個数がかなり多いように思えるが,それは,LED を 6 個並列に光らせるというハデなことをしているからである。
子どもの頃と同じように回路図をぼんやり眺めていたら,とんでもないことに気が付いた。電源は単三の乾電池 1 本なのである。つまり,1.5 V の電源で,光らせるのに 2 V は必要なはずの LED を駆動しているわけである!
これは僕が追いかけているテーマの一つ,チャージポンプ(昇圧)回路ではないか!
子どもの頃の僕はその事実にちゃんと気づいていただろうか。たぶん気づいていなかっただろう。もし気づいていたなら,今から何年も前の昇圧回路に興味を持ち始めた頃にこの回路のことを思い出してしかるべきであったはずだが,そんな覚えはない。
というわけで,ぜひともこの回路を実験してみたくなり,LM3909 が売られているかどうかを探した。もしもう廃盤になってしまったとしても,データシートがあれば同等品を探す手がかりになるかもしれないし,等価回路が載っていればどうにか再現できるかもしれない。
そう考えて "LM3909" をキーワードに検索したところ,この IC は知る人ぞ知る,超有名どころだったことが判明した。動画までアップされているにぎわいっぷりである。『ブレッドボードで始める電子工作』(CQ出版)の著書,橋本剛氏のサイト「ブレッドボードラジオ」には LM3909 を用いたいろいろな実験回路が紹介されている。ただ,すでに生産が終わっているらしい LM3909 は手に入りにくい部品なので,さすがに『ブレッドボードで始める電子工作』にはそれらは採録されていない。ただし,その代わりに 1.5 V の乾電池 1 本で LED を点滅させる昇圧回路が数種類紹介されていて,僕にとって勉強しなければならない本の一冊である。(ただ,これも入手が困難な PUT と呼ばれる半導体 N13T1 を使った発振回路は載っている。)
入手が難しいとはいっても,売っている店が極端に少ないというだけであって,売っている店はあることはある。ついに通信販売で部品を買う時が到来したように感じているが,LM3909 のデータシート(この IC の機能はそのものずばり,LED フラッシャーであることがわかる)に記載された等価回路を自分で実装するという道も魅力的である。そして実際,それを実践している先人たちが何人か(どうやら海外にも )いらっしゃる。頼もしい限りである。なお,外国の方は "An De-Integrated Circuit" と表現し,邦人の方の一人は「ローテクに走った」というような表現を使っておられる。まさに僕の目指すべき先達である。
昇圧回路を理解するということは,トランジスタの電子スイッチとしての機能を極めることに他ならないのではないかとにらんでいる。これが片付いてようやくデジタル回路に進めるのではないか,とさえ思えてきた。
ディスクリート(集積回路というワンチップの IC ではなく,個々の部品を組み合わせて組んだもの,というような意味だろうか)で LED フラッシャーを組むのは少し先のことになるだろうが,今回見つけた先人たちの回路を参考にさせていただくつもりである。
この話はこれでおしまいだが,一つだけおまけの話を書いておく。
PUT が手に入る店を検索して調べていた過程で,「電子機器組み立て」という国家技能検定があることを知った。はんだ付け技術検定なんてものがあったら面白いかも,なんてことを冗談半分に書いたことがあるが,実際に,しかも国が認定する大真面目な検定として存在したとは。僕が想定していたのは『TVチャンピ○ン』みたいなノリの大会だったのでちょっと路線が違うが,似たようなものであることは確かである。将来的に取得を目指すのもありかな,なんてね。