担当授業のこととか,なんかそういった話題。

主に自分の身の回りのことと担当講義に関する話題。時々,寒いギャグ。

<読書感想文1007>こんどこそ!わかる数学

2010-12-15 23:23:23 | 
新井紀子,こんどこそ!わかる数学,岩波科学ライブラリー128,2007.


著者は最近,数学の学び方に関する本をたくさん出している。
この本は中学生向けの連載記事に基づいて書かれたものだそうだ。

著者は全体的に数学の論理性を重視しているようで,本書の内容の大半は論理に関する話題である。
といっても,論理学を展開しているわけではなく,有理数と無理数とは何かを確認し,有理数と無理数を足したりかけたりすると,その結果は常に有理数または無理数になるのか,といった数に関する基本的な知識を確かなものにするための問いや考察を「先生(著者自身?)」と3人の「生徒」とのやりとりという,読みやすい形態でやさしく叙述している。

循環小数について述べた章では,「どんな自然数 N に対しても,自然数 M と非負の整数 a,b をうまく選ぶと,N と M の積が 10a(10b-1) の形になるようにできる」という,一見して明らかではないような不思議な感じのする定理にまで到達するが,これはそれまでの議論でわかったことを少々堅苦しい表現でまとめたに過ぎない。ひとつひとつは容易に理解できる事柄の積み重ねの果てに,気がついたらとんでもない高みまで連れて行かれたような心地がして,狐につままれたようにしばしポカンとしてしまった。「え,ほんとにこんなことが成り立つの?」と少し不安な気持ちにさえなってしまった。

※ たとえば N=13 だったら,M=76923 で,13×76923=999999=106-1 で,a=0,b=6 となる。どうやって M を求めたかについては,本書を見て欲しい。


第5章の話の進め方は紙数の都合のせいか,かなりスピーディーなので,数学があまり得意でない中学生が読んでも議論の展開についていくのはちょっと難しいのではないかという感想を抱いた。
例えば「有理数と有理数の和は必ず有理数になる」ということは,噛み砕いて解説するのではなく,登場人物の「生徒」がさらりと納得しておしまい,というあっけない説明には不満が残る。

また,僕はこれまで多くの大学生に接してきて,「0 は有理数か,そうでないか」という質問にさえ満足に答えられない学生がたくさんいるという現実があることを知っているので,ぜひこの点も読者に問いかけてもらいたいところである。

数の性質だけでなく,比例や1次関数など,中学生が躓きやすい関数概念の基本もかなり丁寧に解説している。さらには逆関数にまで到達しているので,数学に苦手意識のある高校生や大学生が読んでも得るところは大きいだろう。

確率に関して一章割いているが,正直,読んだだけでは最後のあたりの確率の計算の仕方がよくわからなかった。一度自分の頭で考え直さなければならないと思い知った。

第11章の「牛乳パックのひみつ」は非常に面白かった。これは現場の先生たちの研究報告を参考に書かれたそうだが,身近な牛乳パックにあんな秘密が隠されていたとは,話の流れがなんだかエキサイティングで,目からウロコがボロボロと零れ落ち,実に新鮮だった。
誰もが「何でだろう?」と思ってしまうようなパラドキシカルな「謎」が最初に提示され,徐々にその謎が明らかにされていき,最後には思いがけないところにまで到達するという,上質なミステリーに仕上がっているせいだろう。
この章はとても迫力があった。

最後の2章では主に図形の性質に関する話題が触れられているが,中学で習った三角形や四角形に関するさまざまな定義や性質の基礎的な知識をすっきり整理してくれている。

本書は,現役の中学生だけでなく,中学数学でさえきっちりわかっているという自信を持てない高校生,大学生,はたまた社会人にも広く推薦できるような「数学再入門書」である。

最後に,本書の p.106 の枠に囲まれた問題文中,『次の (1) から (3) のうち』は『次の (1) から (4) のうち』の誤植であることと,問題 (3) の解答は本文よりももっと簡単な議論に置き換えられるということを指摘して本稿のしめくくりとしたい。
(自分で作るプリントの誤植には気づかないくせに,他人の誤植は目ざとく発見してしまうのはよくあることである・・・。)
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