ビールを飲むぞ

酒の感想ばかり

キリン氷結パイナップル2020

2020-10-24 20:52:03 | ビール以外

アルコール度数は5%。

果汁は1.6%

New designとあるので、これはレギュラー品だったのだろうか?

パイナップル味。

飲むと確かにパイナップルの芯に近い苦みのある味わいがメイン。

味がしっかりしている。

甘味はしっかりしている。苦みは感じられない。アルコール臭もない。

ついつい飲みすぎそうだ。

まあ、パイナップルの風味に飽きたら飲み続けられないだろうが。


「泣き虫弱虫諸葛孔明」 酒見賢一

2020-10-22 17:21:53 | 読書
これはラノベか?酒見賢一初読み。
第壱部
孔明は算命の術にも通じているのだが、その占いによって劉景升は再来年あたりに死ぬと予想している。仲間に、では自分の死年がわかるのかと言う問いに、わかる。知っていて怖くないのか?人間は誰であれ必ず死ぬ。重要なのは死ぬときに悔いがないかということ。と答える。納得。
「孔明、五禽の戯れに醜女を獲る」の章は、長々と孔明が嫁を貰う話が続く。本当かどうか知らないが嫁は黄承彦の娘で、言わば行き遅れた想像絶する醜女ということらしい。本編にもほとんど登場しないのか名前も不明で、ただ、黄氏としか書けない。これが相思相愛となりめでたく章を終える。
三国志の本編は読んだことがないが、この砕けた感じの、そして本編のあまり触れられていない部分を作者の創作で埋める感じの作によって次、三国志本編を読むのに役立つかもしれない。いきなり本編読むのでなくこの作品をきっかけにしたことはいいことかもしれない。
劉備のもと徐庶が軍師となり、呂兄弟を討ち取ったり、曹仁が仕掛けてき八門金鎖の陣を破り大勝する。この戦闘シーンはなかなか読みごたえがある。
劉備が三顧の礼でもって諸葛孔明を迎えるシーン。ここに作者は特に力を入れていることがわかる。ページ数も多いし、かなり細かく心理描写されている。恐らく本家はさらりと流しているのだろう(勝手な予想)。あのミュージカルは何だったのだろう。冗長に感じたが本家も七言絶句なんかが出てくるのだろうか?第壱部では戦闘シーンや知略を駆使するシーンはほとんどない。曹仁が徐庶の策に敗れる場面があるくらいだ。弐部以降が楽しみだ。
第弐部
遂に劉備のもとに仕官する孔明であるが、全然軍師的な動きはなく、単調な、周辺の話ばかり。とは言え作者なりの意図があるのだとは思う。
博望坡を炎上させるというタイトルなので、いよいよ孔明活躍かと思いきや、あっさり作り話だったと片付けられこちらは不完全燃焼。
恐らく本家三国志の行間を想像して書いているのだろう。本家ではさらりと流しているエピソードをこそそこだけで1つの章を形成しているのだ。反対に本家で本筋とされている、つまり見せ場がさらりと流されているのかもしれない。となると、他の三国志をみてからこちらを読む方がいいとも言える。劉琦が孔明に対して、蔡瑁から命を狙われていると助けを求められるところまで来たが、まだ派手な展開は訪れない。
このおふざけ感は本家もそうなのだろうか?それを現代風にアレンジするとこんな感じになるのだろうか。ここへ来て若干食傷気味になってきた。クドい。田中芳樹の創竜伝もそうだった。中国文学に強い作家というのはそんな傾向にあるのだろうか?いやいやそういう偏見を作らないように気を付けて読もう。
続いて新野炎上の話。これまた新野に攻め込んできた曹操軍50万のうち10万を焼き殺した。と三国志演義の中身が書かれるが、実はこれは創作だったというオチ。しかも劉表もいつのまにか死んでいる。しかし、ここまですかされて読者に見放されなかったものだ。まさか孔明の何の活躍もなく三国志は作り話でした。で、全5巻完結するつもり?
心配したが、劉表死後、サイボウの策略で次男が後を継がされ、曹操が攻めてきた途端、降伏するという場面で、少し孔明の活躍が見られたようで、ちょっと安心した。
司馬遼太郎に似ているか。登場人物ごとのバックグラウンドを語り、ストーリーより出来事の背景に重きを置く。さすがに司馬遼太郎におふざけはないが。
呉の場面になると(誰かの感想にもあったが)「ワシも○○じゃけん」などと、広島の呉市とかけて、そして仁義なき戦いともかけて、広島弁かつヤクザっぽい雰囲気を出している。なかなか本格的な広島弁ではないだろうか。
長坂坡に戦いに入るといよいよ各キャラクターが活躍し出す。優柔不断すぎる劉備、それを踏まえた上で策略を立てる孔明。一番まともで日本の武士を彷彿とさせる趙雲。ただの殺戮マシーン、張飛。見所満載だ。個人的には趙雲の活躍が良かった。
P466糜芳が顔面に数本の矢を立てたまま、ふらふらと駆けつけてきた場面のツッコミに笑ってしまう。もう死んでいてもおかしくはないのだが、本家にそう書いてあるらしい。
この第弐部は2007年に単行本が刊行され、文庫版は2011年なので文庫化まで4年くらいかかるということだが、最終巻の第五部はつい先頃2017年に刊行されたばかりだ。文庫化が4年後となるので2021年、もう少しじっくり読まないと。
第参部
この第参部を読んでいる間に、映画「レッドクリフ」を観た。映画と合わせて読むと相乗効果で面白い。小説では周瑜と孔明は仲が悪い。といっても一方的に周瑜が何の根拠もなく感覚的に「いつか孔明を抹殺してやる」と燃えているだけだが。映画では互いに信頼しあっている。
半分まで読んできて、三国志の見せ場は赤壁の戦いと聞いているが、孔明は関わっていないからすっ飛ばす、などと言っている。また流されてしまうのか?
呉軍は矢の不足のため周瑜から10万本を調達するよう孔明は求められる。映画、レッドクリフでもこの場面があり、周瑜と孔明はいい関係で描かれていたが、ここでは孔明を殺したい周瑜が無理難題を押し付け失敗したら処刑してしまおうという企みから出てきたものだ。映画ではある程度見せ場としてあったが、ここではあっさりとしている。孔明平然としてやったりといったところだ。
今ごろ気づいたが、これは三国志ではない、諸葛孔明伝なのだ。だから、孔明の関わらないことは飛ばそうとするのだ。
赤壁の戦い。何だかんだで飛ばされることはなく安心した。ただ映画ほど長くはなくあっさりとしていた。水軍を放火され、曹操はいち早く逃走した。それを予測して劉備軍は先回りしながら曹操を討とうと言う作戦だが、余裕を見せて今回は曹操をわざと見逃す。赤壁の戦いは周瑜の活躍の話であって劉備軍はあまり活躍していないと言う話をうまく解釈した。関羽は曹操に義理があり、どうしても討てないしがらみがあり、逃がしてしまう。関羽には大きな失敗だが、これも孔明は想定内だ。
余談だが途中浮気をして北方謙三の楠木正成を読んでいたが、これが自分に合わない。チャンドラーもそうだったがハードボイルドが合わないのではないだろうか?文章は単純で会話文が多く読みやすいはずなのだが、全然入って来ない。苦痛過ぎた。それから戻ってこの諸葛孔明は何と読みやすいのか。
赤壁後は孫権と周瑜に任せ、自分達は南州を攻め落とそうとする。各州を各将軍が攻めていくが、南州側は特にやる気はなく、簡単に手に入れてしまう。ここでも趙雲の知略と義が光る。また五虎大将の1人に数えられるという黄忠が仲間になる。
そのうち劉備暗殺を企む周瑜が孫権の妹と縁談と称して罠にはめようと画策する。ここでレッドクリフに出てきた、じゃじゃ馬で男勝りの孫権の妹が登場する。この時まだ17で50近い劉備とかなりの年の差だ。そしてやはり名がなく孫氏と称する。結論からいうと、孫氏が一方的に劉備を気に入り、縁談自体がうまくいったため暗殺どころではなくなった。そして荊州を孫権から借り受ける形で治めることとなった。周瑜は先頃の武州の戦の折り、矢を受け療養中であった。
自分の命は長くないと悟った周瑜は最後に孔明に一泡ふかせようと作戦を練る。赤壁の戦いで弱ったであろう曹操に追い討ちをかける振りをして、劉備と孔明を撃ち取ってしまおうと言うのだ。ところが孔明によって完全に読まれていたため、作戦は失敗する。(史実と辻褄を合わせるためか?)孔明は周瑜を慮り、この事件は一切なかったことにしようと提案する。そのため、戦死者もほぼ出ないように配慮していた。孔明に完敗した周瑜は晴れやかな気持ちで息を引き取る。周瑜の死は呉の人々を大いに悲しませた。第三部では赤壁の戦いより、この周瑜が孔明にこてんぱんにやられ、最後は病に倒れる、という話が見せ場だ。どうあがいても勝てない周瑜。どうしてそこまで孔明に嫉妬するのか、それが歯痒い周瑜。また、全く弱味がなく余裕の孔明にも歯痒い。そんな二人の戦いであるが、最後はやはり感動する。
第四部
ゆっくり読まなければ、と思っていたが遂に2020年8月に第伍部が発売されることが決まった。予想より1年早かったが、そろそろ第四部を読み始めることにしよう。
張松と龐統という人物が中心になる。張松は竹中半兵衛のような人物か。自身野望を持っており、曹操の元に遣わされ、横柄な態度で曹操を試す。小さい男だと見切った張松は去る。龐統は孔明と親友だ。事務仕事に飽きた龐統は仕官先を探す。魯粛の推薦で孫権に面会するが、龐統の不遜な態度に孫権は納得できずこれを拒む。どうしても登用させたい魯粛は劉備の所へ行ってみればどうかと推薦状を書く。劉備の元に行った龐統だが、やはり不遜な態度。それでも劉備はお試しにと辺境の耒陽県の県令とし、様子を見た。しかし1ヶ月丸々仕事をせず、酒ばかり飲んでいた。それを見とがめた劉備は張飛に様子を見てくるよう命じる。場合によっては殺してしまえと。行ったところ1ヶ月仕事を放置したのは、この程度は半日でできるからだといい、実際に半日で完了させてしまう。それに感服した張飛はもっと大きな仕事をさせるべきだと劉備に進言する。
魯粛や呂蒙など呉の人物だが初めは広島県呉市にかけて広島弁だったが、ここへ来て広島というよりは九州辺りの方言になって違和感がある。
曹操対関中十部の決戦がある。関中十部の1人で馬超、十ある部族の1つ。これがなかなか戦上手というか、武力に優れている。曹操は馬超の事を気に入り、部下にしたいと考えるが、まずは関中十部を圧倒的戦略で制圧する。馬超は逃亡する。
曹操は高慢ということで諦め、荊州をふらついていた張松。そこへ劉備主従がオールスターキャストで出迎え歓待する。劉備はこの頃まだ国を持たず、呉の1つの県を預かっているにすぎない。蜀を狙うための一環で張松を落とそうとする。案の定張松は劉備を信頼し、劉璋を売ろうという話を明かす。劉備はその場では謙遜し、張松を国へ返す。
同族を倒して国を奪っても、国の民が従わないのではないかと心配する劉備だが、愚かな王に治められるより、良き王に治められる方が民は喜ぶと龐統に説得される。いよいよ心を決めて蜀に向かう。軍師は龐統だけ兵も三万だけで、孔明、関羽、張飛、趙雲は荊州に残り孫権に備える。
劉備は内心蜀を奪うつもりで益州に向かった。同胞の劉璋に歓迎される。龐統は歓迎会の最中にいきなり切り捨ててしまう作戦を主張したが、劉備は慌てず、まずは人民の心をつかむことが先だと、宴会に浸る。ここで著者の気になるコメントが色々入る。三国志を読んだ人なら常識的なのだろうが、これが初読みの者からすると気になるものだ。まず、蜀を一気に奪おうと考えている劉備だと思っていたが、実際にそれを成し遂げたのは2年半後だったとか、孫権は劉備は益州を奪うための助っ人と考えていたし、妹は劉備に嫁いでいる。それなのに出し抜いて劉備自身が蜀を奪って王になろうとしていることに怒り、妹・孫氏と劉備の実子の阿斗を母が危篤と騙して呉に帰らせようとした。劉備不在中の阿斗の監視役である趙雲はそれを察知し阿斗を奪い返した。どうやら孫氏(小僑)はそのまま劉備と離婚したようだし、阿斗(後の劉禅)は長坂坡に続き、はからずも趙雲に2度も救われたとある。劉禅はあまり好ましくない人物になったのだろう、それを子供の時に趙雲によって命を2度まで救われた。と言うような匂わせがある。
龐統を軍師とし蜀へ向かう劉備だったが、乗っ取りがばれて蜀から追われる。しかも挟み撃ちにされピンチを迎える。1年半耐えた。龐統は打開策がないか地形を探っていたが、ついに突破口を見いだしたが、帰りに伏兵によって討たれる。龐統の面目を潰さないよう密かに孔明に使者を送っていた劉備。しかし間に合わなかったのだ。その後関羽を荊州に残し、孔明は張飛、趙雲達と共に劉備に加勢に来る。それでも苦戦するが、やがて蜀を落とす。素晴らしいのは武力でだけで落としたわけでなく、どちらかというと調略で手に入れたということだ。
曹操は漢中を攻める。張魯が主であるが負ける。通常なら処刑されてもいいはずだが、善人ということで早々に認められ、取り立てられることになった。曹操のいない好きに合肥を攻めた。1万の呉兵に対して曹操側は張遼が守る7千に過ぎない。余裕で勝利かと思いきや苦戦し、退却する。しかしそれを追いかけて張遼が攻めてくる。孫権は危機を迎える。呉の甘寧と、甘寧に親を殺され仲間ながら敵愾心を持つ淩統は、対立していたが、孫権を逃がせるために命を懸けているうちに仲良くなる。この場面は感動する。
曹操は魏の王となる。後継者を曹丕にするか曹植にするかで迷う。その間にも孫権を攻め遂に臣下に取り込む。その頃魯粛が46歳で死ぬ。最大の軍師だったがそれが影響したのか。
多くの英雄が死んでゆく。
荊州を守り、かなり自意識過剰になり増長していく関羽。独自に周辺を攻め国をとっていくのだが、孫権は曹操と結託し関羽を討とうと画策する。三竦み状態が大枠だが、周辺から崩されていくようだ。関羽の最後は寂しい。手兵がどんどん討たれ最後はあっけない。曹操は病に倒れる。曹操は死んでも華美な埋葬をするなとした。しかし盗掘を懸念し、偽の墓を72ヶ所作ったという。張飛も部下に厳しくしすぎ、部下から殺されてしまう。あっけないそして意外な最後だ。関羽、張飛と仲間を失った劉備は呉を仇とし、戦略でなく個人的感情で攻めようとする。孔明は軍師として参加せずそのため、まずい戦いをしてしまう。そして劉備も呉に大敗を期す。
そして白帝城に逃げ籠る。その際孔明が配置した岩で敵を撹乱する。あの奇門遁甲が登場する。敗戦のショックでめっきり気力をなくす劉備で、病がちになる。孔明に遺言を残すが、後継者であり息子の劉禅に才を見ればこれを助け、才がなければ孔明自身が皇帝となれというものだった。
三国志前半の主要人物がほとんどいなくなってしまう寂しい展開。孔明が主役なのだからこれでいいのだろう。
第伍部
いきなり今までのダイジェスト。これをラーメン屋で例えるため余計わからなくなる。
孔明は北伐の前に南方平定する必要があった。5巻に入って孔明の初戦。雍闓、高定、朱褒を互いに疑心暗鬼に陥らせて倒す。これこそが調略だ。あと孟獲が残っているが、南蛮王と呼ばれ、全くの独立部族なのため通常の戦略では落とせない。
孟獲は三國志のはいしょうしの注によると、七擒七縦(しちきんしちしょう)といって、七回負かして捕らえ、七回放っている。そんな学習能力がないのか、執念深いのか、また孔明の寛容さなのか、策略なのか。つまり孔明は孟獲を討とうとするのではなく、服従させ、反乱を起こさせないようにするというのが第一と考えているのだ。
3回まで捕らえ逃がした。この策略は読んでいて楽しく飽きない。しかしこの後もこんな感じで繰り返し話は進むのか。
従者の馬玄にいう「馬玄よ、考えるな。感じるのだ」と孔明はリーのようなことを言った。これはかなりマニアなギャグだ。知ってるからいいものの。リーがブルース・リーのことで、しかも「燃えよドラゴン」のなかのセリフなのだから。
何と4度目もあった。そしてまたもや逃がす。その時、次に負けたら孔明に降参すると言った。そのあと孟獲は禿龍洞に逃げる。孔明が禿龍洞に辿り着くには2つの道しかない。東北の道は通りやすいが、西北の道は険しく、さらに四つの毒泉と道中瘴気に満ちている。東北を塞ぐことで、孔明が攻めてこれないようにした。孔明は偵察兵を向けたが、やはり泉の水を飲んで毒にやられてしまった。伏波将軍の像がある廟に住む老人から万安渓に隠者がいることを教えられる。その隠者は植物の研究家で泉の毒を解毒したり、瘴気を消す薬草を育てている。孔明はその隠者に助けを求めると、快く助けてくれた。名前を聞くと孟節、つまり孟獲の兄だという。なぜ弟の孟獲を攻めるという助けをしてくれるのか尋ねると、弟とは性格は逆で、その横暴さを諭したが聞き入れないので、孔明に、捕らえてよく言い含めて欲しいという。禿龍洞の前まで無事に到着し布陣する孔明。孟獲は仲間の楊鋒に助勢を求め3万の兵がやってくる。安心していたら、既に孔明によって調略されており、楊鋒は孟獲を裏切りこれを捕らえ、孔明の前に引き出す。孟獲は孔明が直接攻めたわけではないから卑怯だといって納得しない。そして5度目も逃がす。
自分の本拠地、銀坑洞で戦うことを決意。さらに木鹿王という法術を使う猛将を呼ぶ。木鹿王は自分は白い象に乗り、虎、豹、狼、毒蛇、蠍などの猛獣を指揮する。諸葛孔明は黄夫人と製作したロボットを使い対抗する。
現在のハノイあたり。孟獲の遠縁、烏戈国の兀突骨(ごつとつこつ)率いる藤甲軍。藤で作った鎧が鋼鉄よりも固く、刀や槍を通さない。まさに無敵の兵。孔明は油につけて固めたその鎧の弱点をつき、火攻めをする。その阿鼻叫喚の場面が凄まじい。孔明はさすがに残酷なことをしたと後悔する。しかしこの7度目の勝利により孟獲を懐柔することができた。南方を征服するのでなく、自治区として認めたのだ。これにより後顧の憂いなく北に出兵することができる。この戦の間、孔明はよく眠ることが多くなった。何か体調不良が心配されるようだ。
魏は曹丕が40歳、在位7年で病死する。後継は曹叡。なかなかの人物。この隙に孫権は魏を襲う。江夏を攻めるが敗北。再度江夏の襄陽を攻めるがまたもや敗北する。孔明は北伐のための準備をすすめる。出征前に出師の表という中国史上、稀代の名文を書く。劉禅に対して気合いを入れ直す内容らしい。
まず、魏の夏侯楙を倒そうとする。そのため元々劉備の元にいたが、関羽が討たれたとき魏に寝返った孟達を再び蜀に寝返らせる作戦。このため綿密に準備していたが、魏の司馬懿によって妨げられ、孔明の第一歩は失敗する。太守の夏侯楙(かこうぼう)は韓徳に蜀を撃つよう指令を出す。孔明はこれを趙雲に対応させる。しかし調子に乗りすぎた趙雲は敵陣に深く入り込んでしまい絶体絶命のピンチ。せめて夏侯楙の首を土産に死を覚悟した。その時蜀の兵が助勢する。張苞(張飛の息子)と関興(関羽の息子)だった。これにより蜀は韓徳を討ち果たし、夏侯楙は南安城に退却し籠城する。これを攻略するため孔明は周辺の安定城と天水城に調略を仕掛ける。この策が良くできている。武力でなく謀略で落とすのだ。
天水城においては大した人物はいない。だが姜維伯約という青年武将は光るものがある。現に蜀軍の攻めを読んでいた。そこで倒すことより取り込むことを考える。
結果としては姜維を蜀に率いれることに成功した。そこからはトントン拍子城を調略で落とし、ほぼ戦することなしに、南安、安定、天水を治めた。孔明は姜維のことを自分の後継と大いに買っている。一方魏延と孔明は噛み合わない場面が多い。
魏の曹真との戦。王朗という老兵が孔明に大義名分を発するが孔明にはこたえない。逆に孔明に一喝され、落馬して呆気なく死ぬ。罵り殺されたという。魏は夜襲で倒そうと計画したが、孔明に読まれておりさらに裏をかかれ兵の大半を失う。曹真は西羌に兵を借りることにした。迎え撃つ孔明は八陣図を使い翻弄する。孔明は勝つ。西羌の頭の雅丹は捕らえられたが孔明は、蜀に恨みがあって攻めたのではなく、魏にそそのかされただけだから罪はないと言って逃がす。これで西羌とのいさかいはなくなるだろう。
次に魏の曹延は司馬懿に作戦を立てさせた。街亭が要の戦場になると読んだ。一方孔明も街亭が要になると踏んだ。そこの司令官を誰にするか。馬謖を抜擢する。39歳の馬謖にとってははじめての活躍の場である。
馬謖には王平が従う。街亭についた馬謖は城を守るという孔明の作戦を無視し、功を焦り魏軍を倒そうと、独自の判断で崖の上に陣を敷く。王平は再三諫めるが聞かず、わずかの兵を分けてもらい王平は城を守る。馬謖は張コウによって水路を絶たれ、結果として敗北する。帰陣した馬謖は、規律を乱した罪で孔明に処刑された。馬謖は孔明の愛弟子である、そして後継者ともなりうる才能を持っていたが、規律を重んじ泣く泣く馬謖を処刑に処したのだった。そしてこの敗北が元で今回の北伐は断念せざるを得ず、撤退することとなった。孔明が帰宅すると黄氏が男児を出産していた。名前は瞻(せん)
魏の曹休に対しては、呉の周魴が魏に寝返ると見せかけ手紙を7通くらい送る。
郝昭の守る陳倉城は、蜀軍が圧倒的に数が優位であり、孔明の特殊兵器もそろっているのに落とすのに苦戦する。これまで孔明は様々な奇策でもって戦いを勝ってきたが、全く冴えがない。
趙雲が死す。戦で死んだわけではない。享年は72歳というから、結構な年齢だったのだ。
魏が南伐といって蜀に攻めてくるが、40日にわたる大雨のため撤退していく。
第四次北伐は孔明と司馬懿の直接対決となる。司馬懿は持久戦に持ち込み蜀の糧食が尽きるのを待つと言う消極策をとる。孔明は絶対勝つと言う強い意思のもと知略を尽くす。戦術的には八陣図を駆使し勝利する。その際魏の重鎮である張郃が討たれる。このままの勢いで魏軍を壊滅させることができたが、糧食輸送の重要な役割を任じられていた李平(李厳から改名している)が孔明への嫌がらせのため、輸送を止めていたため、撤退を余儀なくされた。この李平の行いが読んでいるだけで腹が立つ。孔明も当然怒るわけだが、理責めで李平を追及する。観念した李平は白状し謝罪するが、法を順守する孔明は処刑を命ずる。ところであったが、劉邦の信頼していた人物であるので、命は助けられた。
このあと、呉の孫権の話が挟まれ、諸葛孔明は曹操との対比として描かれたのが三国志という作者の考えが続く。作者は孔明に「この巨大な国は放っておくと必ず分裂する」と言わしめしている。この国ということで中国を示しているが、実は世界中そう言えるのfではないかと感じる。エントロピーの世界だ。
そして3年後の第五次北伐にはいる。それは諦観の風が見えるという。
孔明がなぜこのタイミングで出兵するのか?誰しもそう思った。星占いでも今ではないと出ている。星占いに精通している孔明自身が分かっているはず。
漢中に到着した孔明は関羽の息子の関興の訃報を知る。心臓病。張飛のの息子張苞に次いでの訃報に孔明は落胆する。
孔明の作戦は司馬懿によって打ち砕かれる。敗北したが死を決した孔明は引くわけにはいかなかった。
次に司馬懿は祁山に攻めたがこれは孔明の罠で、多数の地雷で攻められた。火攻めに会い、いよいよ司馬懿親子は死を覚悟する。ところが大雨が降り火を消した。
司馬懿つまり魏の作戦は堅守すること。食料の調達が毎回困難な蜀は長期戦では不利なので、持久戦とする。戦うことが本分の両軍の兵士たちは、戦のないことにいら立ってくる。魏が攻めてきてこれを撃退すること作戦である蜀は、魏を幾度も挑発するが全く攻め寄せることはない。こうして数か月たつ。孔明の健康状態はどんどん悪くなる。明日をも知れぬ状態で孔明は多くの書き物をしたためる。劉禅やその家臣たち、家族などにむけて。延命の儀式も行ったが、それはかなわなかった。赤い流星が3度落ちる、そのうち2回は地上からまた空に帰るという奇妙な現象。3度目は帰ることがなかった。その時孔明は息を引き取った。54歳のこと。
孔明最後の策は、孔明は生きていると思わせること。埋葬せず生きているように見せかけたり、木像を陣頭に出現させたり。それで、司馬懿の魏軍は撤退していった。「死せる孔明、生ける仲達を走らす」という言葉が残る。ただ作者は孔明と司馬懿は。戦をしても双方メリットがないから互いに撤退しようと合意していたのではないかと推理する。
その後は魏延が事実はわからないが謀反の罪で討たれる。孔明に嫌われていたため不遇な死。対立していた楊儀も後に劉禅の怒りを買って庶人に落とされる。孔明は自分の後継者を考えていたがそれも潰える。孔明の死後蜀は魏に滅ぼされる。呉の孫権は耄碌して晩節を汚し、後継者の代でやはり滅ぼされる。魏においてはやがて司馬懿の孫の司馬炎が晋朝を興す。統一が成ったわけだが、間もなく、分裂国家の五胡十六国時代となる。その後も中国は統一と分裂を繰り返す歴史なのだ。ただ孔明は統一を目指すというより三国に分裂させておいて、互いに緊張させることである種の安定をもたらそうとしていたように見える。
天才的な軍師であってもやはりいつかは衰えるか死を迎える。病に冒されてからの孔明は精彩を欠くようにも見えて淋しい。しかし全盛期の活躍は素晴らしい。特に、八陣図という武器はあったが、戦上手というより、駆け引きに長じていたというべきか。
 
第壱部
20171005読み始め
20171011読了
第弐部
20171011読み始め
20171015読了
第参部
20171017読み始め
20180107読了
第四部
20200729読み始め
20200815読了
第伍部
20200927読み始め
20201022読了

「風林火山」 井上靖

2020-10-20 19:53:56 | 読書
2011年に読んで以来の再読。前回
しょっぱなに登場するのは青木大膳だ。今川義元のお膝元の駿府で浪人をしている。それに対して山本勘助も浪人ではあるが今川家の家老である庵原忠胤の庇護を受けており多少ゆとりがある。庵原と縁戚関係にあるとも言われているが定かではない。大河ドラマでは内野聖陽が演じていたが、ここでは、「身長は五尺に充たず、色は黒く、眼はすがめで、しかも跛である。右の掌の中指を一本失っている。年齢は既に五十歳に近い」みんな怖がって近づこうとしない。
勘助は青木に提案する。板垣信方を襲え、それを勘助が助ける。それで恩を売れれば武田家に仕官が叶うだろう。そしてそのあと勘助が青木を引き抜いてやろうというのだ。
武田信玄は父である信虎を追放したが、その信虎は今は今川に身を寄せている。板垣はご機嫌うかがいに信虎を訪ねていた。その帰り道、例の作戦を実行する。ところが勘助は芝居をするどころか本当に大膳を切り捨てた。行流の使い手と噂されているが 、勝手に噂されているだけで全く剣の技術は持ち合わせていないが、ここぞというときには不思議と力を出す。
そしてなんと1年半後になって板垣から武田家士官の話が来る。庵原に相談するが渋い顔をされる。では、両方から給金をもらうことにすると答える。庵原家から武田家へ派遣されるようなものだ。
武田晴信(後の信玄)をはじめ、家臣たちの前に引き合わせられる。軍師の仕事がしたいと大胆にも希望するが、当然誰からも信用されていない。しかし、板垣と信玄だけはなぜか勘助のことを信用する。信玄はいきなり当初の予定した給金を倍にしたり、自分の名の一文字を与えたり、自分が13歳の時に勘助と出会い、諸国を回るよう指示していた(と、これは嘘だろう)など、いきなり厚遇する。板垣と両宿将老臣とされる甘利は信用していない。勘助を試すため剣の勝負をするよう命じる。剣の技術はない勘助はひたすら断り続ける。剣の勝負などしたくないし、諸国を回っていたというのも勝手に噂されているだけで事実無根なのだ。肯定しないが否定もしないところがしたたかだ。ただ他国からの旅行者の話などはよく聞き、それを実際訪れたかのごとく頭にイメージする才能に優れている。剣術も恐らく頭でイメージした通り扱うことができるのだろう。
まるで闇討ちのように甘利の部下から勝負を挑まれる。はじめ断っていたが、スイッチが入ると回りの声も聞こえず異常な集中力で相手を切り捨てた。甘利は勘助が妖怪のように見え、板垣は合戦以外で殺傷することはよくないとたしなめるだけだった。帰り道板垣から足軽大将として25人預けられる。その説明を受けながら、頭は城をとる話で一杯で全く聞いていない。武田晴信という若い大将とともに城をとっていくのが楽しいものに思えたのだった。この時点で勘助と晴信の尋常ではない信頼関係が出来上がっている。ここまでは勘助の仕官するまでの話。ここからいよいよ軍師としての活躍となる。
天文十三年二月、諏訪の豪族諏訪頼重を撃つため信濃の御射山に陣した。いよいよ攻め入ろうとした前日の評定で、家臣たち、とくに板垣の意見に反して、諏訪頼重を討つのではなく和議を結ぶべきと発言する。その理由を皆の前で説く。晴信は実は諏訪とは親戚関係にあるので気が進まなかったのだった。それを勘助は一人察し、晴信の代わりにそう意見したのだった。自分の思いを代弁してくれた晴信は攻めるのはやめようと決め、皆も同意する。そして早速勘助は使者として諏訪頼重の元に向かう。当の頼重は攻められる道理もないプレッシャーから固まっていたが、和議の申し入れによって安心する。勘助が気陣する際、14歳になる姫とともに見送られた。その姫の勘助を見る目は冷たいのが印象的だった。その後旧交を回復するため晴信の元を訪れた。立て続けに3度晴信の元を訪れ、諏訪に帰った後、晴信は頼重の印象を皆に聞く。皆、頼重に対してはいい印象を持っていた。勘助も意見を求められるが、「皆の前でいうことは憚られる」と言う。晴信は勘助を庭に連れ出し二人きりになる。そこで勘助はなんと、以前とは全く反対に、斬ってしまうのがよろしいという。実はこれも晴信が心に思っていたことを察知し、勘助が代弁したのだった。そして次に頼重が古府(甲府)を訪れたとき、中間頭荻原弥右衛門尉によって討たれた。頼重を討った理由は、頼重のたびたびの訪問に対する礼として、一度は晴信の方から諏訪を訪れる必要があろう、そのとき晴信は暗殺されるに違いないからだということだった。その後、武田軍は諏訪を攻める。圧倒的に武田が勝つ。勘助が城に入ると、一人の娘と侍女が二人いた。娘はかつて冷たい目で勘助を睨みつけた頼重の姫であった。侍女から自害するよう説得され、それを見届けようとしているところだった。ただ姫自身は死にたい気持ちなど全くなかった。何と言われようと、城や諏訪の湖がどうなっていくか見届けたい、と。勘助は思うところがあったのだろう。侍女を含め三人を古府に連れて帰る。晴信に引き合わせた後諏訪に返され、諏訪神社に預けられた。やがて勘助の元に板垣がやってきて、晴信が姫、由布姫を側室に迎えたいと望んでいることを告げられる。ついては晴信がその発言に全幅の信頼を置く勘助に、諫めるよう説得してほしというのだ。しかし勘助は晴信がそうしたいというならそうさせて差し上げればいいと答える。板垣には恩がある勘助だが、そんなことは気にしない心意気、いや、より晴信に対する尊敬が大きいのだろう。と、物語はこうであるが、実際は、晴信の父信虎の時代に諏訪家と融和関係にあり、信虎の三女、つまり晴信の妹、禰々御料人を頼重に嫁がせた。美貌の持ち主であったが、16歳の若さで他界する。二人の間には寅王という息子がいた。側室の小見(麻績)氏との間に生まれたのが由布姫である。由布姫は作者の創作で、実際は名称不明。諏訪御寮人と呼ばれる。信玄と由布姫の間に生まれたのがかの武田勝頼だ。物語では頼重と晴信は一旦和睦したとなっているが、実際は攻められた後甲府に連行され、東光寺に幽閉されたのち自刃している。物語では勘助の軍師としての才能と、晴信との主従関係を印象付けるために、そういう展開にしたのだろう。
由布姫は古府に移され板垣の屋敷に預けられる。勘助は晴信との子をつくることを説得するが由布姫は納得しない。父の仇との子をつくることは屈辱だった。勘助は武田と諏訪の血が流れる子はきっと聡明にちがいない。その子をいかようにでも育てることができる、と説得する。勘助は晴信の正室の三条氏も二人の男児も好きではない。兄の義信は暗く器が小さい。弟の竜宝は生まれながらの盲目。その三条氏が由布姫を訪ねてくる。三条氏は明らかに由布姫に嫉妬していて、会うと、父親討った人に囲われたくて、はるばるやってくるとは、国は亡びたくないもの、と嫌味を言う。それだけを言い捨て、去る三条氏。去ったあと由布姫は決然たる表情で、国は亡びたくないもの。武田の家へ諏訪の血を入れてみようと勘助に告げる。
天文十五年三月。戸石城の村上義清と対陣した。はじめは劣勢で、甘利備前守と横田備中守が討たれる。破れかぶれになった晴信は無茶な戦をしようとしたが勘助が50騎ほど借りて敵を撹乱する作戦をとった。その隙をついて武田軍は攻勢に転じることができた。この功により勘助は加増と部下も増えた。その後由布姫は男児を産む。唐突に出てきたので、何歳で産んだのか、いつ妊娠したのかはよく分からない。この頃になると由布姫は勘助にかなりの信頼をおいている。勘助から、生きろと言われたから生き、晴信の側室になれと言うから側室になり、子を産めと言われたから子を産んだと。勘助も同様となっている。
由布姫の子は四郎と名付けられた。なぜ3番目の稚児(わこ)なのに三郎ではないのか。四郎が妾の子だからだ。北条か上杉あたりから養子を迎える際に先方の気持ちを慮り三郎の名を空けておくのがいいとのこと。
想定外に上杉憲政が武田を攻めてくる。苦戦を強いられることが予想されるため、板垣信方を先鋒に出陣させるよう晴信に諮る。そして大勝利を得る。
その戦のあと由布姫は勝頼とともに諏訪へ帰郷する。勘助が同行する。諏訪の血が流れる勝頼と由布姫を諏訪に行かせることで地元の人の気持ちを落ち着かせる。由布姫は晴信から引き離され、諏訪に追い出されるのではないかと心配する。観音院に滞在するため高取城を出た由布姫と勝頼。観音院で先に待っていた勘助が籠を覗くと、由布姫ではなく、侍女が剣で喉をついて倒れていた。
由布姫は晴信に会うために脱走したのだろう。勘助は失踪したことを誰にも知らせず、自分一人で解決しようと決意する。由布姫に寄り添い相談に乗ってやれるのは自分しかいないと考えていた。一人雪の中を由布姫捜索に出る。翌日に小さいお堂で由布姫を見つける。逃げ出した真相は確かに晴信に会いに行くためだったが、仇である晴信の首を取るためであった。そう思ってた逃げ出したわけだが、今は逆で晴信がいとおしい気持ちである。だが、それが日ごと交互に追って来るにちがいないというのである。2つの気持ちが同時にあるという心境を勘助には理解できなかったが。古府にいれば、三条氏や武田の家臣からの嫉妬を受けるだろうし、姫がいつまた晴信を殺したいという気持ちが湧くかわからない。まずは諏訪にとどまることを説得する。晴信が諏訪を頻繁に訪れるように、諏訪の村上義清との戦い、さらには越後の長尾影虎との戦いを計画しようと、そのために戦の戦略にまで組み込んでしまうのだった。勘助の由布姫に対する、恋心も多少あると思われるが、そんなものをはるかに越えた尊敬のような感情、あるいは生き甲斐と呼ぶべき感情。
事実信州での戦が増え、晴信は由布姫と会う機会が多くなった。そして上田原の戦い。村上義清の渾身の戦い。武田軍は勝ち義清は逃げたが、もう攻めてくることはないだろう。ただこの戦で板垣信方は戦死する。しかし史実は異なっているようで、上田原の戦いでは村上義清が勝利し、板垣の他、甘利が討ち死にしている。因みに板垣信方のあとを息子の信憲が継ぐが、行状悪く、追放ののち誅殺された。一時断絶するが信方の娘婿、於曾信安が板垣家を再興する。信憲の子孫には板垣退助がいる。板垣退助の先祖は板垣信方となる。因みに板垣退助は乾退助ろ称していたが、信方の没後320年に岩倉具定の助言により板垣の姓に復した。
晴信は秘密に油川の息女を呼ぶ。隠れて輿に乗っていたその集団を見つけた勘助は、晴信が由布姫を見限り、新しい側妾を迎えるつもりではないかと懸念し、油川の息女の命をたたねばならぬという位の決意をする。そこまで由布姫と勝頼を崇拝している。
油川の息女のことを晴信に聞くと、全く知らないという。一度は安心するが、晴信が古府へ使いを二人送るのを怪しんだ勘助が、使者の持つ文を確認したところ一通は油井の息女への文であった。晴信に騙された勘助。長尾影虎との戦を終え古府に帰る晴信より先に古府へ帰り、油井の息女の命を奪おうとする。急いで古府に向かう勘助だったが、晴信も二人の侍だけつけて三人で古府に向かう一団を追い越す。そこまでして会おうとする晴信の執念。一足先に古府についた勘助は油井の息女と会う。抜き打ちで斬ってしまおうとしたが、油井の息女には既に二人の姫と、腹に子を宿していた。そして息女の天真爛漫さに、命を奪う気持ちが無くなった。逆に雄琴姫と三人の子たちを命をかけて守るとまで決意する。油井の息女の名前は雄琴姫という。諏訪に帰りながら勝頼と、雄琴姫の三人の子たちのために城を四つは取らなければならないなと想像する。諏訪に帰ると由布姫にかまをかけられ、雄琴姫のことをばらしてしまう。そして、雄琴姫と会うよう段取りするよう命じられる。晴信は雄琴姫のことは由布姫には話していない。由布姫は勝頼を武田の跡取りにすることに執着しているので、雄琴姫に男児が産まれることを快く思わない。因みに雄琴姫というのは井上靖の創作で、実際は油井夫人と呼ばれる。四人子ができ、仁科盛信、葛山信貞、松姫、菊姫(小説では春姫、夏姫)という。この菊姫はのちに上杉景勝の正室となる。武田と上杉というライバル同士が縁を結ぶのだ。由布姫は、雄琴姫と共に尼になると脅す。そうなると晴信は体面が悪いだろうから晴信自身が出家するようにと勘助は促す。当松庵に相談し、桃首座に出家を進めてもらうことになる。そして晴信は出家し、徳栄軒信玄機山と号する。同時に、原美濃、勘助、小幡山城、長坂佐衛門尉も出家する。勘助は道鬼と号する。諏訪に帰り由布姫と会うと、尼になる話は嘘だと言う。桃の木を見るため二人で歩き、由布姫は細くなった腕を見せ、自分は長く生きていたくないともらす。晴信に嫉妬心を抱く一方、実際会うとご機嫌を取ってしまう。そんな生き方が嫌になったのだ。
由布姫、信玄、勘助が珍しく三人で飲む。信玄は次の一手を決めあぐねていた。それを由布姫に決めさせる。由布姫は木曾を攻めるがよいと答え、それに従おうとする。信玄が古府に帰ったあと、由布姫は心のうちを明かす。自分は勝頼がかわいい。正室の子たちが不利な立場になれば、すかさず勝頼を担ぎ上げたい。なんとなれば正室の子たちを殺めたいくらいだ。信玄はその気持ちを察しているようだ。ただ、由布姫の命もあまり長くないというのを感付いていて、由布姫がそれを実行することはないだろうとたかをくくっているのだ。
北条、今川、武田の三者でそれぞれの娘を輿入れさせ、結束を固める。木曾義昌を屈服させ、あとは上杉景虎を討つばかりとなる。病のためみるみる痩せていく由布姫。ある日戦に向かう勘助を由布姫が呼び戻す。勘助62歳、由布姫25歳、勝頼は10歳の時である。由布姫は勘助に特に用があるわけではなく、ただ顔が見たかっただけといい、由布姫に酌をしてもらい他愛もない会話をする。そんな静謐なひととき。上杉の偵察隊が信濃に現れたため、その様子を見に行く勘助たち。対戦するつもりはなかったが、しつこく追いかけてくる上杉隊。その時前方から武田の者が一騎駆けてきて、勘助に、昨日、由布姫が亡くなったことを伝える。動転する勘助。回りが見えなくなってしまう。無我夢中で追手をかわしながら、遂には馬も潰してしまい、夢遊病のように諏訪へ歩いて帰ってくる。由布姫をなくした喪失感が激しい。もう残りの人生は戦をすることしか考えないと思うと同時に、由布姫に向けていた気持ちを勝頼に向けることがもはや生き甲斐となった。
武田軍は周囲を攻め勝ち戦を続ける。その間上杉からも牽制されている。将軍義輝(現在放送中の大河「麒麟がくる」で向井理が演じている)から、上杉と武田の双方に小競り合いを諌めるよう文が送られてくる。しかしどちらも無視している。将軍は全国の大名を統率する立場である。しかし誰も将軍の言うことを聞かず、お飾り状態となっている。ということが感じられる。
謙信は将軍に会うため越後を空けている。その隙に越後を襲うべきだと思われるが、まだその時期ではないと勘助は考える。勘助は信玄にお願いをする。城を一つ建てたい。上杉攻めの拠点にする意味があるが、もう一つ、これは勝ち戦になるので、この戦を勝頼の初陣にすべく、勝頼が進発するための城としたいのだった。因みに大河ドラマ「風林火山」42話「軍師と軍神」では、突然春日山城を去り高野山へ行った(とされる)上杉謙信と由布姫を亡くし失意にある山本勘助がそこでニアミスするシーンがあるが、小説にはない。
高坂昌信に先発させ川中島一帯に点在する上杉勢を一掃させる。高坂は武勇はあるが、自分の考えは持たないため(そのように見られているため)信玄や家臣たちから見下されている。しかし勘助はそんな高坂に、気を遣わなく、好感を持っている。陣中見舞いし二人で酒を交わす。すると何の考えも持たないと思っていた高坂が、自分と全く同じく、城を建て、そこに勝頼を入れたいと考えていることを知る。ただし意図するところは全く逆で、高坂は信玄を始め、義信や身内のものはすべて討たれるに違いない。そして最後を守るのが勝頼をだと考えているのだった。そして高坂は勘助と信玄の戦がこれまで作戦でもって勝利してきたこと、そしてこれからの謙信との戦いは、作戦ではなく力と力の勝負になるだろうと見抜いている。朴訥としてそういう高坂であるが、勘助と信玄がそれまで行ってきた戦のやり方を否定するものであるが、勘助はかえって頼もしく思うような気分になる。その後も高坂と酒を酌み交わしたいと思わせられるのだった。勘助は既に67歳。
城ができる。海津城と名づける。高坂が城代を務める。高坂、勘助、信玄が城に集まる。川中島を見渡せる城からの眺めを見て三者三様の思い。高坂は敗戦の絵、勘助はそれでも勝利に持っていく絵、信玄はここから眺める美しい月の絵。
謙信との決戦が迫り、出陣する勘助。このときの気持ちが感慨深い(287p)天文八年にこの土地を踏んで二十数年、今回生きてこの土地を踏むことはないだろうと思う。敗ける気はさらさらない。なのに再びここへは戻らない気がする。永劫生き続けそうな気すらするが、人間には死期というものがある。自分には今回の戦いが死期の気がする。寿命を断ちに合戦が自分にやって来つつある。
決戦の前に勘助は由布姫の墓を詣でる。自分の命は姫が死んだときに終わっている。など墓前に語りかける。すると何か由布姫が悲しんでいるような気持ちがした。その時麓を勝頼の部隊が通過する。追いかけ、それまで今回を勝頼の初陣にしようとしていた勘助であったが、由布姫が悲しんでいる気がして、勝頼に1年待てという。信玄には自分が何とでも言い訳する。高島城に勝頼を入城させ、城を守るようお願いし、別れを告げる。つまり最後の別れか?出がけに雄琴姫に呼び止められ、勘助はさらに勝頼を守るよう頼む。雄琴姫の息子、信盛も十二歳になり、勝頼の力になれるだろうと言われると安心して出陣する。最終決戦に向かうこのひとときの静かな高揚感がしみじみ感じられる。
武田軍と上杉軍の決戦。史実的には第五次まであるとされる川中島の戦いのうち、第四次にあたる。両者なかなか先端を切り出せず膠着状態。上杉軍は妻女山に陣どる。勘助は武田軍を2つに分け、先陣として1万5千を妻女山に向かわせ山上から上杉軍を襲う。そして追いたてられた上杉軍を川中島で待ち伏せて、挟み撃ちにしようという作戦を立てる。夜のうち霧が立ち込んでいた。明け方にそれが晴れると妻女山に陣を構えていると思っていた上杉軍が川中島の正面に現れた。先陣と違いこちらは少ない兵数であり、上杉軍の圧倒的な兵数に大苦戦する。武田信繁が討たれ、諸角豊後守も討たれる。先発隊はどうしたわけか、まだ帰って来ない。勘助は突撃隊を編成し自ら出陣する。もう四方から切られボロボロだ。そんな時遂に先発隊が戻ってきた。朦朧としながらこれで武田の勝利を確信する。槍で刺されもう何も見えなくなる。勘助の一生の中で一番静かな時間が来た。という一文が感慨深い。板垣信方、由布姫が思い出される。そして敵兵に首をとられようとするとき、勘助はその若い兵士に討たれることに、なぜか満足な気持ちなのだった。
山本勘助の、武田信玄、由布姫、武田勝頼に対する感情。家族でないくせにそれ以上の感情にも見える。これが主従関係における忠誠心とういうのだろうか。何の血縁関係もない赤の他人である武田信玄に対して、この主君には命を捨ててもいい、何を言っても正しいと思える。由布姫に対しては恋愛感情はないし、主君の正妻ではなく側妾だ。その姫に尽くそうとする。そして武田勝頼に対しても、息子ではないが、(勘助に息子があったとして)息子以上に思う気持ちがある。現在のわれわれは勝頼が武田の後継者になったのは知っているが、勘助が生きている時代には後継など考えも及ばないくらいの立場だったはず。それが分かっての上での作者の創作であるのはわかるが、勘助の熱情が伝わってくる。これは戦国時代ではあり得る感情だったのかと思う。そうだったのだと作者は伝えたいのだろうか。そうすると私は作者の伝えたい気持ちを受け取ることができたのだと、うれしい気持ちだ。
クライマックスかつ決戦となると、アドレナリン全開でマッチョな人々が、士気を高めながら相手の首を取ることしか考えていない。負けて自分が討たれると考えること自体が負け犬だ。そんな場面が普通だが、そうではない。この合戦で自分は死ぬかもしれないと漠然と思う。でも死ぬことが悔しいとか嫌なわけではない。この戦場で死ぬことが自然だというような感覚。戦国時代の侍たち一人一人がそんな感覚だったのではないかと思える。
 
20200930読み始め
20201020読了

サントリー金麦濃いめのひととき2020

2020-10-16 22:30:12 | ビール以外

リッチモルト1.3倍。

リッチモルトと言えばサントリーだったか?

飲むと確かに濃い感じがする。

麦芽が濃いし、甘くある。

雑味間などは感じられない。

プレモルに近いすっきり感。もちろんプレモルに比べると発泡酒の合成感はある。

重いので、渇きを癒すタイプではない。

じっくり飲むべき。


「アルスラーン戦記」田中芳樹(4/4)

2020-10-10 20:36:41 | 読書
いよいよ12巻まで読んで、残り4巻。口コミでは終盤になると、面白くなくなった、作者の才能が尽きたなど酷評されている。しかしここまでは全くそう思わない。むしろ安定した、第1巻から一貫したストーリーテリングのように思われる。ただ皆殺しの田中芳樹と言われており、登場人物が次々死んでいくと予想され、そうなるとちょっと読むのが辛くなる気もする。
「蛇王再臨13」
20081007刊行。1年10ヶ月ぶり。
チュルクの話、シングと弟のザッハルはパルスに調査に行き、ドン・リカルド達に殺された。チュルクの掟では失敗した者の家族はみな処刑されることになっているが、シングとザッハルの息子たちはチャンスを与えられ、2人で智略を尽くしてアルスラーンを討つことができたら、家族みな無罪とし、息子たちも要職に抜擢するといわれる。死に物狂いで挑戦する、ジャライルとバイスーン。しかし、いざ2人は旅立つと仲間割れしてしまう。そしてジャライルは手違いでバイスーンを死なせてしまう。こんな任務を押し付けたカルハナ王に憤りを覚える。そこへ魔導士ガズダハムとイルテリシュが現れる。イルテリシュはバイスーンを部下にしようとするが魔導士は納得できない。イルテリシュのこともザッハークに敬意を示さないことから気に入らない。イルテリシュからザッハークに会わせるよう要求され、捕らえられたザッハークの元に連れていく。レイラも一緒だ。不死身のザッハークなのになぜ鎖でつながれたままなのか。鎖の一つはルクナバードと同じように太陽から作り出したものだそうだ。そのためその鎖だけが切ることができなかった。イルテリシュはその鎖を切ろうと考える。そうすればザッハークは復活し、その鎖を鋳なおせば、ルクナバードと同じ剣を造ることができる。
ヒルメスの名を騙ったシャガードは牢に入れられていた。あの時すぐに殺しておけばよかったが、今となってはそれも面倒になる。南方軍からビプロスが船で河を使い戻ってくる。前都督のカラベクの次男だ。ナバタイ人が襲ってきて城を囲んでいるという。それを告げ、兵を出してもらうよう伝えに来たのだった。ヒルメスは兵を出そうとするが、自分が王都アクミームを離れた隙に、反乱分子が乗っ取ってしまう危険性があり思案する。南方軍が落ちればミスルはますます立場が悪くなる。そして早急に南方に出兵した。すると案の定王宮を反乱軍が襲う。王宮には幼い王と王太妃と戦は全くできない宰相のグーリィしかいない。王を人質にとれば王都を乗っ取ることができる。主犯はシャガードであった。王は後宮に隠れていたが、間もなく破られようとしている。その時ヒルメスが現れた。南方に向かったと見せかけ誰かが反乱するのを見越してすぐに引き返してきたのだった。シャガードを倒す。そして後顧の憂いなく安心して南方へ出征できるのであった。
ナルサスの悪辣な作戦。ぺシャワールを放棄する。ぺシャワールを狙って魔軍、シンドゥラ、チュルクが争い共倒れにしてしまおう。それにともない全将軍がエクナバートに帰ってくる。重症のエステルは足が壊死しており、生命も危うい状態。馬には乗れないので車でゆっくりとエクバターナに向かう。その事をダリューンから聞いたアルスラーンはこちらから会いに行く。再会を果たすアルスラーンとエステル。数言会話しただけで息を引き取る。エステルの遺志を継いでドン・リカルドはアルスラーンの臣下に入る。名付けてパラフーダ(白鬼)。かつて敵であったルシタニア人であっても臣下にするアルスラーンだった。感動の場面。
ザラーヴァントは王都の城司に任命される。
池の底を抜いて水浸しになった地下空間の調査に出る。足の腱を切って捕らえた魔導師グンディーを案内役として同行させる。ファランギースとアルフリード、イスファーン、ザラーヴァントがこの任務。地下には水が残っており船で進む。有翼猿鬼が現れる。グンディーは有翼猿鬼に腕を掴まれ逃げようとするがザラーヴァントの槍によって突き殺される。ザラーヴァントは仲間とはぐれ1人になる。その時一匹の有翼猿鬼が現れる。しゃべれないが仲間の血を拭ってそれで壁に文字を書いて伝える。自分はザラーヴァントの従兄弟のナーマルドだと。同情を誘う文面だがザラーヴァントは納得できない。しかし殺すには忍びないから立ち去り二度と前に現れるなと告げる。そして背を向けたとき、背中から槍で突かれる。ザラーヴァント死す。みんなは犯人がわからない。血文字でナーマルドと名乗っているが、誰もナーマルドが有翼猿鬼に化けたとは思いもよらない。ミステリー的展開を見せる。ザラーヴァントの後任はトゥースが任命される。解放王の十六翼将が16人揃ったのは20日間しかなかった。そこかしこに今後の展開を予感させる不穏な雰囲気を醸す作者の文章。
ぺシャワールから人がいなくなったとガズダハムは鳥面人妖から報告を受ける。が、その事はイルテリシュには知らせない。ジャライルは魔物でなく人間なのでルクナバードと同じ材料からできている、蛇王を拘束している鎖に触れることができる。なのでヤスリで鎖を削る。レイラはその鎖を溶かして剣を造るのでなく、鎧を造ってはどうかと提案する。そして鎖は切れ、蛇王が拘束から解放された。途端にデマヴァント山は地震が発生。ジャライルはなぜかレイラに興味があり、助け出そうとする。
表紙はエステル。扉絵はドン・リカルドとメルレインの対決場面だろうか。
「天鳴地動14」
20140516刊行なので5年7ヶ月ぶり。ちょっと長いか。確かに文調が変わった印象。断片的な記述で、会話文にひらがなが多くなった。諸将達が自由に集まって、好きなときに退座できる、お菓子を食べながらおしゃべりをする円座会議の場面がやたらと増える。
地震は続く。ぺシャワールを乗っ取ったラジェンドラ。チュルク兵は魔軍によって3万人が全滅したし、魔軍自体はなぜか撤退していったので、勝手に自分の手に入った。ラジェンドラは前世襲宰相のマヘーンドラの娘であるサリーナをカドフィセスの嫁にしようとする。チュルクの国王にしたあかつきにはシンドゥラと血縁関係を結べると考えた。ラジェンドラにはアサンガという宰相、バリパダという武将が登場。
イルテリシュは異国人なので蛇王を恐れない。蛇王の肩から生えている蛇の一匹を切り落とす。またすぐに生えてくるが、爽快な場面。地震は続く、イルテリシュ達は洞窟から出ようとする。その際に棺を運び出そうとする。中には誰が入っているか分からなかったが、遂に覗いてみると、ある人物だった。その時魔導師グルガーンが帰ってくる。しかしガズダハムとは仲が良くない。
ラジェンドラはまたしても兄弟分のアルスラーンを利用しようとする。
パルスでは円座会議で、国の政治についての退屈な描写が続く。人をどう雇うか。国庫はルシタニアからほぼ全部回収した。税をとると民が苦しむ。仕事を与えてやったらいい。町や道路の整備にダリューンとのキシュワードが我先にと競って志願する場面等。
ラジェンドラにダリューンが使いとして訪れる。ぺシャワールを簒奪したのが事実だがそれを逆に利用して東方を任せてしまおう。
イルテリシュはチュルクに入る。カルハナと一騎打ちしカルハナを倒す。バシュミルというトゥラーン人に再会し部下にする。チュルク人の国庫を管理するチャマンド。イルテリシュは魔物を指揮するのでなく、トゥラーン再興が望み。魔軍をどこかにやって、チュルクを支配下に治めたい。チュルク兵は皆殺しだが、チュルク人を新たに兵士に育てること。
シンドゥラからの帰りダリューン達にところに魔軍が襲ってくる。ガズダハムが率いている。副使節としてついていたパラフーダがガズダハムを倒す。初手柄。
カルハナが死んで家族を牢から解放できたジャライルは故郷に帰りたいとイルテリシュに申し入れると、意外と簡単に許す。しかも金貨をあたえる。
パルスではまた地震。アルスラーンを庇ってトゥースが大理石の下敷きになりあっけなく死ぬ。出た、安易に主要人物を退場させる。戦闘シーンでかなり危険な場面があったのに嘘みたいなタイミングで助けが来て免れたというのに、戦闘でなく地震なんかで死んでしまうとは。しかも何の見せ場もなく、ほぼ即死という。今後もこんな感じで続くのかもしれないが。確かにこれぞ作者の醍醐味だろう。長年細かい設定で登場人物を育ててきて、クライマックスで思うように退場させる。
ヒルメスは南方へ向かう。ナバタイ攻略のため。河を使い進撃。しかし途中の峡谷で火攻めに会う。ビプロスの兄テュニプの仕業。愚を装ってミスル簒奪をねらっていたのだ。ヒルメスがお膳立てした後、自分がミスルの権力者になろうとしていた。ヒルメスの軍は壊滅状態。客将軍府に戻るがテュニプの追手が来る。応戦する。テュニプはヒルメス達を殺す気はない。パルスへ帰ってくれればいい。ヌンガノは実はテュニプのスパイだった。金貨2千枚で去ればそれでよいとする。ヒルメスはそれに応じる。生きていれば再起も叶うという考えだ。フィトナは野望が高いためそんなヒルメスを見限り、テュニプの元に入る。またもや1人になるヒルメス。従うものはブルハーンのみ。マルヤムへと向かう。非常にハラハラした。つまりここでいともたやすくヒルメスが死んでしまわないかという意味で。
大地震後のパルス。被害者には金を支給したり、家を失った者には王宮を開放するという事務処理の場面が続く。近く訪れるであろう魔軍との戦の軍資金を集めにギランへ赴く。キシュワード、ファランギース、メルレイン、ジムサが任命される。途中でギーヴと合流。ギランに着くとグラーゼに迎えられる。資金は4人の富商から提供してもらうよう面会する。ところが4人とも鳥面人妖に乗っ取られていた。そして有翼猿鬼が襲来。格闘場面。グラーゼは有翼猿鬼の投げ網に捕らえられ空中に連れ去られる。網を切っても魔物を斬っても墜落の危険がありなすすべがない。建物の屋根に近づいたときに網を破り飛び移る。左手で掴んだがその手を鳥面人妖が噛み切る。グラーゼは墜落し地面にたたきつけられる。グラーゼの部下が近寄ると「お前らより先に死なぬ」と言葉を発するが、血を吐き息絶える。魔物に乗っ取られた富商だが、その財産はいくらか残し国庫に入れるということになる。資金調達に成功した一行はエクバターナに帰る。しかしあと1日で帰り着くというときに、またしても魔軍が襲来。無数の相手に際限がない。特に魔物の血は毒が強く薬品で焼かれたような火傷を作るためそれをかわしつつ戦う必要がある。うんざりしかけたところにダリューンの援軍が加わる。ジムサは吹き矢で対抗していたが、首領格の巨大な鳥面人妖と戦ううち吹き矢の筒を折られてしまう。続いて剣を抜くが、巨大なためか傷をものともしない。ついに剣も取り落としてしまう。ギーヴ、ファランギース、メルレインの矢によって援護を受ける。折れた吹き矢のの筒を鳥面人妖の口に突き刺し、脳まで貫通させとどめを刺すが、鳥面人妖に体をつかまれ背骨を折り、鉤爪によって背中に重傷を負ったジムサは倒される。この軍資金集めの旅で2人の部将を失った。王都に戻った一行。ナルサスはアルスラーンに言う。キシュワードに罰を与えるようにと。キシュワードは今回の件で自責の念に駆られており、次の戦では自分の死をもって償おうと考えているに違いない。なので、アルスラーンから罰を与えることで早まった行動をとらせないようにしたのだ。これによりキシュワードは大将軍の任を解かれ謹慎となる。大将軍の後任はダリューンが任命される。なるっすとダリューンはイルレリシュの姿が見えないことに懸念を示す。チュルクの場面。イルテリシュはグルガーンから故郷の乳濁酒を献上される。以前からからにおわされていたが、ザッハークの血をもう一度飲ませようとしていて、その酒に混ぜられているのであろうことは予想できる。乳濁酒を杯にそそいだところでいきなり完、次回へ続く。
表紙はラジェンドラ。扉絵は恐らくイルテリシュ、ジャライル、ガズダハム、グルガーンだろう。
「戦旗不倒15」
20160518刊行。2年ぶり。
ミスルの場面。ヒルメスに使えていたパルス人商人ラヴァンは手のひらを返し裏の顔を見せる。魔物に入れ替わられたのか。真実かはわからないがフィトナがアンドラゴラスとタハミーネの娘であることを知っている。ラヴァン正統の内親王であることを活かしミスルの王妃となり、パルスを奪還し、いずれはパルスとミスルの女王となるよう、耳打ちする。テュニプには8歳の現王であるサーリフを殺し自身が王になるようそそのかす。ヒルメスの部下であったパルス兵のフラマンタスとセビュックはヒルメスがトゥラーン人のブルハーンだけ連れてマルヤムへ逃げ、自分達を捨てたことに不満を持っている。これをまたテュニプの部下になるようそそのかす。テュニプは忠誠の証として幼王を殺すよう2人に命じる。ここへ来てまたミスルがパルスを攻めるという新しい展開を開始する。
ギスカールの前にヒルメスが現れる。兵を貸せと脅迫する。不本意ではあるが一応再度手を組むようだ。
チュルクではイルテリシュにザッハークの血(血は赤いのではなく白いのだ)を飲ませることに成功したグルガーン。そして人骨で作られた棺の中にはアンドラゴラスの遺体が。そして起き上がったアンドラゴラスは蛇王ザッハークと名乗る。切り捨てようとしたイルテリシュだが素手で剣を簡単に折られてしまう。さらに殺されかけたが、軍を統率する力があるとグルガーンの助言により助かる。ザッハークのオーラによって遂に膝を屈する。
ファランギースとアルフリードが街を巡察していると、トゥースの死後故郷へ帰っていた元妻の3人が戻ってくるところに出会う。ファランギースの独居に住むことになる。
ダリューンとナルサスの会話。ミスルでヒルメスが追放された件を、情報筋から得たという。ヒルメスがマルヤムへ向かったことも知る。いずれアルスラーンに刃を向ける前に、始末しておきたいと告げる。
ギーヴ、ジャスワント、パラフーダが巡察していると、神官が不吉なことが続くのは国王がカイホスローの正嫡の血を引いていないからと讒言しているところに出くわす。全国民から信頼されているわけではない、不吉な前兆。
ラジェンドラはまたしてもカドフィセスを王に、かつて恋を寄せていたサリーマを王妃にあてがおうとしていたが、サリーマを女王にしようと考えるようになった。そのころ将軍バリパダはサリーマを狙っている。サリーマをカドフィセスに与えるか、バリパタに与えるか悩むラジェンドラ。サリーマ自身に相談し、あるアイディアを耳打ちされる。
アンドラゴラスを器として完全復活したザッハーク。イルテリシュは完全にザッハークに服従している。イルテリシュは臣下のバシュミルにパルスへの出撃の用意を命じる。
ファランギースをはじめとする女性キャラ総出場での穏やかなひととき。
カドフィセスとバリパタの対決は何とスピーチ大会。バリパタは敗北するが、逆上しカドフィセスを殺害してしまう。さらに勢いラジェンドラに槍を向けてしまい、謀反人として追われる身となる。サリーマは混乱の場を上手く裁き、遣り手感を見せる。
バリパタはパルスに身を売ろうとパルス方面へ逃亡。そこでメルレイン率いるゾット族のパルス軍別動隊と出くわす。問答無用で対決するはめに陥る。圧倒的にメルレインが優勢。そこにキシュワードの軍が到着。副将としてついていたジャスワントが同郷のバリパダを見て自分に任せてほしいと言う。その時デマヴァント山に巨大な魔物が出現。ザッハークの形をした巨人だった。メルレイン、キシュワード、ジャスワントが次々攻撃するが全く動じない。そんな時は溶岩が流れだし、巨人は溶岩に呑み込まれあっけなく没し去る。しかし山の奥にチュルク兵が現れる。ザッハークとチュルクが手を結んだとは信じがたいが、キシュワードたちは応戦しようとする。人間相手なら余裕だと。そこへギーヴが登場。チュルクを偵察していたという。ギーヴの考えではチュルク兵はただの囮で、その後ろにはザッハークの部下の魔物達が控えているのではないか。ならば一旦撤退した方がいいとのこと。そしてソレイマニエへ引いて体勢を整えることとした。ギーヴは先にソレイマニエへ戻り住民に知らせる任務。ジャスワントは捕らえたバリパダをエクバターナに連行しアルスラーンの前に引き出すことに。それにしてもナルサスの軍略は無敵だが、魔軍への対処は全く無力だ。自身も非合理な要因と自分の知略が及ばないことを嘆いているのではあるが。
マルヤムにおいては、ヒルメスがギスカールをけしかけパルスに兵を出そうとしている。ミスルでは、ラヴァンに操られたフィトナがテュニプをそそのかし、パルスに侵攻しようとしている。チュルクでは蛇王ザッハークの指示のもとイルテリシュがチュルク兵と魔軍をパルスに送り込もうとしている。四方全てから攻められんとする危機を迎える。
まず始めに攻撃を仕掛けてきたのはイルテリシュ率いるチュルク兵と魔軍。ソレイマニエで抗戦する。キシュワード、メルレイン、パラフーダそしてギーヴ。圧倒的な数でパルスを襲うイルテリシュ。きりがなく読者はハラハラする。キシュワードとイルテリシュの一騎打ち。もはや魔人と化したイルテリシュに太刀打ちできないキシュワード。防戦一方となる。ギーヴはキシュワードに関しては武術の面では安心していたが、どうも今回はすんなり助勢した方がいいのではないかと弓を構える。その時2人は死角に入ってしまう。その代わり現れたのがレイラだった。ファランギースやアルフリードなら気後れするが自分ならしがらみなしに斬れると、レイラの前に立つ。危険を察知したレイラは逃走する。同時にイルテリシュも例の籠にのって去っていった。それを引き金に魔軍は撤退する。楽しみは翌日に残しておこうというわけだ。ギーヴの提案で一刻も早くソレイマニエから撤退することが決定される。パルスの体力はもう限界であり、翌日にはただ殺されるだけになるからだ。そして今回も諸将は1人も欠けることなく王とへ帰還する。アルスラーンの前に連行されたバリパダだが、信用を得ず牢に入れられる。四方から狙われいよいよクライマックス然としてきた。ナルサスの奇策が炸裂するのだろうか。
東方は何とかなるとして西方が手薄なため、アルスラーンはダリューン、ナルサス、イスファーンを引き連れ出征することにする。ファランギースはナルサスにくっついてアルフリードも西へ行くだろうと、3つの鈴を預ける。危険の大きさによって鈴のなる数が増えるというものだ。ここのところファランギースがアルフリードに対して何かの予感を持っている描写が多く、読者は不安になる。
ナルサスとアルフリードはある夜結ばれる。その唐突感。作者はこういうシーンは苦手なのだろう、コミカル風にさらっと流した。
蛇王はグルガーンに尊師の正体を知っているか尋ねる。グルガーンは当然知らないが、アルスラーンの首をとったあかつきにはその前で教えてやろうと言う謎。
ミスルがディジレ河を渡って進行してきた。ミスルはそれほど強くはなくパルスが優勢となる。パルス本体はミスルに対応する。それと別にイスファーンの別動隊を北へ配置し、ミスルの側面を突くことになる。ナルサスは何を思ったか近くのザーブル城に三百人の兵だけ連れて布陣する。圧倒的な強さと作戦によってミスルをディジレ河に追い返す。船で逃げようとするミスル兵に火矢を打ち火攻めにする。よく考えたらかつてテュニプ自身がヒルメスを同じ作戦で罠にかけた逆のパターン。テュニプの船は転覆し、河の鰐に襲われる。鰐に食われるよりはということでファランギースは弓矢でテュニプに止めを刺す。それを遠くで見ているフィトナ。これを機に自分がミスルの女王となり、兵を立ち上げやがてパルスの正統としてアルスラーンを攻めようと目論む。パルスの勝利。
一方北の方からマルヤムの軍で先遣隊のヒルメスが様子を探っていた。パルスとミスルの先頭のどさくさにアルスラーンただ一人倒し、倒せばパルスは瓦解すると考え、即座に兵を進める。まず、かつてこもったことのあるザーブルに入城しようとする。そこにいたのが偶然にもナルサス。ナルサスとダリューンにも恨みを持つヒルメスはナルサスを襲う。ナルサスとの一騎打ち。何合も打ち合うが一瞬の隙でナルサスは斬られる。最後の言葉もないぐらいの壮絶な倒され方。アルフリードは仇を討とうとする。圧倒的にヒルメスの腕が上だが、渾身の一撃で左腕に傷をつけることができた。しかし運もそれまで、アルフリードはブルハーンの弓によって討たれる。アルフリードごときに傷つけられたことで逆上していたヒルメスは、余計な手出しをしたブルハーンを叱責する。かつてよく似た場面があった。ただ前回のようにブルハーンを斬ることはなかった。ついにナルサス、アルフリードが討たれてしまった。ダリューンが助けに来たがすでに遅かった。ヒルメスを攻撃しようとしたが、今は逃げるにしかず、ヒルメスは逃亡する。
王都を守るキシュワードとメルレインの元に告死天使が戻ってくる。文を足に結わえてある。ナルサスとアルフリードの訃報を知ったキシュワードは復讐を誓う。
帯には宿敵ヒルメスの憎悪の刃が襲う!アルスラーン最大の危機!!などと、結末のネタバレをしている。そのくせアルスラーンにヒルメスの刃が襲うわけではないので嘘だ。
表紙はアルスラーンと十六翼将。クバードがちょっと華奢な感じがしないでもない。あとこのイラストレーターは鼻を描くのが下手だ。扉絵は蛇王の形をした巨人。
「天涯無限16」
20171214刊行。1年7か月振り。
シンドゥラにジャスワントが現れる。アルスラーンは蛇王との対戦を控え、女子供、但し幹部の家族だけシンドゥラに避難させようとした。その使者としてジャスワントが選ばれた。またバリパダをラジェンドラに送還し処遇を得るつもりだったが、バリパダは檻を脱出し、ジャスワントと争う。ジャスワントはバリパダを倒すが自分も重症を受けた。死力を尽くしラジェンドラと交渉し、パルスの女子供を受け入れる了承を得た。そしてジャスワントは息絶える。冒頭からいきなり武将が死んでしまう。世の中の口コミはこういったところに不満を持ったのかもしれないが、取り立てて不当でもないように思う。
今までに名前すら出てこなかった諸侯の1人カーゼルン。取り立てて取り柄はない反アルスラーン派の1人だが、そのカーゼルンの元に中身がザッハークであるところのアンドラゴラスが現れる。実は死んでいなかった。アルスラーンを成敗するから兵を用立てしろと命令を受ける。5万人集まる。ザッハークは闇で活動するわけではなく、意外と庶民の前に気軽に現れるのかと意外だ。
アルスラーン達はサーブル城を撤退しルクナバードに戻る。捕らえたブルハーンの処置として、誰かと対決させる。名乗りをあげたのは当然メルレイン。妹と妹の夫(ナルサスのことだが、実際ナルサスを倒したのはヒルメスである)の仇だから。勝負はメルレインの勝ち。
いつの間にやら尊師が復活している。というよりはラヴァンに化けていたのは読者も薄々気づいている。そして話口調は年寄りめいているものの見かけは美青年になっているのだ。魔導師の弟子の最後の1人グルガーンに、今のところ自分の後継者候補といい喜ばせる。しかし蛇王は自身が尊師のことを尊師と呼ぶ。果たしてその正体は?蛇王は自分は幽閉されていたアンドラゴラスとし、パルス兵を率いてアルスラーンを討つ。イルテリシュは魔物とチュルク兵を率いるという形をとる。
チュルク軍がまず仕掛けてくる。ダリューン、ギーヴ、エラム、イスファーンのそれぞれの活躍の場面。そしてクバードも登場し暴れまわる。最後にパラフーダの活躍の場面。
有翼猿鬼に対しては林に追い込み飛びづらくしたり、網を張り巡らせて絡めとる作戦で対応。ほどなくパルスは勝利する。今回の作戦は敵に強さを見せつけること。イルテリシュの存在の確認。このまとまりのない戦いかたからイルテリシュは不在であることを確認。
使い果たした矢を補充するため城に戻ったエラム。宰相ルーシャンと会話する。別れた後現れたのがグルガーン。毒を塗った短刀でルーシャンを殺害。そこへファランギースが登場しグルガーンを斬ろうとする。毒の塗られた短刀で襲う。その時エラムの放った弓矢がグルガーンを打ち抜く。武将ではないが、アルスラーン王誕生時から活躍していたルーシャンが倒れる。そして最後の魔導師グルガーンも討たれた。ルーシャンの後任はキシュワード。ただ戦うことも許された。
アルスラーンはメルレインにザーブル城の食料庫に火を放つよう指示する。火をつけるだけですぐに引き返すこと。ザーブルにはギスカールはじめヒルメス達がいる。雪解けを待って春にルクナバード進撃することを決定した。しかしそれを待つことなくメルレインによって火をつけられる。火が苦手なヒルメスはあっさりと逃亡する。メルレインはある程度戦ってあわよくばギスカールかヒルメスの首をとろうとしたが、数で勝るマルヤム兵に圧倒される。そこへファランギースとパラフーダが応援に来る。ギスカール、オラベリアとパラフーダの元ルシタニア兵がばったり再会する。オラベリアはこちらに戻るよう説得するがパラフーダは拒む。そしてそれでもギスカールを斬ることは抵抗があるとして去る。その直後ギスカールは胸に2本の矢を受ける。ファランギースとメルレインの放った矢だ。「俺は死なん」と言い残しこと切れる。マルヤムで国造りをしていたらよい支配者になっただろうに、ヒルメスにそそのかされあっけない最期だった。
ザーブルに残ったマルヤム兵アルスラーンはダリューンを使者として送る。即刻帰国したなら命は保証すると。しかしマルヤム兵達は春になり暖かくなるまで滞在するよう希望する。即帰国すれば良かったものの残留したせいで魔軍からの襲撃という憂き目を見る。それをヒルメスは目撃する。ヒルメス自身魔物を見るのは初めてだった。
ギーヴはカーゼルンの領地に単独偵察にはいる。領館にアンドラゴラスの姿を見る。自分と同じくらい美形の魔導師が侍る。ザッハークとアンドラゴラスの関係が理解できないギーヴ。ギーヴが盗み聞きしているのを承知で聞かせていた魔導師が突如ギーヴを襲う。からくも逃げることに成功。
アンドラゴラスが8万の兵をもってエクバターナに進撃する。同じ頃ヒルメスはミスル軍がエクバターナに向かって行軍しているのを見つける。フィトナが女王でありパルスの正統と宣言するため王都に向かっているという事実を知ったヒルメスはフィトナに会いに行く。狡猾なフィトナはヒルメスと改めて組むよう申し出る。ミスル軍5万のうち500騎を任せられる。
アルスラーンの作戦は一撃離脱戦法。これで被害は少なく多くの敵を倒す。アルスラーンは魔物に子供がなぜいないか熟考した考えを伝える。子が成長するのでなく、作られたものであること。それはザッハーク自体がそうであろうこと。ナルサスがザーブルに別行動をしてまで伝えようとしていたことらしい。か、その理由はわからない。
アンドラゴラスによってタハミーネが拉致されてくる。エレンも呼ばれる。母娘の対面だという。タハミーネはアンドラゴラスに、アルスラーンの前に出ることを命令される。盾にしようというのだが、タハミーネは拒む。するとアンドラゴラスは役立たずの女と斬って捨てる。しかもレイラまで。あっけない最期。アンドラゴラスの非情さがよく分かる場面だが、物語的には今までキャラを育ててきたのは全く無駄ということになる。もうここまで読んでページは残り半分、ページが足りないのがわかる。16巻で収めるには話を膨らませ過ぎたものと思われる。もともと14巻完結と言ってたのを撤回して16巻まで引き伸ばしたのだから、さらに巻数を増やしてもよかったのではないかと思うが。
アンドラゴラス側の一応の宰相カーゼルンはダリューンに討ち取られる。
アンドラゴラスに初めに出くわしたのはパラフーダだった。3本の矢は全て外される。1本は蛇に刺さる。怒った蛇は口から緑色の液体を撒き散らす。それを被った馬は棹立ちになりパラフーダは落馬する。そこへトゥラーン兵が剣を突き立てる。パラフーダは絶命。パリザートによろしく伝えるようファランギースに託して。それにしても皮肉なことにこうして今要約して文を書いているが、こちらの方がクドクドしい。それだけ原文の方が簡潔でなおかつ情報量が多い。作者の筆力のすごさを感じる。
キシュワードはアンドラゴラスに呼ばれる。そしていきなり一撃で剣の1本を折られてしまう。さらにもう一本も剣を突いたら抜けなくなった。ファランギースが矢を射て窮地を救い、その場は一旦下がる。
クバードはイルテリシュと対戦。互角に戦いだが、メルレインの兵によってチュルク兵が劣勢であることを聞き、イルテリシュはその場を去る。
エクバターナに向かうヒルメスの前にギーヴが現れる。対決はせずエクバターナに今行かなければ一生後悔すると謎の言葉を告げられ、王都へ急ぐ。後ろを進むミスル軍。1台の戦車にヌンガノが馭者をつとめるフィトナが乗っている。ギーヴは3本の矢を射る。1本は車輪1本はヌンガノ、1本はフィトナ。こうしてフィトナはあっけなくパルス初の女王となる機会を永遠に失う。ミスル軍は国へ帰る。
ヒルメスはイスファーンと会うが、アルスラーンを撃ち取るという目的を優先させ、対決を避ける。
クバードはイルテリシュと出会う。対戦。互角の戦い。そして互いの一撃が互いの右目を切った。両目を失ったクバード。圧倒的に不利だが、イルテリシュと相討ちで倒れる。クバードらしい最期だ。
もうこの頃になると乱戦。個人が各々自立して戦うという、ドロドロの戦いだ。
イスファーンは尊師と出会う。尊師が魔道の力で圧倒的。尊師の衣に包まれたかと思うと即死する。アルスラーンは仇をとるため自ら赴く。エラムが従う。そこへギーヴが登場。告死天使が頭を襲い、狼が足を襲う。ギーヴとエラムが居合するべく構える。尊師の衣の中は毒針で埋められていた。アルスラーンを包もうとした。アルスラーンはルクナバードで突き通す。アンドラゴラスに出会うメルレイン。まずは弓矢で蛇を射抜く。しかしアンドラゴラスの投げた短剣で弓糸を切られる。剣に持ち替えたメルレインだが、アンドラゴラスの斬撃で首を落とされる。アンドラゴラスは遂に蛇王として本性を表す。敵味方関係なく殺戮しはじめる。そこへヒルメスが現れる。アンドラゴラスは父親の仇だ。殺そうとするが、肩から蛇が生えていることに気付きうろたえる。このヘタレ化がちょっと憐れだ。作者も人が悪い。
キシュワードとザッハークの再戦。キシュワードは両方の蛇を切断したが、両手首を切られ、さらに腹部を抉られ討たれる。
ヒルメスとダリューンの対決。はじめは槍と戟、続いて剣。ダリューンは対等の条件で戦う。打ち合うこと百余合、遂にヒルメスは左胸を斬られる。イリーナの名を言葉にし、剣を地面に突き立てたったまま息絶える。ダリューン曰くヒルメスは死にたがっていたと。ザッハークに退治するアルスラーンとダリューン、ファランギース、ギーヴ、エラム。しかし最終決戦は明日となる。逃げるなら今の内というが誰も逃げない。その夜最後の酒宴をする。
翌日アルスラーンと臣下4人にわずかに残った兵とアンゴラゴラス軍が対峙する。アルスラーンはアンドラゴラスに問いを発する。ザッハークの正体や王となった暁にはなど。ザッハークの正体は大昔に人間によって作られた者。つまり人造人間。人間が命を作るということの傲慢さ。命を造っては使い捨てにする愚かしさ。作られた生命が反乱を起こすこともあり得る、と言うことを示すために復讐をしようというのがザッハークの考え。従って征服後は恐怖と混沌だけ望むということ。その後両軍の攻撃が開始。いくつかの戦闘の後ダリューンはザッハークを呼ぶ。そして現れる。激しい決闘が続くがついにダリューンは剣で胸を突かれ破れる。ザッハークに多少の傷はつけた。しかしダリューンをもってしても倒すことはかなわなかった。ダリューンの仇とアルスラーンはルクナバードもってザッハークと対決する。勝負は相打ち。アルスラーンは右胸を突きさされる。ザッハークは脳天から腰まで斬り下げられた。なんとアルスラーンも死んでしまった。エラムに自分の後継と期待をかけて、ルクナバードを鞘から抜くように言うが抜けない。つまりルクナバードがエラムを認めなかったのだ。そしてアルスラーンはエラムにルクナバードを受け継ぐものを探し出すよう言い残す。ギーヴとファランギースはそれを補佐するように。気に入っていたキャラクターのギーヴが死ななくてよかった。ファランギースも。
エラム、ギーヴ、ファランギースはアルスラーンの遺言通りシンドゥラに赴く。ラジェンドラはアルスラーンが死んだことを知って悲しむ。そしてパルス人居留区で彼らや、先に贈られた将たちの家族は生活することを許される。ここからがみるみる時が流れる。ギーヴのその後の人生はシンドゥラの友軍を率いたが、38歳の時に遠征先で感染症にかかりこの世を去る。ファランギースは自分の寺院で過ごし48歳で病没する。あっという間に時は流れみなこの世を去っていく。ラジェンドラも。ラジェンドラの後継は第一子バレーリイ3世となり、そろそろパルスに帰ってはどうかとエラムに提案する。手始めに、今となっては誰とも知らない小さい諸侯が納めているペシャワールから。エラムはキシュワードの息子アイヤールに叔父上と呼ばれる。エラムはすでに68歳。アイヤールも53歳となっている。アイヤールにはさらに15歳になる子供がいて、ロスタムという。アイヤールはルクナバードを抜くことができなかったが、エラムはロスタムに試させると、抜くことができた。ついにルクナバードを引き継ぐ人物が現れた。やっと役目を終えることができたエラムは岩に腰を掛けると幻を見る。向こうから騎馬やってくる。みればあの当時のアルスラーンや十六翼将たちだった。一緒に来いと言われるが、自分はもうそんな若くないとためらうが、自分もあの当時と同じ歳に若返っていたのだった。そしてともに馬を進めるのだった。岩の上にはエラムの姿はもはやなかった。何とも叙情的なラストシーン。
アマゾンの口コミでかなり厳しいコメントがあったが、自分としては全く問題なく最後まで一貫して楽しむことができた。
30年越しに読み終わってただ作者に感謝、そして登場人物たちに「ありがとう」と、そして「さようなら」といいたい。
 
「蛇王再臨」
20200918読み始め
20200920読了
「天鳴地動」
20200921読み始め
20200923読了
「戦旗不倒」
20200923読み始め
20200924読了
「天涯無限」
20200924読み始め
20200925読了